【第13話】出来損ないの最期
ファンが絶望に似た感情を抱いていると、バンッ!という音とともに部屋の扉がいきなり吹っ飛ぶ。
「……何をしに来たのですか?」
女がそう扉の向こうに訊ねている。ファンもつられるように扉の向こう側を見ると、そこには朝霧の姿があった。
すると、朝霧がボソッと言葉を発する。
「……に決まってんだろ」
しかき朝霧の声はとても小声でほぼ聞き取れなかった。あの斬撃での傷や疲れなどで身体が弱っているのだろうとファンは察する。
そんな弱々しい朝霧の声を女も聞き取れなかったのか「なんて?」と聞き返した。
「ファンを連れ戻しに来たに決まってんだろ!」
わずかな沈黙の後、朝霧は廃墟中に響き渡る大声で答える。端から見れば、それは重傷を負った人間の声には思えないものだ。
ファンは、そんな朝霧の行動を喜んで良いのか分からなかった。自分を助けるために傷だらけの姿で……勝ち目もないのに立ち向かって。
そう考えたら、思考よりも口が先に開く。
「なんで来たの! なんで私のためにそこまでするの……!」
ファンが怒り口調でそう言い放つ。それは、朝霧の身を案じてのことだ。それは、さきほど朝霧が結月のことを心配し、身を案じてわざと突き放したのと同じことである。
「彼女の言う通りです。僅かですが、あなたには命がまだ残っている。そして、その命は彼女があなたのために、行動を起こしてくれたからこそあるものです。去りなさい。彼女の行動を無駄にする気ですか?」
女もファンに同調し、そう答える。だが、朝霧にとってそんな女もファンも気に入らない。
正直な話、ファンが自分の身を案じて、そう言ってくれたのは嬉しかった。それに対して気に入らないというのは自分勝手な意見だと思う。だからこそファンの“その”優しさは正直に嬉しかった。
だが──朝霧は、ファンの『自分を犠牲にして人を助ける』という姿勢が気にくわなかった。なぜなら、それを教えてくれたのは他でもないファンなのだから──、
「ざけんなよ……。行動を起こしてくれたからこその命だ? 行動を無駄にする気かだ? 俺にとっちゃファンを助けられないまま死ぬことこそが無駄死になんだよ!」
朝霧は、次第に遠のいていく……朦朧としてくる意識の中で、そう言い返す。
無駄死に。
この言葉に対してファンは少しばかり驚いている様子だった。
──が、女の方はそんな反論をだからなんだと言わんばかりにため息をつく。
「……どのみち、あなたは死ぬんです。今彼女を助け出したところで、死んだあとまた回収するだけの話。あなたのその行動は、無駄でしかないということに気づいて下さい」
痛みと感情がこみ上げてくる。身体のあちこちに自然と力が入っていくのを感じる。そのためか傷口から血が少し漏れだし始めていた。
朝霧は傷口のことも考え、感情を押し殺し言い返そうとする。だが、人間というのは感情のコントロールができなくなることがあるらしい。今の朝霧がその状態だった。
「無駄じゃねーよ! それにどのみち死ぬのなら助けた方が利口だろうが!」
気がつけば朝霧は、そんなことを怒り口調で言い放っていた。
そんな朝霧の素直な感情がこもった意見に女は少し下を向き黙り込む。だが、すぐに向き直り「なぜそこまでして……命を減らすようなことをして、たかが数日過ごした少女を救おうとする?」と聞いいた。
この質問の意図が朝霧には分からなかった。なぜなら──そんな質問の答えは、考えなくとも分かるとても簡単で単純なことだったから。
「目の前で困ってる少女を助けんのに理由なんかいるのかよ?」
恐らくこの返答が意外だったのだろう。女は、少しビックリした顔で完全に黙り込み廃墟に沈黙が訪れる。
朝霧は、その瞬間ファンの方に駆け寄ろうとした。思考をしたからではなく、身体が自然と動いたのだ。
──だが、そのとき、朝霧の太ももの傷口がパックリと開く。足に力が入らなくなり、立っていられなくなる。激痛というものは、あまり感じなかった。おそらく痛覚が鈍っているのだろう。
倒れ際……包帯の隙間から漏れ出す血と、それを見て驚いているファンが見えた。
──ファン……。
朝霧の意識は直後、後ろに倒れた瞬間に消滅した。




