第14テスト 対人戦
『シュトキーゲン・トゥーンヴァイド運営よりお知らせいたします。つい先ほど、ジェネラルサーベリオンさんがレベル40に到達されました』
「クルさん――」
「確か、――PvPだったと思う」
ウィリアムがクルスに内容を問う前に、クルスの方から答える。レベル40での対人戦の開放――Player VerSus Playerの解禁。
ウィリアム達は、フィーネ、正宗兄妹の父親を探しつつ、レベルアップを行っていた。父親探しの方は、砂粒ほども進展した様相は見えなかったが、レベルアップの方は順調であった。クルス・ラミラがレベル30を超え、上位職――魔道使いに転職を果たす。上位職になることで、パーティーの攻撃力が一気に上昇し、正宗、ウィリアム、フィーネのレベルアップに貢献した。正宗も、上位職である騎士への転職を果たし、今はウィリアムの転職条件を満たすべく、お使いクエスト――アイテム集めを行っている最中だった。
「炎の槍ッ!」
クルスが、顔の前に手を持っていき、スキル名を唱えた。2本の炎の槍が出現し、目の前のゾンビへと吸い込まれていく。その腐った身体を貫き、焼き尽くす。
攻撃の余韻に浸る間もなく、移動しつつスキル名を唱える。
「爆炎魔法ッ」
すぐには発動せず、クルスはゆっくりと移動を続ける。
「20秒お願い」
「おう」
「はいッ」
クルスの要請に正宗、フィーネが応える。
「ハウンシュトラーゲンッ!」
「フゥーンフロクトーッ」
正宗が、大剣を上段――むしろ背中へと上体を反らせるくらいに構え、解き放つ。大剣の遠心力により、身体を軽くジャンプさせつつ、前方の敵――むしろその地面へと大剣を叩き込む。叩き込まれたゾンビは、もちろん真っ二つにされ、叩き込まれた地面は大きく爆ぜた。その固まりが弾丸となり、周囲のゾンビへと撃ち込まれる。
フィーネは、7本の矢をつがえ、少し上空へ向かって一斉に放った。放物線よりも急激な落下線を描きつつ、地面すれすれまで落下し――地面には刺さらず、そこから跳ね上がるようにして敵に向かう。ノックバックしていたゾンビへと突き刺さると、その身体を拭き飛ばしつつ貫通する。
2人の攻撃により、奥に控えていた敵までの道が開ける。
「いくよ」
「おう」
待機時間の経過したクルスの手には、バレーボール大の炎があった。その炎を、今できたばかりの道――その奥へと向かって投げつける。そして、奥に控える敵へとぶつかり、周囲を巻き込む炎が広がった。時間にして5秒程度――ダメージを受け、その身体を維持することの出来なくなった取り巻き達が炭と化す。
「ハウンシュトラーゲンッ!」
正宗が、その炭を蹴散らし、奥にいた敵――黄泉の錫杖王へと大剣を叩き込んだ。黄泉の錫杖王は、錫杖で攻撃を受け流し、正宗をはじき飛ばす。が、そこに決定的な隙が生じることとなった。
「炎の槍ッ!」
「スィーンシュラッグッ!」
クルスとフィーネのスキルが飛ぶ。錫杖による防御が行えなくなった黄泉の錫杖王は、その攻撃をまともに喰らい、むしろカウンターボーナスが付いた状態でのダメージが発生する。「ギャァァ」という悲鳴を上げつつ、炎に包まれ、手にした錫杖を残したまま光の粒となって消えた。
「よっしゃぁッ!」
「やったー」
正宗、フィーネの兄妹の歓声が上がる。ウィリアムが錫杖へと近づき、それを拾い上げた。
「ありがとな。これで転職条件を満たせる」
聖職者見習いの上位職――聖職者への転職条件が全て満たされた。聖騎士という選択肢もあるのだが、ウィリアムはそっち方面を目指してはいなかったし、スキルの取得状況も聖職者向きであった。ウィリアムにとっては、聖職者の持つ蘇生魔法や転移魔法の方が魅力的だった。
一行は、早速、ショーレスボウアスにある神殿――テンプレディージーへと向かった。神殿は相も変わらず人出は少ない――が、ぼちぼちウィリアムのように転職条件を満たしたプレイヤーが増えてきたためか、いくつかのパーティーが見受けられる。装備から推測するに、聖騎士の方が人気があるようだ。――これに関しては、Solid版の時分から変わっていないようだった。
「よくぞ試練を乗り切った。そなたの行いは神に祝福される物である。それは聖職者への転職を可能とする」
祭司長のNPCが朗々と天への言葉を捧げる。
「聖職者への転職をお望みか」
「はい」
