第10テスト クエストの相乗り
「2人とも、説明は後だ。まず、街を出るよ」
「ど、どういうことだよ」
「えっと――急いだ方がいいんですよね」
「ああ、そうだね。もう手遅れかも知れないが――」
クルスを先頭に、ウィリアム達は西門へと走った。次第に人が増え、――西門の前の通りは、プレイヤーで埋め尽くされてた。その大きな門は閉じられており、外への通行が出来ている様には見受けられない。
シュタハイトクーニカイトの街中を移動していたら、「ぽーん」という音が鳴り響く。運営からのアナウンスを知らせる音であり、クローズドβテスト開始時に聞いた音だった。周囲のプレイヤーからは、期待と不安の入り交じったざわめきが聞こえてくる。ウィリアムも、知らず知らずの内に拳を握りしめ、緊張した面持ちで空を見上げていた。――別段、空から聞こえてくるわけではないのだが――
『シュトキーゲン・トゥーンヴァイド運営よりお知らせいたします。つい先ほど、ダガーリリアダガーさんがレベル30に到達されました』
そのアナウンスを聞いて、周囲からは安堵と落胆のため息が漏れる。ウィリアムもクルス・ラミラも、同じように安堵のため息を漏らした。思わず目が合い、苦笑する。
「まぁ、大した案内じゃなくて良かったよ」
「全くだね。――それにしても、――こう言っちゃなんだけど、変な名前だね」
「ダガーリリアダガーさんだっけ?」
「――もしかして、ダガーって記号のダガーなんじゃない?」
「ああ、あの剣記号だかってヤツか――」
「記号を読み上げられるのね」
「無いわー」
緊張から転じて、一気に気が緩んだのか、笑い合う。その間もアナウンスは、淡々と続いていた。
『これを記念いたしまして、ただいまよりイベントを開催いたします。皆様、ふるってご参加ください』
「兄ちゃん、イベントだってよ」
「参加するんですか?」
「――イベントかぁ」
正宗とフィーネの問い掛けに対し、ウィリアムは、手をあごにやり考え込む。その隣でクルスも似たような表情をしていた。
「クルさん、イベントって覚えてる?」
「イベントねぇ。イベント――なんだっけ?」
「最初の頃だからなぁ。記憶が曖昧で」
しばらく2人して唸っていたが、クルスが何かに気がついたのか、はっと顔を上げる。
「ウー神父、まずいッ! 急いで街を出よう」
「クルさん?」
「思い出した。百鬼夜行だよ」
「百鬼夜行ッ!」
ウィリアムも百鬼夜行と言われ、思い至ったのか焦りが顔に浮かぶ。何のことか解らない正宗とフィーネは、ぽかんとしてしまう。
「2人とも、説明は後だ。まず、街を出るよ」
「ど、どういうことだよ」
「えっと――急いだ方がいいんですよね」
「ああ、そうだね。もう手遅れかも知れないが――」
クルスを先頭に、ウィリアム達は西門へと走った。次第に人が増え、――西門の前の通りは、プレイヤーで埋め尽くされてた。その大きな門は閉じられており、外への通行が出来ている様には見受けられない。
「遅かったか」
「クルさん、神殿に戻ろう」
「転移の門――だね」
「ああ、そうだ。課金アイテムを買ってでも――って他の街にしか移動出来ないじゃないか」
「これは、――まずいね」
クルスとウィリアムが2人で慌てふためいていた。そんな様を見せつけられ、年少組2人に不安が募る。
「あの――」
「何がどうなってるんだよ!」
「ああ、そうだね」
「これから、街襲撃イベントがあるんだよ」
「街襲撃?」
「ああ、処理の都合上、人の流入があるとまずいから、街の出入りが制限されるんだ」
「街襲撃ってことは、ここで戦闘になるのか!?」
「必ずって訳じゃない――けど」
ウィリアムは、そう言ってクルスの顔を見る。
通称「百鬼夜行」――正確には、魔物の行進と呼ばれる街襲撃イベントである。ランダムで起点となる街が選択され、そこから一直線に魔物の行進が行われる。お祭り要素の強いイベントであり、吸血鬼の王をはじめとした各種ボスてんこ盛りとなっている。Solid版の時は、イベントに人が集中しすぎるため、開始時に街からの移動を禁止し、流入を防ぐ処置が取られていた。襲撃されない「ハズレ」の街も多数存在する。DiB版の現在、その「ハズレ」が「アタリ」と言えた。
