【第30話】誰かを助ける理由
……最初は、ほんのわずかな能力しか持たない竜だった。『上級竜族として生まれ強い力を持てないなんて……』と親などの親族には言われたけれど、そんな自分に嫌気がさしたりすることはなかった。むしろ、そんな自分が好きだった。
あの出来事までは……。
当時、海龍のいた天界のある村では強大な力を持つ竜がいた。そのため村が襲撃されることはなかった。
その竜が仕事で隣の村に行くことになった。なんてことはない簡単な仕事だ。すぐに帰ってくる。そう言い残し、村から去っていった。
竜が去った夜。それは、月も見えない闇夜のことだ。村は、真っ赤な炎に包まれた。下級竜の盗賊共が村を襲ったのだ。
私は、火の粉を振り払いながら必死に走った。自分の力では炎を鎮火させれないと確信したからだ。
もし自分に力があったらと、自分が殺したくなるほど嫌気がさした。
盗賊共は、私を追ってきた。村境のところまで走った時だった。盗賊共に私は捕まった。
身体中傷だらけで、戦う余力も残っていない私は、覚悟を決めた。
が、次の瞬間、闇の塊──まさしく漆黒の触手のようなものが盗賊共をなぎ倒した。一瞬の出来事に呆気をとられたが、目の前の竜が誰なのかは一目瞭然だった。
それは三大界王のNo.2魔空界王──黒龍だった。
黒龍は、助けてくれたうえに居場所も与えてくれた。私は強くなりたいと黒龍に訴えた。もし自分が強ければ村も守れたということも……。
黒龍は、快く私の願いを聞き入れてくれた。私は黒龍に何百という戦闘術などを学んだ。そこからは狂ったように強さを求めた。天界の王国も襲い龍術魔本も手に入れた。敵とみなした者は、誰であろうと殺した。虐殺、惨殺なんでもありだ。
けれど心のどこかで、そんな強さは間違ってると言う自分がいた……。
だが、龍術魔本は我の強さこそ正しいと私に囁いた。つまり私は、本能に負けたのだ。
「おっ……。やっと目を覚ましたか」
海龍が目を開けると、ターゲットが顔をのぞき込んでいた。その目に敵意はないようだ。
だが、海龍はそんなことより、なぜ死んでいないのだろうと、疑問に思う。
「にしてもこの竜石って命は奪えないのに与えることはできんだな」
そんな朝霧の何気ない言葉に驚く。と、同時に情けないような気持ちが襲ってきた。
なんせ目の前の人間は、敵であった海龍を竜石という宝具を使って……そうをしてまで復活させたのだ。
「き、貴様。竜石で私を復活させたのか!?」
「あ? 当ったり前だろ。じゃなきゃお前、今頃お陀仏になってるっつーの」
「温情ってやつか? いらぬお世話だな。あのまま死なせてくれた方が私にとって幸せだ」
「あのな、死んで幸せになれるんだったら今頃地球は滅んでるからな。それに温情なんかじゃねぇ」
「誰かを助けるのに理由なんて必要ない。でしょ? はやて」
少女のそんな声が聞こえてくる。顔を見るまでもない。誰かというのは一瞬で理解できた。
それは、ファンのものであった。
そう。つまり命を狙った相手に助けられたというわけである。
海龍は、疑問に思った。別にファンの行動に対してではない。自分の求めていた強さというのは、何だったのか……と。
「まぁ……そういうこった。それに、どうやったら幸せになれるのかなんて、もう大体自分でも分かってんだろ?」
朝霧が海龍にそう言う。海龍が気絶している間にアデス達から海龍の過去を聞いていた朝霧は、声をかけてやるのならこの言葉しかないと思っていた。
その読み通り海龍は、自分の求めていた強さと、その理由が分かった……。
「幸せ……か」
海龍がポロリと呟く。その言葉は細く小さいものだった。
朝霧は少し笑いながら、
「さっき死んだ方が幸せって言ってたけどな。俺は違う気がすんだよ。お前の思う幸せってのは、それの真逆だって」
ピーピー
朝霧がそう言った瞬間、警報音のようなものが鳴り響いた。
「やっべ。武装警察のサイレンだ! 結月! 黒崎さん! 逃げるぞ!」
朝霧がそう怒鳴るように言い海龍を抱きかかえる。と、そのまま朝霧は走り出した。
「こ、こら! 少年! 私を抱いて走るな!」
まだ体が十分に動かせない海龍が朝霧の腕の中で文句を言うが、朝霧は、無視しながら駅へと走っていく。




