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【第1話】竜は隕石と化して降ってくる

 なぜ、こんなことになっちまったんだよォォぉぉぉ!!


 心の中でそう叫びながら、朝霧は必死に追っ手から逃げていた。

 ことの始まりは数十分前のこと──、

 いかにもヤンキーという感じの兄ちゃん五人組が、スーパーの入り口で陣取っていた。

 夏の厳しい日差しを逃れるためにクーラーの利いているスーパーに避難していたのだろう。そして、物を買う金もないから入り口でたむろっていた。ここまでは朝霧も理解できたし問題視はしてなかった。……だが、これが全ての原因であった。

 彼は、店に入るのにわざわざ炎天下のなか遠回りしたくなかったので、普通に不良五人組の目の前を通ったのだが、その瞬間『てめぇ金出せオラァ』と言われたわけである。だが、朝霧はそんな脅しに全く動じず……というよりは、暑さも重なり対応するのがめんどくさかったため「百円しかなく生活苦」だということを適当に話した。すると、途端に『なめてんじゃねーぞゴラァ』などと言われ、殴られそうになったとこをうまくくぐり抜け、今に至る。


「──くっ……公安委員会は何やってんだ……。仕事しろ仕事!」


 朝霧は、口から公安委員会に対しての不満をぶちまける。だが、そんなことをしても事態が解決するわけではない。

 どのみち走るしかない朝霧は、無我夢中に追っ手を撒こうと走る。──と、そこでふと気がついた。


 お、おいおい。ここってまさか……っ!


 朝霧は、広大な面積をもつ公園の中心部に立っていた。

 その公園は、四方を森に囲まれその中心に大きな広場がある、というなんとも実験都市には似合わない施設。何が似合わないのかと言うと、その広場の大きさが軽く1平方キロメートルを越えるだだっ広い広場になっているところだ。地価が高騰している東京国の──しかも実験都市には、不釣り合いな物でしかない。

 そして、そんなだだっ広い広場には(真ん中にあるドデカい木を除いて)障害物が一つもない。

 つまり、そんな場所で人捜しなどすれば、すぐに見つかってしまうのは火を見るよりも明らかなわけなのだが──、


「へへ、見つけたぜ……。散々俺達のことをなめてくれやがって……」


 ──その予想通りを裏付けるように、そんな声が聞こえてくる。

 後ろを振り返ると、そこにはさっきのヤンキー五人組が息を切らしながら立っていた。

 朝霧は「助けを呼べないか」と考えるが無理だろうとすぐに察する。この公園は、大きさの割に人がいないのだ。

 夏の厳しい日差しのため、というのもあるだろうが、そもそもこの実験都市で昼間から公園で遊べるほど余裕のある人間がいないということもある。

 恐らく四方の森のベンチに昼休み中のOLさんくらいはいるだろうが、広場の中心部にいる朝霧がそこまで助けを呼べにいけるはずもない。

 さて、どうするべきか……と朝霧が考えていると。


 パンッ!


 ──乾いた音が聞こえたと同時に、右手から鮮血が噴き出す。

 手の甲を何かで抉られたのか、それとも何かが貫通したのか……。そこらへんはよく分からない朝霧だったが、とにかくとんでもない出血を起こしていたのが確認できた。


「なっ……!?」 


 朝霧がいきなりの出血、そして次の瞬間の激痛に驚く。

 彼の全身に痛い……というものよりも恐怖という感情が駆け巡った。と、一番手前にいるヤンキーを見て、この現象の原因を一瞬にして理解する。


 能力者っ……。


 ヤンキーの一人が小石を数個持ち、指を弾いたようなポーズをとっている。おそらく弾いた小石を念力で加速させたのだろう。

 実際、右手の手のひら辺りに小石であろう異物感がある。


「そろそろ大人しく金だしてくれや。俺達ここ数日何も食ってないんだ……。まぁ、いやなら奪い取るまでだが……」


 第三次世界大戦が終結したあとの日本(現;東京国)は、この治安の悪さだ。

 今のような能力の悪用は、日常的に横行していて公安委員会が毎日取り締まりを行っているが……それでもそれは止まる気配をみせない。というより、その激しさは増していくばかりだ。

 その原因はおそらく、中学生から超能力の開発が義務づけられたからである。東京国は、超能力の研究のため、中学生までの間に能力開発を行わせ、そのデータを録っているらしい。

 そのため、そこらにいる平凡な中学生が成人男性を簡単に殺せるほどの力を持っていることもあり得ない話ではなくなっている。


 てか、この状況ヤバくね?


 朝霧は、今の現状に意識を戻す。この前路上強盗殺人事件が多発してるというテレビのニュースを見たが、まさか自分が被害者になるとは夢にも思っていなかった。

 朝霧は、激痛と恐怖を抑え込みながらどう逃げようかと思考を巡らす。──が、その思考をするという行為が、油断と隙を生んだ。


パンッ!


