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【第36話】おばあちゃんはないだろ

 結月のその言葉が少しばかしの沈黙を作り出す。

 気がつけばバスは、山道を走っていた。クネクネと何回も曲がるバスの振動は更に増え酔いそうになる。バスは、山道をかなり上り、下り始める。


「そういや家に電話しなくて良いのか? 結月はともかく黒崎さんはヤバいだろ」

「結月はともかくってどういう意味よ! 不良少女みたく言わないでくんない!」


 結月が大声で叫ぶと同時に火の粉が車内に出現する。と、同時に朝霧にとんでもない危機感が襲いかかった。それはなんというか、時限爆弾のコードが危うく切れそうな……そんな危機感だ。


「おま……引火したらどうすんだよ!」

「ハヤテの一言が余計なのよ!」

「はやて~……。うるさくて眠れない……」


 座席に座っているファンが、目をこすりながらそう言う。金髪少女のその仕草は、男子高校生に大ダメージを与えた。

 ……こんな妹がいたら良かったのになぁ。まぁ似たようなのはいるけど。


「わりぃ。うるせぇ短気野郎がな……」

「誰が短気だって? ごめんねファンちゃん。このバカハヤテのせいで……」


 ──本当に仲良いなぁ

 二人がいがみ合うなかファンはそんなことを思う。

 さっきの話を聞いている限り結月とはやては、昔から友達みたいだし……。私よりゆづきの方がはやては好きなのかな。でも一緒に暮らしてる私よりというのは少し我慢ならないかも。

 そんな嫉妬にも似た感情になりながらもファンは深い眠りに就いていく。


「えーと……話戻すけど……連絡ならもうしたわよ。とは言ってもアプリでだけど」

「さすが黒崎さん。真面目な人は違うな~」

「ハヤテ……黒こげになりたいわけ?」

「だぁーー!! バスごと爆発するからやめろ!」


 そんな会話をしているなか、朝霧はあることに気がつく。バスは、山道を抜け田んぼに挟まれた道を走っていた。こんなバカな会話をしてるうちに村に着いたのか……。

 先ほどの結月の話どおり、家は見渡す限り五軒程度あるくらいだった。そんなことを考えているとバスが止まる。


「到着だ。目の前にある家が春野さんちだから……と言っても結月ちゃんがいるから大丈夫だろう」

「ありがとね、おじちゃん!」

「おう。帰りも乗っててくれよな」


 そう運転手が言うなり、結月は「うん!」と可愛らしく返事をしバスを降りる。

 朝霧も寝ているファンを抱きかかえながら、結月を追うように降りる。目の前には田んぼが広がっており、蛙やら虫の鳴き声が聞こえてきた。道を見てみると電灯がところどころにあり、蛾のような得体の知れない虫が群がっている。


 これはまたベタな……。


 結月は、みんなが降りたことを確認すると、目の前の家まで先導して歩いていく。結月のおじいさんの家は、二階建ての一軒家で木造建築。庭には家庭菜園らしきものがあり、ナスやきゅうり、トマト、スイカなどがある。

 また、家庭菜園がある隣には芝生の生えた庭もあり朝霧は、少し圧倒された。


「結月のおじいさんって庭師さんかなんか?」

「そんなわけないでしょ。しがない老人よ」


 それでこれか……。と、朝霧は呆気にとられる。結月は、そんな庭を通り玄関を開けた。


「おじいちゃ~ん。おばあちゃ~ん」


 結月がそう言うと「結月ちゃんかい?」という声が廊下のほうから聞こえてくる。足音が聞こえ、その音がどんどん近づいてきた。

 すると女の人の顔が玄関から出てくる。見た目からして四十代くらいの女性は結月を見るなり「よく来てくれたね~」と言った。

 結月のいとこか何かなのかな? と朝霧がふと考える。


「おばあちゃんったら一ヶ月前にも来たじゃない」


 そんな結月の言葉に耳を疑う。おばあちゃん!?

 四十代くらいでお母さんと言っても通用しそうなこの女の人がおばあちゃん!?


「あらこちらのお客さんは?」

「私の友達。終電で帰れなくなっちゃって……」

「そりゃ大変だったねぇ。私は結月ちゃんの祖母の春野はるの さくらと言います。いつも結月ちゃんと仲良くしてくれてありがとうねぇ」


 このとき、この場にいた全員が「おばあちゃんはないだろ」と思ったのは言うまでもない。

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