第16テスト PKer
奴らが同じ場所にいるとは限らなかったが、ほかに手かがりも無かったので、まずは先ほどの場所へと向かう。
「見付けたぞ」
道中、メッセージのやり取りをしていたサウタナトスが、発見の報を告げる。どうやら、あの遺跡を拠点にしているらしく、サウタナトスが先だって解き放った斥候――知り合いにメッセージをバラ蒔いて協力を仰いだだけだが――の網に引っかかった。
「なんだ?」
サウタナトスは、新たに加わった仲間が転職をするため、湖畔の神殿――テンプレディージーを訪れていた。自身は、神殿に用が無いため、神殿前の広場でゆるりと休息を取ることにした。そんな次第で仲間と談笑していたところ、天から光の柱が降りてきた。
「聖地への帰還――だと思う」
魔道使いのシェーリ・クラスタが、光を見上げて応える。
「そうですね。私もそう思います」
「そうか。この光は移動用魔法だったか」
「ええ、そうですね。ココにしか移動出来ませんが」
聖職者のフリージアも、シェーリの意見に賛同した。
聖地への帰還――聖職者の取得可能なスキルの1つで、その名の通り、聖地への移動を行う魔法である。聖地とは、湖畔の神殿――テンプレディージーの事であり、ここへの移動魔法となる。魔法の発動には、ハイリブラウクーゲルというコモンレアアイテムが必要となる。――課金して入手することも可能ではある。また、発動には、空が見えている必要があり、ダンジョン内どころか、建物内でも使用することが出来ない。発動に2分という待機時間を必要とし、緊急回避用としての使い勝手は最悪と言える。移動場所の自由が利くようになる思い出の扉まで成長させれば、使い勝手はマシになるが、そこまで成長させる手間を考えると、躊躇われるスキルの1つである。Solid版では、使い手の少ない希少スキルの1つであった。
光の柱が徐々に細くなっていき、パッと光の粒を撒き散らしつつ消える。
「お。ウィリアムだったのか」
「――サウタナトスじゃないか」
「珍しいモン、取ってるな」
「ちょっと待ってくれ」
ウィリアムは、興味津々に話しかけてくるサウタナトスを手で制し、正宗とクルスに回復魔法を掛けた。正宗に駆け寄っていたフィーネの頭を一撫でし――
「フィーネ、大丈夫?」
「はい。はいッ。ありがとうございます」
少し涙声になり何度もうなずきながら答える。更に一撫でしてから、クルスの後ろに回り込み、袖を固定しているアイテムを取り外そうとしゃがみ込む。が、外れない。
「ウー神父、どう?」
「う~ん。――どうにも輪っかに切れ目が無いんだよねぇ。引っ張っても割れないし」
黄金色の円環――その名の通り、金色の輪っかであった。継ぎ目1つ無く、クルスの袖に穴を開け、腕の自由を奪っている。
「何やってるんだ?」
サウタナトスが、横から覗き込んで来る。クルスの袖を見て、黄金色の円環を取っ払いたいのだと把握する。サウタナトスは、脇から剣を引き抜くと――
「ちょっとどいてみろ」
「――サウタナトス」
「円環を断ち切るにはこうするんだッ」
円環に対し剣を押し当てたかと思うと、「ふんッ」と一押し――円環を断ち切った。クルスが、自由になった手首をさすりながら、ありがとうと礼を言う。
「助かりました」
「いや、それはいいんだが。――何があったんだ?」
「PKですよ」
「PKだと」
サウタナトスが、嫌悪感を示す。後ろの仲間も同様だった。ウィリアム達は、その時の状況をつぶさに説明する。
「よく逃げられたな」
「聖地への帰還を覚えるだけのスキルポイントがあって――なんとか」
「いや、それもそうだが、よく唱えられたな」
「そうです。アレは待機時間が2分と緊急避難には向かないハズです」
「そこは必死に――話術で?」
「どんな話術ですか」