「クルさんの悪運が憎い」
「どういうことだよ」
「この襲撃イベント、ソリッド版の時、――必ず遭遇するんだ」
「え?」
「一番、酷い進路だったとしても、50%は、進路から外れるハズなのに」
「それでもクルさんは、全部、拾っちゃうんだよ」
「じゃ、じゃぁ、今回も――」
「そう考えた方がいいだろうね」
「敵の襲撃なんか、撃退すりゃいいじゃん。街には沢山人がいるんだしさ」
正宗の意見に、2人が首を横に振る。
「ボスや取り巻きが多いから、今はまだ撃退は無理だ」
「無理――なんですか?」
「一番最初のは、敵の強さを誇示するのと、お祭り要素が強いのよ」
「ど、どうすんだよ」
街の外への逃亡が出来なくなった今、どうすればいいのか――ウィリアムとクルスは、Solid版当時のことを必死に思い返していた。
「クルさん、宿屋ってどうだっけ?」
「イベント時はダメだよ。条件は不明のままだけど、――襲われる」
「安全地帯って城だよな」
「そうだね」
「じゃぁ、急いで城に行こうぜ」
正宗からすれば、至極まっとうな意見のハズだが、2人の顔は晴れない。正宗の方を向き、首を横に振る。
「なんでだよ」
「城に入るには騎士が居ないとダメなんだ」
「その最低転職条件がレベル30――つまり、さっきの人がやっと条件を満たしたってこと」
「じゃぁ、入れないのか!?」
「そうなる」
「そんなぁ――」
4人して俯いてしまう。とは言え、このままでは襲撃されれば全滅は免れない。一生懸命に考えていたところ、通りの向こう側が、にわかに騒がしくなった。聞き耳を立てつつ、側に居たプレイヤーに問い掛ける。
「どうしたんだ?」
「北の村が襲われたらしい」
「それって――」
「ああ、そうだよ。ここに来るルートで確定だ」
「なんだって――」
多くのプレイヤーが右往左往していた。みんな、必死に逃げようとするのだが、逃げ場がない。死刑宣告をされたも当然の状態で、パニックになっていない方が不思議なくらいだった。
ふと、何かに気がついたのか、ウィリアムが周囲を見回し始めた。何かを探すようにきょろきょろと――
「ウー神父、どうしたの?」
「お兄さん?」
「地下だよ。地下」
「地下? 盗賊の?」
「そうだよ。それ。あそこなら百鬼夜行は来ない」
「いや、確かに来ないけど、あそこの敵は――」
「入口に固まってればいい。何も奥に行く必要は無いさ」
「神父! それ、すごいよ!」
正宗とフィーネは、盛り上がる2人とは対照的に不安で仕方が無かった。取り敢えず、2人が盛り上がっていると言うことは、この危機を脱する手段が見付かったらしい――と言うことは感じ取れるが、説明がないままなので、途方に暮れる。
「おい、誰か。盗賊の地下迷宮を受けられるヤツ居ないか?」
ウィリアムが、周囲のプレイヤーへと問いかけた。周囲からは、「何言ってるんだ、こいつ」という反応を返されるが、少し離れた所で、「俺、受けられるぞ」と手が上がる。ウィリアム達は、人をかき分け、手を挙げたプレイヤーの所へ向かった。
「盗賊の地下迷宮、受けられるんだな? 頼む。受けてくれないか」
「いや、受けてもクリア出来ないし」
「クリア出来る必要は無いんだ。頼む。受けてくれ」
「レベルが低すぎて死んじまうよ」
男が躊躇する。そのやり取りを見ていた周囲のプレイヤーも気がついたのか、ウィリアム達の輪に加わってきた。
「おい。いいから受けろ。奥に行く必要なんか無いんだ」
「奥に行く必要が無い?」
「そうだ。入口で固まって、嵐をやり過ごすんだよ」
「わ、解ったよ。受ければいいんだろ。受ければ」
どうにも、まだよく解っていない様子ではあったが、周囲やパーティーのプレイヤーから受けろ受けろと言われ渋々了承する。
