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第17テスト レアアイテム

 この2人、――とにかくレアアイテムの運が無い。

これまでもいくつかのゲームで一緒にプレイしてきたが、レアアイテムのドロップに関して、不思議なくらい出ない。

一生懸命、ダンジョンに籠もり敵を倒しまくりドロップする確率を上げているにも関わらず――出ない。

コモンレア程度であれば出るのだが、レアと呼ばれる類に縁が無い。

結局、コモンレアを売りさばいたお金で入手するというのが常だった。

そして、入手した後にドロップしたりするのだが――


 ゲーム内時間で2週間以上が経過していた。

ここまで経過したことで、最近、1つの噂がプレイヤー間で(ささや)かれている。

外部からの救出は無いのではないか――という救いの無い噂だ。

そう言った、意見を支持するだけの要素も転がっている。

外部の世界で、数日が経過しているハズだ。

それにも関わらず、未だに救出どころか、それに関するアナウンスすら無い。

救出作業を行っているのなら、管理者権限を利用し、アナウンスの1つでもあってしかるべきだ。

――という主張だ。

それを真っ向から否定しようにも、アナウンスくらい出来るだろうと言われれば黙るしか無い。

試験期間が過ぎれば解放されると信じている連中と相まって、街は徐々に活気を失いつつあった。


 そんな後ろ向きな勢力と違い、ゲームから脱出するにはクリアするしかない――という一団がいる。

俗に言う、攻略組の連中だった。

クリア可能なのかという疑問もあるが、外部からの救出が怪しくなってしまった現状、そこに賭けるというのも、また1つの選択肢であった。


 ウィリアム達は、PKに絡まれた後、気を取り直して順調にレベルアップを行っていた。

トップグループには追いつけていないが、レベル40前後のグループに属するため、中堅よりは、上位に属する。

このレベル帯になれば、それなりのレアドロップで、装備が充実してきても良いのだが、そちらの方はからっきしであった。


 ウィリアム達は、河の水上都市――シュリメンディシュタフルトの側にある滝の塔――タウアーファルに来ていた。

滝の上に入口があり、滝壺へと向かって下へ下へと潜っていくタイプのダンジョンで、ダンジョン内にも滝の水が流れている美しい場所だった。


「ぐぅッ」


 敵の騎士――リターフォンバーサの剣が8つに分かれ、正宗へと叩き込まれる。

正宗は、大剣を左右へ動かし防御するが、防ぎきれずダメージを受ける。


祝福による回復(リックハイフール)

