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【第4話】帰宅前に一戦交えて……

 朝霧は、自分の中に浮上してきたロリコン疑惑を払拭しながらおもむろに空を見上げる。夕焼けが気絶から目覚めたときよりも紅くなっているのが分かった、。

 なんだか一日を無駄にした感が否めない、というのが率直な感想だ。


「とりあえず帰るか……」


 朝霧は、少しため息混じりにファンに手を差しだす。

 地面には大きな朝霧の影とファンの小さな影が並んでいた。その影の朝霧とファンの手がしっかりと繋がる。と、そのとき、後ろから小さな影がもう一つ増えた……。


「ハヤテ! あんた何かやらかしたの!?」


 後ろから声が聞こえてくる。それは聞き覚えのある幼なじみの声。

 朝霧は、見なくとも分かるその声の持ち主を(一応)確認するために後ろを振り向く。と、そこには身長が約百四十前半くらい

で、赤みがかった髪を背中辺りまで伸ばした小さな少女が立っていた。

 少女の名前は、夕霞ゆうがすみ 結月ゆづき。れっきとした高校二年生である。まぁ小顔に小さな身長、更にはあどけなさが残る顔立ちをしてるため、小学生と間違われることもしばしばあるのだが……。

 そんな身体の小ささに不釣り合いなほど、性格は昔から負けず嫌いで正義感が強く、そこらの野良犬を追い返していたこともある。そのような経緯もあり、女子からの支持は昔から高い。

 まぁ、容姿から男子からの支持も高く、非公式ファンクラブや非公式写真集などが出回ってる状態だったりもするのだが……当の本人はそのことを全く知らない。


「なんだ。結月じゃねーか……って、何しに来たんだお前?」


 朝霧は、言葉にしたとおりのことを疑問に思った。

 通常の高校生(朝霧を含めた少数の学生は、既に研究者から見切られてるので除外)や中学生は、休みの日でも能力開発やら身体改造やらを受けるために研究施設へとおもむく。そのため、この街の学生が休みの日に、公園に遊びに来るなんてあり得ないのだ。

 が、そんな疑問は結月の言葉で完全に消え去った。


「結月じゃねーか、じゃないわよ。さっきここら辺で爆音がしたって公安委員会に通報が来たのよ!」


 朝霧は「あぁ……」と、納得する。あの隕石(もとい卵)の爆音はしっかり周辺住民に聞かれていたのか……。

 朝霧は気絶する前の記憶を思い出す。うっすらとした記憶だが、鼓膜が破れるのではないかというほどの轟音を聞いたような覚えがあった。

 それにしても公安委員会の行動が遅すぎる気がする。確か爆音が鳴り響いたのは、昼前だか昼を少し過ぎた頃のこと。そして結月がきた今、夕陽が空に浮かんでいる。

 時差ですか? というくらいのタイムラグがあることに朝霧は少し呆れる。


「まさかあんたが犯人じゃないわよね?」

「いやいや、俺が無能力者なの知ってるだろ。爆発なんて、俺にはできませんよ」

「だから、花火分解して爆弾でも作ったとか」

「俺は小学生か! んなことするわけねぇだろ!」

「ふーん……まぁ良いわ。だったら何か知らな──ん?」


 爆音の正体を掴むためなのか、結月は事情聴取とやらを始めた──はずなのだが、結月の視線は朝霧からファンに向く。

 結月はファンの顔をジロジロ見ながら、なにかを考えるような表情をした。


「この子誰? あんたの知り合い?」


 そして、朝霧にそう聞く。

 これはごく普通の反応だろう。なにせ高校二年生の男子が小さい女の子と一緒にいるのだ。ここから推測される事実は『夏休みを利用して遊びに来た親戚』か『近所のこども』か『犯罪』だろう。

 朝霧は、寮の近くに住んでる子供がいないため……また犯罪者になりたくないため『夏休みを利用して遊びに来た親戚』と、答えようとする。──が、ファンがそれより先に口を開いてしまった。


「あっ、はやてのお知り合いさんなのかな? えーと……私は、はやてと今日から同棲するファンロンって言うんだ。よろしくなんだよ」


 おい、待て。その言い回しはアウトだから! それじゃあ、さっきの選択肢の『犯罪』になっちまうから!


 朝霧は、声を大にしてツッコミたかったが、これを言えば怪しまれるのは目に見えているため、黙り込む。──否、これまた黙り込んでしまった。


「えーと……。親戚かなにか?」


 ナイス解釈だ結月!!


「いえ、はやてとは、さっき知り合ったばかりです」


 なぜかき乱す!?


