合体忍者 四
四
金剛朗はもう目の前の忍者たちなんか無視して行ってしまおうと思った。
行ってしまうべきなのだ。
こんな変な人たちとからんでいてはいけません。からんでいたって何にもならないのだ。学校の先生にだって言い訳できない。遅刻の言い訳ができない。
「すみません、途中であった変な忍者の人たちに声を掛けられていたんです」
信じるだろうか？
信じてもらえるだろうか？
こいつ何を言っているんだ、と首を傾げられて終わりなのではないだろうか。そのあと普通に遅刻したことを怒られて終わってしまうんじゃないだろうか。結局怒られてしまうんじゃないか！ 結局忍者たちとのことを話に出しても怒られてしまうんだったら、もうさっさとこの場を立ち去りたい。
この場を立ち去って、それで少しでも遅刻の時間を短くしたい。
ここへきて大幅な遅刻をやってのけたくはないんだ。
遅刻をするにしても、それはできるだけ小さい規模にとどめておきたい。
ちょっとの遅刻、というもので何とかすませたいんだ。
それだったらまだできるだろう。
遅刻はもう仕方ないとしても、それをできるだけちょっとのものにすることはまだ大丈夫なはずだ。遅刻の時間をこれ以上延ばさないことは、これからの努力で十分可能なことなのだ。
赤忍者が言った。「とにかくピンクのところをちょっと支えてやってくれないかね。今にもピンクは腕の力がなくなってずり落ちてしまいそうなんだよ」
だから俺は無理なんだって。
遅刻しちゃうって、あんたたちと絡んでいたら。
金剛朗は言った。「いやもう本当に無理です。勘弁してください。あなたたちが悪の組織と戦っている忍者か何か知りませんけれども、僕は一般市民なんです。一般市民で中学生なんです。だからそんな立派な戦いに巻き込まないでください。どうか穏便にこれからの日々もすごさせてください。がんばってくださいね。応援していますから」
「いやちょっと待て！」
赤忍者が声を張り上げてくる。びくっとして反応してしまう……「なんですか？」
「ちょっとピンクを支えてやってくれるだけでいいんだよ。ちょっと支えてやってくれるだけだったら、君にもそんなに負担にならないだろう？」
見てみると、さっきからピンクと呼ばれている人は、今にも倒れてしまいそうな感じで顔を真っ赤にしていた。見るからに苦しそうな表情だ。
そんなにきついのか。
そんなにきついのか、今の体勢が。
だったらやめてしまえばいいのに。赤忍者の腕にしがみつくのをやめて、それで普通に直立したらいいじゃないか。自分の足で立ったらいいだろ。筋トレだったっけ？ そんな他人の腕にしがみつくのが筋トレなんかになるもんか。本当に筋トレをしたいんだったら、ちゃんとしたジムとかに通えばいいだろ。
遊びはよせ。
遊んでいるんだったらさっさとやめにしてくれないかね。
ピンクが言った。「助けてー」
助けてだって？
今こいつ助けてといったのか。マジか。小市民の俺に？ ただの中学生の俺に？ 正気とは思えんな。悪の組織と本気で戦おうと思っている奴のセリフとは思えんな。
そんな俺に助けを求めているような奴に、悪の組織の奴らなんて倒せるわけないだろう。
確かに俺は悪の組織が具体的にどんな奴らなのか、そしてどんなに強い奴らなのかしらないけれども、でも確実に俺に助けを求めてくるような奴らに、悪の組織が倒せると思えない。
相手は仮にも悪の組織の奴らなんだろう。
とすると、とにかく悪い奴らに決まっているんだ。悪い奴らを倒せるのか？ そんなマジで俺みたいな奴にすぐに助けを求めてくるような奴らが、世の悪事を働く奴らを倒せるというのか？
「ほら、ピンクもいよいよ助けを求めているじゃないか」赤忍者が言う。
「知りませんよ。だいたいあんたたちはこれから悪の組織と戦おうっていうんでしょ？ そのトレーニング段階で一般市民である僕に助けを求めてどうするんですか。そんなんで大丈夫なんですか？」
「大丈夫じゃないからトレーニングしているんだろう」
「でも頼りなさすぎますよ」
「いいから助けてやってくれないかね。俺もこのままピンクにしがみつかれていると、腕がちぎれてしまいそうだ」
結局あんたもきついのかよ。
「でも僕にも用事ってもんが……」
「ちょっとくらいいじゃないか」
あんたみたいな人たちとはちょっとでも関わりたくないんだが。
「なあいいだろ」
そう言うと、赤忍者はピンクにも自ら頼むように催促して、「私からもお願いするわ。ちょっとだけでいいから私の体を支えてくれないかしら」ピンクが言う。
「そう言われても」
「ちょっとくらいだったら強めに体をささえてくれてもいいのよ。私女だから、男のあなたからすると、体を支えるってことに抵抗があるかもしれないけれども、そういう性別とか欲望とかを超えたところで、今はマジでしんどいから」
そんなにしんどいんかい。
じゃあ最初っからやるなよ！
でもまあ。
そこまでいうなら……決してエロ目的とかそういうわけではないけれども、俺もそこまで鬼じゃないから……
「わかりましたよ。じゃあちょっと支えるだけですからね」
「ありがとう。この恩はあとで小銭を払うことでチャラにするわ」
いいです。
