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夏の夕立

作者: 名口 慎


終わりかけた夏の空は、どこか切なくて…

でも、凛々しく、誇らしく立っているように見えました…。



「俺達の本気はこんなんじゃねぇ!!」


古びたロッカーは打ち付けられた拳の恐いほどの勢いと感情に負け、形のままにヘコんだ。


「おい、ただでさえ部室古いんだ。これ以上壊すんじゃねぇよ。」


1人がため息混じりにそうこぼすと、自分もその隣にあるすでに壊れかけたロッカーを開け、スポーツカバンを取り出した。


「グダグダ騒ぐなよ。どんな理由があれ、負けたんだよ、俺達は。」


彼がさっきまで着ていたユニフォーム…役目を終えたその10番の背番号は、彼の今の状況の様。

ただ静かに燃焼しきって、ベンチへと脱力したように掛けられていた。


その言葉で、心がズンっと重みを増した俺たちは黙り込んだ。


夏は長いように感じるけど、実は一瞬にして終わってしまう。

少年の夏なんて尚更だ。


一つの偶然が、ちょっとした神様のイタズラのように、一瞬にして勝敗を分ける。


どうして昨日雨が降ったんだ?

どうしてあそこだけぬかるんでた?


あの日素振りをしなかったからか?

ランニング、全力で走らなかったからか?


幾つもの後悔が頭の中をよぎる。

ありもしない“もしも”を並べたって、覆さなれない現実だと知ったのはいつだろう。

野球少年時代が終わりを告げた証拠なのかもしれない。

勝ったたあいつらは、俺らよりその後悔の数が少なかったのだろうか…

彼らも試合が終わったとき、こう思うのだろうか…

終わったあとのサイレンがまだ耳から抜けずに鳴り続けている。



ガチャリ…


「おい、また雨降ってきたぜ。」


建て付けの悪い部室のドアが開いて、誰かが入ってきてそう言った。


「…涙雨か?」


「バカ言え。…梅雨だよ。」


なぜ、甲子園の地区予選はこの梅雨入りから始まるのだろう。

球児の汗と涙が空に登るのか…?

そんな雨だったら、浴びたくない。

だって、きっと雨の成分の八割は悔しさの涙で、物凄くショッパいはずだから。

それで、ちょっと地の味がしたら、それはスライディングの証拠。

カッコ良く言ってみると、プレーヤーの勲章だ。

今日の雨はどんな色でどんな味がするんだろう…


「おい。これからどっかいかね?」


「なんだよ、早々ナンパしに行く気か?」


「お前、その頭じゃ無理だろ…。」


「おいっ、それはお前も同じだろ、ボーズっ!!」


じゃぁ、とりあえず町出ようぜ?

行くんかよ!!


泥だらけの荷物を無造作に鞄の中に突っ込み、少年達は一斉に雨の中へと駆け出していく。


「…来年、どこで負けるかは別としてさ、あぁなりたいよな…。」


後輩達は一瞬にして去っていった背中達を見てそう言った。

負けたけど、やりきったその背中は、なぜか誇らしく見えていた。


「さ、俺らも帰ろうぜ?」


夏の終わりを告げた雨の次の日は、必ず晴れるんだ。

明日、グランドにはまた新しい夏が来る。




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