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【第104話】結局、二人きりは無理

「おかえり」


 席に戻った朝霧を見ながら、黒崎はおしとやかに微笑む。その笑顔は可愛いというより美しいと表現すべきだろう。


 そんな黒崎を前に、朝霧はなんだか落ち着かなかった。そして、その理由には朝霧自身も薄々気づいていた。


 勝気、暴力的、いろいろ幼い。そんな幼なじみ──結月とは黒崎が正反対だからだ。


 朝霧疾風という男は恋愛経験が全くと言っていいほどない。女友達ならそれなりにいるが、誰とも一線を越えてはいない。


 まぁファンと同棲をしているものの、最近では父親と娘というような関係に近くなっているため、男女の関係とは言えないような気もした。


 そのため学園のマドンナとも言われている黒崎と二人きりというのは、とても落ち着かなかった。


「ごめん、途中で席立ったりして」


 朝霧は席に座りながら言う。対して黒崎はううんと首を横に振った。


「こんな朝早くに呼んだ私が悪いんだし、気にしなくて大丈夫。それよりファンちゃん大丈夫だって?」

「あぁ、寮が全焼するようなことは起こってなさそうだから大丈夫」

「大丈夫の基準がおかしいよ、朝霧君」


 そんなやり取りをしながら、数分。ようやくパンケーキが運ばれてきた。

 朝を食べてないからか、とても美味しそうな匂いがするように思った。


「いただきます」


 二人は同時に手を合わせ、食べようとした。──ところで、一人の少女の声が後ろから聞こえてきた。


「あら奇遇ね。ハヤテ、黒崎」


 その声は高校生には思えないほど幼さを感じさせ、けれど朝霧に高校生だと分からせる声。

 声の持ち主の方向に視線を向ける黒崎が少しだけ肩を落とした。


 朝霧は、なぜか浮気がばれた夫の気持ちを少しだけ理解しながら後ろを振り向く。そこには赤みがかった髪をした一人の少女が立っていた。


 他でもない、結月だった。


「ゆ、結月? なんでここに?」

「なんでって、ここに私がいておかしい? まぁ理由を言うなれば、学校でも評判がいいこのお店に来てみたかったから。ってところかしら」

「な、なるほど。あと一つ質問いいか? なぜ黒崎さんをずっと睨んでるんだ?」


 結月は、その小さな身体には似合わないくらいの殺気を放っていた。

 まるでなんだか、パンケーキ屋に来たいというのが目的ではなく、黒崎を見つけて殺すのが目的だったかのように思えてしまう。


 結月は黒崎から朝霧に視線を変え、少しだけ笑い──けれど目の奥は笑わせないで言う。


「別に睨んでなんかないけど?」


 ほう、つまりそれが普段生活する顔とな。じゃあこれからその顔で生活してみろ。間違いなく先生に「なにか嫌なことでもあったの?」と二者相談で言われるから。


 そんな反論を胸の奥にしまい込む。なにが原因で怒っているのかは、知らない朝霧だったが、これを言えば間違いなく怒りの矛先が自分に向く気がした。


 朝霧は発火能力で焼かれたいと思うようなドMではないため、ここは黙ることが最前だと考えたのだ。


 ──まぁうちの学校には「結月さんに焼かれたい!!」と言うような偽坂本龍馬のド変態がいるわけだが。


「やれやれ。朝霧君と食事がしたいならそう言えばいいのに」


 そこで沈黙を保っていた黒崎が口を開く。その言葉に結月の顔はみるみる赤くなった。


「ハ、ハヤテと食事なんてしたいわけないでしょ! こんなのと食事なんて、ご飯がマズくなるわ!」

「おい、ちょっと待て。なぜ俺がディスられ始めてんだよ」


 なんだか、言われようが酷いだろ、と朝霧は思った。そこでようやく言い争いが終了する。

 結月はまだ顔を赤くしながら、席が無さそうだからと朝霧の隣に座ろうとした。が──、


「途中からきて、さすがにそれはズルくないかしら?」


 という黒崎の言葉に、結月は仕方ないような顔をしながら朝霧の向かい側に座った。そして店員の女性に注文をする。

 とりあえず結月の注文したパンケーキが届くまで、朝霧と黒崎は待つことにした。


「そういえば、さっき黒崎学園からメールがきたの知ってる?」


 結月が二人にたずねる。黒崎も朝霧も首を横に振った。

 すると結月はポケットからスマホを取り出し、二人にそのメールを見せる。


「えーっと、なになに──、


 夏咲祭も迫ってきましたね。各学年ともに忙しくなることでしょう。


 夏咲祭は黒崎学園主導で開催される第二四都市合同祭のことですが毎年、学園長の黒崎氏の指揮のもと開催されています。


 本日、その雪華氏が入院する事態となったため、臨時の学園長としてすめらぎ氏を迎えることとなりましたこと、ここに報告致します。


 って、あの婆さんが臨時の学園長!?」


 朝霧は少し驚く。しかし嫌な気分はしなかった。

 噂……というかテレビで紹介されるほどの敏腕教育者であるし、黒崎のお祖母ちゃんのような腹黒さも感じられなかった。 


 すると結月が朝霧の顔をのぞき込む。


「あの婆さんって、朝霧も皇さんのこと知ってるんだ」

「まぁさっき会ったしな」

「へ!?」


 結月が驚く。そして数瞬後、こいつ頭大丈夫か? というような顔になった。

 完全に疑ってるご様子だ。


「病院にいたんだよ。あの学園長の病室にな」

「あぁ、それなら納得だわ」


 なぜに信じてくれないのか。朝霧は苦笑いになりつつ疑問に思った。

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