【第20話】初めての海
電車に揺られること約一時間。駅から出て、少し歩くと黒崎のプライバートビーチに着く。ビーチに着くなり結月達と別れ更衣室で水着に着替えた。
朝霧は速攻で水着に着替える。水着でビーチに出ると肌に直射日光が当たり、ヒリヒリとする。インドア派の人間に真夏の太陽の日差しは少しばかりキツい。日焼け慣れしていないため風呂に入ると、とんでもない痛みがするのだ。
まぁそんな後のことを考えていても仕方ないと開き直り、目の前の海を見る。
「海……青いな」
そんな当たり前のことを思う。
朝霧は、海を見た記憶がない。いや、生まれて初めて海を見るのかもしれない。なんせ朝霧の義父さんは仕事で忙しく、海に行く余裕などないからだ。
そして、朝霧の隣にも今日生まれて初めて海を見た少女がいる。
「はやて! 青い大地だよ!」
隣でキャッキャッ騒いでいる少女──つまりファンである。
……にしても子供だよな。千年本当に生きてんのか?
と、ツッコミたくなるがヴィシャップの『記憶を無くしてる』という言葉を思い出しツッコむのを止める。
せっかく遊びに来てんのにイヤなこと思い出させちまうのは悪いよな……。
そんな思いがよぎったからだ。まぁツッコんだからと言って、過去の記憶を思い出すことはないのだろうが。
それにしても最近の子供の水着には、フリフリがついてんだな。まぁ……可愛いけど。
いや、これではロリコン街道まっしぐらだぞ! しっかりしろ俺!
「ファンちゃん 海初めてなの?」
ファンの隣にいた黒崎が問いかける。
会ったときから少し黒崎に怯えていたファンは、少し言葉を詰まらしたあと「うん」と答える。
──てか黒崎さんまさかのビキニっすか。
黒崎の着ている水着は、隠すべき場所にしか布がなく、あとは紐のみという過激ファッションであった。朝霧は不意にも視線を逸らす。
「じゃあ砂遊びでも一緒にしましょうか」
黒崎はそう言うと、ファンを連れて砂浜へ歩いていく。
まぁ黒崎さんの能力は泳ぐのに適してないというのは知ってたけど……これじゃあ何のために海に来たんだか分からんな。それとなんのためにビキニ着てるのかも分からんな。
そんなことを考えていると、顔に海水がぶち当たる。
「ぶわっ!!?」
水を手で拭いながら正面を見ると結月が不満そうにこちらを見ていた。何やらご機嫌ななめのようだ。
「黒崎ばっか見て……私のこと忘れてない? 少しは構いなさいよ」
「ん? 構って欲しいなんて言うとは珍しいな」
いつも文句しか言わない結月が、朝霧に対してワガママを言うというのは、かなり珍しい。
ツンデレ比率でいうと結月は、ツン率九割のデレ率一割という脅威のツンツン派。そんな結月がデレているのだから壮絶に珍しいというのは、言うまでもない。
それに妬いているかのような言い方も初めて見る。いつもなら『巨乳好きの変態!』みたいなイヤミしか言わないところを『黒崎ばっか見て……』と言ってくるところをみると……やっぱり結月も女の子なんだなぁと思う。
──と、結月は朝霧の言葉に顔を赤らめ「そ、そんなんじゃ──!!」と言いながら『炎の剣』を右手に生成させそれを振り回す。
「ちょっ……。おま……そんなんで襲ってくんなーーー!!」
全速力で海へと飛び込み、難を逃れる。
──あれって能力の悪用じゃねーのか? てかやっぱりツンなの?
まぁいろいろな疑問が浮かぶが、これ以上刺激するのは死を意味すると思い、言葉を寸前で飲み込む。
こんな関係だけど幼なじみなんですよ?
「お前、んなもん振り回すな! 殺す気か!」
「どうせファンちゃんの力で炎自体消せるんでしょ? だったら良いじゃない」
能力を防げるなら殺しても良いなんて考え方を持ってる時点で常人じゃない。
てか、そんな奴を公安委員会委員長にするな!
しかしそんな言葉は発せられることなく、朝霧は更なる追撃を恐れ水中に潜った。




