言葉を投げよう、この海へ
二〇一一年三月十一日を境にして
あなたからのメールは来なくなりました
それでも私はしばらく
メールの返事を待っていました
こんな大変な時だから
メールを書いている時間がないのだと
そんな風に考えていました
でもいつまで経ってもあなたからの返事は来なくて
あなたが書いた新しい文章がネットに現れることもなくなって
少しずつ、最悪の可能性を私も考え始めました
きっとそういうことなのだろうと
この可能性をみとめたくない
そう思っているところもあるけれど
私なりに気持ちの整理をつけたくて
この文章を書くことにしました
私は、あなたの本当の名前も知らない
どこに住んでいるのかだって知らない
知っているのはあなたがネットで名乗っていた名前と
あなたが書いた文章だけ
顔も知らないあなたのことを
こんな風に考えるのは不思議なことです
でもあなたの書いた文章から
私は色々なことを学びました
あなたとのメールから
私が受け取ったものは多かったのです
たとえ会ったことがなくても
あなたは私に大事なことを教えてくれました
そのことを私はずっと憶えておこうと思います
もうメールを送っても、たぶんあなたが見ることはないのでしょう
だからこの言葉を、ネットの海に投げましょう
広い広いネットの海を漂っていけば
誰か言葉を欲している人が拾うかもしれないから
あなたならきっとそれを望むと思うから
私は自分なりのやり方で
先に進んで行こうと思います
その道はあなたとは違う方向かもしれないけれど
私は私にできることをしたいのです
一度も会ったことはないけれど
私はあなたを忘れない
この詩は、個人的な体験を許にしています。
この詩に書いたとおり、二〇一一年三月十一日を境にして、メールを返して寄越さなくなった知人がいます。
知人といっても、ネット上の知人なので、どこの誰なのかは知りません。
だから、何らかの事情で接続できなくなってしまったとか、あるいはただ単に飽きてしまったとか、そう考えたい部分もあります。
ただ、連絡が取れなくなって二年が経過して、自分なりに気持ちの整理をつけたくて、この詩を書くことにしました。