「はち」 努力がチャンスを連れて来たワケですよ。ええ。
残り二話となりました!
◆1
ボウリングで愛と遊んでから、愛は何処か表情が戻り、あたしにもよく話し掛ける事が多くなった。その事に安堵しながらも、あたしは部活の事で緩慢となっていた。モヤモヤかもぉ~ず。
体育館の地面に足が擦れ、キュッと高い音を響かせる。その音が何度も鳴り、喧騒とした室内の中であたしはボールを両手で挟んでいた。
肌に纏わり付く様なゴムの感触を咀嚼しながら、頭上にあるゴールを睨む。まぁ、入る筈ないか。と、気付けば決め付けているあたしも何処かに存在し、脳を嬲る。うるさい、うるさい。
そんな馬鹿なあたしを駆逐して、隣のスペースで練習している先輩達に目をやる。それには憧憬は無く、嫉妬と恨み。人一倍練習をしているのに、大会に出させて貰えないあたしは、そんな闇にまで浸かっていた。
「なんであたしは駄目なんだよ・・・」
同級生は壁に背を付け、他の子と会話しては笑っている。練習をしろよ、練習をしてないのに、あたしは練習してるのに。才能の差。生れつきあたしとは違って、バスケが上手。なんでだよ。努力は不要ってか。怒りが湧く。脳に広がり、染み渡る。その時、背後から顧問の声が襲った。
「おい、朝川」
「あっはい・・」
顧問の先生があたしの顔を見て、「朝川は練習熱心で良いね」と微笑みながら言って来た。だったら大会出させろよ、馬鹿にしてるとしか思えなく、「どうもです」と答えてその場を去ろうとした瞬間に顧問が紙を見せてくる。
「今週の土曜の練習試合、出てみないか?」
そのプリントには、その練習試合の予定日、場所が書かれていた。なんだこれ、ドッキリか?一瞬曖昧となり、辺りを見渡して看板を探す。あたしが?練習試合?
「え、・・・本当ですか?」
「あぁいつも大会にも出させてやれんくてすまんな。練習も熱心にやってるのに。だから出てみないか?」
「で、でも・・あたし下手ですよ?」
「努力をしてるんだ。そういうのは考えなくていい」
そう言って顧問が微笑む。あたしも、曖昧から抜け出して自然と頬が緩んで行く。結んでいた髪の右側に手を伸ばし、人差し指に絡み付けて回す仕草を取る。
左手と脇腹で挟んだボールを落とさない様に力を強め、一度下を向く。「はいっ!是非お願いします!頑張ります!」嬉しくて嬉しくて、脳の何処かが破裂しそうだった。
◆2
風呂から上がり、バスタオルを首に巻いたままあたしはアイスを舐めていた。ソファに腰を沈め、「えへへえへへ」と奇妙な声を出すあたしに母親が歪な視線で覗いていた。でもほっとく。
携帯を取り出し、メールで愛の名前を選択する。何故か一番最初に愛に伝えたかった。「ねー愛!あたしとうとう練習試合にお呼ばれしちゃったよー!何回も点決めて、鴨ヒーローになっちゃうから!」興奮から普段よりも早く親指が動く。
「ねーお母さんー。あたし練習試合呼ばれたんだよねー」
「え、ホントに!?よかったじゃん!頑張っておいで」
メールの送信を確認し、携帯を閉じる。それと同時に笑みを表して「当たり前だあー!!」と両手の拳を握り締めて上へ勢い良く上げた。こりゃあナミも泣くワケだ。
そうだ。努力は報われる。今までそんな言葉信じた事も無く、さらに腹立ちまで覚えていたのに、今日は同意出来る気がした。
夜空を照らす月光が覗ける窓ガラスを眺めて、目を輝かせる。「よしっがんばるぜぇ~」頬を両手で叩き、気合を入れる。首に掛けたタオルを左右にゴシゴシと動かし、「元気ですかー!」とふざけてみる。
自分でやって羞恥心が芽生えて来たところで携帯がプププと振動する。取り出し、新着メールを見てみると愛から返事が来ていた。
『お、やったじゃん鴨、がんばって!私応援行くね』
え? 「きゅう」に続く。
久々でしたね。まだ終わってませんよ?まぁ七話でもラストっちゃラストですが。