【第49話】全力の真逆
「なんだ、なんだ? 正義のヒーローってか? ハッ、気にいらねぇ。雑魚は引っ込んでろ!!」
そう怒鳴ると同時に榊原が飛びかかった。朝霧は一瞬ひるむも電撃を放ち応戦する。が、電撃は榊原の右手に触れた途端、キレいさっぱり消えてしまう。
──ヤバっ!!
とっさに瞬間移動をし、結月の隣に飛んだ。
「……結月よろしく頼む」
ファンを結月に預けたと同時に、結月を工場の屋上に瞬間移動させる。
「今度は、なんだ? ここは、俺に任せろってかァ? 痺れるねェ……いちいちヒーローぶってムカつくねェ!!」
榊原は、さらに苛立った様子で朝霧に襲いかかる。が、朝霧も電撃を3本放ち榊原を吹き飛ばした。
この能力。弾幕とかレーザーとか出せる能力じゃないみてぇだな。てことは、物量で上回ればこっちのもんだ!
無数の電撃を榊原に放つ。が、榊原は腹のあたりで手を組み腕で電撃を押さえ込んだ。まるで手品のように、電撃が腕に当たった瞬間まばゆい稲妻が消える。
「……いてぇじゃねぇか。このクソ野郎がァァァ!!」
榊原は、手を地面に置く。と、同時に朝霧と榊原の足下の地面が消し飛んだ。朝霧は空中に放り投げられたようにバランスを崩し、真下へ落下する。
ヤバい……!!
榊原は落下する土の塊を飛び移りながら、朝霧の目前に迫っていた。とっさに電撃を工場の壁に放ち電磁石の要領で逃げる。
「あんだけ俺に任せろって雰囲気作っといて、今度は逃げてばかりかァ? 彼女の目の前でカッコ悪いとは思わねぇのかよ」
榊原が大きな声で笑う。
「あぁ、確かにな。で……俺がいつ逃げに回った?」
言いながら、朝霧は工場の中に電撃を放った。
「今度は工場の中に逃げようってか? ますますかっこ悪──」
榊原が呟く。が、次の瞬間鉄骨が榊原を襲った。
「なッ……!?」
急に現れた鉄骨に榊原は驚き、動きが止まる。なんでもかんでも消し飛ばせるその両手を前に出すことができなかったため、榊原はその鉄骨にぶち当たり、そのまま後方へ吹き飛んだ。
マネキンのように宙を舞い、工場を囲む壁に突っこむ。金属パイプが榊原めがけてガラガラと倒れた。
「油断して吹っ飛ばされる方がカッコ悪いんじゃねぇのか?」
朝霧はニッと口角を上げた。これで終わったという安堵した気持ちがそうさせた。──が、
「黙れ」
終わってなどいなかった。腹に響くような低い、ドスの利いた声が聞こえてくる。と、同時に鉄パイプの中から朝霧の方へ、猛スピードで榊原が飛んできた。
とっさに電撃を無数に繰り出し、榊原を地面へと吹き飛ばす。榊原は強く地面に叩きつけられるが、効いてる様子は全くない。それどころか少し笑っている。
しかし、そんな狂気とも言える光景よりも。
──な、なんだ今のスピードは……。朝霧にとっては、榊原の移動速度の方が異様に思えた。
「テメェは、テメェは何様だァ? 雑魚キャラが調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
榊原のそんな怒号が響き渡る。
怒りを露わにしてる榊原を前に、なにかを考えることは隙を生むに違いない。そう確信した朝霧は、すぐに思考から反撃に切り替える。そして瞬間移動で榊原の頭上に出た。
瞬間的な移動。にも拘わらず、移動先の空中で榊原と目が合う。
「ッ!!」
頭上から出力を高めた電撃を浴びせる。まるで雷のように地面へと落ちた電撃。常人なら気絶はするであろうレベルだ。
だから朝霧は、ここでも気絶させれた……と、油断した。直後、朝霧に手が伸びてくる。朝霧は反射的に瞬間移動し、その場を離れた。
「身体が痺れてやがる。ハハッ、これだけ対等にやり合えるとは……。訂正してやる。テメェは雑魚キャラじゃない。そんな簡単に殺しちゃもったいねぇ。テメェは俺の強さを最大限魅せてくれる……引き立て役だ」
榊原はそう朝霧につぶやくと、先ほど見せたスピードと同等か、もしくはそれ以上で飛びかかった。朝霧との間合いがコンマ毎に数メートル縮まっていく。
「くッ……」
朝霧は、直前で雷撃を繰り出し吹き飛ばす。が、怒りのためなのか榊原は、ダメージを負っているとは思えないくらい平然としていた。
──EWU放出物質の過剰分泌……不安定な能力はこれだから……!
工場の上で見ていた結月が、ある人物に憎悪を向けながら、そんなことを口内でつぶやいた。EWU放出物質は、周りの空間に影響を及ぼすほどの物質。つまり、あまりの過剰分泌は脳を蝕むということに繋がる。例えるなら麻薬と一緒だ。
しかし能力者は、それに耐えられるような体を作るためのトレーニングや人体改造をしているし、現在判明してる能力は全て安定しており、過剰分泌は余程のことがなければ起こらない。
だが、榊原は元々無能力者。そんなトレーニングも人体改造もろくにしてない人間が、人工的に作り出した不安定な能力を強引に使えば、起こり得ることは目に見えている。
最初は感情が高ぶりやすくなり、痛みを感じなくなる程度だが次第に神経機能はやられ、症状は悪化していく。体が動かなくなり、よくて失明。悪ければ死が待っている。
このことは、成績が悪いとはいえ一定の勉強はしている朝霧にも分かっていた。だからこそ気絶させようとしているのだが……。
──これでもダメなのかよ!!
出力を高めた電撃をもってしても気絶には至らない。だからといってこれ以上、出力を出せば気絶する前に感電死してしまう……。
残された道は……。一か八かの賭けに出る。その選択肢以外、他になかった。
朝霧は、半ば仕方がなく、人差し指を伸ばし榊原に向けた。
「ん? なにをする気だ?」
「なにって、そりゃ……なんだと思う?」
「ハッ、んなこたァ、知るか。まぁ『なにか』なんてどうでも良い。全力出してぶつかってこい。俺はそれを打ち砕いて……全員皆殺しすんだからよォ」
「……じゃあ悪いけど、お前の希望には添えねぇわ」
「アァ?」
「だってよ、俺が全力出したら、皆殺しって結果になるんだろ? だったら……その逆をすりゃ、結果も逆になんだろ」




