運命のはじまり
見にくいため、西暦のみ算用数字を使用しています。
※この小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
「金が……なァァァァァァいッ!!」
まだ昼前のアパートの一室で、朝霧 疾風の完全に近所迷惑であろう大声が響き渡る。声は学寮の外にまで響き、電線の上でさえずりあっていた小鳥達が逃げだした。もし今が夜であったら、高校生といえども問答無用で寮からつまみ出されていることだろう。
「あー、なんで百円玉一個しかねぇんだよ……。発狂するぞチクショウメ!」
洗濯物や布団が散らかった部屋の中で、朝霧ができることは、このように苛立ちを叫びに変えることのみだった。そんなことをする労力があるのなら、部屋の掃除をした方がよっぽど有意義なのだが……。そんなことを考える余裕はないらしい。
いや、これでは語弊がある。
朝霧という男は、もし金欠でなかったとしても、掃除をすることはない。一言で言えば、ズボラな人間なのである。
だから、部屋が散らかっている今日が、特別珍しいわけではなかった。むしろこの状態がスタンダードと言っても過言ではないだろう。
そしてまた、他人をこの部屋に呼び、『引きつった笑み』を浮かばされるのも、スタンダードである。
いくらズボラな人間でも、そんな顔をされては反省の念がこみ上げる。それは朝霧だろうと同じだ。
だから、世間体を気にするという意味では、片付けようとは思っている。思ってはいるのだが……。元々の性格が『このままの方が便利で使いやすいじゃん』と、邪魔をする。
そのため部屋は年がら年中この調子。その上、クラスメートから部屋を『ブラックホール』と命名された。不名誉極まりない話だ。
「……あー、金が欲しい。大富豪にしてくれなんて言わないから、部屋の掃除してくれるお手伝いさんが雇えるくらいで良いから、金が欲しい……。それか念力が欲しい……。あー、欲しい欲しい欲しい!」
朝霧は一人しかいない部屋でそう嘆く。
彼の同級生の中には、デカいお屋敷に住んでいて、お手伝いさんを何人も雇っている者がいる。朝霧からしてみれば、いや一般庶民からしてみれば、羨ましい限りの話だ。
そしてまた同じように、念力を使って、座ったまま片付けができる者もいる。
朝霧からしてみれば、これもまた羨ましい限りの話だった。中二病をこじらせているわけではない。
超能力というフレーズを口にするのが中二病だなんて、そんなことを言う時代はとうに終わっているのだから。
◇◇◇
今から三三年前。
時にして、西暦2025年。それは激動の時代だった。
超大国が崩壊し、それに伴った第三次世界大戦が起きたのだ。
五年間に渡り続けられたこの大戦争は、約三億人という戦死者を出しながらも引き分けで終わったのだが……。当初は人類の誰もが、核爆弾で世界が終わると絶望した。その絶望から自殺者も多数でた。
だが、朝霧が今、この世界に生きてることからも分かるとおり、この戦争によって世界が終わるなんてことな、決してなかった。
事実、核爆弾は至るところに落とされた。
しかし、それにより滅びた国は、一つもなかったのである。
理由はDNAの突然変異で進化した神人と呼ばれる者達のおかげである。
彼らは、核爆弾の起爆装置を触らずとして使えなくしたり、クシャクシャのゴミ同然にしたり、原子核自体を消すことが出来た。
いわゆる超能力者であった。
そんな超人類とでも言うべき彼らの暗躍により、世界は人類滅亡を逃れた。その後、主要各国は超能力者を人工的に生み出す『超能力産業』に力を注いだ。それは、戦争の余波を受け、国家が分裂した日本も例外ではない。
日本は終戦後、東京国と九州国、北海国という三国に分かれた。その中でも、本州と四国を国土とする東京国は、世界随一の超能力技術を確立させ、それを独占した。
それから十数年後。極東の海に浮かぶ小さな島国は、技術・軍事・経済を兼ね揃えた、世界屈指の大国へとのし上がった。
◇◇◇
そんな東京国にある第二四都市──つまり朝霧の住む都市は、研究施設やら科学施設やらが乱立している。と言うのもこの街は、神人の研究はもちろん、一般人の身体に超能力を開発させる研究も行っているのだ。
つまりここは、超能力開発のための実験都市であり、ここの人間は大抵能力を持ってるのだが……。
この物語の主人公──朝霧疾風は、さきほども言った通り能力を全く持てないダメ能力者なのである。
「…………はぁ、ファムチキさえも買えないのか」
朝霧は目の前の机に置かれた財布を睨みながら、好物であるコンビニのチキンを思い浮かべた。
たった一六〇円のファムチキさえも買えないなんて情けない。そして、つくづくそう思った。
朝霧の住むこのアパートは、学寮であるため家賃は基本的に親が払う。そのため住む分には問題ない。が、飯という問題がある。
──当分は自炊するしかねーか……。
基本、外食しかしない朝霧は、あまり料理をしない。別にできないわけではないが、ただ単にめんどくさいのだ。
ちなみに、アルバイトという選択肢は朝霧にはなかった。それは、朝霧の通う学校が私立だとか、そんなことが問題なのではない。そもそも私立だが、アルバイトは許可されている。
では、何が問題か。それは『能力を持ってないから』という単純な……そして致命的な問題である。
確かに能力を持たないただの人間より、能力を持っていてなにかしら効率の良いことができる超能力者の方が、バイトに採用した方が良い。だがこの非情な店側の判断が、朝霧のお財布を追いつめていた。
ちなみに寮を運営する学園側は、そのようなアルバイトのできない無能力者のために、一日一回野菜と卵の支給をしている(月に一回米の支給も)。
だが、はっきり言って食べ盛りの高校生には少なすぎる量だ。だからこそ朝霧は、能力が欲しかった。便利とかそういうのもあるが、それ以前に生活のために……。
しかし、そう願ったところで超能力の才能に目覚めるわけではない。努力で超能力の性能が上がったケースなら、あるにはある。だが努力では『無を有』にすることはできない。
だから無能力者の朝霧は、仕方なく親からの小遣いでやり繰りするしかないのだ。
──けど、小遣いも底をついたわけだし。
──追加の小遣いを頼むか……?
──いや、これ以上迷惑はかけたくねぇな。
──はぁ……とりあえずスーパーの特売で何か買おう。
今後の予定を決めると、朝霧はトボトボと玄関へと向かう。玄関には、鏡がありそれに自身の姿を映す。
黒い髪の短髪に上でもなければ下でもない顔(友達談)。そして、特徴的な癖毛のあるいつもの自分がそこにいた。
寝癖などがないかを確認すると、扉を開き外にでる。
開かれたドアから太陽の光が降り注がれた。まだ昼前だというのにも拘わらず、眩しいほどの日差しは夏になったということをとても思い知らせてくれる。朝霧は、その日差しを数秒浴びるだけで、クラクラとバランスを崩しそうなった。
──スーパーにたどり着くまでにぶっ倒れないことを祈るか……。
朝霧は、二階にある寮の自室を出て陽炎が遠くに見える四車線の大通りへと向かいながら、そんなことを考える。
この世界のどこにでもいるような男子高校生の日常。
だが……まさかこれが、非日常への第一歩だったなど彼は知る由もない。
どうも、初めまして。アオトこと青砥 睦と申します
今回は、私の作品をお読み下さりまして、ありがとうございます!
今作が処女作なため、いろいろ分からないことも多いです。なので、どこかおかしな点があればご指摘のほどお願いします!
ただいわゆる豆腐メンタルなので、キツい言葉は程々にしていただけると嬉しいです(^-^;)
ぜひ今後もよろしくお願いします!