フリージアがあきれ顔で呟く。ウィリアムにしてみれば、別に嘘を言ったつもりも無いし、必死だったことも確かなのだが――
「とは言え、こんな状況でもPKするヤツはいるんだな」
「ええ、――いるんじゃないかとは思っていたけど、こうもあっさり遭遇するとは思ってなかったかな」
「せめて名前でも解ればな」
「ああ、名前――ちょっと解るかも」
ウィリアムが、急いでログの確認をする。
「ああ、あった。カイザーブラストだな。他の4人は解らないけど」
「よく解ったな」
「転送される直前に、攻撃しておいたんで」
「はは、なるほど。抜け目ないな」
ウィリアムが攻撃したことにより、ダメージログが残っていた。そこから名前が判明する。同様にして、クルスと正宗のログからも残り2名の名前が判明した。
「カイザーブラストか」
「知ってるヤツなのか?」
「ああ、知ってる。元攻略組だな」
「元?」
「どうにも素行不良な奴らでな。他の連中からハブられた」
サウタナトスの説明によれば、奴らは、アイテムの横取り、山分けの際のちょろまかし、他のパーティーを盾にする、暴言、セクハラ、――仕舞いには、自分たちにレアが出ない事に切れて、攻略の放棄をして、その場に残された他の連中や、その繋がりからハブられるようになったとの事だった。
「当然の結果だな」
「まあな。――それで、どうする?」
「どうするとは?」
サウタナトスに問われはしたが、どういう意図なのかが見えず、問い返す。
「奴らを懲らしめる必要があるだろ? やるなら協力するぜ?」
「――殺すのか?」
「戦闘の結果、殺すことになる可能性はあるな」
「そうか――」
「このまま、のさばらせておいてもマズいだろ」
「それは、そうだ。被害が拡大する。――それはそれとして、どう、懲らしめるんだ?」
「それに関しては、一案ある」
サウタナトスが、にやりと笑う。実に頼もしく――まさに悪役のそれであった。サウタナトスが、知り合いに声を掛けてくるというので、ウィリアムは、仲間達と話すことにする。
「兄ちゃん、やっつけに行くんだよな」
「みんなは留守番しててくれ」
「え!?」
「なんでだよッ」
フィーネと正宗は驚いたが、クルスは特に驚いた様子も見せず、ウィリアムを見つめ直す。ウィリアムは、何て説明した物かと考えあぐねていたが、結局、ストレートに話すことにした。
「人を殺すことになるかも知れないから、君たちは連れて行けない」
「――ッ」
「だ、だからって兄ちゃん達ならいいってのかよ」
「大人が責任を取るもんだ。――君たちは、待ってて欲しい」
「そんな――」
「じゃぁ、クルさん――」
「解った」
「2人を頼む」
「――解ってない」
クルスが憮然と応え、ウィリアムは呆気に取られた。お互いにお互いが解ってない。ウィリアムは、クルスを含めた仲間に残って貰うつもりだったのだが、クルスは、当然ながら一緒に行くものだと思っていた。
「一緒に行くからね」
「いや、残って欲しいんだけど」
「大人が責任取るんでしょ」
年長組2人が、行く来るなの問答を始めた。フィーネも正宗も、自分たちも行くのだと意思表明したいのだが、割り込むタイミングが掴めない。そんな所へサウタナトスが帰ってきた。
「痴話げんかは後にしてくれ」
「痴話げんかじゃないし」
「ち――ッ」
ウィリアムも同時に声を発しそうになるが、クルスが力強く応えたことで、少しだけ冷静になれた。クルスが大人だと言うことも一理あると言えばある。まずは兄妹を連れて行かないことが最優先だと考え、クルスと一緒に2人を説得することに――戻ってきたサウタナトスも巻き込み、かなり強引に連れて行かないことを承諾させることに成功した。2人とも、いまいち納得していないのか憮然とした表情ではあったが、見送られつつ出発する。
奴らが同じ場所にいるとは限らなかったが、ほかに手かがりも無かったので、まずは先ほどの場所へと向かう。