「おい。北門でイベントが始まったらしいぞ」
「急げ急げ」
「ま、待てって。――よし。受けたぞ」
「よし、よくやった」
「急げ! 地下迷宮に入るんだ」
周囲のプレイヤーが地下迷宮の入口となっている酒場に殺到する。クエスト受領からの10分間、受領した以外の人間も入る事が可能となっている。盗賊の地下迷宮――酒場の地下倉庫で怪しい音がするので調べて欲しいというクエストで、下水、地下道へと繋がっているダンジョンクエストである。最終的には、エリアボスである古の盗賊王という不死人を討伐することになる。ダンジョンは、クエストを受領した時点でいくつかのパターンを組み合わせて生成される。受領者の数だけ平行に迷宮が存在するタイプである。
ウィリアム達一行も、集団の中に混じったまま地下迷宮へと足を踏み入れる。薄暗い地下倉庫から石造りの地下道が奥へと続いている。通路の脇には、ランプの明かりがゆらゆらと揺れており、プレイヤーの影を揺らしていた。
「お兄さん、それで――どうするの?」
「ああ、ここでみんなで一緒にいれば大丈夫だ」
「ここに?」
「ああ、――入口の方まで敵は、滅多にやってこないし、来てもみんなで一気に倒すからね」
地下のダンジョン――薄暗く陰鬱とした雰囲気と影の中から襲われる恐怖――そんな場所であるはずが、ガヤガヤと騒がしいため少しも怖さを感じさせない。外でギリギリまで呼び込みをしているプレイヤーがいるのだろう。今も人が次々と増えているところであった。アタリ判定の都合上、少しずつ集団が奥へと押しやられてゆく。
さすがに、入口で「たむろ」するには人数が多すぎる。最初の部屋まで前線を拡大することになった。ぞろぞろとプレイヤーが入ってゆく。その部屋は、何カ所かにかがり火が焚かれ、部屋の中を照らし出してはいるが、その広さゆえ、反対側の壁が見えなかった。その部屋の角に陣取り、残りの方向から敵が来ないかを警戒する。
「結構、入ってきたみたいね」
「そうだね。――5、60人はいるかな?」
「そんなにいるんですか!?」
「適当だけどね」
「これだけいれば、ここのボスも余裕なんじゃねーか」
正宗が、血気盛んにそう言うが、ウィリアムは首を横に振って否定した。
「さすがにエリアボスには勝てないよ」
「う~ん、そっかぁ。イケルと思ったんだけどなぁ」
ウィリアムは、ふと、クルス・ラミラが静かにゆっくりと周囲を見回し、何かを警戒していることに気がついた。確かに、敵がこの中心に出現したりしたら、軽くパニックになりそうではある。警戒を怠るべきではないというのは解るのだが、それにしては緊張感を漂わせすぎていた。
「クルさん、――どうした?」
「――人が多すぎる」
「多すぎる?」
「これだけいると、バカな事を始めるのがいてもおかしくない――と、思う」
「馬鹿な事――敵を釣ってくるとか?」
「――うん」
ウィリアムも心配になって、なんとはなしに周囲を見回した。言われて見れば、人が多い。しかも、誰かが統率しているでも無く、烏合の衆だ。ルールが決まっているわけでもない。
「これ、下手に音頭を取ってもマズい――よな」
「どうかな?」
「言い方間違えると、反発する層ってのもいると思うんだ」
「そう――かな」
はぐれてしまったのか、名前を呼びながら徘徊するプレイヤーも居た。はぐれただけならいいが、奥へと進んでしまったのなら――
「敵だー」
その声に、考えていたことが霧散する。声の方を見やると、巨大なネズミとアメーバーをモチーフとした敵が出現するところであった。周囲から濁ったゲル状の何かが寄り集まり、巨大なネズミをかたどり始める。
「一気に殲滅しろーッ!」
誰かが、叫んだ。その声を皮切りとして、戦闘が開始される。圧倒的な人数のため、瞬殺と言っても過言では無かった。敵が次々と出現し始める。その連続が、ゆっくりと考える時間を奪っていった。
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