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【第105話】非現実のはじまり

 それから数分がして、店の奥からパンケーキが運ばれてくる。ようやく三人分が揃い、食べ始めた。


 話題は黒崎学園の文化祭──夏咲祭の話へと移る。


「そういやさ、黒崎。今年の夏咲祭はどんな感じになるのよ?」


 パンケーキを一口食べた結月は首を黒崎の方へ向けそう呟く。そんな問いかけに朝霧も興味の視線を黒崎に向けた。


 普通の学校なら、毎年特定の部活が特定の店を開くというお決まりがあり、二年生や三年生になると興味も薄れるものだ。


 しかし、ここは東京国の中でも有数の科学都市。しかも黒崎学園はそんな科学都市で一、二位を争うの私立学園である。


 黒崎学園のスポンサーやら地域の中小企業がこぞって参加してくる。それも最近では学校の行事であるにも関わらず、様々な研究機関が出店の取引を持ちかけるほどになった。


 そのため文化祭もその年その年で全く違う雰囲気になるのだ。


 去年はネズミーランドのキャラクターやら有名人やらがステージでショーをしてたな。夜は地域全体を巻き込んで花火大会とかやったし。


 朝霧は昨年の文化祭を思い出しながら、今年への期待を膨らませる。

 しかし、黒崎はおもむろに首を横に振った。


「文化祭の具体的な内容は私にも分からない。なんでもみんなに驚いてもらえるように、ギリギリまで情報は明かされないの。私が参加できたのは文化祭のネーミング決めまで」

「マジで? てか、そんなに秘匿性の高いイベントだったっけ?」


 なんだか納得のいかない顔をしている結月。どうやら夏咲祭の情報がとても気になるのだろう。


 対して黒崎は無表情のまま応える。


「結月さん、去年のアレを忘れたの?」

「去年のアレ?」

「スクープ事件よ。ほら、新聞委員会が文化祭実行委員会の会議をテレパシーで盗み聞きしてそれを報道したやつ。多分、それがあったから今年は情報管理を強化してるんだと思う」


 目の前の会話を聞きながら、黙々とパンケーキを食べる朝霧は、そんなことあったなぁ、と思い返す。


 新聞委員会とはどの学校にもあるような新聞を作る機関なのだが、それを校外で売る権利を持っている。


 つまり大きなスクープは委員達のお財布を潤すわけだ。

 しかし元々、新聞の利益の全額は学校に納めなければならず、この未納問題はとても生徒の話題となった。


 委員長や副委員長は停学、委員達は謹慎、担当の先生は解雇になったと朝霧は聞いているがこれには様々な憶測が未だに飛び交ってる状態だ。


 なお、今年の新聞委員会には監視委員会の目が光っており、未納ができないのはもちろん、少しでも脚色した記事や混乱を招くような記事は書けないようだ。


「あぁ、そんなことあったわね。でも監視委員会があるんだし、そこまで慎重になる必要もないんじゃ……」


 しかしまだ合点のいかない結月はうつむきながら考える。すると黒崎がため息をつき、そして言葉を紡いだ。


「監視委員会の設置期間は三年。多分、それまでに情報管理を徹底させたいんでしょう。というか、それ以外に考えられない」

「ふーん……って、設置期間なんてなんで分かるのよ? というか設置期間なんてあったの?」


 えっ? というような顔をしながら結月は黒崎の顔を覗き込んだが、黒崎も頭の上にハテナマークを浮かばせていた。


「生徒規約に書いてあるじゃない」

「ハッ!? あの分厚い本、全部読んだ挙げ句に覚えたの!?」

「生徒会委員長たる者……いや、それ以前に黒崎学園の生徒たる者、生徒規約を暗記してないようではダメでしょう?」


 そして当たり前のように言い放つ。もちろん彼女にとってそれはイヤミなどではない。

 しかし結月も朝霧もその言葉に対する感想は「は?」という一単語のみであった。


 朝霧からしてみれば、生徒規約など一回も読んでいない。結月も生徒規約を覚えようなど考えもしない。


 そんな二人の前で黒崎は続ける。


「だって、生徒会本部に立候補するためには、あれを暗記してることが一つの条件よ?」

「い、いやいや。ちょいまち! あの辞書みてぇな本の内容を全て覚えるのが条件って、まるで六法全書を丸ごと暗記するみてぇなもんじゃねぇか! なに、弁護士にでもなるんですか!?」


 飲食店の店内ということもおり、朝霧はいつもの調子から少し音量を下げながらツッコミを入れる。


 対して黒崎は微笑みながら返した。


「私なんかが弁護士だなんて……結月さんが保母さんになるようなレベルで夢のまた夢のような話ですよ」

「オイ、黒崎。今のは宣戦布告と受け取って良いのよね?」


 ゴゴゴゴゴという効果音がつきそうなほど、まるで漫画で青筋が浮かんでそうなほど、結月は黒崎に敵意丸出しの視線を向ける。

 と、同時に周囲が暖房でも入ったのかというほど暑くなっていった。


 ヤバい。このままでは優雅なブレックファーストが丸焦げタイムになってしまう──!!


「そ、そういや夏休みが終わったらいよいよ修学旅行だよな!」


 これまでの経験から危機を察知した朝霧は、とっさに話題をバラまいた。すると結月がそれに食いつく。


「……そういえば沖縄だっけ?」

「そうそう! スキューバダイビングとか遊泳とか」

「私……泳げない」

「あっ……い、いや! でもほら! 水着着て日焼けとか」

「別に松○茂みたいになりたくない」

「で、でも…… (こいつの場合、ビキニ) (似合わないか)

「誰が胸の貧しい女じゃァァァァアアアア!!」

「ちょっ、理不じ……!!」


 自業自得な暴力により、とある少年はこんがりと焼きあがり──、


 金髪少女はとある少年を心配し──、


 とある学校の学園長は旧友と談笑する。


 それはそれは、とても現実的で幻想的な世界。

 しかし、いやだからこそ彼らは知らない。

 この日が、非現実の再開はじまりになることを、彼らはまだ知らない。

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