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 第五話  自己責任

「外の人たちウルサイですね。」


「そうね、知能指数がサル以下なんじゃないの?」


「姉さん言い過ぎよ。あいつらはミジンコにも劣んだから。」


「そうねー。」


「「「アハハハハハ」」」


3人の会話を見まもる厚。


彼の視線は彼女達の持つグラスを見ていた。





Back-home of the Dead

      


 第五話  自己責任



7:44


「よし、そろそろ行こうか」


厚は2階の和室に座っている3人に声を掛けた。


「ええ、わかったわ。車は2台で行くの?」


「ああ、障害物があるかもしれないし、ダンプがあれば奴らがいても楽勝だ」


厚は頷きながら答えた。


「はい、1階に降りずに2階から車に行きましょう。いつでもここに戻れるようにしておきましょう。」


「そうか、じゃあ、いくぞ。」


厚は和室の窓を乗り越え、屋根の上に降りた。


その後ろを美香、加奈、加藤の屋根に降りた。


屋根からダンプの荷台に降り、そこから女性たちはワンボックスカーに乗り込んだ。


厚はダンプカーのキーを回し、エンジンをスタートさせるとK市に向かって進路を取った。




9:13



田圃に挟まれた道を進み厚達はK市に入った。


これまでに奴らと会うことも、生存者とも出会う事はなかった。


ただ、道端には奴らの食い残しや田んぼに落ちた車が多数あった。


ピンポンパンポーン


『こちらはK市役所です。安全な避難先をお知らせします。K市役所、K警察署、K病院、K高校のみです。K駅には絶対に近づかないでください。もう一度お知らせします…」


厚は市役所からの放送を聞くとダンプのハザードを付けて止まった。


ワンボックスカーがダンプの横に止まって助手席の窓を開けた。


「ねぇ、どうするの?」


美香が腰を伸ばしてダンプに向って声を掛けた。


「とりあえず家に行く。その後は安全な場所に避難だな。どこに行くかは決めてないけど、家から近いのがK高校かな。」


「わかったわ。とりあえず厚さんの家にいきましょう。」


「ああ、着いてきてくれ。」


厚のダンプカーが先行して進んだ。その後をワンボックスカーが付いて行った。




10:01



厚は1件の家の前で止まった。


少し古いが大きな家。駐車場には1台の軽ワゴンが止まっていた。


その隣にはもう1台の駐車スペースがあったが、車は止まっていなかった。


ダンプを降りた厚は半開きの門を開け玄関に辿り着いた。


厚は玄関に手を掛けると勢いよく家の中に入って行った。


「母さん!どこ!怪我ない?」


部屋の1つ1つを確かめながら厚は家中を捜索した。


しかし、どこにも母の姿はなかった。


リビングのソファに座った厚は大きなため息をついた。


「はぁ、分っていたんだけど、キツイな…」


「ねぇ、…庭…見た?」


いつの間にかリビングの扉に立っていた美香が厚に言い難くそうに聞いた。


「庭?まだ…だけど」


「そう、…なら確認して」


厚は無言で立ちあがり、リビングから庭へと降りた。


そこには大量の血痕と人の手が落ちていた。


厚が落ちている手の指を見ると変わったデザインの銀の指輪をしていた。


(これは…母さんの大事にしていた指輪だ。)


厚は地面を手で掘ると、母の指から指輪を外した。


その手を地面に埋めると黙とうを捧げ家の中に入った。



10:23


リビングのソファに4人がテーブルを囲むように座っていた。


「さて、どうするかな?」


厚の軽い言葉に美香が反応した。


「お母さんがダメでも、お父さんはどうするの?」


「んー、親父は多分無理だな。元々出張が多かったし、出張用の鞄が無かったから今は出張中だと思う。場所は聞かされてないから行先知らないし、知ってそうな母さんはダメだし、どうしようもないね。」