 そんなことを悠長に考えていると、あたり一面が熱くなるのが少しずつだが分かった。別に太陽の日差しとかで暑くなってきた──というわけではない。何かに焼かれてるように熱いのである。


「あ、あのぉ……。結月さん?」


 その熱源は結月からだった。まるで、目の前で焚き火をされているような……とにかく火が目の前にあるような錯覚さえ覚えるほどの熱気がそこにあった。

 真夏の太陽から降り注がれる暑さと、その熱さが混ざり合い汗へと変換される。朝霧は、額から汗の雫を滴らせながら、少し顔を引きつらせ後退する。


「ハヤテ……、アンタそういう趣味だったわけね……」

「いや、違いますよ!? 誤解で──」


 朝霧が、後退しながら弁解をしようとする。が、結月は最後まで聞かず、


「ロリコンはお陀仏してろ!」


 そう言い放つ。ここで朝霧のステータスはロリコンクソ野郎になったわけなのだが、今はそんなことを気にしてる場合ではない。

 彼を囲うように、地面の芝生に火がついた。

 さて。

 もう、お分かりだろうが結月の能力は発火能力パイロキネシスなのである。その能力の強さゆえに、各学校に設置されている『公安委員会』の委員長に抜擢されるくらいだ。まぁ抜擢された理由は他にもあるのだが……。


 てかこの状況はヤバい……。


 朝霧は、ヤンキー達に追い詰められた時以上の危険を感じていた。と、言うのもヤンキー達は遊び半分で人を殺してたのに対し、結月は本気で人を殺しにきてると直感的に思ったからだ。


 ……まぁさすがに殺すまではいかなくても、大やけどは免れない気がしてならなかった。これは幼なじみとしての経験だろうか。


「ま、待て! 誤解なんだって!」

「何が誤解よ! 本当に小さい女の子にしか興味ないなんて……! 私は眼中にないってわけ!?」


 早口でほぼ聞き取れないが、かなりお怒りのようだ。

 にしても今の結月には、いつもの冷静さがないような気がする。すると突然、朝霧を囲う炎が激しく燃え炎の壁を作る。そして、その壁は朝霧の方、つまり内側に倒れていき──、


「ちょっ……これは……」


 ドン! という空気が爆発する音が辺り一帯に鳴り響く。その音に驚いたのかカラスが一斉に飛び立った。

 それと同時に炎と白い煙が朝霧を包み込む。


「なっ……! は、はやて!?」


 と、その様子を炎の円の外で見ていたファンが叫ぶ。第三者から見れば、目の前で起きた出来事はまさしく殺人事件の現場そのものだ。声を上げない方がおかしいだろう。

 すると、そんなファンの心配に気づいたのか結月が口を開いた。


「別に死ぬほどのことはしてないわよ。まぁやりすぎたゃった感あるけど」


 ファンは「コレ、そんなレベル?」という視線を結月に送りつつ、朝霧を心配する。

 と、その瞬間、爆音に似た音と凄まじい爆風が巻き起こった。結月は、反射的にファンから音のする方に視線を移す。

 もし、二度目の爆発などが起きていたら能力で炎を鎮火させないとと思ったからだ。


 しかし、爆発は起きていなかった。それどころか地面に着火した炎が全て消え去っている。


 結月は、なぜ炎が全て消えたのか疑問に思いながらも、朝霧がいるであろう場所を見る。しかし、そこには煙が立ち込め続けているだけで、朝霧の姿は見えない。


 ──アレ、これヤバいかも。


 結月はそれを見るなり、朝霧を助けるため走り出した。

 もし、朝霧がその場にいるのなら一酸化酸素中毒で死んでしまう可能性が出てくる。さすがにそれはヤバいと思ったのだ。


 結月と煙の立ち込める場所との距離が、おおよそ十数メートルになったとき──予期せぬことが起きた。

 突如、爆風が巻き起こったのだ。

 爆風は、未だに立ち込める白い煙を四方八方に吹き飛ばす。結月はそれを見て驚いた。なぜなら、その爆風は能力を持たないはずの朝霧を中心にして巻き起こっていたからだ。


 しかしこの異常事態に一番驚いたのは、結月ではなくファンだった。これは、さきほどの治癒力向上と同じで、簡潔にまとめると“竜の力”というものが作用している。

 しかし、たかだか一般高校生の朝霧が竜の力を操れるわけがない。確かに契約者は竜の力を操る権利のようのものは獲得する。だが操るためには知識や経験が必要なのだ。

 つまり朝霧がこんな短時間で爆風を巻き起こすことなど不可能なはずなのである。

 と、煙の中から朝霧の叫び声が聞こえてきた。


「お前な、少し手加減ってものをしやがれ! あと少しお前が鎮火させるのが遅かったら丸焼きだったんだからな!」


 はやては、何をしたのか分かっていない……? いや、無意識だとしても……。一体はやては何者?

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