【第99話】決着
100部を突破しました!
そこで記念ではないのですが……、
ここからはより見やすいよう空行の配置を試みたいと思います。
もし従来通り(空行なし)の方が読みやすい、こうした方が良い、という意見がございましたらコメントして頂けると幸いです。
「はいはい、言われなくともやってますよー」
パイプやら機械類やらが数多く設置された通路を歩く男は、イヤホン(マイク付き)の向こうの相手にそう言った。
同時に、イヤホンから「“はい”は一回!!」という女性の大声が鳴り響いた。思わず男は肩を震わせる。
イヤホンは、もちろん携帯電話と繋がっている。しかし、本来の使い方はしていない。
回線など使えば、会話の内容を記録されてしまう。それを恐れたのだ。
「……でもよぉ葵ちゃん。なんでこんな、しけた工場に潜入しなきゃなんねぇのよ?」
『ん? 決まっておるだろ。それが命令だからだ』
「俺はもう少し女の子がたくさんいるとこで働きたいんだけど?」
『猪狩。貴様はこの任務が終わり次第、寺に預ける』
「オイオイ、そりゃないぜ葵ちゃん」
緊張感のない会話をしながらも男──猪狩は的確に任務をこなしてく。それも会話をしだして十分が経つ頃には、目的地の目前までたどり着くほどに。
「さて、最後に聞いとくが……陽動部隊は上手くやってるか?」
『未だに交信はできてる。問題はない。それより貴様は他人の心配より自分の心配をしろ』
「へいへい。とりあえず、ここから先は無線切るぜ。俺達の通信術式が変に干渉すると、陽動部隊の活躍どころか作戦自体に影響が出かねない」
『分かった。脱出したらすぐに連絡しろ』
はーい、と全く緊張感のない返事をしながら、無線機にかけていた術式を解く。そしてポケットから小型の爆弾を取り出し、それを壁に設置し始めた。
「さて、お楽しみタイムといきますか」
その頃、斑鳩 澄也は第十九都市の港で少し焦っていた。
彼はここまでファンを車で運んだ後、アデスやヴィシャップをかわすための放射術を発動させていた。
ようやく終わったのが数分前。
そしてファンの身体を調べ“あるもの”を探していたのだが……それがどこにもなかった。
彼の第一目標は少なくとも“あるもの”を朝霧達から奪うことである。そして次の目的が、朝霧達を殺すことだ。
昨日は殺してから“あるもの”を奪うのを予定していたが、まんまと失敗してしまった。そのため今回は奪ってから殺そうと考えていたのだが……。
「チッ、まさか持ってないとは。あれの管理をできる者など後は。まさかアデス……!?」
焦りが焦りを呼び、斑鳩は更にイライラしていく。このイラつきが、近づく者の気配を消してしまった。
銃声と爆発する地面。土煙が舞い上がり、視界が一面茶色になる。いきなりの出来事にイラつきを忘れるが、もう遅かった。
土煙から飛び出す白い影。
瞬間、斑鳩の頭が後方に弾け飛んだ。
思わず地面の上を転がる。
だが二撃、三撃が立て続けに襲いかかり立ち上がることすら許さない。
ようやく攻撃が止んだのは、転がり始めてから十秒程が経ってからだった。
転がる身体が止まったと同時に土煙が晴れてきた。斑鳩は白い影がやってきた方をみる。と、そこには白い剣を持った神宮寺と、火縄銃を持った上京がいた。
朝霧は? あのオッサンは誰だ?