「そう、これからどうするの?」


「そうだな、ここに来るまで奴らが居なかったんだけど、それは気が付いた?」


「そういえばそうね。」


「誰かが倒していれば遺体や血痕があるはずなんだけど、それもなかった。」


「そうね、と、言う事は…」


「姉さん、どういう事?」


「あのね加奈さん。倒した形跡も倒された死体も無いって事は誰かがどこかに連れて行ったか、誘導したって事ですよ。」


「その通りね。加奈も智ちゃんを少しは見習なさい。」


「そう、予想としては警察か自衛隊かなって思ったけど、どうやら違うらしい。よーく耳を澄ませて聞いてみて。」


耳を澄ませると遠くから何かの音楽が聞こえた。


「・・・・・・・これは!」


「そう、聞こえたと思うけど、右翼か左翼か分からないけど、誰かが大音量で音楽を流しながら移動したようだ。」


「ここからは遠すぎて何って言ってるかわからないけど、確かに奴らを引き付けるには有効な手段ね。」


「・・・今、音は動いていない。きっと奴らに囲まれたか、事故を起こしたか…どちらにしろ今が避難所に行くチャンスだな。」


「でも、どこにいくの?」


「ああ、とりあえずK高校を見に行こう。…その前に、万が一を考えて食糧の大半をここに置いて行こう。」


「なぜですか?」


「智ちゃん、考えてみて。飢餓状態の人が僅かな食糧を奪う為に私たちを殺すかもしれないわ。そうなったら、食料を置いて逃げればいいの。そうすれば追いかけてこないわ。」


「おお、姉さん凄い!」


「智ちゃんも、加奈も少しは考えてよね。」


「まぁ、そんなところだ。それじゃあ、準備していこうか。」




12:37



K高校


地元でも悪名高い高校であり、その多くが在校中に補導歴をもつ者が多かった。


珍走団と言われる後ろ指を射されるグループにはいる事が彼らのステータスだった。


彼らの乗るバイクは違法改造の末、騒音を撒き散らす醜悪な乗り物になっていた。


地元のコンビニや商店の殆どがK高校の者の入店を禁止していた。


それほどに彼らの生態は異端で自己中心的な物だった。


高校の周りには高く頑丈なコンクリートブロックと入口は正門と裏門の2か所のみだった。


その両方とも登下校の時間外は頑丈な門で閉じられていた。


在校生の間では門を閉じられている間は学校からの外出が一切できない事に対してK監獄と皮肉に言っていた。




ワンボックスカーに乗った4人はK高校の正門に着いた。


そこには数人の見張りが門の外で警戒していた。


「お、新しい非難者か?」


小太りで頭の寂しい男が運転席に近づきながら聞いてきた。


「はい、俺達が安心して暮らせる所を探しているんです。」


「そうか、ここは安全だ。ゾンビは駅前のロータリーに集めたからな。後はそれを駆除すれば終わりだ!」


男が複雑そうな顔で答えた。


「どれくらい集めたんですか?」


「さぁ?見たわけじゃないけどK市と隣のS市F市から集めたらしいいから軽く見ても数千だろうよ。で、避難していくか?」


「いや、少し見学だけさせてほしいです。皆はどうする?」


「私も行くわ。」


「姉さんがいくなら私も」


「美香さん加奈さんがいくなら私もいくわ。」


「そうか、そうか、4名様ご案内ー!」


男がそう言うと門が開き車のまま中に入れるようになった。


厚は車を門の中に走らせた。


校内に通じる幾つかの入口は頑丈なバリケードで塞がれていた。


唯一の入口は職員玄関のみで厚はすぐそばに車を止めた。


車を止めた場所から駐輪場が見えた。そこには騒音をまき散らすだけの独特な形をしたバイクが数十台止めてあった。


厚達は車を降り職員玄関に入ると、そこはゴミが散乱し落書きがされており、そこが学校とは思えない場所だった。


「あ、新しい避難の方ですか?」


厚達に声を掛けたのは50過ぎのふくよかな体系の女性だった。


「あ、はい。とりあえず見学にきました。」


