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【第18話】無駄な1日

 ──あれからぐっすり寝た朝霧とファンは昼頃に起きた。だが、外に出る気力はなく夜までダラダラと過ごしていた。

 日が暮れ外が段々真っ暗になっていくのが見える。

 『一日無駄にしたな~』なんてことを思う。


「お風呂入ってくるね~」


 すると、ファンがそう朝霧に言い風呂場へと駆けていく。

 仕草も幼い少女そのままだな……いや、これじゃあ俺がロリコンみたいじゃねーか……。

 ファンに意識を向けないように手元にあった漫画を開き、それに集中する。

 ──が、シャワーの音と鼻歌が風呂場から聞こえてくると、そんな集中がパタリと切れる。漫画を放り投げると、朝霧は耳を両手で塞いだ。そして夜空でも眺めて気を紛らわそうとする。


 そのとき、ベランダに見たことのない、黒髪オールバックの老父が立っていることに気がついた。老父といっても五十代くらいで、顔も渋いイケメンいう部類に入りそうだ。男は、朝霧に気づくなり手招きをし始める。

 ──誰だ?

 ──てかどっから入った?

 そんな疑問が浮かぶが、真っ正面から手招きをしているところを見ると敵ではなさそうだ。そう考えベランダの扉を開ける。と、開けた瞬間男が、朝霧の首を掴んだ。

 ──っ!?

 朝霧は反撃をするため腕を動かそうとする。が、それよりも早く朝霧の方が押し倒されてしまった。朝霧は「うっ……」と呻く。それを見るなり、男は朝霧の首から手を離す。


「ヴィシャップから話を聞いて期待して来てみたのに……こんなもんとはなぁ。もし俺が黒龍会の殺し屋なら死んでたぞ」


 朝霧は言われてることが理解できずに数秒ばかり呆ける。が、すぐに昨夜会った女性の知り合いだと分かり、安堵する。しかしその安堵が朝霧の腰を使い物にさせなくした。

 男は朝霧の腰が抜けていることに気がついたのか、手を差し伸べてくる。


「すまんな。軽く実力を測るだけで、脅かすつもりはなかったんだ……」


 そう男は、謝罪してくる。

 朝霧は「いえ、大丈夫です」と応えながら、男の手に掴まり、タイミングよく立ち上がった。


「改めて自己紹介しよう。俺の名前はアデス。旧名で白龍とも言う。まぁ細かいことを取っ払うと、ファンロン様の家臣だ」


 ファンの家臣……。そういやあの女が白龍にかくまってもらうみたいなことを言ってたな。この人がその白龍なのか。

 朝霧は昨夜のことを思い出しながら、記憶と情報を整理した。


「ヴィシャップの言ってた通り反応速度が低いな。急襲に身体が追いついていないし……竜の力も使い切れてない。まぁ反撃しようとした戦闘能力は、一般人にしては大したもんだが……」


 アデスは、口振りから察するに、朝霧の技術スペックをさっきの一瞬で見抜いたようだ。朝霧は確信する。恐らくあの女──ヴィシャップよりアデスの方がダントツで強い、と。

 証拠にさっきのアデスの攻撃を朝霧は首を掴まれるまで気がつかなかった。

 それに強い者は相手の技術を見抜けるという。まぁ、これほどまでとは朝霧も思っていなかったが。背筋に冷たいものを感じる。わずかな沈黙が訪れた。


「まぁ今日はもう遅い。ここらでお暇しよう。お前さんも疲れているだろうしな」


 アデスなにかを察するとそう言い、ベランダに出た。そして手すりに乗ると黒い翼を背中から生やす。

 旧名が白龍なんて名前なのに黒の翼なのか……。

 そんな感想が朝霧の頭の中に浮かぶ。


「ではまた……と言っても、またすぐに会う気がするが……。ファンロン様をよろしく頼んだぞ」


 それだけ言い残すとアデスは、暗い夜空へとダイブする。朝霧は羽ばたくアデスの姿を静かに見送った。それにしても竜は玄関という文明を知らないらしい。

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