【第61話】とにかく緊急なんだ!
風呂から出た結月は、タオルで身体を拭くなり、自分の部屋へと入る。部屋の隅にあるクローゼットから公安委員会(つまるところの学校)の制服を取り出し、それを着る。
一人暮らしというのは寂しい部分もあるが、こういう休日を自分のために使えるというのは利点でもある。
「とりあえず場所は行きながら調べるとするか」
パソコンのとなりで充電していたスマホを制服のポケットにしまい部屋から出る。スマホの電源を入れると、十時四十九分という文字がでてくる。
「もうこんな時間!? アポなしじゃ公安委員会の名を使わないとキツいか……」
結月はそんなことを呟きながら、胸ポケットに入ってある公安委員会の証明手帳を確認する。
よし、忘れ物なし、と。
結月は、そう確認を済ますと急ぎ足で玄関を出る。鍵を閉めると、そのまま駅へと走っていく。
結月が家から飛び出してから少々時間が経ち、十一時が過ぎたころのこと。結月の家の前では一人の男が息を切らしながら立っていた。
端から見ればジョギングでもしたのかというほど、ゼェゼェ行ってる男──朝霧は、健二の言葉を聞き、急いで結月の家に走ってきたところだった。
「なんでインターホン鳴らしても出ねぇんだよ……」
そして朝霧は、息を切らすのと同時に心配という感情がこみ上げる。ことの始まりは健二のある話だった。
「──結月さんのことなんだが、この前の講習のとき妙に明自党のこととか大京学会のこととかを聞いてきたと楓が言っててな」
「結月が?」
「そうなんだ。なんでも健吾という人間がさっき言った組織に入ってないか調べてくれとかって……。あぁ、そうそう。あの朝に会った神宮寺とかいう奴のことも聞いてたらしい」
「そ、それで楓どうしたんだ!?」
「え……。鈴音の『演算処理能力』を使って調べたらしいんだが、神宮寺の調査結果を聞いた途端、飛び出したらしく……そんでそのあと俺と出会ったあとにお前を発見したわけだ。にしても結月さん河川敷を歩いていたことをパトロールっつってたし……なにがなんだか訳が分からねぇぜ」
朝霧は、いろいろなことが一つに結びつく。おそらくこの件に健二を巻き込みたくないから、河川敷にいたことをパトロールと言ったのだろう。
けど、本当の理由は神宮寺という闇の住人に、あることを聞き出したかった。
そう……自分の父の裏の顔について……。
「俺、結月の家に行ってくる」
「え? ちょっ……なんでそうなんだよ」
「いろいろあってな。このこと話してくれてありがと! それとファンのことよろしく頼んだ」
「ちょっ……ハヤテおま……」
ここで朝霧は、玄関を飛び出した。そして現在に至るわけだが……結月の家まで全力疾走したさきがこれである。
家はもぬけの殻で、インターホンを押しても人が出てくる気配がしない。そもそも家の中に誰かがいる気配すらしないほどだ。
「くっそ! しゃーねー。ここは、公安委員会の情報処理科に任せるとするか」
朝霧は、スマホを取り出すと公安委員会へ連絡する。呼び出し音が数回鳴ると「はい。こちら公安委員会です」という女子の声が聞こえてくる。それはまさしく楓の声であった。
「楓か!? ちょっと鈴音さんに代わってくれ」
「えーと……ハヤテさん?」
「そうだ! とにかく緊急なんだ! 頼む!」
「わ、分かりました」
少しの間無音になる。と、いきなり「電話代わりました。鈴音です」という声が聞こえてくる。
「鈴音さん。頼みがあるんだ」
「な、なんでしょう?」
「鈴音さんの能力で結月のパソコンや携帯の履歴を調べて欲しい! あとGPSで場所の確認も!」
「へ?」
いや、まぁ普通はこの反応だろう。なんせ「女子の個人情報を調べてくれ!」と言ってるのと同じことだからだ。
そして、予想通りの反応が鈴音から返ってくる。
「えーと……あなたの電話番号を警察に通報したほうが良いですか?」
「ま、待って! とにかく大京学会と明自党、夕霞健吾というキーワードを使った履歴だけで良いから! お願いだ!」
「……なんだかよく分かりませんが了解しました。とりあえず二十分ほど時間をください」
「ありがとう! この埋め合わせは、カフェのスイーツということで……」
「十分で済まします」
「え?」
そこで通話は切れた。
ほんと女の子って甘いもの好きだよな。と、思うのと同時に朝霧は少し……本当に少しだけ、鈴音もファンも大して変わらないように感じた。