「見付けたぞ」
道中、メッセージのやり取りをしていたサウタナトスが、発見の報を告げる。どうやら、あの遺跡を拠点にしているらしく、サウタナトスが先だって解き放った斥候――知り合いにメッセージをバラ蒔いて協力を仰いだだけだが――の網に引っかかった。
「よぉ、カッちゃん。久しぶりだな」
「だ、誰だッ。――サウタナトスか」
広場にたむろしていたカッちゃん――カイザーブラストに対し、サウタナトスが両腕を組みながら――堂々と声をかけた。その声に対し、カイザーブラストをはじめとした面々が慌てて武器を取り腰を浮かしかける――が、相手がサウタナトス1人と知って腰を下ろす。そんな中、カイザーブラストだけが剣に手を掛けたままサウタナトスを睨んだ。
「サウタナトスよォ。お前にカッちゃん呼ばわりされる覚えはねーなァ」
「気に食わなかったか。カッちゃん」
2人の様子に一度腰を下ろした連中が、再度、腰を上げる。サウタナトスは、その様子を見ても、まだ不敵に笑っていた。その様子がカイザーブラストとしては面白くない。
「何がおかしいッ」
「おかしかぁないさ」
物陰に隠れていたウィリアムとクルスが、サウタナトスに並ぶ。
「手前ッ、どういうことだッ」
「ハッ、PKするような奴らに説明がいるか?」
「PKだと? オレらがPKしたってか。ハッ。それこそお笑いぐさだ。どこの馬の骨とも知らない奴らの言うことを信じるのか。一緒に戦ってたオレらを信じずに」
「お前らが信じられるような奴らだったか、よく思い出せよ」
「なんだとッ」
「それにな、――嬢ちゃんのログにしっかり残ってるんだよ。お前らが人様を攻撃したってログがなァ」
「なッ――で、でたらめだッ」
「もういいから、黙れ。大人しくしろッ」
サウタナトスは、そう言い放つや、右腕を上げた。その合図に従い、周囲からプレイヤーがぞろぞろと現れる。総勢16人――ずらりと5人を取り囲んだ。
「ど、どーすんだよッ」
「――そ、そんなもんッ、一点突破っきゃねーだろッ!」
そう言うや否や、カイザーブラストが剣を中段に構えウィリアムへと飛びかかる。
「ワールプライズンッ!」
「火の壁ッ!」
カイザーブラストがスキル名を叫ぶと同時に、クルスがスキル名を叫ぶ。ウィリアムとカイザーブラストの間に火の壁が勢いよく立ち上がるが、カイザーブラストは、発動したスキルで火の壁を細切れにした。
「甘ぇんだよッ!」
「ティーグバイスッ!」
火の壁の中を切り裂き、その火を突き破るようにして飛び出してきたカイザーブラストの前に、サウタナトスが立ちはだかる。そして、口にしたスキルが発動する。サウタナトスの剣は、青白い軌跡で弧を描きながらカイザーブラストを袈裟斬りにした。そのまま、描かれた孤月は衝撃波となって後ろに連なっていた奴らの仲間へと飛んでいく。その衝撃波は、カイザーブラストを含め、3人を吹き飛ばした。
「くそッ」
「雷の槍ッ!」
敵の魔道使いから風の上位――雷の魔法が飛んだ。しかし、範囲攻撃では無いため、1人が被弾した程度では包囲網は解けない。しかも、即座に回復魔法が掛けられたため、包囲網には綻びすら生じなかった。
そのまま、包囲殲滅線が繰り広げられる。さすがは、サウタナトスの知り合い――攻略組と呼ばれるトップグループだけはある。勝負はほどなくして――あっけないほど簡単に着いた。広場には、5人の死体が転がっている。
「どうするんだ? このまま死なせるのか?」
ウィリアムがサウタナトスに問う。問われたサウタナトスは、無言のまま死体となったカイザーブラストへと近づいていった。
「さすがに、オレらまで人殺しになる必要は無いさ」