炎の壁(ヴァルブフラーマ)ッ!」


 すかさず、ウィリアムから上位の回復魔法が飛ぶ。それと同時に、クルス・ラミラが炎の壁を出現させた。

一定の範囲に短時間ではあるが、持続性のある業火の壁が出現、敵を焼くと同時に、水属性の攻撃を緩和する効果がある。

このダンジョンは、敵が水属性であることが多く、火属性を中心に育ててきたクルスには相性の良いダンジョンと言えた。


「ホゥイディリンッ!」


 フィーネがスキルによる矢を放つ。

その矢は、風をまとい炎の壁に穴を穿った。

一筋の軌跡を残しつつ、壁向こうのリターフォンバーサへと吸い込まれてゆく。


「エレートバイスッ!!」


 HPの回復した正宗が、スキルを放つ。その大剣が炎の壁を縦に切り裂き、壁向こうのリターフォンバーサを上から叩きつぶした。

その攻撃が決め手となり、バシャァという音と共に水が弾け飛ぶ。

そして、そのまま光の粒となって消える。


「残念。出なかったか」

「そうだね~」


 ウィリアムとクルスが、敵が光の粒となって消えた後のドロップを見ながら会話をする。

彼らは、正宗の武器を求めて、このダンジョンに来ていた。

このダンジョンは、騎士タイプの敵が多いため、良質の剣を落とすことが多い。


「相変わらず、レア運は無いね~」

「無いね~」


 出なかったことに対し、がっかり――と言うよりは、どこか諦めきった様子で周囲を見回す。


「簡単に出たらレアじゃないってことだろ?」


 そんな諦めきった2人に対し、正宗が何言ってるんだと応ずる。

とは言え、2人には2人なりの理由があった。

この2人、――とにかくレアアイテムの運が無い。

これまでもいくつかのゲームで一緒にプレイしてきたが、レアアイテムのドロップに関して、不思議なくらい出ない。

一生懸命、ダンジョンに籠もり敵を倒しまくりドロップする確率を上げているにも関わらず――出ない。

コモンレア程度であれば出るのだが、レアと呼ばれる類に縁が無い。

結局、コモンレアを売りさばいたお金で入手するというのが常だった。

そして、入手した後にドロップしたりするのだが――


 アイテムに関する運は無いのだが、別の運なら持ち合わせている。

――モンスターに対する運だ。


「クルさん、ニャトーブアースだ」

「ん? ニャトー来たの?」

「ほら、南西の通路の上」

「お。いい位置だね」


 ダンジョン内にも滝が流れ落ちており、その滝が壁となっている箇所がある。

ウィリアム達がいる位置からニャトーブアースの場所まで壁は滝しか存在せず、敵の位置が丸わかりであった。

敵の方からすると、普通の壁と滝による壁は区別が付かず、視界を遮るオブジェクトでしかない。

滝を突っ切る攻撃は無理だが、接敵するまでに下準備がしっかりと出来るという点において、プレイヤー側が有利なダンジョンであった。


「それじゃぁ、おっきいの行くよ」

「クルさんの後は、正宗とフィーネ――頼んだよ」

「オッケー、任せといてよ」

「はいッ」


 クルスが、その手を顔の前に持っていき、スキルを唱える。


爆炎魔法(エクジーオンフラーマ)


 正宗が、大剣を正面に構え、パーティーの前衛としてニャトーブアースへとゆっくり近づいていく。

その後ろでは、フィーネが矢をつがえ、クルスが待機時間(キャストタイム)が経過するのを待つ。

ウィリアムは、周囲の警戒をしていた。


「よし。それじゃぁ、行くよ」

「おうッ」

「はいッ」


 スキルの待機時間(キャストタイム)分、経過した。クルスの手には、バレーボール大の炎の玉がある。

ニャトーブアースが周囲を警戒しつつ、通路をうろうろしていた。

そして、その後ろ姿をこちらに晒した瞬間、クルスが炎の玉を投げつける。

その炎がニャトーブアースにぶつかり、派手に爆ぜた。

氷の騎士であるニャトーブアースの弱点攻撃に、背後からの不意打ち判定が加わり、通常の2.5倍のダメージをたたき出す。


「たぁッ!」


 ノックバックしているニャトーブアースに、正宗が追撃の一閃、返しで更に一閃と攻撃を叩き込む。

更に、フィーネが矢を3連射――これに耐えきれずニャトーブアースがシャリーンと音を立て砕け散った。


「後ろから水、2」


 周囲を警戒していたウィリアムが声を上げる。

背後から敵の騎士――リターフォンバーサが、こちらへ向かって接近してきていた。

ウィリアムは、警告を発すると同時に先頭の1体へと駆け出し、その胴体へと手甲の一撃を放り込む。


炎の槍(アスピフラーマ)ッ!」


 振り返ったクルスが呪文を唱えた。突き出した手から5本の槍――炎の槍がウィリアムを回り込むようにしてリターフォンバーサへと突き刺さる。

そして、ノックバック――浮き上がったリターフォンバーサへウィリアムが追撃を叩き込んだ。

そのウィリアムの脇をニャトーブアースに接敵していた正宗が駆け抜ける。

剣を構え、スキルを唱える――


「エレートコリゾーンッ!」


 剣を突き出すように構えたまま、正宗の身体が加速し、リターフォンバーサへと飛び込んでいく。

リターフォンバーサは、転倒し、正宗の眼前に無防備な姿をさらした。

正宗は、剣を逆手に構えると、短くかけ声を発し宙へと舞う。

そして、そのまま、その剣をリターフォンバーサへと突き立てた。

リターフォンバーサは、その身体をくの字に曲げ、1、2度、ばたついたが、そのまま静かになり、

バシャァという音と共に姿を消していく。


 地面に剣を突き刺したままになっている正宗に対し、もう1体のリターフォンバーサが剣を振り下ろす。

正宗は、剣での防御が間に合わず、咄嗟に左手で相手の剣を防御しようとするが、システム的には防御として扱われず、吹き飛ばされた。

態勢を崩した所へとリターフォンバーサの追撃が迫る。


上位回復魔法(リックノアフール)


