19930609(上)
縦書きの方が読みやすいです。
1
あたし、中原ナカコは、とにかくずっと苛立っていた。
自分の生い立ち。
自分の周囲。
自分自身。
とにかく全てが、
嫌で、
嫌で嫌で、
嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で、しょうがなかった。
どうしてこんな、なんだろう?
なんでこんな、なんだろう?
どうして?なんで?
を、繰り返し、繰り返して、繰り返しながら、日々を過ごしていたのだった。まあ、もちろんそれだけでもないんだけど・・・。
あたしの生い立ちは、はっきり言ってなかなかに最悪だ。
あたしの一番古い記憶、それは三歳の時に、たくさんの黒い服を着た大人たちが、みんな泣いているのを見ていると言う記憶。その日、あたしは、いつもは着させてもらえないような、きれいな、よそ行きの黒いお洋服を着させてもらって、かなり上機嫌だった。そんなあたしを見て、周りの大人は何故か悲しそうにしていたので、あたしは、てっきり自分が悪いことをしたのだと思って、お母さんに謝りにいった。すると、お母さんはもう泣いていて、あたしを強く抱きしめた。そして何故か「ごめんね、ごめんね・・・」と謝ってきた。あたしは、抱きしめられているのが痛いのと苦しいのと、謝られたのが怖くて、お母さんの腕から逃げ出した。そんなあたしに向かってお母さんは「なんで、あんたまで逃げるのよ!」とヒステリックに怒鳴ったから、あたしは泣き出してしまった。
いっぱい泣いて、
いっぱい泣いた。
この、古い記憶から、察しがいい人はもう分かったと思うけれど、あたしには父親がいない。そんな家庭、掃いて捨てるほどあるだろうけれど、あたしの場合は少しだけ違う。あたしに父親がいないと知ったのは、実は小学校五年生の時だ。それまで、あたしは自分に父親がいたことさえ知らなかった。信じられないかも知れないけれど、母親は世の中に父親というものが存在することを、あたしにずっと隠していたのだ。
小学校の途中から、訳あって自分の殻に閉じこもりがちだったあたしは、唯一の友達の家で初めて父親というものを見た。友達と、部屋で遊んでいると、知らないおじさんが急に入ってきたので、あたしは驚いてしまって、
「何ですか!誰ですか!おじさんは!」
と、狼狽しまくっていたら、
「私の、お父様だ。」
と教えられた。この場合は、紹介か・・・。
「・・・オトーサマって・・・何?」
首を傾げて、見つめるあたしに、不思議そうにしながら友達は教えてくれた。
「ああ、一般的にはお父さんかな?知らないわけ・・・。」
「イヅミ!・・・・」
その時、お父様と呼ばれていたおじさんが、あたしの友達を叱るように、言葉を遮った。事情を考慮してくれたのだろう。
「あっ!・・・・ごめん、ナカコ・・・ごめん・・・。」
俯いてしまう友達を見て、あたしはショックなのと、申し訳なさから、
「あっ!知ってる、知ってる!あれでしょ?あれ!・・・えーっと・・・。」
と誤魔化そうと思ったんだけれど、後に言葉が続かなかった。
「・・・ごめん、ナカコ。」
この時の、あたしの情けなさと気まずさといったら無かった。こんなにも他人に気を使われるなんて・・・。消えてしまいたかった。
もちろん、この後、帰ってから母親に詰め寄ったのだけれど「バレたか・・・。」と言うと、カ、カ、カ、カと高笑いをあげただけで謝られもしなかった。
こんな母親に育てられている、それだけで最悪だ。
親は選べない。
リコールもクーリングオフも適応されない。
母親はきっと、父親を失ったことを未だに消化できていないのだろう。母の口から父親のことを聞いたことが、今まで一度も無かった。あれから何年経っているというのだ。娘にどんな父親だったのか話してやることも出来なくて、挙句、訊かれたくないものだから父親の存在ごと隠すなんて・・・。
弱すぎる・・・。
脆すぎる・・・。
あたしの境遇、つまり生い立ちは概ねこんな感じに、最悪だ。
勝手に死んだ父親も、そこから抜け出そうともしない母親も、大っ嫌いだ。
あたしの周囲、つまり人間関係も、なかなかに最悪だ。
自分で言うのもなんだが、これでも小さかった頃は、明るく素直な子だったと思う。それが何故、周りからいつも怒っていると思われるほど無愛想になったかと言うと、それは、小学校二年生まで遡る。
その日、あたしは元気良く、学校で覚えた歌(曲名は忘れた。)を歌いながら帰っていた。あたしは、音楽会でのクラスの出し物、合唱の中でソロで歌う場所を与えられていて、それが嬉しいのと、練習を兼ねて恥ずかしくも大声で歌いながら帰っていたのだった。当時の担任の先生はこういったイベントを張り切る方だったので、あたしへの期待も、それに伴なうプレッシャーも大きかったのだ。
そうやって帰っていると、あたしの前を数人の女子が塞いだ。クラスの仲のいい子達だった。通せんぼされてあたしは、
「アハハ、何?やめてよー。」
と、笑いながら抗議した。しかし、彼女達は一向に退く気配が無い。あたしはまだ事の重大さが分かっていなかった。
「ナカコちゃん、あんた、ちょっと調子ノってんじゃない?」
グループのリーダーだった子が、あたしを睨みながら言った。
今、考えると、とても小二の台詞とは思えない。きっと、漫画かドラマででも覚えた台詞を、そのまま言ったのだろう。そう考えると、微笑ましささえ感じる。でも、こんな台詞でも当時のあたしを戦慄させるのに十分だった。
あたしが、何も言えないでいると彼女は続けた。
「少しぐらい歌を褒められたからって、全然凄くないんだからね!」
そこは小二だ、理由がやっぱり子供じみている。彼女はきっと悔しかったのだろう。まあ、かわいいではないか。でも、やっぱり当時のあたしにショックを与えるには、十分だった。いや、十分すぎた。
「もう、あんたとは絶交なんだから、明日からはもう話しかけないでよ。」
何も言わずに俯くあたしにそう宣告すると、彼女はくるっと背を向けて歩き出した。他の子達もそれについて行ってしまった。あたしは、道の真ん中で一人俯いたまま佇んでいた。『絶交』と言う言葉は小学生にとっては、死刑宣告のようなもので、あたしはショックを受け止めきれずにいた。
「あれあれ?君、どうしたの?おなか痛いの?」
声を掛けてきたのは、一人の髪の長いかわいい女の子だった。あたしは急にショックの実感がこみ上げてきて、それに比例して涙もこみ上げてきた。
「うわぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。」
話しかけてきた彼女を見ながら、あたしは大泣きした。
「えっ?えぇっ?えぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ?」
