第19テスト 集団戦
「リラフレーダだッ」
列の途中から声が上がる。
渓谷の上を、コウモリのような羽根を生やしたサソリのようなモンスターが飛んでいた。
「岩の槍ッ」
誰かの唱えた呪文――岩で作られた槍がリラフレーダへと向かって飛ぶ。
ただ、岩属性の魔法は、威力はあるが、スピードが無い。
空中を自由に動けるリラフレーダは、その攻撃をあっさりと躱し――攻撃を行ったプレイヤーを標的とした。
レベル50に到達したプレイヤーが現れ、フォルガアインツ(エピソード1)におけるラストダンジョンが解放された。
それと同時に、蝕の生贄という敵の侵攻イベントが予告される。
このイベントは、難易度が高く設定されており、死亡する危険が高い物だった。
そんな折、ウィリアムに対しサウタナトスから助力を乞うメッセージが届く。
まずは話を聞くために、最北端の塔の街――トゥンニーヴァイドを訪れていた。
「よぉ。よく来てくれたな」
ウィリアムを見付けたサウタナトスが、手を差し出しながら挨拶をする。
ウィリアムは、差し出された手を握り返す。
「手を貸して欲しいなんて言われちゃぁな」
サウタナトスの両脇には、フリージアとシェーリ・クラスタが控える。
もっと多い人数でパーティーを組めるはずだが、基本はこの3人らしい。
「そうか。手を貸してくれるか」
「まてまて。内容も聞かずに貸せるか」
「ま、そらそうだ」
2人して笑い合う。
そして、キリと表情を引き締め、説明を始める。
「攻略を手伝って欲しい」
「氷の城の?」
「ああ、そうだ」
氷の城――シュロスフォングラッタイトの通称であり、フォルガアインツ(エピソード1)のラストダンジョンである。
ここの攻略ということは、ボス討伐の手伝いと言うことになる。
「蝕の生贄がスタートしてからでは手遅れになる可能性が高い」
「ああ、それはそうだが」
蝕の生贄というイベントが開始されると、敵の強さが1.5倍~3倍に跳ね上がる。
これは雑魚のみならず、ボスにも適用される。
デスゲームと化している現状では、それは死に直結した。
「イベント開始前に決着を付けるしか無い」
「それで有志を募っていると」
「ああ。そうなる。――手を貸してくれないか?」
「それは、――どれくらい集まりそうなんだ?」
「正直、厳しい。――20人は行かないんじゃないかと予想している」
20という数字を聞いて、ウィリアムは驚いた。
攻略には十分な人数に思えたからだ。
「攻略には十分では?」
「かも知れん。だが、多いに越した事は無い」
「それはそうだけど」
「それに、レベルの高い連中はもっといるんだ。そいつらが出てくれば――」
「ここにきて尻込みした――と」
「ああ」
サウタナトスが、苦虫をかみつぶしたかのような顔をする。
確かに、レベル上位の連中が20人しか居ないというのも情けない話ではある。
「取り敢えず、仲間内で揉んでみる」
「ああ、頼む」
「あまり期待しないでくれよ」
「ああ、無理強いは出来ないしな。参加してくれるんなら、明日の朝、北門前に来てくれ」
「解った」
「じゃぁ、またな」
サウタナトスと別れ、仲間達と相談する。
「兄ちゃんはどうしたいんだ?」
「イベントが始まると、生き残るのは厳しいと思う」
「そんな――」
フィーネが言葉を失う。
前回の様にダンジョン入口にたむろするという手で逃げていたとしても、逃げ切れない。
蝕の生贄というイベントは、前回以上に敵の強さを見せつけるイベントだからだ。
初心者向けのダンジョンに潜っていたとしても、イベントが開始されるとレベル相応の敵に置き換えられる。
下手に初心者向けのダンジョンに高レベルのプレイヤーが逃げ込んでいたら、それこそ敵による狩り場と化す。
それくらい底意地の悪いイベントだった。
「でも、でも――ラスボスなんですよね」
「そうだね。でも、高レベルのプレイヤーが沢山来るから、大丈夫だと思う」
「ウー神父は、参加する気なんだね」
「クルさんは反対かい?」
「――ううん。いいか悪いかは解らない――けど、他に手が無いのは解る」
「じゃぁ、参加ってことだな」
「フィーネもいいかい?」
「お兄さんとお姉さんが、それでいいって言うなら――」
「大丈夫。勝てるよ」
「はいッ」
ウィリアムは、フィーネの頭を一撫ですると、買い出しに出かけようと言った。