何本もの光の柱が、螺旋を描きながら中央のウィリアムへと集まってゆく。やがて、光の柱はウィリアムを完全に覆い隠し、周囲を白く照らし出す。光はウィリアムの身体の中へと吸い込まれていき、パッと光の粒を撒き散らしつつ消失した。何事も無かったかのように、薄明かりが照らし出す部屋へと戻っていた。
「聖職者の道は、今までの――」
祭司長が、転職直後の台詞を喋っていたが、特に聞く必要は無いのでスルーしてパーティーの元へと戻る。
「よし。お陰様で転職終わり」
「兄ちゃん、おめでとー」
「おめでとうございます」
「じゃぁ、次はフィーネだな」
「はい」
がんばりますよと言わんばかりに顔の前で両手に握り拳を作る。その様を微笑ましく思い、頭を撫でつけながらクルスへと問い掛けた。
「弓の転職ドロップって西だっけ?」
「そうだね。――このまま西を大回りでいいんじゃないかな?」
「よし。じゃぁ、出発しますか」
「おう」
「おー」
転職が終わり、用の無くなった神殿からさっさと立ち去る一行であった。
Solid版での知識を活かし、フィーネの転職に必要なアイテムを集めて歩くウィリアム一行は、西の砦、デーベスディレストンを目指して北上していた。上位職への転職を済ませたプレイヤーが3人もいるため――とは言え、ウィリアムは回復職であるため、あまり攻撃力という面で役に立ってはいなかったが――順調にアイテムを獲得していた。
「もうすぐ、西の砦ですね」
戦闘が一段落したところで、フィーネが北の方を見ながら言った。その砦が、遠くに陽炎でゆらゆらとした姿をさらしている。
「クルさん、アイテムはどう?」
「うん。この辺りで取れるアイテムは取ったかなぁ」
「じゃぁ、さっさと北に向かおうぜ」
「ま、一休みしても――」
ウィリアムが言葉を続けようとしていたところを、「ぽーん」という音が遮る。一行に、言いしれぬ緊張が走る。過去2回、――運営からの案内はロクでも無いことばかりだった。3度目の正直――という気にはならず、今回もロクでも無いことなのではと顔が強張ってしまう。
『シュトキーゲン・トゥーンヴァイド運営よりお知らせいたします。つい先ほど、ジェネラルサーベリオンさんがレベル40に到達されました』
「クルさん――」
「確か、――PvPだったと思う」
ウィリアムがクルスに内容を問う前に、クルスの方から答える。レベル40での対人戦の開放――Player VerSus Playerの解禁。
『これを記念いたしまして、対人戦が行えるようになります。街の外でのプレイヤー同士による戦闘――ご自身の腕試しをお楽しみください。なお、モンスターとの戦闘中も攻撃が命中することになります。乱戦時には、ご注意ください。また、フィーロウのメンバー同士では、ダメージが発生しませんので、ご留意ください。それでは引き続き、シュトキーゲン・トゥーンヴァイドをお楽しみください』
対人戦の解禁――つまり、プレイヤーキルの解禁を意味していた。通常のゲームですら、嫌う人はとことん嫌う行為であるが、現状では、プレイヤーキル=殺人と言っても過言では無い。しかも、システム的に歯止めとなる要因が無い――プレイヤーキルを行った側にペナルティが存在せず、法律上も殺人罪が適用されるかは怪しいという現状、歯止めは、プレイヤー各個人の倫理観のみだった。
「これって、私の攻撃が他の人にも当たっちゃうってことですか?」
フィーネが、2人を見上げながら問い掛けてくる。正宗も大人しく――じっと聞いている。
「そうだね」
「じゃぁ、注意しないといけませんね」
「それもそうだけど、他の人の攻撃も注意しないといけないよ」
「あ、そうですね。私の攻撃が当たるって事は、逆もそうですもんね」
「それに、――わざと攻撃してくるヤツもいるかもしれないし。周囲には気をつけるんだ」
「え?」
ウィリアムは、言うか迷ったが、PKの危険性について説明しておくことにした。こういう状況で、プレイヤーキルを仕掛けてくるプレイヤーはいないと信じたかったが、それと同じ程度に、そういうことを楽しんで行うバカが皆無ということはありえないとも思っていた。
「自分が楽しむためだけに、人を傷つける人間がいるってことだ」
「えっ? だって、そんな」
「フィーネも正宗も気をつけるんだよ」
「兄ちゃんもな」
「――そうだね」