困っただろうと思う・・・。だって、見知らぬ子に話しかけたらいきなり泣き出されたのだから。おろおろしながら彼女はあたしを懸命に慰めてくれた。それから、少し落ち着いたあたしに彼女は自己紹介してくれて、友達になろうって言ってくれた。結局あたしは、ずっと慰められながら家まで帰ったのだった。
この時友達になったのが、今でもずっと変わらずに、友達のままの『武者小路イヅミ』ちゃんだ。因みにあたしに父親を教えてくれたのも彼女だ。イヅミちゃんに、あたしはお世話になりっぱなしだ。イヅミちゃんはあたしの救いだ。彼女への気持ちを書き出したら、きりが無いのでここらで止めておく。
イヅミちゃんと一緒に帰って来たあたしは、うちのマンションの前で別れて、母親の待っていない暗く冷たい部屋の鍵を開けた。迎えてくれたのは、白と黒の模様の猫、あたしの家で飼っている(猫なのに)ブリ一匹だった。暗い部屋で一人、テレビは点けたまま、あたしは震えていた。そして決心したのだった。
あたしはもう、歌を歌わないと。
イヅミちゃん以外の前では笑わないと。
(二つ目の決心については最近、少し変わったけれど・・・。)
若干七歳のあたしは、暗い決心をその胸に抱いたのだった。もちろん、合唱の件も断った。先生をガッカリさせてしまったけれど、代わりにあの、あたしに絶交宣言した子が選ばれた。それ以来、あたしの決心はほとんど揺らぐことは無い。だから、ほとんどの人から、あたしはいつも怒っていると思われるほど無愛想になってしまったのだった。まあ、それでもイヅミちゃんや、他にも何人かの物好きな人達は、こんなあたしとも付き合ってくれるのでそれで十分だ。いや、十分すぎて、これは贅択だと言える。
そんな感じに、最低限の人間関係しかもってないあたしは、最悪だ。最低限でも有るだけましかもしれないけれど・・・。
あたしの立場、今、現在の状況も最悪だ。
あたしは今、非常に困って、さらに苛立たされる立場に立たされている。それというのも、あたしの唯一の特技のせいなのだけれど・・・。
あたしの特技と言うのはギターが弾けるということ、ただそれだけ。だけれど、唯一つ自分のことで自慢できる点だ。家にはもともとギターが何本かあって、あたしはモノゴコロがつくころには、すでにギターを握っていた。そのころは文字通り握っていただけなのだけれど、その後は我流ながらも地道に練習して、今では多分、普通の女子高生よりも上手く弾く事が出来るだろう。今、使っているギブソンっていうメーカーの黒いギターはあたしがずっと気に入っているやつで、ほぼ、これしか弾かない。手に馴染んでるし、見た目も少しボロいけれど、黒いところが好きだ。最近になって分かったのだけれど、このギターはてっきり母親のものだと思っていたら、違うらしい。親戚のおばさん曰く、父親の形見だということだ。・・・って言われてもあたしにはまったく何の感慨も無い。あたしにとっては、そんなことはどうでも良くて、それを抜きにしてもお気に入りの、大切なあたしのギターというだけのことだ。ただ、それだけ。
話が少し脱線したけれど、元に戻すとあたしはそのギターのせいで困っている。なにを困っているかと言うと・・・。
「中原さん、聞いてる?だから、そこはそうじゃなくて、もっと優しく弾くのよ。」
指揮棒を振り回しながら、音楽教師があたしに向かって喚いた。
あたしが通う、私立東雲女子高等学校は近々、文化祭がある。そこで、吹奏楽部は部員獲得のために、即席のジャズバンドを組んで、何か発表をするらしい。しかし、吹奏楽部にはギターがいない。それで、どこで聞いたのかあたしに助っ人の依頼が来たのだった。どこかで聞いたことが有りそうな話だけれど、とにかくあたしは吹奏楽部に助っ人で入っている。
最初は、楽しそうだし、ギターが上手くなるならと思ってやっていたのだけれど、日にちを追うごとにだんだんあたしの期待は裏切られていった。まず、やる気があるのは顧問の音楽教師だけで、他の部員はジャズをほとんど知らない。知ろうともしないしやる気も無い。だから、演奏もめちゃくちゃだった。で、あろうことか顧問の音楽教師もジャズを良く知らない。だから、指示もちぐはぐでとてもじゃないが形になりそうも無い。これは、あたしの予想だけれど顧問の先生は多分、あの映画を見て感銘を受けて自分もやってみたいと思ったのではないだろうか。それに付き合って、全校生徒の前で恥をかくのはごめんだ。あたしは、なんとか吹奏楽部から抜けようと思っているのだけれど、この先生が抜けさせてくれない。それであたしは困っているのだった。
「わかった?じゃあ、また、最初からね。」
せーの、で、音楽が始まる。まとまりも無いただの音の垂れ流し。これはもう騒音だ。その中であたしは、一番大きな音でめちゃくちゃに弾く。全てをかき消すぐらいに。あたしの作戦はこうだ。抜けさせてくれないなら、抜けさせたくすればいい。だから、むちゃくちゃに弾いてるのだ。出来損ないのジャズの中で、あたしは周りを無視して『星条旗よ永遠なれ』を弾く。気分はウッドストックのジミヘンだ。気持ちよくギターを掻き毟っていると、ふと周りが静かなのに気がついた。みんな、演奏を止めてあたしを見ていた。音楽教師があたしを見ながら、ため息をついて言う。
「もういいわ、中原さん。もう手伝ってもらわなくていい。ありがとう、帰っていいわよ。」
「はい・・・。」
あたしの作戦は無事成功した。さっさと帰り支度をして、音楽室を出て行く。みんなが、そんなあたしに注目していた。こそこそと話す声も聞こえた。
「ありがとうございました。さようなら。」
いつもより意識して、無表情にあたしはそう言って音楽室を出て行った。すると、中から音楽教師の話す声が聞こえてきた。
「さて、邪魔者も居なくなったし練習を再開しましょう。先生もあの子入れるの反対だったのよ。時間の無駄だったわね。」
あたしは、耳を疑った。あんたが、どうしてもって頼むからやったのに。辞めさせてっていった時も必死に引き止めたくせに。音楽室に乗り込んで、教師をぶん殴ってやろうかとも思ったがやめた。それは、
「じゃあいくよ。せーの!」
で始まった騒音は、目も当てられないほどに、耳を塞ぎたくなるほどの酷い音だった。これに加わらなくてよくなっただけでも良しとしよう。人から誤解されるのは慣れているし、別に仲良くなりたい相手でもないし。ただ、腹の虫だけは収まらなかった。
悔しい。
悔しい、悔しい。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
けれど、あたしは無表情でその場を立ち去った。
それが、あたしだから。
こんな、あたしが最悪だ。
あたしなんて、大嫌い。
2
「へぇー。ナカコも大変だったんだねー。」
ハルカは何を納得したのか腕を束ね、頷きながら言った。
次の日、クラスメイトの宮沢ハルカに帰り道で話を聞いてもらった。どうにも、ムカつきが収まらなかったのだ。
「私が、その場に居ればもっと、恐ろしい口撃を与えてやったのに。」
ハルカの横から夏目ノゾミが口を挟む。