様々な疑問が浮かんでくるが、その答えはどれだけ考えても思いつかない。
気がつけば上京がファンを抱え上げ、逃げようとしていた。
「ゲホッ……朝霧疾風の代理ってところですか。誰だか知りませんが、首を突っ込んできた以上、容赦しませんよ!!」
立ち上がりながら、斑鳩は魔法陣を展開する。──が、白い影が目にも留まらぬスピードで魔法陣をぶち破った。
「あのさぁ、君の相手は俺だから」
「懲りませんね。ま~だ分からないんですか? あなたは僕に勝てないんです。分かったらそこを退いてください」
「退くわけないじゃん。たかが黒龍の遠い子孫相手にさ」
斑鳩の眉間がピクリと動く。
「……なぜそれを?」
「昨日家に帰ったらアデスとかいう奴がいてね。いろいろ話を聞かされたよ。なんでも君は黒龍の子孫で本家からは無視されてる、まぁ要するに忌み子状態ってこととか。竜と人間のハーフが更に人間と交わって、を繰り返して今では竜の血は相当薄まってるとか」
「…………………………」
「君が探してるものについても聞いたよ。まぁまだ推測の域らしいけど……なんでもヴィシャップって奴が盗んだ竜石を取り返そうとしてるんだってね。まぁどうせ黒龍会に『それを取り返して俺や朝霧を殺したら迎え入れてやっても良い』的なこと言われたんだろ? あぁ、腹が痛い腹が痛い」
「……つまりなにが言いたいんですか?」
「いや、世界一の能力者様も所詮は人間なんだなって」
刹那、斑鳩の周囲に無数の魔法陣が展開される。魔法陣はビュンビュンと猛スピードで回転し、一気に神宮寺を襲った。
魔法陣の回転と衝撃波により砂塵が舞い上がり、神宮寺の姿が完全に消える。
「僕はテメェら下等種族とは違う!! 元の居場所へ帰り、それを証明してやる! そのことのなにが悪いんだ!!」
そう叫ぶ斑鳩の周囲には、更に何十と魔法陣が生成される。が、それらが攻撃に移る直前に砂塵の中から鎌鼬が襲いかかった。
斑鳩は思わず、攻撃用の魔法陣を前方に移動させ防御する。何十もの魔法陣に鎌鼬の衝撃はたちまち消えた。
と、魔法陣が完全に消え去ったところに、一筋の光が襲いかかった。出力を少し上げたそれは、小さな斑鳩の身体をいとも簡単にふっ飛ばした。
「痛っ!!」
「……人殺して本家入り? ハハハ、小学生でももっとマトモな方法とるわな」
と、砂塵の中から朝霧と神宮寺が出てくる。
「あぁ……? なに、が言いた、い?」
「結局、君は自分に甘えてただけっしょ? 自分の力を伸ばそうともしないで、黒龍を見返そうともしないで、楽して目的を果たそうとしただけ」
「僕だって努力は……」
「まだ君小学六年でしょ? たった十二年の人生で努力終了?」
「違う! もう時間がないんだ。僕だけじゃない、この世の生物は今年のうちに死ぬ! だから……」
「「は?」」
朝霧と神宮寺の声が重なる。
「詳しい話は知らない。ただ、黒龍家には代々伝わる秘術がある。僕の家にもその模写本があるから知ってる」
「……?」
「竜石の秘術というものだよ。これを発動すれば、現在黒龍会で進行している『下界の天界化』が可能になる。つまりこの世界が滅ぶ!」
「い、いやいや。意味分かんねぇよ。お前吹っ飛んだときに頭を強く打ったか?」
「打ってない、頭を撫で撫でするな!」
斑鳩が小さな身体を必死に動かそうとするが、電子レーザーの影響か上手く身体を動かせないらしい。
「でも、そんなん俺達に教えていいのかよ?」
「別にもう構わない。この有り様じゃもう勝てないし……どうせお前達が知ろうと、どうすることもできないだろ」
言いながら斑鳩は、顔を背ける。と同時に朝霧は、斑鳩が少し小刻みに震えているのが分かった。
──そういや、コイツはまだ小学生なんだっけ。教育がどうだったとかいちゃもんつけるのは後にして……そんな事実知ってたら怖くもなるか。
朝霧は考え、神宮寺に目を向け──ようとしたとき、後ろから足音が聞こえてきた。
二人はとっさに振り返る。
と、そこには白装飾を着た二人の人間がいた。男か女かも分からない。ただ異様な雰囲気を放っていた。
「……誰だテメェ?」
朝霧と神宮寺が戦闘する体制に入る。
「おや、勘違いしないでください。私達はあなた方の味方ですから」
「アァ?」
「そんな威嚇しなくても、なにもしませんよ。まず先程の戦闘、お見事でした。私達のことなら無視してください。そこの男の子を引き取りに来ただけです」
「ちょっと待て。テメェら黒龍会か?」
「私達は『聖十二使徒』という組織の使いです。ペトロ様の命により、その男の子の保護に来ました」
一人がそう言うと、片方が斑鳩をおぶる。斑鳩は気絶でもしてるのか、完全に無抵抗だった。
「おい、待て。それで『はいそうですか、ではどうぞ』なんて言うわけが──」
朝霧はそれを阻止しようとするが、神宮寺が右手で制した。とっさに、このままただ見てんのか、と文句を言おうと神宮寺の顔を見る。そして──思わず一歩退いた。
斑鳩と余裕でやり合っていたあの神宮寺が、白装飾の二人組を見ながら表情を固まらせていたのだ。額には汗が流れている。
裏社会に精通してるわけでもなく、武術の達人でもない朝霧には、相手がどれだけの実力者かは分からない。しかし、これだけはハッキリ分かってしまった。
やっても勝ち目はないだろう、と。
朝霧と神宮寺が、そうこうしている間に、手ぶらな方の白装飾が、なにもない方向に指をさし、黒い塊を出現させた。
「さて。またどこかでお会いできるかと。そのときは改めて、ご挨拶に──」
と言い残したと同時に黒い塊を巨大化させていく。そして気がつけば、二人の白装飾の人間は黒い塊にすっぽり呑まれ、消えた。