 ウィリアムからの回復魔法が正宗を包み込む。


「ホゥイシュラッグッ!」

火の柱(ファイリザイル)!」


 フィーネの矢が、剣を振り上げたリターフォンバーサを吹き飛ばし、クルスの魔法がその身を焼いた。

しゃがみ込んでいた正宗が、回復魔法の残滓の光を棚引かせながらリターフォンバーサへと向かって飛び出すようにして駆け出す。


「ウアァァッ!」


 そのまま、大剣を振り上げリターフォンバーサへと振り下ろす。

バシャァと音を立てつつ、水を撒き散らし消えていく。

消えた後には、その剣だけが残されていた。

ウィリアムが剣へと近づいていき拾い上げる。

残念ながら、通常のドロップアイテムだった。


「コモンだね」

「そっか。残念」

「兄ちゃん、ありがとな」

「いいってことさ」


 ウィリアムは、そう言いながら正宗の頭を乱暴に撫でつける。

口ではやめろと言いつつも、払うところまでの抵抗は見せない。


「そろそろ、一旦、戻ろうか」

「もう戻るのか」

「そうだね。そろそろ休憩したいし」

「じゃぁ、帰りましょう」


 戦闘の連続というのは心身ともに疲れる物である。ゲームであるがゆえ、身体の方はHPやMPという形でしか疲れは出ないが、心の方は疲弊する。

休憩をするには、ダンジョンの中は危険過ぎる。

――と、言うことで、ダンジョンを抜けるべく、上階へと続く階段へと移動した。


 通路を曲がれば、上階へと続く階段――という所で、正宗が一行を手で制した。


「兄ちゃん、敵だ」


 別段、モンスターは音声に反応するわけでは無いのだが、知らず知らずの内に声をひそめてしまう。

ウィリアム達は、順番に通路の影から階段前を覗き見た。


 そこには1体の騎士が陣取っていた。

蒼い鎧に身を包み、手には水色に光る剣を携えている。

鎧には過剰にトゲが施されており、その盾にも大きなトゲが3本、突き出していた。


「クルさん、あれって――」

「カーヴァキンバサファーだと思う――けど」

「強いのか?」


 多少、言い淀んでいるクルスを見上げつつ、正宗が問い掛ける。

その隣のフィーネは、心配そうに2人を見上げていた。


「強いと言えば強いけど、倒せないことも無い――かな」

「どうせ出るには倒さないとダメなんだし、やっちゃおうぜ」

「が、がんばります」


 ウィリアムとクルスは、顔を見合わせる。

カーヴァキンバサファーは、エリアボスでは無い物の、中ボスとも言えるモンスターだった。

言えるであって、中ボスでは無い。

そもそもがレア種に属するモンスターで、エリアボスに遭遇するまでに出会える方がまれだった。

アイテムをドロップすれば、かなり美味しい敵と言える。


 現状、上階への階段前広場をうろうろしている。

避けて通るのは困難を極めるだろう。

レア種が出たと前向きに考え、倒すしか無いと腹を決める。


「強敵だからね。一気に行くよ」

「強敵って、どう強敵なんだ?」

「それは――」

「お兄さんッ、見付かったみたいです!」


 フィーネの声に、皆の視線が敵へと釘付けになる。

カーヴァキンバサファーは、右腕を前方へと突き出し――こちらへと手のひらを向けていた。

周囲に水の固まりが浮かび上がる。


「まずいッ」


 水の固まりが、棒状に伸びたかと思うと、ウィリアム達目がけて飛来する。


炎の壁(ヴァルブフラーマ)ッ!」


 水の槍が突き刺さろうかと飛来するが、眼前にクルスの唱えた炎の壁が出現した。

カーヴァキンバサファーの水の槍は、炎の壁に阻まれ、相殺される。


「魔法剣士なんだよ」

「――ずっけぇ」


 そうは言うが、正宗は姿勢を低くしたまま敵へと走り出す。


「ホゥイシュラッグッ!」