「あんたが居たら大惨事だわ・・・。」
ハルカがすかさず突っ込む。
あたしは、最近この二人と何故か仲良くなった。というか、この二人があたしに怯まずに、近づいてくるので自然に話すようになったのだ。とは言うものの、正確にはほとんど二人だけが話していて、あたしはそれを聞いてばかりいる。それも、楽しいからいいけれど周りから見ると、果たしてどう映っているか気になるところではある。
「それはそうと、ナカコの気の強さってのもなかなか筋金入りだよね。私、最初ずっと嫌われていると思ってたもん。」
それは、当たっているよ、とあたしは心の中でハルカに教えてあげる。確かに、最初は嫌っていた。ハルカだけではなく、周りすべてを。
「ホント、根性あるよ。ノゾミはツンデレだけれど、ナカコはもう行き過ぎて、『ツン』って感じだもん。」
なんだ、その新しいキャラのジャンルは。と、心の中で突っ込んだその時ノゾミがハルカに言った。
「ツンデレの意味はいまいち良くわからないけれども、ツンなら知っているわ。たしか、上野の西郷さんの連れている犬の名前よね。」
その言葉に、あたしもハルカも凍りついた。これは、新手のボケだろうか?だとしたら、かなりの難易度だ。理解できかねる。二人でノゾミの顔をジッと見つめていると、顔を真っ赤にしたノゾミが照れる様に言った。
「な、何よ。何かへんな事でも言ったっていうの?勘違いしないでよねっ・・・そんなの・・・わざとなんだからね!」
「それが、ツンデレ!」
ハルカが突っ込み、あたしはその横で大きく頷いた。
そんな感じに最近はあたしの周りも変わってきている。少しは楽しくなってきているのだ。ただ、やっぱり長年貫いてきたあたしのキャラは、なかなか変えることは出来ない。楽しい気持ちなのだけれど、やっぱり無愛想だから、怒っていると思われる。そんな無愛想なあたしでも構ってくれる、奇特な人だけが話し相手になってくれる。この二人は、その奇特な二人なのだ。まだ他にも居るには居るが数少ないことは間違いない。
「ナカコーーー。」
聞き覚えのある声に振り返ると、あたしの唯一にして絶対可憐、最大にして最高、『全米が泣いた』今世紀ナンバーワンの超スペクタルな大親友、はたして武者小路イヅミちゃんがこっちを向いて手を振っていた。
「あっ!いーたん!」
あたしは、満面の笑みで、手を振る彼女に応える。
「いーたん?」
「いーたん?」
ハルカとノゾミがものすごいシンクロ率で、声をそろえて首をかしげた。
「ていうかナカコ。あんた、そんな顔も出来るの?ちょっと意外すぎて、この突っ込みの鬼と言われる私までタイミングが遅れてしまったわ。」
ハルカが遅ればせながら、あたしに突っ込みを入れる。で、さらに続ける。
「そしてそして、突然現れたこのスーパーモデル娘は一体誰よ!あんたにこんな友達がいたなんて・・・本当、驚きだわ。」
「あぁ、紹介するよ。彼女は武者小路イヅミちゃん。あたしの幼馴染なんだ。同じ学校の十三組なんだよ。すごいでしょ?いーたんはモデルの卵で武術も出来るんだよね?だから十三組なんだ。綺麗だし優しいし親友なんだ。」
あたしの紹介に照れて真っ赤になるイヅミちゃんがいた。ちなみに、うちの学校の十三組は、スポーツや芸能に秀でた人材を集めた特別コースのクラスなのだ。
「いやいや、それは褒めすぎっていうか・・・。始めまして、私は武者小路イヅミだ。いつも、ナカコがお世話になっているみたいですまない。ナカコはこんなだけれど、ぜひとも仲良くしてやって頂きたい限りだ。」
イヅミちゃんはそう言うと、ハルカとノゾミに深々とお辞儀をした。
「あっ・・いや・・・どもです。」
ぎこちなくハルカが頭を下げる。ノゾミは美しい姿勢のままお辞儀を返した。顔を上げるとノゾミは微笑んでいた。そして、
「本当、お綺麗な方ね。私もそれにあやかって『たん』が付いたあだ名が欲しいわ。」
と言った。
「本当、あんたは何でも欲しがって・・・。えーと・・・ノゾミだから・・・やっぱり・・・『ノンタン』?」
ハルカはそう言うと大爆笑しだした。
「あはははははは!ノンタン!あははは!最高だわ!」
「私は、そんな白くて四角い猫みたいな名前は嫌よ!」
ノゾミがすごい剣幕でハルカに言うものだから、ハルカはますますからかうように「ノーンタン」と何度も呼びかけてノゾミにゲンコツされていた。イヅミちゃんにこんな子達と友達と思われたら、恥ずかしいと思い、彼女を盗み見てみると、可笑しそうに笑っていてホッとした。
「なかなか楽しい友達だな。ナカコにちゃんと友達が出来るか心配していたけれど、良かった良かった。こうなると私の役目も終わりだな。」
「えっ!そっ、そんなことないよ!いーたんはあたしの一番大事な友達だよ!そんな事言わないで!」
あたしが、涙目になって弁解すると、イヅミちゃんはあたしのおでこをつっつき、微笑んで
「冗談だよ。そんな顔するなよ、心配になるだろ?」
と言ってくれた。「もう!」と膨らむあたしに「ごめん、ごめん」と謝ってきたから、つい簡単に許してしまう。
「じゃあ、ナカコ、帰ろうか。」
「うん!」
あたしとイヅミちゃんは、まだおたがいにゲンコツの応酬にはげんでいるハルカとノゾミに別れを告げて一緒に帰ることにした。
あたしの家とイヅミちゃんの家はご近所である。ただ、あたしの家がマンションなのに対して、彼女の家はかなりの大豪邸なのだ。彼女の家系は江戸時代から続く武家の家系で、幕末の頃は維新志士として活躍したということだ。その功績で今も広いお屋敷をこの東雲町に持っているということらしい。しかも、ナントカ流っていう剣術の道場もやっていて、だからイヅミちゃんは武術も得意になったんだそうだ。もっとも、彼女はお父さんに武術を使うことを禁じられているから、あたしも見たことは無いし、剣道部とかの部活動も駄目らしい。なにはともあれ、あたしのいーたんは、とにかくカッコいいのだ。
「ナカコ、私がモデル事務所にスカウトされたのは、秘密だって言ったじゃないか。」
二人と別れてすぐに、あたしはイヅミちゃんに叱られた。
「だって・・嬉しいことだし、ちょっと自慢したかったんだもん。」
「しかたないなあ。次からはやめてくれよ。まだ、モデルをやると決めてはいないんだから。」
ため息をついて彼女は言った。
「・・・わかった。」
彼女はあたしにとっての姉であり、兄であり、父であり、母であった。いつも間違いを正してくれて、でも決して頭から決め付けはせず、間違うあたしを見守ってくれていて、最後には優しく教えてくれるのだった。本当にあたしは、イヅミちゃんの子供だったら良かったのに・・・。
「それはそうと、明日はナカコの誕生日だろ?やっぱりあの計画は実行するのか?止めておいたほうが・・・。」
この時も彼女は頭から否定はしてこなかった。
「いや、もう決めたの。明日は必ず、絶対にこの計画をやってみせるよ。大丈夫、いーたんには迷惑かけないから。」
あたしは、彼女に力強くガッツポーズをしてみせる。
