【第62話】スキアー
朝霧が右往左往していうころ、結月は第二特別区の拘置所にいた。第二特別区とは、電車で二分くらいの場所に位置する場所だ。
そこは、総人口五十万人、その人口の五割が科学者という第三特別区と同じような場所であり、第二十四都市に唯一存在する拘置所がある場所でもある。
結月は、「面会は予約がないとできません」と言う窓口の女性に公安委員会の証明手帳を見せ、どうにか面会を許された。
長い通路を歩いていくと、ある部屋に通される。部屋の真ん中にガラスの仕切りがあるというベタな仕様だった。──ただ、部屋のいたるところにスピーカーがあるということを除いては。
これは能力殺しという装置らしい。聞いた話によると、特殊音波を発生させ、EWU放出物質の分泌を止めるという。能力者の囚人が暴れないよう施設中に置かれているみたいだ。
結月は、とりあえずガラスの仕切りの前にあるイスに座る。
「まもなく来ますので少々お待ちを」
受付の女性は結月にそう言うと、仕事に戻るためか部屋から出て行く。
数分経つと部屋の奥の扉が開く。と、連続爆破事件の犯人──中平 慶と看守らしき人が部屋に入ってきた。
「何のようだ? お嬢ちゃん」
「話があるの。看守さん。悪いんだけど外にいてもらえる?」
「し、しかし……」
結月は渋っている看守に見せるよう、制服の内側に入った身分証を取り出す。
「私が公安委員会の委員長ということは伝わってると思うのだけど……脱獄の話をするとでも思う?」
「そんなことは……ただ規則でして──『鈴本君。彼女の言うとおり面会室から出るように』」
すると突然、面会室に大音量のアナウンスが響いた。アナウンスは続く。
『そこの委員長は、中平を逮捕した張本人だとの確認が取れている。事情聴取の権限があるし、機密情報の秘匿責任もある。そこから早急に出るように』
「……わ、わかりました」
看守はそう言うと、しぶしぶ奥の扉から出て行く。
ガシャンという扉の閉まる音が、部屋に鳴り響くと同時に沈黙が訪れた。
「で、なんなんだ? 看守を出すとこ見ると、結構重要な話なんだろ? さっさと要件を話してくれや」
そんなわずかな沈黙を、中平の低い声が貫く。
「あぁ……なんで貴方はクローン工場ばかり爆破してたの? それも健吾の系列のものばかり」
「あ? なんだ……んなことか。そりゃ、明自党に依頼されたんだよ」
「明自党に?」
結月は大体予想はついていたし、明自党がそういう組織ということも薄々気づいていた。
だが、こうして事実を言われると少し動揺してしまう。まさか与党が本当にそんな組織だったのか、と。
「あぁ……明自党のスキアーとか言ったっけかな。そんなような組織からの依頼だったよ。まぁ、しくじっって一つだけ工場の爆破に失敗しちまったんだが……」
「失敗?」
「あぁ。君に捕まらなければ、もう一つ爆破する予定だったんだ」
「なるほどね。でも意外ね、こんなにペラペラ喋ってくれるなんて」
「どうせ俺は余罪も含めて死刑判決がでてんだ。それに、もしここを出れても、任務に失敗しちまってる俺はスキアーに殺される。もう奴らはこりごりだ。いくらでも話してやるし、俺の証言で奴らが裁かれるんなら万々歳だ。なんだったら、他にも話してやろうか?」
この男の言う余罪というのは、恫喝や殺傷、盗みなどという、いわゆるチンピラのようなことをしていたというものだ。その頃から薬のバイヤーなどと連むようになり、闇へと落ちていき、結果的にスキアーの捨て駒として使われたらしい。
それからの彼はというと、模範囚となり後悔の毎日を過ごしてる。刑務所側が『看守の退出』を認めたのも、ひとえに彼が模範囚として毎日過ごしているからかもしれない。
「ふーん。とりあえず情報ありがとね」
「もう良いのか。あっそれと──」
結月が退出しようとしたところを中平が呼び止める。
「な、なに?」
「君の言う、健吾とかいう奴もスキアーに所属してたと思うぞ。確か依頼データの中に、その名前があった気がする」
結月はその言葉を聞き確信を得る。いや、これがなくても確信は得ていたが……。
──なるほど。そうだったのか。
改めて結月は、ニヤリと確信する。
「ありがと。にしても、その依頼データとかは今どこにあるの? なんなら私が警察に届けてあげるわよ。証拠として扱ってくれるかもしれないし」
「止めとけ。警察内部にもスキアーの人間がいるに違いない。そんなことしたら、君が狙われる。それに……依頼データは私が逮捕されたときに自爆ウイルスで破壊されてるはずだ」
「……すごく用意周到ね」
「あぁ、そういう奴らなんだよ。君も関わらない方が良い」
「そういうわけにもいかないのよね。じゃあ元気にね、おじさん」
結月は退出ボタンを押し、部屋から出て行く。と、同時にスマホの電源を入れYaRoo!を開く。健吾の系列で破壊されなかった唯一のクローン関係工場『クローン研究開発所』を検索し、ページを開いた。
と、そのページには電話番号と住所が記載されていた。結月はそれを見るなり、
「第3特別区に戻らないとな……」
そう呟き拘置所を出る。
朝霧は、鈴音の連絡待ちであった。
──まだかな?
そんなことを考えた瞬間だった。鈴音からの着信がくる。
「もしもし」
「結月さんの履歴を全て見ましたが……最も最近の履歴で『クローン研究開発所』のページを見ていますね。GPS機能は切っているみたいで、どこにいるかまでは分かりませんでしたが」
「クローン研究開発所?」
「いわゆるクローン人間や動物を作り出し、それを研究する開発機関です」
「それが夕霞健吾……とかいう奴の系列機関なのか?」
「みたいです」
「ありがとう! この埋め合わせはちゃんとするから」
朝霧は、そう言うと通話を切る。スマホでその開発機関の場所を検索すると第三特別区のある場所だと分かった。
「あのときの工場か……」
そう。そこは前に榊原と激闘を繰り広げた工場であった。
偶然とは本当に恐ろしいものだとつくづく実感する。それと、同時に嫌な予感が、朝霧の背筋を走った。




