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【第16話】“出来損ない”

 そんなこんなを考えているが、朝霧はふと、思い出す。一応、これでも朝霧にとって今日は、死にかけた日の翌日なのだということを。

 それを思い出した途端、疲労気味が疲労へと変わる。そんな体で部屋の片付けを行い結月を待ちかまえること十数分。

 “ピンポーン”という音が聞こえた。

 はーい、と答えながら玄関を開ける。

 そこには、いつもながら背の小さい少女──結月の姿がそこにあった。


「お邪魔するわね」


 結月は、何のためらいもなくズカズカと、部屋に入ってきた。

 そんな姿を見ながら朝霧は「普通女の子って、男の部屋に抵抗を抱くもんじゃ……」などということを考えつつ、リビングへと急いで戻り、座布団を人数分用意する。

 机を挟み向かい合うように座ったファンと結月、そして余った位置に座る朝霧は、話を始める。


「えーと……。聞きたいことはいろいろあるけど……。ファンちゃんって何者なの?」


 予想してた通りのことを結月が問う。

 昨日、朝霧が『ファンの力』などという発言をしたことから、この質問がくることは大体予測していた。

 この質問に『竜王の娘がかくかくしかじかで』と答えると、結月は少しバカにしたような目で見てきたが、ファンが「本当なんだよ?」と反応すると、渋々信じてくれた。


 その後も昨日の出来事などを全て話した。もちろん、大けがを負った理由もだ。


 結月は、最初こそ信じなかったものの結局は全部信じてくれて「じゃあ今日はゆっくり休みなさいよ」とだけ言い残し、帰っていった。おそらく疲労を気づかってくれたのだろう。

 ファンと二人っきりになった部屋で、朝霧は部屋の片隅を見やった。そこには二つの袋が置いてあった。昨日言っていたファンの衣類(結月の古着)だ。結月には感謝しきれないと、心から朝霧は思う。

 本当に……一瞬でも仲が悪くなるのではないかと思った昨日の自分を殴りたい。だが、今それをどうこう言っても仕方がない。

 だからこそ朝霧はこう呟いた。


「んー……。じゃあ結月の言うとおり今日はゆっくり休むか」


 結月も言ってくれた。『今日はゆっくり休みなさいよ』と……。だからせめてこの優しさに甘えてみることにした。

 ファンも「そうだね。もう眠いよ……」と言う。幼い身体に昨日の出来事は、かなりの負担になっていたのであろう。

 朝霧は、お休みモードに入った身体を鞭で叩きながら、机を少しどかし、布団を敷いていく。


 二つの布団が、肌を寄せ合うように並んだ。それぞれに朝霧とファンが入り込む。そして、お互いに「おやすみ」と言い、寝始めた。一人暮らしを始めてはや二年。朝霧はこんな風に互いに眠る挨拶をするのが本当に懐かしく感じた。

 だが、疲れきった朝霧は、そんな懐かしい気分に浸る暇もなく、夢の世界へと落ちていく。そして、遠い昔の記憶が夢となって出てきた──、


◇◇◇


 ──神人じゃないくせに、恥をかかせることだけは一人前になりやがって!

 ──二度とお前の顔など見たくない……この出来損ないが。


 ここに、父からそのような言葉を言われた一人の少年がいた。まだ齢にして、六歳の少年だ。

 その少年は、三人兄弟の末っ子であった。

 兄達は、生まれつき能力者──つまり神人だったのだが、少年だけは違った。いくら経っても、能力が開花しないかったのである。


 不思議に思った両親は、少年を連れて病院へ行った。そしてこのとき、医者から受けた言葉は『無能力者』の判定だった。

 そんな宣告に両親は、絶望した。兄達も絶望──というよりは見下すような目で、見下すような態度で、接するようになった。


 ──こんな子は、うちの子じゃない。


 そんな現実逃避にまで至ったのだろう。少年は気がつけば、見知らぬ土地(第二四都市)の公園に捨てられていた。

 最初こそ、押しつぶされそうな孤独感に強がっていた。それこそ絶対に泣くもんかと意地になっていた。しかし日が暮れ始めると涙が止まらなくなった。そして、幼いながらに「あぁ、死ぬんだな」と感じ始めたところで、少年はある家族に拾われる。