「まあ、ナカコは結構、頑固だから、今さら止めるとは思わないけれど・・・。無理だと思ったらすぐ止めていいんだからな。」
「だから、大丈夫だって。」
あたしは、彼女にしてみせたガッツポーズに、さらに親指を立ててみせた。
「だけどなぁ、今時、流行らないよ、家出なんて。」
イヅミちゃんはやれやれと言った風だ。
そう、あたしは明日、つまりあたしの十六回目の誕生日の六月九日に家出をするのだ。文化祭の発表も無くなったし、あれば延期も考えていたのだけれど。この日まで地道に貯めてきた十万円と、お気に入りのギターを持ってこの街を出て行くのだ。何もかもを置き去りにして・・・。この計画はまだイヅミちゃんにしか話していない。行き先も彼女しか知らない。彼女には心配をかけるかも知れないけれど、ちゃんと落ち着いたら連絡をするということで一応の了承を得ていた。イヅミちゃんや最近仲良くなった子達と離れるのは寂しいけれど、もう何年も前から決めていたことだし、このままこの場所に居たらあたしは駄目になってしまう、そんな気がする。だからこの計画は絶対の『最優先事項』なのだ。
「それじゃあ。バイバイ!」
あたしが住むマンションの前についたので彼女に別れを告げる。湿っぽくなるのはごめんだから出来るだけ元気に、いつも以上にあっさりと別れる。
「ナカコ!」
マンションのエントランスに入ろうとするあたしに、後ろからイヅミちゃんが呼びかけてきた。
「嫌になったら、帰ってくるんだぞ!他にもやり方はあるんだからな!」
振り返ると、本当に心配そうに、あたしを見つめる彼女の顔が見える。揺らぎそうになる心を、必死に押さえつけて無理して微笑んで見せた。言葉は何も出てこなかった・・・。
無理ならもうしている・・・。
玄関を開けると、いつも通りブリが出迎えてくれた。そのまま廊下を進んで居間のドアを開けると母親が化粧の最中だった。
「なに?帰ったなら言うことがあるでしょ?」
こっちも見ずに、鏡を見たままあたしに母は言った。
「・・・・ただいま。」
「ご飯はいつも通り適当に食べててね。あと、ブリのトイレも掃除しといて。お願いね。」
「・・・・うん。」
母は実年齢よりも、だいぶ若く見える。それを利用して近くのスナックで年齢をさば読んで働いている。この時もおよそ、母の年齢だと似合わないような派手な色のスーツに身を包んで、どこかの誰かにもらったバッグを片手に、ドタバタと準備をしているところだった。
「じゃあ、あと、戸締りとかお願いね。」
「・・・・うん。」
そう言うと母は居間から勢いよく出て行った。そのあとすぐ、玄関が開いて外に出て行く音も聞こえた。これで、この人ともさよならだ。意外にさっぱりとしたものだったな、と思った。こんなものか、とも思った。母に言われたとおり、適当に晩御飯を済まして、ブリのトイレを掃除して、明日に備えて早く寝ることにした。
早朝、物音で目が覚めた。ちょうど、目覚まし時計をセットした時間と一緒だったからそのまま起きる事にした。
お気に入りの可愛いドクロマークのTシャツと、
赤いチェックのスカートを穿いて、
ボーダーのニーハイソックスに足を通す。
そして、お気に入りの鞄と、お気に入りのギターを持って玄関に行くとそこで母親が倒れるように寝ていた。酔っ払って帰ってきて、そのまま寝てしまったんだろう。母親の顔の横に「さようなら。家出します。」といった内容の書置きをそっと置く。さすがに、何も言わないのは気が引けたのだ。そして、あたしはお気に入りのラバーソールを履いてドアを開けた。文字通り自由へのドアを。
あたしの新しい門出は、お気に入りに囲まれたものにした。
これからは、大好きなものに囲まれて暮らすそんな人生が待っている。
―――そう、信じていた。
外に出たあたしは、とりあえず近所のバス停を目指した。始発のバスに乗って、この家出を始めるつもりだったから。早朝のバス停には誰も居なくて、あたしはギターケースに座り、クリーム色のバスを待っていた。辺りは朝早いせいか霧が出ていてあまり向こうまで見えない。
その時、バスが来るだろう方向を見ていたあたしの耳に、あまり聞きなれない音が聞こえてきたのだった。
「パカラッパカラッパカラッパカラッパカラッ・・・」
何の音か思い出した。これは、あの時代劇『暴れん坊将軍』のオープニングで聞こえた音だ。大体、あの時代劇の将軍、ざっくばらん過ぎる。町人に新さん呼ばわりでも、余裕で笑っているもんな。ありえないよ、暴れん坊ってわりにはいい人だし。などと考えている間にも、音はすぐそばまで近づいてきていた。音はどんどん大きくなってきてそれに伴って霧の向こうに大きな影が見えてきた。
「あれって・・・もしかして・・・。」
その時、霧の中から悠然と現れたのは、見上げるほど大きな白い馬だった。いや、角があるからユニコーンか。
「何で、こんなところにユニコーンが・・・?」
あたしが呆気に取られて見上げていると、ユニコーンがゆっくりこっちを向いた。そしてゆっくりと、口が、動いた。
「娘よ、我が見えているのか?答えよ。」
3
最初は夢だと思った。
ありえないことが、ありえるなんて予想もしていなかった。
目の前が真っ白に光って、まぶしくて目を閉じて、次に目を開けたらそこはライブハウスの一番後ろの壁際だった。ステージでは時代遅れなヴィジュアル系バンドが演奏している。全身、黒ずくめでよくわからない内容の歌を陶酔して歌い上げているから、現実感が余計に希薄になる。あたしがなぜ、こうなったかという事を説明するなら、少し話を戻す必要がある。
早朝のバス停で、あたしは一頭のユニコーンに出会った。ユニコーンの「見えるか?」との問いに「見える!」と答えるとユニコーンはあたしに色々と教えてくれた。驚くような内容なのだけれど、ここで全部話すと、とても長くなってしまうので掻い摘んで説明しようと思う。ユニコーンが言うには、
一、世界は願いの力で作られている。
一、願いの力はお互いにせめぎ合い干渉しあって均衡を保っている。
一、願いの力の均衡を崩すぐらい強い力を持つものがたまに居る。
一、そういった強い力をならす為にその者を討滅するか、力を使わせてしまう。
一、力を使ったものは『具現者』と呼ばれ、力と引き換えに何かを得る。
ということだ。
「で、あたしがその具現者ってことなんだ。」
「そういうことだ。なかなか察しがいい。」
「ふーん。じゃあ、あたしの夢が叶うって事だよね。あたし、どこか遠くへ行きたいの。」
「貴様の根源の願いがそうならば、その通りになるだろう。」
「・・・よく分かんないし、まあいいや。それじゃとにかくやっちゃってよ。」
「わかった。それでは、貴様の願いを具現化する。」
そうユニコーンが言ったかと思ったとたんに、目の前が真っ白になって目を開けると、こういうことになっていたのだった。確かにどこか遠くっぽいけれど、どこか分かんないし。しかも、いきなりライブ中って意味分かんないし、これが、あたしの願いなの?