「そう、あんまり学生を刺激しちゃだめよ。彼らはすぐに暴力をふるうからね。」


「わかりました、ありがとうございます。」


加奈がお辞儀をして女性に礼を言った。


厚達4人で校舎内を見学した。


1階、2階、体育館は外部からの避難民で段ボールなどで仕切りを作り家族単位で生活していた。


3階は学生しかいなかった。


彼らは見るからに頭の悪そうな髪の色と髪形をしていて、学生服を着ていなければチンピラにしか見えなかった。


「おい、おっさん。俺たちにも1人くれよ。」


3階の廊下で3人の学生に厚達はからまれた。


「え?普通に無理だけど。」


「はぁ?殴られなきゃわからねぇのか?」


いつの間にか厚達は多くの学生に前後を挟まれていた。


「だから、無理だっべ!!」


厚が言い終わる前に顔面を殴られた。


不意打ちに思わず顔を押えた厚は腹を殴られ前かがみになった所を、顔面を蹴られて倒れてしまった。


そこからは3人の学生が厚に蹴りを入れていた。


無抵抗の厚に対して躊躇い無く蹴りを入れる学生。


厚がポケットに手を入れ上に引き抜くと鉈を持っていた。


鉈を振り回すと3人の足に浅くない怪我を負わせることが出来た。


「うあ!こいつでっかいナイフ持ってるぞ!」


「くそ!切られた!」


「うがー!いてぇ!」


厚から距離を置いた3人は顔を青くしていた。


その隙に立ちあがった厚は鉈を右手に持ち周囲を警戒した。


前後にいた集団はすでに誰もおらず、厚の後ろの3人の女と怪我を負った3人の男しか廊下に居なかった。


「…先に謝っておく。死んだらゴメンな。」


厚が鼻血を出しながら彼らに言った。


「はぁ?何言ってんだ?死ぬのはお前だ!」


「ぶっ殺してやる!」


そう言うと2人が厚に殴りかかってきた。


だが、足を怪我していて踏み込みが遅く2人の拳を後ろに下がる事で避けた。


厚は鉈を振り上げて1人の腕を鉈で腕を切り落とした。


もう1人の頭を狙って鉈を振り下ろしたが、交差した腕で塞がれてしまった。


しかし鉈は片腕を切り落とし、残った腕も半分程切れていた。


「「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」」


2人の学生が蹲り痛みを堪えて唸っていた。


「さて、どうする?」


残った1人に鉈を突き付けて厚が問いかけた。


「うああああ!!」


無傷な学生は倒れた2人を置いて逃げてしまった。


「ふぅ、ここを出た方がいいな。さっさと帰ろう。」


厚は後ろにいる3人に声を掛けた。


「そうね、こんな所で寝泊まりしてたら命がいくつあっても足りないわね。」


「ええ、姉さんの言う通りだわ。」


「早く帰りましょう。」


3人が厚の意見に賛成したため直ぐに1階に降り車に乗り込むと校門に向かって車を走り出した。


校門では頭の寂しい男性が居たので厚は事情を説明した。


「そうか、またやったか。あいつら何度注意しても全然きかないからなぁ。自業自得だろうよ。」


「そういえば、奴らはいつ処分するんですか?」


「ああ、ゾンビどもは明日の昼に周囲にガソリンまいてから火を付けるって先ほど警察から無線で連絡がきた。」


「そうですか、それじゃ俺達は行きますね。」


「そうか、気をつけろよ。」


厚の乗った車はK高校を出て厚の家に向かった。




17:32



阿久津家、リビング


「で、どうするの?」


ソファに座った美香が映らないテレビを操作している厚に聞いた。


「え、何が?」


「だから、次の行動を決めないと。」


美香が不満気に口を尖らせて言った。


「んー、そうだな…。最初に家の戸じまりと雨戸を閉めて引き籠る準備かな?」


「わかったわ。前みたいに2階をメインにする?」


「ああ、もちろんだ。階段下と上に箪笥バリケード作るし、家は1階の全ての窓にスチール製の雨戸あるから進入路は玄関だけに絞られるから今回は玄関も箪笥を置いて塞いじゃおう。」