 二個目の小石が朝霧の左太ももを貫通する。

 ブチッという肉が裂けるような音がした。と、同時に立っていられないほどの痛みが朝霧を襲う。

 出血は素人目から見ても酷く、赤々しい肉のようなものが見えるのが分かる。更に追い討ちをかけるように、生々しく鉄のような臭いさえしてきた。それが、朝霧の恐怖心を一層際立て、痛みを数倍強く感じさせる。


「ぐぁっ……っ!」


 ──だが、痛みでのた打ち回る暇などない。男達はすでに虐殺を楽しむような目でこちらをみていた。檻から放たれた猛獣のようなその目には、狂気なのかはたまた面白がっているのか。

 とにかく尋常とは思えないものがその目に宿っていた。

 最初からこれが目的だったんじゃ……。

 朝霧は、そんな気さえしてきた。 このような犯罪は愉快犯が多いと聞くし、あのヤンキーの目の色を見てもそうとしか思えない。

 が、今それを考えても仕方がない。次の攻撃を避けるために立ち上がろうとする。が──。


パンッ!


 ヤンキーが三個目の小石を放つ。冷酷に放った小石は真っ直ぐ的確に朝霧の喉に当たり絶命する……はずだった。

 が、次の瞬間いきなり目の前に現れた──というより猛スピードで落下してきた黒い影が小石をのみ込む。


「──っ!?」


 いきなりの出来事に不良五人組は、腰を抜かしているようだった。朝霧は、未だ正体の分からない黒い影に恐怖を感じつつも、このチャンスを逃がすまいと立ち上がろうとする。

 が、彼は衝撃波……と言うよりは、電気のようなしびれるものを強く浴び、気絶した。





 ………………。

 目を覚ますとそこはさっきの公園だった。何か違うことがあるかと聞かれれば、青空が夕焼けへと変わっていることくらいだろう。

 人がいないといえ、血だらけの人間が夕方までずっとここに放置されているとは、これいかに。そもそもここまで利用者がいない大規模な公園など、本当に必要性があるのだろうか。

 右手を負傷した今の朝霧に、そんなことを考える余裕などないのだが。彼が元気ならばそう思ったに違いない。

 朝霧は周囲を見渡す。ヤンキー達の姿はいなくなっていた。

 だが、そんな不良達と入れ替わったかのようにあるものが地面に落ちていることに気が付く。それは金箔を貼り付けたような大きな卵だった。


 さて。


 ここで唐突だが、皆さんなら金色の卵が目の前に落ちていたら普通どのような反応をするだろう。趣味の悪いオブジェと思うだろうか、はたまたイースターの卵だと思うだろうか。

 まぁなんにせよ、貧乏高校生──朝霧 疾風ならこう答える。


 ラッキー、卵じゃん! しかもデケェ!


 普通の生活を送る者ならば、こんな考えにはならないだろう。しかし金のない朝霧にとって、栄養価の高い食べ物──つまり卵──は宝物といっても過言ではない。まして、大きさにしてダチョウの卵ほどあるそれは、栄養価の宝石箱だ。


 とはいえ。さすがに金色などという危険色を放つ卵は、普通朝霧でも手にしようとはしない。そう普通なら。

 現在朝霧は『右手』と『左太もも』から大量に血が出ている状態である。意識が途絶えるのも時間の問題で、今はその一歩手前の夢心地状態だ。つまり自分がなにを考え、なにをしているか。そんな簡単なことさえ自覚できない意識状態である。


 だから朝霧は、目の前の卵に手を伸ばす。


 朝霧の血だらけの手が卵に触れた。と、その瞬間──いきなり卵にヒビが入った。まるで、せんべいを割ったかのようなパリパリという音を周囲に響かせる。

 朝霧は、その異常な光景にギョッとした。少しだけ正気に戻る。


「っ!?」


 忘れていた痛みが戻った。鋭い痛みの直後、傷口のあたりが熱くなるのを感じる。

 その痛みで、なぜか不思議と朝霧の頭は回り始める。


 ──おかしい。


 朝霧の頭はこの卵を取りまく環境から、違和感を感じ取る。もちろん、それどころではない激痛が襲っている。朝霧もそれを自覚できるだけには意識レベルが回復した。にも関わらず……。


 ──なぜだ?


 朝霧の頭はその違和感を感じ取って止まない。


 ──どこからこの卵は落ちてきた?


 広場の中心に近いこの位置に木は生えていない。まぁ一本だけデカい木があるが、そこから落ちたとしてもこの位置に転がってくるのはおかしい。

 つまり木から落ちてきたとは考えにくい。更にダチョウの卵と同等の大きさということから風で飛ばされたとも考えにくい。

 身体に走る激痛を無視するかのように、朝霧の頭はうーんと唸る。が、目の前で起こり続ける変化は、そんな悩みをどうでも良いものにしていく。


 卵が孵化した瞬間、金色の竜が元気よく飛び出してきた。同時に眩しいほどに輝く。それも朝霧から現実感を薄めていくほどに。

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