頭がついていかなくて、ボーッとライブを見ていると例のヴィジュアル系バンドの演奏はいつの間にか終わっていた。数人の女性ファンのみが熱狂的に応援しているバンドみたいで、よそ者のあたしなんかはとても入っていける雰囲気ではなかった。というか、怖かった。最近見ないタイプのバンドだったなーなんて思っていると、ステージから次のバンドのSEが鳴り響いてきた。その曲に聞き覚えがある。
「たしか・・・これは・・・?」
印象的なギターリフで分かった。この曲はキングクリムゾンの『二十一世紀のスキッツォイドマン』だ。あたし、この曲が入ったアルバムのジャケットが、子供の頃、怖くてしょうがなかったんだよね。だから、聞きたい時はいつも母親に頼んで取ってもらってたっけ・・・。なんてノスタルジーに浸っていると、バンドのメンバーが出てきた。三人しか居ないみたいだから、スリーピースってやつか。あたしは、SEが好みだったから少し前に行ってみることにした。そんなに人気があるバンドじゃないみたいで、結構すんなりと前の方まで出られた。この位置からなら、メンバーが良く見える。
ベースは鋲を打ったライダースに細いブラックジーンズという出で立ち。頭は金髪でツンツンにしている。ものすごいパンク丸出しファッションだ。ちなみに、やっぱりプレジションベースだった。
それに対してドラムは、ものすごい大きなアフロ頭に、顔からはみ出すぐらい大きな蛍光ピンクのサングラスをかけている。服装はなんというか・・・サイケでカラフルといった感じだった。
この二人、ちゃんと噛み合うのかな?と心配していると遅れてギターがステージに出てきた。その姿を見たあたしは、他人のバンドのことながら「大丈夫か?」と本気で心配した。ギターの男は頭はボサボサ、無精ひげでダラダラと出てきた。これだけなら、まだ、なくは無いと思う。しかしこの男は破れたジーンズの上に、紫の地に、橙色の楓の染め抜きがグラデーションみたいに散らされた着物(この場合は羽織かな?)を羽織って出てきたのだった。確かにその着物はめちゃくちゃ綺麗だし、かっこいいけれど、その格好はどう考えてもおかしかった。
この三人組、明らかにおかしい。そんな、あたしの心配をよそに、淡々と準備をする三人。SEが盛り上がった所で止まる。静けさの中で、着物のギターがギブソンSGをかき鳴らす。この瞬間、あたしの心配は思考ごと吹っ飛んでしまった。それはまるで、頭を横殴りにぶっ飛ばされたみたいだった。そのあと、パンクのベースが入ってきて、音に安定感が増す。地響きみたいにあたしの全身を震わしていた。ドラムが入ってくる頃にはあたしはステージに夢中になっていた。それは、あたしだけでは無かったみたいで、たちまち、あたしの周りは身動きできないほどに人が詰め掛けてきていた。
歌はギターが担当しているみたいで、決して上手くはないけれど、なかなかいい声だった。少しかすれて切実な感じの声、だけど聞いていて何となく懐かしい感じがする声だった。歌の内容は確か、クジラの苦悩もミジンコの苦悩も一緒とかナントカといった内容だった。まあ、分かるような分からないような内容だったけれど、嫌いじゃない。まして好きな感じだ。
一曲目を終えるとギターがマイクに向かって、
「こんばんは、ナザレです。」
と言った。で、それっきりライブが終わるまで、全くMCというものをしなかった。二曲目だけベースが歌って、あとは全部ギターが歌っていた。全六曲をやり終えて、三人は観客の拍手に片手を挙げて応えながら、また、出てきた時と同じようにダラダラとステージ脇へと帰っていった。その姿を見送って、あたしはサプライズでプレゼントをもらったような気持ちになっていた。ナザレって言うバンド名は聞いたことが無かったけれど覚えとこう。とあたしは心に決めた。
どうやら、ナザレが今日のトリだったみたいで、ライブハウスの中も明るくなって、客もみんなそれぞれ、帰りだしていた。タダであんないいバンドのライブが見れたのだから、あたしの根源の願いもなかなかいいじゃない。などと思いながら外に出て見るとあたしは少しガッカリした。外に出て分かったのだけれど、そこはあたしの家の近くのライブハウス『マッシュルーム』だった。中のステージとかの配置が違うから気付かなかったけれど、全然遠くじゃなかった。ただ、時間だけは経っていて辺りはすっかり夜だった。まあ、願いの力でライブも見れたし、家出はまた今度にしよう。とりあえず、家にでも帰るか。とあたしは帰路に着いた。この時のあたしは普通に家に帰ると思っていた。自分が家出しようなんて思っていなかったように。
『マッシュルーム』から家はそんなに遠くないので、歩いて帰ることにした。夜空を見上げながら、さっき見たライブを思い出しながら歩く。いつかはあたしも、あんな風にライブできる様になるのだろうか?あたしなんかじゃ無理な気がする。大体、コミニケーションをとるのが苦手なのにバンドを組める訳が無い。
悲しいなー。
悲しくて、悲しくて、とてもやりきれない。
そんな、やるせないモヤモヤした気持ちで家に着いた。
―――はずだった。
自然に、足が動くのに任せて歩いたから最初、間違えたのだと思った。で、もう一回、今度はちゃんと意思をもって確認しながら帰ったのだけれど、やっぱり間違えていなかった。あたしが、家に着いたと思って顔を上げると、そこには夜空以外なかった。分かりやすく言うと、あたしの家が消えていたのだった。きれいな更地になっていて、マンションの建設予定の看板が立っていた。頭が混乱する・・・。あたしは、確かに家出したいと願っていたけれど、家が消えてなくなるというのは一体どういうことなのだろう?とにかく、落ち着かなくちゃ。そうだ!イヅミちゃんのところに行って、何か知らないか訊いてみよう。それから、どうしたらいいか一緒に考えてもらおう。やっぱり、頼りになるのは友達だ。
あたしは、夜の街を必死に走った。これで、イヅミちゃんの家も無くなっていたら最悪だったけれど、それは免れた。イヅミちゃんの大豪邸は、いつもと変わらずにそこにあった。イヅミちゃんの家はチャイムが無いような、本格的な日本家屋なので門をたたく。
「夜分遅くすみませーん。中原ですけど、イヅミさん、お願いします。」
しばらく、門の外で待つ。静けさの中、門の内側に人の気配を感じる。
「どちらさまですか?」
そう言って門を開けたのは、イヅミちゃんのお父さんだった。
「あの、夜分遅くにすみません。イヅミさんをお願いできますか?」
出てきたお父さんにお願いする。暗いせいか、お父さんの雰囲気がいつもと違う気がする。なんだか、ひどく若いような・・・。
「どちらへ、おこしで?うちにはそのような者はいませんが?」
「何、言ってるんですか、おじさん。あたしです。中原ナカコですよ。」
出来るだけ感じよく、よそ行きの顔で、あたしは言った。
「いや、ちょっと存じませんが・・・。それに、初対面の相手に『おじさん』は失礼かと。」
明らかに、迷惑そうな顔だった。
「え?冗談・・・じゃないですよね?」
あたしの知っているイヅミちゃんのお父さんは、冗談を言うような人では無い。絶対、無い。ということは・・・。
「すみません・・・。間違えました・・・。」
そう言うとあたしは、お辞儀をしてその場を逃げるようにして去った。お父さんはかなり怪訝そうな顔をしていた。
頼る当ても無くし、一人でトボトボと歩いて町の中心近くまで来た。一体あたしは、どこに来てしまったのだろう?家もないし、友達も居ない、本当に一人ぼっちだ。寂しさに視界が滲む。涙をこらえて歩いていると、CDショップの前まで来た。なんとなく、店先を見ていたあたしは、目を疑った。そこにあったのは、
『1993/6/2リリース!ビーズ 裸足の女神!』
といったPOPと大量に陳列された、8cmシングルだった。『ビーズ』を片仮名表記なのも気になったけれど、もっと気になったのはそのリリースの日付だった。1993年6月2日・・・それは今から約、十七年前だった。それから、あたしは色んなもので調べた。それは、新聞であったり、雑誌であったり、テレビであったり、とにかく手当たりしだい色んなもので調べた。その結果、導き出されたのは、にわかには信じられない事実だった。
あたしは、どうやら時間を超えてしまったみたい。
所謂、タイムスリップってやつだ。ユニコーンに会って願いを具現化したあたしは、どうやらあたしが生まれる一年前の6月5日に来てしまったようだった。
なんで、こんな事になったのか?