「わかったわ。私たちは食糧を2階に持っていくわ。厚さんはバリケードの設置をよろしくね。」


「ああ、まかせろ。あと、風呂もよろしく。」


その後、彼らは作業を分担して行った。




19;43



2階の1室で雨戸を閉め外に光が漏れないようにしながら過ごしていた4人は食事をしていた。


すでに全員が入浴を済ませ、布団も敷き終えて食事後に寝るだけの状態にしていた。


外ではK高校の学生が改造したバイクに乗り騒音を撒き散らしながら道路を我がもの顔でトロトロ走っていた。


「外の人たちウルサイですね。」


「そうね、知能指数がサル以下なんじゃないの?」


「姉さん言い過ぎよ。あいつらはミジンコにも劣んだから。」


「そうねー。」


「「「アハハハハハ」」」


3人の会話を見まもる厚。


彼の視線は彼女達の持つグラスを見ていた。


黄金の液体の上に白くふわふわな泡。


確実に食後に食われてしまう厚は干からびる覚悟をしていた。


すでに3人の女性は下着姿で熟れた果実、もう直ぐ完熟する果実、まだ青い果実が厚の目の前にそれぞれが2つづつ手を伸ばせば届く距離にあった。


急に電気が消えて室内は真っ暗になってしまった。


「ていでーーーん」


美香が明るい声で言った。


「真っ暗ですね」


「姉さん、どこー?」


「しっ!静かに…」


「どうしたんですか?」


「停電なおらないねー」


「…加奈もともちゃんも少し静かに。」


厚と美香は直ぐに状況を理解した。


停電後、耳を澄ませた厚は聞こえるはずの駅方向からの音が聞こえなくなった事に直ぐに気が付いた。


「厚さん、どうするの?」


美香の抽象的な問いだったが厚は内容を理解することができた。


「ああ、残念だが見捨てるしかないな。あんなに騒音を鳴らして走っていれば奴らが追いかけてくるぞ。校門を締め切っていれば大丈夫だと思うけど、馬鹿共は無駄に仲間意識が高いからきっと中から門を開けると思う。」


「それじゃ、全滅じゃないの!」


「ああ、俺達が助けに行っても無駄だと思う。仮にダンプで助けに行っても数千もいるんだ。ダンプへのダメージも無視できないし、仮に助け出せたとしても他の避難場所に連れて行くのにダンプの騒音で奴らを引き連れて他の避難場所に行くのも、すでに避難している人を危険にさらす以外何もない。」


「でも!」


「もう、遅いんだよ。馬鹿共がK高校に帰るまでに全滅すれば多くの人が助かるだろう。だが、今も騒音を撒き散らしながら走っているし、音から進路を予想するとK高校に向かっている。」


「なんとかできないの?」


「なんとかしてあげたいけど、暗闇で動くのは危険すぎる。奴ら全員がK高校に向かったとは断言できないし、ダンプで行くなら騒音で奴らが寄ってきて帰れなくなるだろうな。」


「…そうね、2人とも酔って寝てしまったようだし、今から動くのは危険すぎるわね。」


「ああ、俺たちも休もう。明日になれば名案が浮かぶさ。」


「そうね。私も眠いけど2人とも布団に運ばないと。」


「それは俺に任せろ。美香は先に休んでて。」


「ええ、お願いね。お休みなさい。」


美香は獣のように両手を畳に付けて隣の部屋まで這っていった。


厚は暗闇に慣れた目で美香の様子を見ていた。


(?お尻が肌色?さっきまでは赤い下着のはずだったのに…)


美香はお尻を突きだしくながら隣の部屋にゆっくり向かっていった。


「美香…誘っているのか?」


「ふふふ、2人とも寝ているのに誘わない理由はないわ。貴方の部屋にいるから直ぐに来てね。」


美香はその場で膝立ちをし厚に背中を見せながらゆっくりとブラをはずした。


厚は加奈と智子を隣の和室に寝かせると美香の待つ自分の部屋に入った。


美香の中に2度、厚は放出すると美香と厚はそのままベットで眠った。



11:21



「じゃあ、偵察に行って来る。」


厚は屋根の上から部屋の中にいる3人に声をかけた。


「気をつけてね。」


「必ず帰って来なさいよ」


「早く戻ってきてください」


3人がそれぞれに別れの言葉を言った。


厚は屋根から塀を伝って道路に降りると周囲を警戒した。


遠くに数体の奴らがいるが厚には気が付いていなかった。


厚の考えた事は、地元の地理に詳しい厚が1人で塀や屋根を伝ってK高校の様子を見に行く事だった。


3か所の大きな交差点を渡ればK高校の校門が見えるのでそこから判断し全滅か生存か確かめようと考えた。


元引きこもりだが、小型船でありながら中型船並の月間利益を得ていた船長と厚は機械に頼らずに自分の肉体を使い整備費や諸経費を浮かせていた。


その為、厚の体は見た目は普通だが、服の下にはスポーツ選手並の筋力を持っていた。


幾つかの細い路地を曲がり最初の交差点に出た。


物影から静かに息を潜めながら周囲を見渡すと道路に奴らが十数体ほど発見した。奴らの行動は遅く厚は走れば問題ないと考えた。


呼吸を整え、精神を落ち着かせてこの交差点を渡るイメージを浮かべた。


道路上の奴らを走りぬけ、歩道から4段ある段を昇り民家の門を開けて敷地内からブロック塀に登る。


道路からブロック塀は2メートル以上あり、道路から登ろうとすると奴らの食事になってしまうと考えた。


何度もイメージし、呼吸を落ち着かせると静かにだが、一気に走りだした。


交差点をほぼ一直線で走りぬけ歩道の手前で歩道から厚に向かってくる1体の奴がいた。


まだ、10歳くらいの女の子。


パジャマを着て熊のぬいぐるみを片手に持ちながらも。首と口を赤く染めた女の子。


トップスピードに乗った厚は避けることができずに、女の子の直前でジャンプした。


女の子を飛びえた先には民家の門があるはずだったが、ちょうどフラフラと歩いている奴が厚の進路を遮った。


厚はもう一度ジャンプをして男の胸を踏み台にしてブロック塀の上に着地した。


(怖えええ!!同じ事2度と出来ないぞ!)