 フィーネの矢がカーヴァキンバサファーへと飛んでいくか、盾により防がれてしまう。


「ハウンシュトラーゲンッ!」


 正宗が、大剣を上体を反らせるくらいに構え、解き放つ。

全体重を掛けての一撃も、カーヴァキンバサファーの盾で防がれるが、ノックバックして姿勢が崩れた。


炎の槍(アスピフラーマ)ッ」


 その隙を逃さず、クルスから炎の槍が飛ぶ。姿勢が崩れた状態では防御出来ず、本体へと攻撃が叩き込まれる。

が、「ガァァッ」という声と共に剣を一閃し、炎の槍を打ち払った。

そして、そのまま剣を地面へと突き刺す。


「やばッ」


 剣を中心に、波紋が広がるかのごとく、水の槍が地面から突き出しては潜りを繰り返した。

前衛の正宗は、避けることも出来ず、まともに喰らってしまう。

それどころか、クルスの壁が間に合わず、相殺に失敗する。

クルス、フィーネ、ウィリアムも相応のダメージを負った。


祝福による回復(リックハイフール)


 前衛の正宗、回復役たるウィリアム、フィーネ、クルスの順に癒す。

さすがに4人分も上位の回復魔法を唱えるとMPが一気に減る。

ウィリアムは、大人しくMP回復に努めざるを得なかった。


 回復魔法の光の粒を撒き散らしつつ、正宗が下からかち上げるような一閃を入れる。

カーヴァキンバサファーは、盾で防ぐも、一閃に引きずられ盾を跳ね上げてしまった。


炎の矢(フラーマディファイアス)ッ」


 そこへクルスが炎の矢を唱え、連続で叩き込んでいく。

炎の矢の一撃、一撃は軽いが、その数が多い。

MPの消費もバカにならないのだが、10、15――と次々に叩き込んでいった。


「ホゥイディリンッ!」

「エレートコリゾーンッ!」


 炎の矢に埋もれているカーヴァキンバサファーに対し、フィーネと正宗が追撃を行った。

その猛追は、カーヴァキンバサファーに反撃の暇を与えず、HPを削り取っていく。

出し惜しみをしていては、敵の範囲攻撃でこちらがジリ貧になってしまうことが、たった数手で解ったからだ。


「これでッ! 終われぇぇぇッ!」


 大剣を大きく振りかざし、カーヴァキンバサファーの頭から――まさに兜割りと言える一撃を叩き込んだ。

MPを枯らすほどの攻撃を叩き込んでいた。

その正宗の一撃が、ついにカーヴァキンバサファーのHPを上回った。

頭から割れていったかと思うと、バシャァッと派手に水を撒き散らし、光の粒となって消える。

――その手にしていた水色の剣が、地面に刺さり残っていた。


「お、終わった――」

「はぁ。よかったです」


 正宗とフィーネは、戦闘が終わったことに安堵していた。


「クルさん、コレって」

「間違い無いよ。スェーダフルーキだよ」

「やったな。正宗」

「――兄ちゃん、どうしたんだ?」


 ウィリアムとクルスの興奮具合が、正宗、フィーネにはいまいち伝わっていない。

このスェーダフルーキという剣、カーヴァキンバサファーの持つ剣であり、レアに分類されるアイテムだった。


「なんで、この感動が伝わらないかなー」

「大丈夫だ。クルさん、正宗も使えば解る」


 2人の熱に、どこか引いているようにも見える2人――4人は、目的を達したとばかりにダンジョンの中を上階へと目指していった。


Twitter @nekomihonpo


次回「第18テスト 廻廊の解放」


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(2013/09/09更新)
●人物一覧
(2013/09/09更新)




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