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【第12話】出来損ないの余命はあと数時間

 …………痛みに、もがき続けること数分が経っただろうか。やっと体を少し動かせるようになった。

 とにかく楽な姿勢をとるため、土手まではい寄った。上手く体を座らせる形にし、呼吸を整える。とは、言っても痛みが引くわけではないので、息は荒いままだ。

 とにかく、誰かを呼ぼう……。

 そう思いポケットにあるスマホを取り出す。

 スマホの電源をつけ電話帳から電話をかける。かける相手は決まっていた……。

 呼び出し音が数回鳴った後、「もしもし」という細く可愛らしい声が、スピーカーから聞こえてくる。


「結月。悪いんだけど河原まで来てくれ……。ちょっと怪我しちまって動けねーんだわ」

「は? 怪我? どうしたの!?」


 スピーカーから大音量の声が聞こえてくる。あまりに甲高いその声は、朝霧の鼓膜を振動させた。普段の身体なら問題はないのだろうが、ボロボロの身体になっている今、その声は気絶の元になりかけない。

 ともかく、今怪我の原因を話している暇はないし、このまま結月の甲高い声を聞いていたら気絶してしまうと朝霧は、本能的に感じた。ここは、結月をこの場に呼ぶことに専念することにしようと朝霧は決める。


「それは、明日にでも説明する。とにかく今は何も聞かず助けてくれると嬉しい……」


 そう朝霧が言うと「わ、わかった! 今すぐ行くから!」という、返事が聞こえる。

 …………十数分が過ぎただろうか。結月が河原に到着する。


「ひどい怪我……。包帯だけじゃダメかも……」


 目の前では結月がそんなことを言いながら、包帯を太ももにあてぐるぐる巻きにしている。圧迫止血法と呼ばれる治療法だろうと、朝霧はつい最近授業で習った知識を思い出す。


「とにかく血が少しでも止まればそれで良い。放っておいてもファンの力で治っていくから……」


 そう朝霧が言うと「ファンちゃんの力?」と結月が聞いてくる。だが、さっきのとおり話が長くなるのだけは避けたい。

 もし、今ここでファンが竜だと話せば、一から話さなければならなくなるのは明白である。


「悪い。明日詳しいことは話すから。とにかく今は急がねーと……」


 そのため、朝霧はそうはぐらかす。助けてもらって事実を告げられないというのは少し後ろめたいものがあるが、今の状況では仕方のないことだ。

 朝霧はそんなことを思いながら立ち上がろうとする。


「だめ! そんな状態で動いたら出血多量で死んじゃう!」


 ──と、結月が手を握り、朝霧を止まらせようとする。が、構ってはいられない。

 朝霧にとってこれは、辛い決断だった。

 助けに来てくれた者に事実も伝えず、その上心配してくれた末の行為を踏みにじるようなことをしたくなかった。

 けれど──そうをしてもしたいことが朝霧にはあった。だから朝霧は目の前の命の恩人(結月)に告げる。


「……結月。お前が良心で俺を止めてくれてるのは分かってる。けど──今はその良心を無碍むげにしなくちゃならねぇんだ。じゃねぇと一人の少女が死んじまうかもしれねぇんだ。だから……悪い」


 痛みをこらえながらそう言い、結月の手を振り切る。朝霧は胸を引き裂かれるような気さえしてきた。自分のしたことは“幼なじみだから”といった言葉で許されることではないだろう。

 せっかく心配してくれてんのにごめんな。朝霧は心の中で結月に謝る。

 ──けどこうでもしねーと……お前を巻き込んじまう。


「…………あと、手当してくれてありがと」


 そう言い残し朝霧は、夜道に消えていく……。結月が今どのような目で……どんな表情で自分を見ているか分からない。睨まれているかもしれない。

 だが、それで結月も……そしてファンも助かればそれで良い……。そこまで考えたところから、少しずつ朝霧の意識は遠のいていった。


 ファン達がいる建物は、もう使われていない廃墟だった。至る所のタイルや塗装が剥がれ落ちており、薄暗くなっている。電源など論外で、設備という設備は使えない……そんな状態だった。


「こんなところに連れ込んで何がしたいの?」


 ファンがそう女に聞く。その質問が意外だったのか、それとも唐突で動揺したのか。女は少し考えてから「明日までは、天界に帰れないのでここで待機します」と、答える。

 ただでさえ、朝霧を傷つけられ怒っているファンにとって、こんな無意味とも言える行動は、怒りを助長するだけであった。


「帰りたいなら帰ればいいじゃない。なんで明日なわけ?」


 更にファンが少し怒り口調で聞く。すると、女はまた少し考える様子になった。

 恐怖を感じるほどの沈黙。

 この凍りつくような廃墟にそんな沈黙が訪れる。それは一瞬の出来事なのだろうが、ファンには一時間とも思うほど長く感じる。と、そんな沈黙を女が破る。


「あなたの契約者は夜明けとともに死ぬでしょう。そういう毒……いや呪いなのです。そして契約者がこの世界にいる限り、あなたは天界に帰れない」


 聞こえてきたそれは、冷徹な言葉だった。残酷な言葉だった。冷酷な言葉だった。

 とにかく、そんな女の言葉はファンの胸を引き裂く。ファンは、なにか今まで溜めていたものが溢れだしそうになるのを感じた。


「毒じゃないの!? さっき毒だって……」


 ファンがそう女に問いかける。いや、もしかしたらその事実を否定したいだけなのかもしれない。

 なぜなら、毒なのであれば治療の方法があるかもしれないからだ。あのまま朝霧が誰かに見つかり、病院に通報さえしてくれれば助かるかもしれないからだ。

 だが、そんなファンをよそに、女は淡々と説明を続ける。ファンは、女から感情というものが感じ取れなかった。


「先程は、毒と例えた方が理解しやすいと思いそうしただけのこと。実際は呪いです。まぁ毒にしても天界のものである以上、この世界で解毒するのは不可能でしょうが……」


 それを聞いた途端ファンの何かが弾ける。と、同時に女の胸倉に掴みかかった。


「ふざけないで! なんで人をそんな簡単に殺すの!? あなたには命の大切さが分からないの!?」


 そうファンが涙目で怒鳴る。と、女は「私だってしたくてしたわけではありません……。こうでもしなければあの契約者は、もっとひどい死にかたをしてしまうのです」と、少しくもった声で答える。

 ファンが言葉に詰まる。いや、言葉が枯れて死んでいったという感じだった。

 もっと……ひどい死にかた? はやてが?

 ファンは、そんなことを考えながら、かなりの量の涙を流していることにふと気がつく。

 そんなのイヤ……。けど、はやてが呪いで死ぬのもイヤ……。

 ──でも、私にできることはなにもない。これがファンにトドメを刺した。


 一体どうすれば良いの……!?

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