身を護るためにも回復アイテムは必要だし、それこそ、命を護るために課金アイテムが必要だった。
街にある課金アイテム屋へと出向く。
「身代わり人形を買うのかい?」
「フィーネと正宗にも持っててもらおうと思ってね」
「じゃぁ、1個はこっちで買うよ」
「クルさん、――いいの?」
「1人で負担するには、高すぎる――でしょ?」
「まぁ、確かに――利用可能残高が心配だったんだ」
ウィリアムは苦笑する。クルスも、そんなに余裕は無いけどと返す。
余裕は無いが、15万で命が助かるのなら、安い買い物と言えた。
他にも青玉をいくつか購入する。
上位魔法のいくつかは、このアイテムを必要とした。
蘇生魔法も必要とする魔法の1つだ。
このアイテムの数が、攻略パーティーの命を繋ぐ可能性がある。
持っていて損は無いアイテムだった。
薬も大量に購入し、課金アイテムも入手した。
スカンピンの一歩手前という状態で店を出る。
日も傾き、今日という日が終わる。
4人は、近くの宿屋へと向かい、いつものように2部屋確保する。
まだ少し早かったが、翌日のことを考えれば、ゆったりと休んでおくべきだった。
男性組女性組と別れ、部屋に入る。
ウィリアムは、窓辺に座り、なんとはなしに外の喧噪を聞きながら、サウタナトスに参加する旨のメッセージを飛ばした。
正宗が眠るベッドからは、規則正しい寝息が聞こえてくる。
『しゃら~ん』と音がし、サウタナトスから助力に感謝する旨の返信が届いた。
クルスは、扉の前に立ち、ノックするか悩んでいたが――やがて、ノックをせずに扉をそっと開けた。
扉は特に物音も立てずにす~っと開く。
「あれ? クルさん、どうしたの?」
「うん。――ちょっといいかな?」
「いいけど。なに?」
「うん。――えっと」
入口にたたずみ、一向にしゃべり出さないクルスに対し、ウィリアムは席を立ち、入口へと向かっていった。
「正宗を起こしても可哀相だし、外に出ようか」
「――うん」
ウィリアムとクルスは、2人連れだって街の広場にあるオープンカフェ――を模した家の椅子に座り、街の様子を眺めた。
「眠れない?」
「――うん」
相変わらずだんまりだったクルス、――沈黙した空間に耐えられなくなったウィリアムがたわいない話を振る。
「やっぱり心配?」
「――心配――なのかな? うん、そうだね。やっぱり心配なんだと思う」
そこから、再び、しばしの沈黙――の後、クルスが顔を上げ、ウィリアムの顔を見た。
「ウー神父と電話で話がしたい」
「は?」
「電話じゃ無くてもいいけど、話がしたい。これ――って話題がある訳じゃ無いけど」
「この戦いが終わったら――」
「それは、フラグっぽいからダメ」
「――確かに」
そして、2人で笑い合う。
ひとしきり笑った後、なんで電話なのかとウィリアムが問うた。
「電話でもなんでもいいんだけど、――こう、仮想的な繋がりじゃなく、直接的な繋がりが欲しかったんだと――思う」
「嘘偽りの溢れる世界じゃ心もとない――かな」
「うん。ダメだと思う」
クルスは、そう言うと、すっかり暗くなってしまった星空を見上げる。
それに釣られるようにして、ウィリアムも空を見上げた。
満天の――偽りの星空が広がっていた。
「そうだね。――直接、話をしよう」
「うん」
クルスがウィリアムの方を見、笑顔を浮かべる。
クルスのそんな笑顔は、めったにお目にかかれないため、ウィリアムはどきりとした。
「じゃぁ、この戦いが――」
「だからダメだって」
そして、2人で再度笑い合う。
そんな些細なことが楽しい。
その日は、気持ちよく眠ることが出来た。
明けて、ゲーム内時間で20日目の朝――トゥンニーヴァイドの北門前広場に、数十人のプレイヤーが集まっていた。
サウタナトス達の呼び掛けに応じ、攻略に参加するプレイヤー、見送るプレイヤー、何事かと野次馬として集まってきたプレイヤーとで広場を埋め尽くしていた。
ウィリアム達一行も、そんなプレイヤーの中に埋もれている。
「攻略に参加してくれるのは、門の外に集合してくれ」
そんな声が掛かり、ぞろぞろと移動する。
その数、26人。
多いのか少ないのかは、判断しかねるが、それだけのプレイヤーが集まっていた。
そして、その26人を4つのパーティーに分けていく。
攻略の終盤で4つに別れる必要があるからだ。
ウィリアム達4人は3人と合流し、7人パーティーとなる。
