【第22話】いちゃいちゃの結末
「夕霞さん……幼い子の前で何を……?」
そんな朝霧の鼓動を落ち着かせるようなゆったりとした声が聞こえてくる。
朝霧は、ふと声のする方──つまりビーチに目をやった。と、波打ち際で立っている黒崎が不満そうな顔で問いかけているのが分かる。
どことなく怒っているような彼女の雰囲気は、場の雰囲気の温度を急激に冷やす感覚にさせられた。
「あっ……いや、足がつっちゃって……」
結月が、あたふたとした仕草で言い訳をする。
……その割には足をばたつかせてるじゃないか。結月の足をみながらそんなことを思う。
実際、結月は、忙しなく足をバタつかせていた。しかも、その足は何度か朝霧の腹を蹴る。先ほどまでのラブコメ展開はどこへ行ったの? と、彼は少しがっかりする。
「ゆづき……抜け駆けはズルいよ」
「ぬ、抜け駆けって何のことよ!」
結月がファンに怒鳴った瞬間辺りの水がブクブクと音をたてながら泡を出してくる。
──これ沸騰してんじゃ。
そんな予測を裏付けるかのように急激に水温が上がった。
「あっちぃぃ!!!」
あまりの熱さに我慢できなくなり、悲鳴をあげる。
朝霧は、五右衛門の処刑時は、こんな感じだったのだろうな、なんてことを考えた。が、今はそれどころではない。真夏の日差しの下、熱湯で海水浴など真っ平ごめんだ。
彼は、結月を手から離し自分でも驚くスピードで砂浜へダイブする。バサッという音とジューという音が重なった。
太陽に熱されて熱くなってる砂浜より、俺の皮膚の方が熱いってどういうことだ? そんな疑問を浮かばせる。
ふと、結月の方を見ると普通に歩きながらビーチへと戻ってきていた。
お前……足つってんじゃねーのかよ。と、まぁここでそれを聞いたら更に機嫌を悪くするのは目に見えているので、ここは抑える。
「夕霞さんったら乱暴……。朝霧君、体冷やしてあげる……」
「ありがとうございます……」
かなりの熱をもった体を黒崎に向けた──その瞬間、巨大な津波が朝霧達を襲う。
いきなりのことに少し戸惑ったあと、ファンと黒崎のことを助けるため起き上がる。
「二人とも伏せろ!!」
そう言い放ち二人の前にでる。およそ津波までの距離十メートル。
──って何で俺、前に出たんだ? 朝霧は、津波の目の前で自身の行動にキョトンとした。
この大きさでは街すらも飲み込みかねない。つまりたった1人の“ただの人間”が少し前に飛び出したからと言って止められるような代物ではないのは小学生の目でも明白だ。
だが、どのみち逃げられるような代物でもない。朝霧は、覚悟を決める。
──チッ、やるしかねぇ!!
朝霧が津波に向けて打撃を繰り出す。なぜ打撃を繰り出したか自分でも分からない。
普通、パンチなんかじゃ津波を防げるわけない。そう、“普通”なら。
手の先端が水に触れた瞬間、爆発的な暴風が放出され、津波が四方八方に飛び散った。
「なっ……!?」
黒崎が驚く。無理もない。無能力者の朝霧が津波を消し飛ばしたのだから。だが、ファンは全く動じなかった。おそらく二回目ということもあるのだろう。
……そ、それより結月は!?
二人を助けることに集中してた朝霧は、結月のことを思い出す。左側を見ると、結月が激しい烈火で津波を強引に跳ね返していた。
「無事か……」
ホッとして、ため息がでる。にしてもこんな津波が浜にまで来るとは。東京国の津波遮断装置が作動しないなんて……そもそも地震がないのに津波だけ発生したのもおかしいぞ。
ちなみに津波遮断機というのは、ある大地震が昔日本で起き、大被害をもたらしたことがキッカケで作られた機械のことだ。見た目は堤防とさほど変わらないが、有事の際は三十メートルの壁へと変貌する。
なので、このような大津波は遮断されるはずなのだが──、
朝霧は、いろいろと思考を巡らせる。しかし、特に手がかりがあるわけでもないので、考えるのを止めた。
そして彼はなんとなく、ファンの方に目を向ける。ファンは少しビクビクとしていた。
津波がそんなに怖かったのだろうか?
そんな疑問を抱く一方で、朝霧は前にもこんなことがあった気がした。それと同時に少し嫌な予感がする。
「竜がいる……それもこの気配は上級竜族。はやくここから逃げよう!」
そうファンが言い出す。そんなファンの言葉に黒崎が「竜……?」と、聞き返し少し戸惑っている。
その瞬間、突如として海面から高さ二〇メートルくらいありそうな水柱が発生する。
──っ!!