あたしの根源の願いが何故、タイムトラベルなのか?
分からない事だらけだ。分からないけれど、ジタバタしてもしょうがない。幸い、あたしは一文無しって訳じゃない。虎の子の十万円はしっかり持っていたし、大丈夫だろうと高をくくっていた。この時代を少し楽しんだら帰ろうと、そんな安易に考えていた。
とりあえず、お腹もすいたしこれからの事を落ち着いて考えようと、この時代にもあるMから始まるハンバーガーショップに入る。いつの時代も変わらないスマイルに少し感動しながら、セットを頼む。で、支払いに一万円を出したら、露骨に変な顔をされた。あたしは、よく小学生に間違われるからまたそれか、と思ってうんざりしていると、店の奥から責任者らしい中年のおじさんが出てきた。
「お客様、申し訳ありませんが、こちらのお札は使えません。」
「えっ?だって、一万円札で買ったって別にいいんじゃないの?」
「ええ、もちろん通常の一万円札ならばお使いいただけます。が、お客様のお出しになったお札は、ちょっと私どもの見たことの無いものでして。」
「そんな、なんで・・・。どういう・・・。」
ここで、あたしは気付いた。そうだ、確かこの時代はまだ旧札しかないんだ。あたしの一万円札は全部、悲しいことに新札だった。
「それに、少しお伺いしたいこともありますので、こちらへ来ていただけますか?」
おじさんの目は言葉とは裏腹に、明らかにあたしを怪しんでいた。それはそうだ。見たことも無い一万円札を女子高生が出してきたら、そこには何か犯罪の匂いがするに決まっている。
あたしは、おじさんの手から一万円札をひったくるようにして奪って、店から逃げ出した。
「あっ!待ちなさい!」
あたしはとにかく、前も見ずに走った。走って、走って、走った。なんでこんなに、なにもかも上手くいかないんだろう?いつも、何で邪魔ばかり入るんだろう?どうして、あたしは上手く出来ないんだろう?何もかもが嫌になってしまう。
必死に走って、角を曲がったところで誰かにぶつかってしまった。あたしは尻餅をついて、相手も尻餅をついた。ということはかなりな勢いでぶつかったみたいだ。
「大丈夫っすか?兄貴!」
無様にも尻餅をついたその男は、兄貴を純粋培養したような、兄貴だった。
「お譲ちゃん、ちゃんと前を見ないとだめじゃないか?ん?」
兄貴は尻餅の体勢から立ち上がりながら、あたしに凄んで言ってきた。あたしは、まだ尻餅を付いたままだった。
「なかなか、かわいいねー。おじさん、お譲ちゃんみたいな子、大好きだよ。どうだい?一緒に遊ぼうか?」
腕を掴まれて引き起こされる。周りの歩行者はみんな無視だった。まあ、そうだよね。自分から面倒に飛び込むやつなんて、居るわけがないよ。
「さあ、行こうか?どうせ、家出でもしてきたんだろ?行く所もないんだろ?おじさんと来ればお金もあげるよ?」
後ろでは、子分もニヤニヤ笑っていた。どうやら、面倒なことになったみたい。どうしようかなーと思っていたら、後ろから声を掛けられた。
「おやおや。ビートルズが確か、何故、道の真ん中で『それ』をやったらいけないか?って歌ってたけれど、道の真ん中でそれはだめでしょう。今、流行のブルセラってやつですかー?」
暢気に声を掛けてきた男を見ると、その男は破れたジーンズに着物を羽織っていた。その格好、流行っているのか?と思ったら、さっき見たバンド、ナザレのギターの人だった。
「なんだ、お前?すっこんでろよ!」
その男は、凄む兄貴を無視するみたいに、あたしの前に回りこみ兄貴との間に割って入ってきた。そして、あたしの方を横目で見て、
「それはそうと、お譲ちゃん、ロックンロールは好きかい?」
と聞いてきた。
「・・・・はい?」
「いや、だからロックンロールは好きかって訊いてるんだよ。」
「まあ・・・好き・・・かな?」
「そうかい。じゃあ、助けてやる。」
そう言うと、男は不適に笑って懐に手を入れた。それを見て兄貴と子分は身構えた。あたしも、何が出てくるのか注目した。みんなが注目する中、その男が懐から取り出したのは、どこに隠していたのか、長さ五十センチはあるだろう赤い筒だった。良く見ると黒いホースが付いている。もっと良く見ると、これは・・・
「・・・・消火器?」
消火器を取り出した男に兄貴たちが凄んで言った。
「ははは!で、それを、どうするんだよ!どんな得物が出てくるかと思ったら、まったく。」
そんな、兄貴たちに向かって男は不適に笑って言った。
「決まってるじゃないか。消火器は火を消すためにあるんだろ?だからこうやって使うんだよ!」
そう言って男は、兄貴たちに向かって消火器の中身を放射した。
「やめっ・・・やめろっ!・・ゲホッ!」
「こうやって、犯罪の火種を消すんだよ!」
むせる兄貴たちに向かって男は叫ぶと、一目散に逃げ出した。あたしは呆気に取られて立ち尽くしていたのだけれど、男に
「何やってるんだよ!逃げるんだよ!」
と言われ、ハッとして駆け出した。
「何でこっちにくるんだよ!お前はあっちに行けよ!」
男と同じ方向に逃げたら、そんなことを言ってきた。
「そんな事いったって・・・。大体、助けてくれるんじゃないの?」
「そんな事知らねーよ!後は自分で何とかしろよ!」
「そんな、無責任な!」
「俺は元々、無責任なんだよ!」
あたしは、1993年の夜の街を、見知らぬ着物の男と口論しながら、駆け抜けていた。最初はヒーローかと思ってたんだけど、どうやらとんだヒーローだったみたい。というか、ただの無責任男。そんな、怪しい男に頼るしかないなんて・・・。あたしは何て最悪なんだろう・・・。最悪だけれど、今はこの男しかいない。あたしの運命はなんとも頼りない、不審者丸出しの男の腕にかかっていた。
「・・・本当、最悪。」
「最悪はこっちだよ!」
男はそう言うとあたしの頭を小突いた。
本当・・・・。
サイアク・・・・。
4
男が言う。
「お前、何でこっちに来んだよ!あっち行けよ!」
あたしが言う。
「なんで、そんなこと言うんだよ!助けてくれるんじゃなかったのかよ!」
章が変わっても、あたしたちはまだ口論をしながら走っていた。あたし達はかれこれ三十分は走っていただろう。それにしても、この男、足が驚くほど遅い。あたしは、ギターをずっと背負って走っていたのだけれど、それでもついていける。本気で走ってないのか?その割には、ひどく苦しそうだし。体力も無い、責任感も無い、そんな無い無い尽くしの不審者に、あたしも頼るしかないというのも、実に情けない限りだ。
「よし、わかった!そこまで言うなら話ぐらいは聞いてやる!」
そう叫ぶと、男は走るのを止めた。苦しそうに肩で息をしている。どれだけ体力が無いんだよ・・・。
「まあ・・・立ち話も・・なんだし・・飯でも、食わねー、か?」
ハアハアと息をしながら、途切れ途切れに男は言った。
いや、疲れすぎだし・・・。
そういうあたしも、ずっとギターを背負って走っていたから、もう限界だった。
「そうだね・・・。そこまで言うなら・・・そう、しよう、か。」