槍騎士のリ=ハイアール、精霊使いのサクシス・サクセス、騎士のリリーファーラムの3人だ。
リ=ハイアールは、長髪を後ろで束ねた青年で、攻撃力よりは素早さを中心に育ててきた槍使いである。
槍は、剣より速度と貫通力、攻撃距離が有利となっているが、反面、攻撃力、横方向の攻撃範囲が劣る設定になっている。
短く刈り込んだ髪が特徴のサクシス・サクセスは、精霊を使役し、豊富な攻撃を特徴としている精霊使いだ。
使役した精霊により属性を変えることが可能ではあるが、属性の変更にはゲーム時間で3時間を要するため、その場その場で臨機応変に変更することは出来ない。
リリーファーラムは、ボブカットのはつらつとしたお嬢さんだ。
装備は長剣に盾と、騎士の基本とも言える選択をしている。
攻撃力よりは、防御力をメインに育てており、俗に言うタンク――壁役を担っている。
お互いに自己紹介と握手を済ませ、出発の合図を待つ。
歓談しつつも、どこか緊張をはらんだ空気が漂っていた。
「みんな、よく集まってくれたーッ」
サウタナトスが、近場にあった石の上から挨拶をする。
「長ったらしい口上は要らないと思うので、簡潔に済ませる。ありがとうッ」
そして一礼。
「じゃぁ、皆、まずは城まで駆け抜けるぞーッ。聖騎士は神域を絶やすなよッ。――それじゃぁ、出陣ッ」
その声に応じて、各プレイヤーがときの声を上げる。
それは参加者に地鳴りを錯覚させた。
それだけ、各プレイヤーが覚悟を決め、ここに集っているのだと感じさせる。
聖騎士の神域というスキルは、同士討ちを防止するスキルで、聖騎士を中心とした一定の範囲内は、PvPが行えなくなる。
今回のようにパーティー外のプレイヤーと協力して戦闘を行う場合、必須のスキルと言える。
道中は、平穏無事と言っても過言では無かった。
攻略組と、その周辺のプレイヤーが集まっているのだ。
多少のモンスターなぞは一蹴されてしまう。
むしろ、その敵を寄越せと我先に群がる姿は、どちらがモンスターなのか解らない位だった。
そんな城への道中も大詰め――城の手前に到達していた。
城の手前には、底の知れない大渓谷が広がっており、一本の朽ちかけた石橋が渡っている。
欄干は、所々欠損し、それどころか、その駆体すら一部欠損している――長大な橋だった。
4人が並んで渡ることが出来る広さではあるが、戦闘が発生することを考慮すると、2人か3人が限度となる。
26人もいると、大行列となってしまうのが難点だった。
「リラフレーダだッ」
列の途中から声が上がる。
渓谷の上を、コウモリのような羽根を生やしたサソリのようなモンスターが飛んでいた。
「岩の槍ッ」
誰かの唱えた呪文――岩で作られた槍がリラフレーダへと向かって飛ぶ。
ただ、岩属性の魔法は、威力はあるが、スピードが無い。
空中を自由に動けるリラフレーダは、その攻撃をあっさりと躱し――攻撃を行ったプレイヤーを標的とした。
一扇ぎし、上空から目標へと向かって滑空する。
その速度は、対処する暇を与えず、目標の魔道使いへと命中――周囲のプレイヤーも巻き込み吹き飛ばした。
吹き飛ばされノックバックした幾人かのプレイヤーが欄干へと衝突する。
魔法を唱えた魔道使いの後ろには、――欄干が無かった。
魔道使いの身体を押しとどめるオブジェクトが存在しない。
「うあぁぁぁッ」という声を残し、渓谷の底へと姿を消してゆく。
「クラインッ、クラインーッ!」
「おい、クラインが落ちた」
「誰かッ、頼む。誰かッ」
近くにいたプレイヤーが声を上げる。
助けたいのは山々だが、――渓谷に落ちた場合、即死扱いだった。
死体は、自動的に復活地点――拠点として登録した街へと移動し、蘇生呪文を掛けることも不可能である。
身代わり人形での復活も、落下後の復活扱いになるため、拠点での復活となる。
「切れ目から移動しろ」
「手すりのある場所まで逃げろ」
落下後、仮に復活できたとしても、街からここまで1人で移動し、合流することは困難だろう。
一行に緊張が走る。
「どうする?」
「倒すのか?」
「やめろやめろ。ヘイトが溜まるだけだ」
「そうだ、走り抜けるぞ」
攻撃を避けつつ、一行が動き出す。
橋の先は、城門前広場へと繋がっている。
こんな所で脱落するわけにはいかなかった。
Twitter @nekomihonpo
次回「第20テスト ホワイトアウト」