 それが朝霧家だった。


 その日に、少年は義父となった男から『朝霧疾風』という名前をつけてもらった。そして、その日に笑顔というものを初めて知った。


 そんな過去を持つからこそ、肉親がいない──たった独りというものが、どれほど辛いか知っている。だから朝霧は、少女をみすみす見捨てることができなかったし、少女の笑顔を守りたいと思えたのかもしれない。


 いや。

 本当のところは、──潜在的にではあるが──尊敬する義父のようになりたかったという気持ちもあるのだろう。自分に笑顔を与えてくれた義父のように……。

 ただそれに朝霧が気づいていないだけで。


◇◇◇


 ハッとして起きる。

 時計を見ると夜の八時だった。窓からは、月がキレイに見える。


 ……これじゃあ昼夜逆転ニート野郎じゃないか。


 そんなことをふと思う。すると、ふいにスマホが揺れる。着信を知らせるバイブだった。

 誰からだろう……。

 そんな素朴な疑問をもちながらスマホの電源を入れる。

 そのメールは、結月からのものだった。

 件名はなし。内容は『明後日、海にでもいこう! 公安委員会のみんな誘ったから! ファンちゃんも連れて来てね』。

 そんな内容が書かれてあった。

 朝霧は、明日の予定がないことを思い出しつつ、『OK』と打ち返信する。

 にしても、そこまで気を使わなくても良い──。


「契約者。話があります」

「ッウォ!?」


 ベランダの方から声が聞こえる。いきなり聴覚を刺激されたせいか、朝霧はビクッと身体を飛び跳ねた。

 心臓をバクバクとさせながら、朝霧はベランダの方を見る。と、部屋を仕切るガラス張り扉の向こうに、昨日会った女が立っていた。朝霧は立ち上がることさえダルい身体に鞭を打ち、扉まで歩くと、それを開けた。

 外から夏にしては涼しい風が流れ込む。


「なんだよ? てか玄関から来い」


 朝霧は、常識くらい守れと言わんばかりに意見するが、女は気にもとめない様子だ。


「……そんなことはどうでも良いでしょう」

「いや、俺が良くないんだが……。まぁいい、茶でも入れるから中入りなよ。客を外で立たせたまたま話すのは気が引ける」


 言いながら朝霧はキッチンへと入る。お湯はすぐに出るので、お茶のティーバッグを探し始めた。が、電気をつけるのを面倒くさがったため、なかなか見つからない。

 そんな朝霧の様子をベランダで見ながら、女は「はぁ……」とため息をついた。


「用件だけ言います。黒龍の配下にある黒龍会という組織が動き出しました。現在、数名の竜がここに向かっているらしいです。そのことを伝えにきました」

「だから部屋に入れ──って、は?」

「まぁ私たちも警戒を強めますから、問題はないと思います。思……うのですが、万が一ということもあります。念のため気をつけてください」


 そう女は言うと、背中から漆のような真っ黒い翼を生やし飛んでいく。朝霧は「ちょっ……待て!」とキッチンを飛び出すが、もう女ははるか上空へ飛び去った後だった。


 もし誰かにあの姿を見られたらどうするつもりなのだろう。

 いやでも、普通はトランス能力だと思うか。


 そんなどうでもいいことを考えつつ、朝霧はファンの方に視線を向けた。月光に照らされ煌めく金髪の中央から、すーすーと寝息を立てている。良い夢でも見てるのか、微笑んでさえいる。


 その姿は、とても命を狙われている少女には見えない。


 ──……。

 ──理由は違えど、あの女も同じなんだよな。


 朝霧は、そんなファンを見ながらふと思う。彼女も、この笑顔を守りたいのだろう。この天真爛漫な少女を守りたいのだろう。昨夜はそれを知らなかったとは言え、失礼なことを言ってしまったな。


 ──まぁ俺も殺されかけたわけだし、フィフティーフィフティーだよな?

 ──……そうだよな?


 そして誰に言うわけでもない言い訳を心中にこぼしながら、布団の中に入り込んだ。

 にしても黒龍会か……。あの女のような化け物がわんさかいる厄介な連中なのだろうか。

 いやどうせ厄介なんだろうな。うん俺知ってるよ。はぁ……。さて、どうしたものかね。

 ──まぁ、どうにかなるか。


 朝霧は次第に考えるのが億劫おっくうになり、気がつけば本格的な眠りについていた。

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