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【第35話】心配しすぎ

「……………………てことはお前、父親の実験の被験者だったってーのか!?」


 朝霧の大声が辺りに響く。その声に驚いたのか、虫や蛙が逃げていき静まり返った。

 しばしの沈黙がその場に訪れる。


「まあね……。今考えれば人体実験なんてむちゃくちゃなことされてたわよね」


 結月は軽く笑いながらそんなことを言う。


「いや笑えねぇよ……。にしても人体実験か……それで不死能力ってのは結局作れたのか?」

「その後、募集で集めた人達を使って実験を繰り返した挙げ句、ようやく成功したみたい。まぁ募集で集めたって話もどこまで本当か分からないけどね。で、その成功品をこの国に売って大金を得たみたい」


 結月は、下唇を噛みながら更に続ける。その様子は何かを許せない……そんな強い気持ちがあるような感じだった。


「けど、それでもまだ飽きたらず今度は素粒子破壊能力の開発に没頭してるらしいわ。どこの研究所でやってるのか、もう野垂れ死んでるのか、知らないけどね」

「…………なんかわりぃな。そんなこと思い出させちまって」

「だから謝らないでって。私が話したくて話したんだから。……あっ! バス来たわよ!」


 結月が指差す方向を見ると二つの灯りが見える。バスのヘッドライトだ。光は段々と近づきバス停に止まる。

 バスは、今では珍しい軽油で動く形のようで、エンジン音がけたたましく響く。行き先表示もLEDが主流の今では見かけなくなった方向幕を使用しており、車体のペイントも剥げ落ちている。

 プシューという音とともに扉が開く。

 運転席には、五十歳くらいの運転手が乗っていた。


「こんな時間にどーしたん? 迷子かなんかか?」


 運転手は、扉を開くなりそう聞いてくる。

 お前は、俺達が迷子なんて歳に見えんのか。というツッコミを入れたくなったが、とにかく抑える。


「おじちゃん。私の顔に覚えない?」


 結月が運転手にそう言う。すると運転手は、「あぁ! 春野さんちのお孫さんかぁ」と反応する。田舎は村民同士が全員顔見知りだとは言うがここまでかと朝霧は驚く。


「ほんじゃあさっさと乗りな。ここから釜本村まで一時間はかかるからな。はよしないと春野さん寝ちまうぞ」


 運転手は、そう朝霧達を急かす。

 てか更に一時間かかるのか!? と、朝霧に怒鳴りたくなる衝動が襲う。朝霧は、そんな衝動を抑えながらバスに乗り込んだ。


「えーと……何円くらいですか?」


 黒崎が、バスに乗ると同時に運転手に金額を訊く。


「ん? タダでええわい。乗ったんなら出発するぞ」


 運転手は、そう言うとバスの扉を閉め、アクセルを踏む。ブロロロという音とともにバスが走り出した。舗装されていない道路のうえ、振動軽減装置を搭載していないバスはかなり揺れる。


「そういや釜本村ってどんなとこなんだ?」


 朝霧は、暇を紛らわすためにそんな素朴なことを訊いてみる。まぁこれだけの田舎道を行くということもあり、純粋に村の様子が気になるというのとあるのだが──、


「小さな村よ。人口は五〇人くらいで広大な畑に点々と家があるとこ」


 じ、人口五〇人ね……。田舎の人達は、都会の人口の多さにピンとこないと言うが、これは逆だな……。


「そういえばおじちゃん。釜本分校ってまだあるの?」

「ん? あるっちゃあるけど今じゃ小中混合の学校になってるよ」

「そっか、まだあるんだ」


 結月が少しニコッと笑う。先ほどの暗い顔が晴れたようで、朝霧は少し安心する。が、同時に違和感を感じた。


「お前、小学校からずっと黒崎学園だったろ?」


 黒崎学園は、小中高と大学、短大がある。結月とは、黒崎学園の小一のときに出会ったはず……。


「あれ? 覚えてない? 私小学一年でも二学期のときに転入生として入ったじゃない」

「あっ……そう言えば」


 結月の言葉で小一のころの記憶が蘇る。確か俺の隣の席にこいつがきて……それがきっかけで仲良くなったんだっけ。


「さっきのことを思い出させちゃうか心配だけど、研究といえばあんな噂が……」


 黒崎が唐突に口を開く。


「な、なによいきなり。というか私の心配なんかしなくて良いから。で、噂ってなに?」

「ほら、最近第二特別区で人が大勢学生が拉致されたっていう事件があったじゃない。あれもどこかの研究機関が行ったっていう噂が……」

「黒崎さん意外だな~。そういう都市伝説みたいなのは興味ないかと思ってたけど……」

「べ、別に興味なんて……」

「まぁ俺は結構好きだけど──「私も好きです!」」


 黒崎が間髪入れず答える。そんな黒崎に対し朝霧は、気を使わせちゃったかな? と、暢気のんきなことを考えていた。


「まぁ都市伝説かどうかはともかく……この世には人の命なんて道具のように扱う研究者はいるからね。まるっきり嘘ではないんじゃない?」


 言いながら、少し顔を暗くする結月。まるで吐き捨てるかのように言った言葉は、いろいろな感情が混ざっているかのようだった。


「と、とりあえずこの話はよそう。うん、そうしよう」

「だから気を遣う必要なんてないってば。ハヤテは心配しすぎなのよ。さっきも言ったでしょ、私が話したかったから話しただけだって」

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