そう言いながら、死体となったカイザーブラストの後ろへと回り、しゃがみ込んだ。ウィリアムもそれに続き、サウタナトスのすることを見守る。サウタナトスは、インベントリからアイテムと取り出すとカイザーブラストへと取り付けた。
カイザーブラストは、身代わり人形を使用するタイミングを推し量っていた。周囲の音が聞こえてこないため、奴らが何をしているのか解らなかった――が、どうにもすぐに立ち去りそうな気配が無い。このままでは、本当に死んでしまう。それを見届けるために留まっているのかも知れなかったが、さすがに本当に死ぬ訳には行かなかった。――我慢の限界だった。身代わり人形を使用して――蘇生する。
カイザーブラストは、身を起こそうとして失敗した。身体が思うように動かない。蘇生直後の弊害かとも思ったが、そうでは無かった。腕と脚が、「何か」で固定され動かなかった。
カイザーブラストの腕と脚は黄金色の円環で固定されていた。先ほど、サウタナトスが取り付けていたアイテムは黄金色の円環だった。まず、カイザーブラストの袖を固定、そのまま両脚――そして、腕と脚の円環を円環で結んでいた。他の死体にも同じように黄金色の円環が取り付けられている。
「よう。やっぱり人形持ってたな」
サウタナトスが、カイザーブラストへと声を掛ける。
「くそ。何しやがるッ」
「お前らがやったのより、がっちりと固定させてもらった」
「ふざけんなッ。離しやがれッ」
「それは出来ない。人殺しはしたくないが、人殺しを放置することもしたくないんでな」
「手前ッ、ふッざけんなッ」
カイザーブラストの悪態は続いていたが、サウタナトスは聞き流すことにした。奴らの仲間が続々と蘇生する。しっかりと身代わり人形を持っていたようだ。念のために蘇生する手段――蘇生魔法の使い手と触媒を用意していたのだが、必要無かったようだ。
「よし。じゃあ、運ぶぞ~」
「うぃ~」
サウタナトスと仲間達が、カイザーブラストをはじめとした連中を担ぎ上げ運び始める。
「運ぶって、どこに運ぶんだ?」
「はは、野放しに出来ないからな。隔離するんだ」
「隔離――って、どこに」
「いい所があるんだ」
サウタナトスは、ウィリアムの質問にしっかりと答えないままに街へと移動を開始する。その間も、連中の悪態が尽きることは無かった。
最寄りの街――西の砦、デーベスディレストンへと連中を担ぎつつ戻ってくると、サウタナトスは、宿屋へと向かった。そして、そのまま一室を借りると、そこへと連中を放り込む。
「手前ッ、ふざけんなッ。覚えてろよッ!」
「たまに様子を見に来てやるよ。じゃあな」
そして、部屋の扉を閉めると、そのまま怨嗟の声もピタリと聞こえなくなった。
「さすがに、ちょっとやり過ぎな気がしないでも無いが――PKだしな」
「まぁ、現状じゃ、この辺が落としどころだろ?」
仲間と一緒とは言え、1つの部屋に身動きも出来ないまま閉じ込められる。一種の拷問とも取れなくも無いが、連中のしたことを考えれば、致し方が無いとウィリアムは納得することにした。
サウタナトスが、協力してくれた仲間にお礼を言って回る。ウィリアムとクルスも、それに付いて回った。最後にサウタナトスへと向き直る。
「助かったよ。でかい借りが出来た」
「ま、気にすんな――ってのも難しいかも知れないが、何かの折に返して貰うさ」
「返せるといいけどな」
「そこは、がんばってくれ」
そう笑いあいながら、しっかりと握手をする。
「じゃ、またな」
「ああ、また」
「ありがとうございました」
そうして、サウタナトス達とも別れた。
「じゃ、2人の所で戻ろうか」
「そうだね」
ウィリアムとクルスは、フィーネと正宗を迎えにと聖地への帰還を使用し、光の中へと消えていった。
Twitter @nekomihonpo
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