厚は運良く成功したと思っていたが、彼の運動神経と筋力では失敗することの方が難しかった。


幅20センチの塀の上で一息ついた厚は道路から厚を捕まえようと腕を伸ばす奴らを無視しながらK高校の方向に向かった。


塀から塀に飛び乗り、屋根に昇り何とか奴らを振り切った厚は2つ目の交差点に来ていた。


そこは事故を起こした車が道路を塞いでいた。


(さて、どうする?)


民家の屋根から何かないか注意深く見回すと、交差点から少し離れたコインパーキングに高級外車が駐車してあるの発見した。


(上手くいけば使えるな…)


厚は民家の屋根の瓦を剥がし、外車に向かってフリスビーを投げるように投げた。


くるくると横回転しながら外車に向かった瓦は途中でスピードが下がり外車の手前で落ちてしまった。


バリンと音が厚にも聞こえ、数体の奴らが音に反応して瓦の落ちた場所に向って歩き出した。


厚は別の瓦を取り、外車に向って投げた。


くるくると横回転しながら瓦は弧を描きながら外車とは違う方向に飛んで行った。


その先にいた奴の頭部に直撃すると鈍い音がして倒れた。


倒れた音に反応して数体の奴らが移動を開始したが厚には興味が無かった。


何度かの挑戦でついに外車の運転席の屋根に直撃することができた。


バゴンと大きな音がして今まで以上の奴らを外車に引き付けることができた。


そもまま奴らは外車を叩き始めた。


窓やボンネットを叩く奴らは遂に車の防犯装置を起動させた。


ピピピピピピー――ピー――


大きな音が周囲に響き渡った、


厚が渡ろうとしていた交差点の奴らは大きな音を立てる車に向かって行った。


(へへへ、楽勝、楽勝)


厚は周囲を警戒しながら屋根から塀に降り、事故車両の周囲に奴らがいない事を確認すると静かに交差点を超えて行った。


交差点を渡った歩道からK高校の方向を見ると数十体の奴らが先ほどの音に反応してこちらに向かって来ていた。


厚はすぐそばの民家の門をくぐり、植林を昇り屋根に辿り着いた。


奴らは厚の存在を気にも留めずに音の方向に向かっていった。


数メートル先を奴らが列を作るように厚の眼下を通り過ぎて行った。


(ここで襲われたら逃げるより先に捕まりそうだな)


厚は屋根の上から周囲を見ると百体以上の数がこちらに集まりつつあった。


(さっさと行こう)


厚は屋根の上からK高校の方向に向かって移動した。




14:43



3キロに満たない距離を移動するのに3時間近くかかった厚は3つ目の交差点についた。


その交差点では違法改造してあるバイクが横になって倒れていた。


何台かは煙を上げ炎上していて、炎の中には人の形があるものもあった。


交差点を渡れば高校の校門が見えてくるが、厚には数十台に及ぶバイクの乗り主を探した。


ここで乗り主が奴らの仲間になっていれば校門は開いていない。


逆にここにいなければ校内に入った可能性が高いと考えた。


交差点が見渡せる屋根の上に移動した厚は黒煙を上げるバイクの向こうに多数の奴らがいる事に気が付いた。


学生服の若者だった奴ら。


そのうちの何人かは先日のK高校の視察の時に見かけたことがあった。


(これは校門まで何人かは辿り着いたかな?)


校門の状態を確認したかった厚だが、交差点を分断するようにバイクが列になって倒れていて、その向こう側には大量の奴らがいる。


厚には打つ手がなかった。周囲には奴らを引き寄せるものも無く、また駅の方向からは大量の奴らが歩いてきていた。


(これは戻らないと帰れなくなるな。)


厚はK高校の状況を見ることなく、自宅の方向に向かった。







彼らの先にあるのは希望か絶望か?


厚は無事に戻ることができるのか…




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