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【第117話】食事は幸せを呼ぶ

 遅れて申し訳ないです!

 朝霧はキッチンに入ると、すぐにフライパンを五徳の上に置く。そして油を広げた。

 その最中、ファンが「手伝うよ!」と良いながらキッチンに入ってきた。


「あー、じゃあそうだな。食器洗いでもお願いして良いかな?」


 朝霧のお願いに、ファンは「もちろん!」と応えると、シンクに水を流し始める。そしてスポンジに水と洗剤を混ぜ込むと、置かれた食器を洗い始める。


「そうそう、はや兄。今日、白猫ムサシの人が来て、お米とか卵とかを置いてったよ」


 布巾ハンガーに掛けてあった台ふきんを手に取る加奈子がそう言う。


「え……あっ、今日、月初めの日曜日か。完全に忘れてた。ごめんな、言うの忘れてて」

「ううん、大丈夫。支給品の話は一応されてたし。あっ、ごめんねファンちゃん。ちょっとコレ洗わせてね」


 加奈子は一旦、ファンから蛇口を貸してもらうと、台ふきんを水に浸す。そしてそれを絞りながら言う。


「……で、とりあえず、お米はそこに置いて、卵とかは全部冷蔵庫に入れといたよ」

「おぉ、ありがとな」


 朝霧は加奈子のマメさに感謝しつつ、冷蔵庫を開けた。そしてモヤシと野菜を取ろうとしたところで……違和感を覚えた。


 ──アレ、肉?


 いつもなら、冷蔵庫の中には『もやし』と『卵』と気持ち程度の『週替わり野菜キャベツやレタスやキュウリなど』が入っているだけ。肉類など、この冷蔵庫に入ったことがない。なのに今日はどういうことか、豚肉が置かれている。


 しかも違和感はそれだけでない。モヤシや卵、野菜の量が増えている。

 加奈子がこの部屋に来たからだろうか。それにしても待遇が違いすぎるような気もする。いや『気』じゃない。もはやこれは差別だろう。

 朝霧はそんなことを考えたが、あの学園長の性格を思い出し、この奇妙な待遇の差に納得をする。


「加奈子」

「んー?」

「本当にありがとうな。いやマジで」

「え? 私、そんな感謝されるようなことしてないけど……」


 加奈子は不思議そうな顔をするが、台ふきんから水が出なくなるのを見るや、すぐさま絞るのを止め、キッチンを出る。朝霧もまた野菜炒めの準備に戻った。


 まず豚肉をフライパンに乗せると、強火で炒める。肉が白くなったところで、野菜を投入し、さらに炒め、その間に卵を三つほど溶く。

 そしてそれを投入し、卵がふんわりしたところで、火を止めた。するとシンクの方から、水の流れる音に紛れて『グゥゥゥ』という音が聞こえてくる。


「…………」

「…………」

「し、仕方ないじゃん! あーもう、はやてのバカバカ!」

「えぇ……なんで。俺のせいなの……?」


 そんなことを思いながら、朝霧は塩こしょうで最後の味付けをする。自分で作っておきながら、朝霧は美味しそうだと思う。

 ──久しぶりの動物性タンパク質。これは味わわなければ。

 そんなことを考えていると、お隣からお米の匂いがしてきた。ふとそちらを見ると、机を拭き終わった加奈子がお米をよそっていた。


「どのくらいお米ある?」

「今日の分はあるよ。ただ明日は分からないかな……まぁ、あとで私がお米のセットしとくよ」

「いや、そのくらい俺が──」


 朝霧はなにからなにまでしてくれる加奈子に悪いと思いそう言うが、加奈子はプクッとむくれると「ダメ」と言う。


「はや兄はその間に勉強すること。私が来たのは、はや兄に勉強させるためなんだから」

「お、おう?」


 朝霧は自分の勉強のできなささを今更ながら実感しつつ、ファンが洗ってくれた食器を拭く。そしてそれに野菜炒めを盛り付けた。


「じゃあ食べよ!」

「あぁ、そうだな」


 朝霧とファンと加奈子は、それぞれ自分の食器を持ち席に持って行く。そして席につくと「「「いただきます」」」と声を合わせ、食べ始める。


 朝霧は野菜炒めを一口食べた。


「……普通に美味いな」

「それ自分で言うんだ。まぁ美味しいけど」


 加奈子は朝霧の発言に軽くツッコミつつも、野菜炒めをパクつく。ファンも野菜炒めを頬張りながら、右手でグッジョブを作る。


「そっか、なら良かった。そういや二人とも、なにか食べたいものとかあるか? 好きな食べ物でも良いぞ」


 朝霧はふと思い出したように、そう訊く。

 明日、ご馳走を作る……とは言ってもファンとはまだ出会ったばかりだし、加奈子ともここ数年は会っていなかったため、彼女らの食べ物の好き嫌いがよく分からなかったのだ。

 と、二人の少女はそんな朝霧の質問の意図に気づいたらしい。


「はやての作ってくれたものならなんでも良いよ!」

「私も同じく。まぁ強いて言えば、はや兄の作ってくれたものが好物……かな?」


 朝霧は二人の言葉に一瞬だけ戸惑い……そして「うん、分かった」とだけ返した。


 今日の晩御飯は、それこそ豪華とは言えないものの、それでも『質素なご馳走』にはなったらしい。そんな『ご馳走』を三人が食べ終わるまで、あまり時間はかからなかった。しかし、それでも全員が至福を感じるには、充分すぎる時間だった。

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