・・・いや、あたしは一応女の子だし、ギターを背負ってたからしょうがないというか、この場合は、多少息が上がってるぐらいのほうがかわいいってものだ。「げほっげほっ」・・・多少ではないかも。
「とにかく、そこの、ファミレス、に、でも、入、るか。」
「そ、そうだ、ね。そう、し、よう。」
とりあえず、休憩もしたかったし、そこにあったファミレスに入ることにした。二人とも、出迎えた店員が引くぐらいの疲れ方だったので、恥ずかしかったけれど、座れるのがなにより嬉しかった。
二人とも無言で料理を待った。因みに二人ともオムライスを頼んだ。お互いに相手の出方を伺うみたいに、無言で水ばかり飲んでいた。無言は、その後オムライスを食べている間も続いて、二人のテーブルにはスプーンがお皿に当たる音ばかりが響いた。そして、男は食べ終わると意を決したように訊いてきた。「それで、」男はタバコに火をつける。
「お譲ちゃんは一体どうして、こんな所にいるんだい?」
まるで、あたしのことを見透かしたような質問だった。まだオムライスを食べ終わっていないあたしは、何と答えたものかと一瞬考えたけれど、結局全部包み隠さず、出来るだけ詳らかに答えることにした。
「あたしが(モグ)なんで(モグ)ここに(モグ)いるかと(モグ)いうと(モグ)実は(モグ)話せば(モグ)長く(モグ)なるん(モグ)だけど(モグ)それは(モグ)」
「・・・いや、長くなるなら食べてからでいいから・・・。」
それならば、と、あたしはオムライスにパクついた。男はと言うと、タバコを燻らせながら、外を眺めている。
この男、黙っていると意外にかっこいいかも?
・・・なんて事はない。
まったく、ない。
いや、確かに、味のあるいい顔かもしれないが、大体、しまりの無い顔つきだし、ギターを弾いてる時はカッコいいかもしれないが、今はほとんど抜け殻みたい。というか、抜け殻そのもの。
怪人!セミの抜け殻男、灰塵に帰す。
つまらないことを考えていると、
「何だ?俺の顔にケチャップでも付いてるか?あっ!そうか。お前、さては俺に惚れたんだな?まあしょうがないけど。俺、ロリコンの趣味はないから。ごめんな。」
あたしの視線に気付いて、男はそんなことを言ってきたのだった。あたしは、ジッと凝視する癖があるから他人からよく勘違いされるけれど、こんな勘違いは初めてだった。・・・・って、おい!一体誰が、誰に惚れてるって?
「いやー。俺も罪な奴だな。悪いな、他、当たってくれよ。」
キメ顔でそう言われた。
「ムッキーーーーーーーーーー!」
キメ顔にあたしの拳がめり込む。
「痛ってーーー!お前、何すんだよ!」
「知るかーーー!何で、あたしがあんたに振られなきゃいけないんだよ!」
バッカじゃないの!と罵ってやると、男は頬をさすり、ブツブツと文句を言いながら、それでも黙った。あたしは、腹立ちまぎれに残りのオムライスを、一気にかきこんだ。「それで」男は、また、タバコに火をつけて
「お譲ちゃんは、何者なの?」
と訊いた。あたしは・・・。
「あたしは、本当は、今から十七年後の未来から来たんだよ。っても信じないだろうけれど・・・。」
それはそうだ。
いきなりこんな事言い出したら頭がおかしいと思うはず・・・。
「信じるよ。」
えっ・・・・?
驚いて顔を上げると、男はあたしを見つめて、
「信じるよ。お譲ちゃんがそう言うならそうなんだろ?」
と真剣な顔で言った。
「でも・・・。」
「でもも、くそも無いんだよ。嘘はついてないんだろ?」
「・・・・うん。」
あたしは首肯する。
「なら、そうなんだろ?それで、何でそんなことになったんだよ?」
あたしは、嬉しかった。この時代に来て、本当はとても不安だったのだ。『この時代を少し楽しんでから帰ろう。』なんて気楽なことを、自分に言い聞かせていなければ、とても普通ではいられないほどに。だからこの時の、この男の言葉は、本当に嬉しかった。やっと味方が現れたような気がして、涙が出るほど嬉しかった。
「・・・お前、何で泣いてんの?」
「な、泣いてなんかないよ!泣くわけないじゃん!」
失敬、お見苦しいところをお見せしました。正直に言います。そうです、泣きました。泣きましたとも。
その後、涙を誤魔化してあたしは、男にこれまでの顛末を全て話した。どこから話せばいいか分からなかったので、あたしの生い立ちから何故、家出をすることになったか、早朝のバス停でユニコーンに会って、俄かには信じられないことを教えられて、目を開けるとライブハウスに居て、ナザレのライブを見て、家に帰ると家がなくなっていて、気が付くとタイムスリップしたみたいで、持ってきたお金も使えなくて、兄貴たちに絡まれて、助けてくれた男についていくしかなくて、それで、今、こうやって、あなたの前に居ます。と、ここまで一気に男に話した。まるでダムが決壊したように、抑えられたマグマが一気に噴出して噴火するように、凄まじい勢いでまくし立てた。多分、人生で一番長く、一人でしゃべったと思う。男はあたしが話している間、ずっとタバコを吸いながら、目を閉じて、難しい顔をして聞いていた。
「・・・・と、いう訳なんだ。」
あたしが話し終わると、男は目を開けて、
「なるほど。つまり、お譲ちゃんは払える金が無いというのに、そのオムライスを食べているって事なんだな。」
と、まじめに言った。
「お前、それは無銭飲食という奴で、立派な犯罪なんだぞ。だめじゃないか!」
男は「めっ!」と言ってキメ顔であたしのおでこを突っついた。
「ムッキーーーーーーーーー!」
キメ顔にあたしの拳がめり込む。
「痛ってー!二度もぶったね!親父にもぶたれたこと無いのに!」
「何、名言、吐いてんだよ!食いつくところそこじゃないでしょ!もっと、他のところ訊こうよ。気になるでしょ?ユニコーンとか、タイムスリップとか。本当に、あんた、バカなんじゃない!」
あたしにここまで突っ込みを入れさせた人間が、これまで居ただろうか?いや、居なかっただろう。
「フフフフ・・・そんなことを俺に言っていいのかな?お譲ちゃん。」
不適に笑う男。
「何だよ?」
「いや、だからそんな口は俺に利けないだろう?っていってんだよ。」
「・・・・・?」
首を傾げるあたしに、
「お譲ちゃん、オムライスの代金は一体どうするつもりなんだい?」
と、勝ち誇った顔で言う男。
「あっ・・・・」
迂闊だった・・・。
「ほら、どうするんだい?まさか本当に、無銭飲食するわけじゃないよな?どうするか、言ってみな?」
「・・・・・・・・・。」
何も言えない。言葉に出来ない。
「まあ、この、オムライス代を、俺が持ってもいいって言ったらどうする?」
「それは・・・まあ・・・助かるけれど・・・・。」
ただ、酷く嫌な予感がする。しかも、かなりの確率で当たるだろうし・・・。
「だったら、俺に言うことがあるよなー?」
やっぱり・・・・。
「あの・・・その・・・あたしの分も・・・。」
「えっ?何て?聞こえないんだけど?」
くっそーーーーー。悔しい!