ウィリアムは、そう応えると、正宗の頭を撫でつける。「やめろよ」と抵抗されるが、「こやつめ」とわしゃわしゃ撫でつけた。そんな2人を見て、不安そうにしていたフィーネにも笑顔が浮かぶ。皆の顔に笑みが戻るが、ウィリアムとクルスは、PKと出会った際、どうするべきか悩んでいた。逃げるべきなのか、逃げられない状況の場合、相手を殺すことが出来るのか、と――
パーティーで戦闘をしていると、ぽっと回復職の仕事が無くなるタイミングがある。全員のHPが満タンで、こっちのMPが枯渇していて、MPの回復待ちの時間であったり、敵のHPが尽きる直前であったり――そんな時間だ。今も、ちょうど敵のラッシュが終わり、一通りHPの回復も済み、周囲に散らばったアイテムを拾っている時だった。
西の砦、デーベスディレストンに立ち寄った後、そのまま北上し、荒野の中にある遺跡――モヘンジョダロがモチーフと思われる遺跡で、フィーネの転職に必要なアイテムを回収していた。遺跡の通路をうまく使うことで、敵との戦闘が優位になるが、視界が開けておらず、曲がり角や壁の向こうに神経を張り巡らせておかなければならない――そんな場所だった。
ウィリアムは、戦闘で拾いそこねまくったアイテムを回収していた。少し離れた所にアイテムが転がっていることに気がつき、「ちょっと拾ってくる」と声を掛け、拾いに行った。曲がり角を曲がり、朽ち果てた小部屋のアイテムを拾い終わり、他に拾い忘れが無いかと見回しているときだった。
『ウー神父ッ――』
パーティーチャットで、クルスの呼び掛けが聞こえてきた。が、その後が続かない。
「クルさん、どうしたの?」
こちらから問い掛けるも返事が無く、ただ事では無い。緊急事態が発生したのだとしか思えないため、急いで戻った。通路の角を曲がろうかと言うとき、話し声が聞こえてくる。クルスでも兄妹の声でも無い――第三者の声。慌てて踏みとどまり、壁の影に隠れ様子を伺う。
「おいおい。あまりおかしな真似すっと、びっくりして、お嬢ちゃんに刺さっちまうかもしれないだろ」
「ヒャハハハッハ、お前の物言いに驚くわ」
男が5人――フィーネの後ろから首に剣を押し当てているのが1人、クルスを後ろ手にして転がし、何かをしているのが1人――正宗は攻撃されたようだ。ダメージを受け、転がされたところを腹に乗られ両手を足で踏みつけられている――ここで2人、ウィリアムに背を向けるようにして立っているのが1人――下卑た笑い声を上げていた。
「お前、さっきパーティーに何か言ってたろ。他に仲間がいんのか?」
クルスの後ろにいた男が、立ち上がりつつ顔をクルスに近づけながら問う。それに対し、クルスは何も応えない。
「ちッ、だんまりかよ」
「お前の息が臭いとよ」
「ヒャハハ、ちげーねぇ」
「臭いなんか解らねーじゃねーか」
「フヒャハハハハ」
ウィリアムは、急ぎ、割り振っていないスキルポイントを確認する。本当は、蘇生魔法を取るつもりでいたのだが――蘇生魔法では現状を打破できない。現状を打破するスキル――その可能性を考え、仲間の位置関係を確認する。みんなを効果範囲に収めるには――その中心近くまで移動しなければならない。
ウィリアムは、「ジャリ」と音をさせ、両手を軽く挙げ降参のポーズを取りながら、壁から出て歩き出す。
「おうッ。誰だ手前ッ」
「まて、降参だ。降参」
「ふはッ。情けねぇ野郎だ」
ウィリアムは、緊張しながらも歩をゆっくりと進める。相手は、ウィリアムが手に何も持っていないことと、両手を挙げていることに安心したのかあざ笑う。
「お兄さん、ごめんなさい」
フィーネが申し訳なさそうにして、謝ってくる。ウィリアムは、フィーネ、正宗、クルスの順に視線を動かしながら移動を続ける。
「仲間を解放してくれる条件を教えてくれないか?」
「ハハッ、物わかりがいいじゃねーか」
さらに歩を進め、クルスまで後二歩と言った所で立ち止まる。
「こちとら回復職だからね。こんなことなら聖地への帰還でも覚えておくんだったよ」
「ヒャハッハ、あんなスキル覚えててもどうにもなんねーだろ」
「そうだね。――それで、条件はなんだい?」
「そうさなぁ――」
男は、実にあくどい笑みを浮かべつつ思惑する。ウィリアムにとっては、その時間こそが重要だった。平静を装いつつ、何事も無いことをひたすら願うのだった。
Twitter @nekomihonpo
次回「第15テスト 交渉」
変更箇所
前書き(本文と異なっていたので修正)




