【第46話】同い年なんだし
気がつけば、少しの間浅い眠りに就いていたようだ。どのくらい寝たかは分からないが、体感的にあまり時間は経っていないように思う。
最近こんな感じの眠りが多いよな、と朝霧はつくづく疲れながら思う。
ファンと出会う前の朝霧は、どこにでもいるような平凡な高校生だった。それがファンと出会ってからは百八十度変わったのだ。心身ともについていけないのもおかしくはない。
朝霧は、寝ながらダーーなんてことを言いながらゴロゴロとしていた。ゴロゴロして、とにかく今のこの胸が張り裂けそうなほどの安心感と安堵を紛らわせたかった。
けれど、たった一つ言えることがある。
「にしても……無事で何よりだな」
そう。無事で本当になによりだった。
朝霧は、泣きそうな声でそんなことを呟きながら静かにベッドに横になる。すると、コツコツというノックが聞こえてきた。朝霧が「どーぞ」と、反応すると健二が入ってくる。
「何かあったか?」
「風呂場が壊れてるんですよね……」
「あー。ずっと使われなかった部屋によくあることだな。明日くらいには修理会社が部屋に勝手に侵入してくるから安心しろ」
「えーと……侵入されるのは安心できないのだが」
「ここじゃ普通だから。今日は銭湯行く予定だから健二も来るか?」
「おぉ、俺と楓も行く予定だったので。じゃあお願いします」
「OK、六時四五分くらいに寮出るから……」
「……もう六時四〇分なんですがそれは」
それを聞き、とっさにスマホの電源を入れる。表示された時間は六時四二分。
これは二度寝という悪魔のせいである!
という言い訳を胸の奥底にしまい込みファンを叩き起こそうとする。
「ファン! 起きろ! 銭湯行くぞ!」
ファンはふにゃ? と言いながらボーとしていた。
少し時間が経ち思考がハッキリしてきたのだろう。ファンは、慌ただしく着替えなどの準備に取りかかる。朝霧も結月から貰ったファンの服を袋に詰め込み勢いよく部屋を飛び出した。
「「準備OK」」
ファンと声がハモる。
「なんだか兄妹みたいだな」
健二が笑いながらそんなことを言う。しかし朝霧は満更ではないようだった。義妹というシチュエーション……うん、良いよな。
朝霧はそんな妄想に浸っていたが、ふと我に返り、そーと様子を見るようにファンに目を向ける。と、そこには、満面の笑みを浮かばせる一人の少女の姿があった。
朝霧は、またも妄想の世界に落ちそうになる。
「あ……ゆ、結月も誘ってるし急がねぇと……」
「ですね。あっそれとなんですが、恵と鈴音って女の子も来るらしいんですが……楓が誘ったらしくて……」
「別に構わんよ。そんじゃあ行くとしようか」
朝霧は、そう言うとアパートの目の前の大通りへと歩き出す。大通りを五百メートルくらい歩き、裏通りに入ると、銭湯が見えてきた。
「お兄ちゃ~ん。こっちこっち~」
銭湯の入り口あたりで手を振る小さな女の子──楓が健二を呼ぶ。その隣には、長髪の女子が二人ほど立っていた。
「やっと来た……遅いわよ健二」
「健二君お久しぶりですね」
「わりぃわりぃ」
「えーと……さっき言ってた恵さんと鈴音さんで良いのかな?」
朝霧がそう聞くと「はい。そうです」と、健二が返す。すると──、
「結月さんから話しは聞いてます。ハヤテさんですよね」
長髪で、身長が少し低い恵が朝霧にそう言う。初対面で悪いが、この人からは罵倒専門職の気配がすると朝霧は直感する。
「お、おう。でもなんで結月から?」
「あっ……自己紹介遅れました。公安委員会本部機動部隊所属の松風 恵です」
「同じく、公安委員会本部情報処理科所属の逢坂 鈴音です」
「ど、ども。俺は朝霧 疾風。ハヤテって呼んでくれ」
「私は、ファンロン・バゼル・バハムート。ファンって呼んで──」
「ハヤテ! 時間過ぎてるんだけど」
お互いに自己紹介をしているところ、結月が割り込んでくる。どうも朝霧自身が決めた時刻に遅れてきたことに腹がたってるようだ。
「わ、わりぃわりぃ」
「まぁ良いわ。黒崎なら先に入っちゃったから恵達も行くわよ。ファンちゃんも一緒においで」
結月がそう言うと、ファンは「はやて。また後でね~」と言いテクテクと女子風呂へと歩いていく。恵と鈴音もファンのあとをついていった。
「じゃあ俺達も入りますか」
健二がそう言いロッカーへと向かう。まぁロッカーと言ってもカゴが置いてあるだけの棚であるのだが。とにかくそのカゴに服を突っ込み浴場の扉を開ける。
「富士山の絵だ……」
「今じゃ貴重な昔の富士山の形だな」
戦争直後の日本では、富士山が大規模な噴火を起こし山頂が吹き飛んだ。そのため今の富士山は、山頂がかなり斜めに傾いてるような形になっている。
人間、ないものを欲しがるとは言うが……だからなのか、昔の富士山の絵などは貴重でプレミア物になっている。
ちなみに噴火のさいの溶岩などは超能力者の活躍により、宇宙空間へと吹っ飛ばされていたりとするのだが……いくら太陽系に知的生命体がいないとはいえ、やることが酷すぎると思う。
実際、このことは国連で問題になったし……。
と、朝霧はそんなことを考えながらシャワーを適当に浴び風呂へと向かった。数秒遅れで健二も浴槽に浸かる。
「朝霧さん。質問良いっすか?」
「んー?」
朝霧は、湯船で温まりボーとなった脳で聞き返す。
「ファンさんとはどういう関係っすか?」
「…………」
沈黙が続く。朝霧はなんと答えれば良いのか迷っていた。竜だよ、なんて言ったら変な人認定だし……やはり身内が有力か?
「もしかして、人間じゃないとか……?」
「んん!?」
朝霧は健二の意外な返答に戸惑う。いや、これはヴィシャップとの初対面のときにも感じたものなので今更といえば今更なのだが……。
健二は人間以外で言語が喋れる『高度な知性を持った生物』がいるということを全く疑ってないように思う。それはまさにサンタを信じる小学生のような……純粋無垢というようにも思える。
健二は言う。
「俺、分かるんすよね。人間じゃない者の気みたいなものを」
そんな告白に朝霧が驚くと同時に、健二は続けて自分が寺の息子だったことや異世界に迷い込んだ経歴があることを全て話してくれた。
おそらくこの話を周りに聞かれていたら『中学二年生がいるよ』と、思われるだろう。だが、健二の表情は、いたって真剣だった。
朝霧は、健二なら今の事情を信じてくれるだろうと信じ、すべてを打ち明ける。
「……まぁ、お察しのとおりファンは人間じゃなくて竜。カクカクシカジナな理由があるから俺んとこで面倒みてんだよ」
「あ、朝霧さんも大変っすね」
「まぁな。てか同い年なんだしハヤテって呼んでくれよ。俺も健二って呼ぶから」
「ハヤテがそれで良いなら……」
「別に良いに決まってんだろ。そんじゃあ健二。そろそろ出ようか。このままじゃのぼせちまう」
そう朝霧は言うと、湯船からでる。そして健二も朝霧に続き湯船からでると、二人は脱衣所へと向かっていった。