「すみませんでした!あたしの分もお、ね、が、い、し、ま、す!!!」
「どお、しよっかなー?」
「ムッキーーーーーーーーー!」
拳を振り上げるあたしに、両手をあげて男は降参のポーズをとる。
「分かった、分かった!分かったから、もう、ぶたないでくれ。」
「分かったなら、いいけど・・・。じゃあ、お願いね。」
「はいはい・・・。」
「『はい』は一回でいい!」
「はい!」
男は幼稚園児のような、いい返事をする。そんなにあたし、怖いかな・・・。ちょっと傷つくかも・・・。
男は結局、渋々あたしの分の支払いも済ませてくれた。店を出て歩き出して、「あのさ」あたしはさっきから訊こうと思っていたことを訊いた。
「あたしが言うのも変だけど、さっきの話そんなに簡単に信じていいの?」
あの後、男はあたしの話について、何も訊いてこなかった。あたしだったなら、多分、頭がおかしいんだな、で済ませるか、関わらないほうがいいと思うかだと思う。でも、男はしっかりと『信じる』って言ってくれた。あたしは嬉しかったし、確かにその言葉に救われただろうけれど、本当にこれでいいのだろうか?そんな風に少し不安になってしまう。
「ああ、あれか・・・。信じてるよ。だって、疑う理由がないだろう?お前が俺に嘘をついて何の得がある?」
「確かにそうだけど・・・。」
「お前がそう言うなら、そうなんだろ。そんなことより、もっと大事なことを考えなくちゃだめだろう?」
あたしは、こんなに簡単に他人を信じることが出来るだろうか?こうやって、他人を信じられると言うのはもしかしたら、ものすごく強いことなのかもしれない。
「もっと大事なことって?」
首を傾げるあたしに、
「お前の住む場所だよ。」
と、まるで当然と言った風に男は言った。
確かに、それは大事なことだし、今、あたしが直面している大問題だ。
「ほんとだ・・・・どうしよう・・・・。」
困った・・・。何も考えていなかった・・・。野宿とかした事ないけれど出来るのかな?本当にどうしたものか・・・。
「行くとこないなら、うちに来るか?」
「えっ・・・?」
驚いて立ち止まってしまった。
「いや、別に、何か下心があるわけじゃねーよ。ただ、困ってんなら、とりあえず、次が見つかるまでうちに居てもいいぞってことだよ。」
・・・この男、本気だろうか。こんな訳も分からない小娘を、かくまってくれるだなんて・・・。果たして、本当に何も下心は無いのだろうか?などというあたしの考えを全く無視した行動をあたしはこの直後にとった。
「・・・不束者ですが、お世話になります。」
あたしは、男に深々と頭を下げていた。多分、あたしの生存本能がそうさせたのだろう。実際、頼るあてもないあたしは、こうするしかなかったわけだし・・・。
「おう!分かった。じゃあ、行くか。」
満面の笑みでそう答えて、男はスタスタ歩き出した。あたしは、男の少し後ろをついて行った。
夜の街を二人で歩き、繁華街から少しだけ離れた場所にある、雑居ビルの前に着いた。一階はトルコ料理屋になっていて、何かの事務所や、怪しい店が二階からは入っているみたい。男はそこに入っていく。戸惑うあたしの事なんか気にせずに階段を上り始めた。あたしは警戒しながらもついて行く。どんどん階段を上って、ついに屋上に出た。しまった・・・騙された!と、思ったのだけれどそれは違った。屋上には、倉庫みたいなプレハブの家が一軒あった。
「ここが、俺の家だ。まあ、今日からは、お前の家でもあるんだけどな。見た目より広いから安心しろよ。」
そう言いながら男は、鍵を開けてドアを開けた。ドアの隙間から中を覗き見ると、玄関に何だか黒い影が見える。光が差し込んで姿が見えてくると、それは一匹の猫だった。しかも、その猫の特徴的な模様に、あたしは見覚えがあった。でも、まさか・・・・?。
「まさか・・・・ブリ・・・・?」
「ニャーン。」
自分の名前に返事をするようにブリは鳴いた。
「おっ?何でこいつの名前知ってんの?」
何でブリがここに居るのか、すぐには分からなかった。でも少し考えると、あたしは気付いた。気付いてしまった・・・。
「ねえ・・・。そういえば、名前、聞いてなかったよね・・・?」
「あれ?そうだったっけ?確かに今から共同生活しようってのに、名前も知らないなんて変だよな。俺は、中原シモン。よろしくな。」
にっ、と歯を見せて笑う男。
「・・・あたしは、中原ナカコ・・・。」
「へえー、同じ苗字なんだな。奇遇だな・・・・ってまさか・・・?」
こんなことってあるのだろうか?
こんな偶然なんて・・・。
あたしは、今、聞いた男の名前を以前から知っていた。というよりも知りすぎていた。
「お前・・・まさか・・・?」
信じられないという風に、慄く男。
「まさか・・・こんなことが・・・」
まだ信じられないけれど、状況から判断するに、そう考えるのが一番、妥当だろう。
「お父さん・・・・?」
「娘・・・?」
あたし達は親子らしく、実に見事にシンクロした動きで、お互いの顔を指差し、そう言った。
本当に親子らしく・・・。
初めて会ったにもかかわらず・・・。
そんな感じにあたしと父親の初対面は、何の感動も無く果たされてしまった。あたしも、驚くほどに冷静だった。大体、こんな男が父親だなんて・・・。
サイアクだ・・・?。
つづく




