憎しみで責めて
「さて、どうしようか?」
セルトが森を歩きながらつぶやいた。
「とりあえず生まれ変わったカリュゲドゥスの為に様々な種族の諍いをなくす事が先決だと思うぞ僕は」
ルイマンがメガネを上げて笑う。
「お前が一番やりたい事だろ? それ」
セルトがルイマンの提案に苦笑いを浮かべた。
「バレたか」
ルイマンもにこやかに笑う。
「とりあえずエルフ族のロマンナ一族を説得しようと思っている」
「あの武闘派のエルフの一族をか?」
ルイマンの提案にセルトが驚いた。
「なぁセルト。 獣人とエルフを説得すれば後の種族の説得は楽だと僕は考えている」
ルイマンが淡々とそう告げた。
「ここから三週間で行ける距離だ。 行こう」
その提案にセルトは迷わなかった。
こうして勇者セルト一行は武闘派エルフのロマンナ一族に会うべく旅をした。
「頼もう!!」
三週間の旅の果てやっとロマンナの森に着いたセルトは大きな声をあげてエルフの名前を呼んだ。
「一体何者だ!? 貴様!!」
すると一人の男のエルフが現れた。
「俺はこの森の門番をしている。 ジデク・ロマンナ。 人間何しにこの森へ来た!?」
ジデクは剣を抜いてセルトに詰め寄った。
「俺は勇者セルト! 遠雷の魔王カリュゲドゥスを討ち果たした者だ!!」
ジデクにそう自己紹介をしてセルトは笑う。
「なっ!? あの遠雷の魔王を倒したのか!? 貴様」
ジデクは驚きの声を上げた。
「ああ。 三週間前に名もない森で決着をつけた」
セルトは淡々とそう言った。
「くぅ!? 遠雷の魔王が死んだとなると俺達亜人連合はどうなるんだ!? カチフゲ一族との同盟とも危うくなるぞ!? 俺達亜人族を滅ぼす気か? 勇者ぁぁぁぁぁ!!」
ジデクは髪をかき乱しながら錯乱した。
「違う俺達は戦争をしに来たんじゃない!! 戦争を止めに来たんだ!!」
セルトが叫んだ。
「うるさい! 忘れたとは言わせないぞ! 三年前我らのエルフの魔導士の母! ラミレーナ・エレシュトン様を殺した貴様を許すわけにはいかぬ!!
皆!! 勇者だ!! 勇者が攻めて来たぞ!!」
ジデクは仲間のエルフ達を呼んで数に物を言わせて襲いかかって来た。
「くっ。 ……言葉では止まってくれないか」
セルトは落胆したが瞳は諦めていなかった。
「ルイマン、ゴルグレイ、リーリフ、マリース力を貸してくれ!」
セルトは後ろにいる仲間達に声を掛けた。
「ふん。 力を貸してやる」
「俺様の技を見せてやるぜ!!」
「あたしの魔法の力見せてあげる!」
「怪我をしたらエルフの方も治しますね?」
こうしてこのエルフと勇者セルトの戦いは勇妖の三日間として後世に語り継がれた。
「はぁはぁ。 勇者セルト!! 何故殺さない!!」
四日目の朝の事だった。
ジデクは勇者セルトに対して激昂していた。
殺しはせずむしろ気絶程度に力を収める勇者に腹立たしい怒りを抱いていた。
「言っただろう!! 戦争はしない!! 俺はカリュゲドゥスと約束したんだ! 平和な世界を作るって!」
セルトは剣を杖にして立ち上がった。
「俺は果たすんだ! 亜人も人間も関係ない平和な世界を生まれ変わったあいつに楽しんで欲しいこれはわがままか? 戦士ジデク!」
「それほどまでにカリュゲドゥスとの戦いはお前を変えたのか?」
「ああ、あいつは強かったよ。 俺が全力の一撃を入れても平然としてるし、リーリフの魔法だってかなりの威力はあるはずなのに全然効かないし、ゴルグレイと殴り合って平気で笑ってる奴だった。 けらどあいつとは友達になれたかもしれないんだ。 あいつは多分ひとりぼっちだった。 家族と言える人がいたかもしれない。 あいつの強さは努力を感じたんだ何かを守りたいって言う思いが少し俺には感じた。 ……感じたんだ」
そう言ってセルトは剣を地面に刺した。
「もうやめようジデク。 四年間俺達が戦争する理由はなんだ?」
「……我が偉大な魔道士の母ラミレーナ・エレシュトン様の里であるエレシュトンの里森を壊した人間共が憎い!! 彼女はエルフ族の中でも偉大だった!! たくさんのエルフの血族を産み育てられた偉大なエルフの母だ!! 我らロマンナ一族もその遠き血族の一つ!! 彼女の愛を踏み躙った貴様らが許せぬ!!」
唇を強く噛んで血を流しながら地面を殴ってジデクは泣いた。
「それに獣人族のカチフゲ一族もそうだ。 謎の黒い人間の集団に各、里と村を滅ぼされ、その数を減らした。 さらに昔カチフゲ一族に才能迫ると言われたロウツ兄妹の村も人間の仕業によって死んだと聞く。 噂ではその戦いで雷が轟いたと聞くが真相はわからん」
ジデクは俯いた。
「俺達はお前らを許せない!! 許せないんだ!!」
「……」
セルトはジデクを見ながら無言になった。
するとリーリフがジデクに近寄り膝をついて
寄り添った。
「あたしの村もねカリュゲドゥスによって滅ぼされたの。 あたしもカリュゲドゥスに対してそんな怒りをぶちまけたわ。 するとあいつなんて言ったと思う?」
「なんと言った? 遠雷の魔王は」
「自分の魂が滅ぶまで地獄の責苦を受けるって言ったのよ」
「……それは」
ジデクは絶句した。
あの恐怖の塊のような男がそんな事を言ったのか。
どんな敵でも笑って屠るあの魔王が。
「だからあたし怖くなっちゃた」
「何が」
ジデクは尋ねたその言葉の続きを。
「あいつの今後の一生を決めてしまったんだって」
リーリフをそう言って俯いた。
「あいつ多分生まれ変わっても一生引きずるわ。 あいつは何かをする度にあたしの言葉と顔を思い出す。 自分のやる事なす事に自罰的になって後ろ向きになって幸せにしたい人も遠ざけて傷つけてしまう。あいつは多分来世で苦しみながら生きる自分を憎んで生き続ける。 そんな事もうさせない!! だから憎しみによる責苦はこれで最後にする。 ちゃんと相手の話も聞いて未来に進めるようにする!!」
そう言うとリーリフは泣き始めた。
「あたしはそのラミレーナ・エレシュトンの里を壊した人じゃないけれど謝らせて。 あなたの里を壊してごめんなさい。 奪って、犯して、大切な家族や兄弟そして恋人を殺してしまってごめんなさい。 あたしもあなた達から罰を受ける。だからもう戦いをやめましょう? 明日を見る為に未来を守るために」
そう言ってジデクの手をリーリフは取った。
「う、うぐぉうぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
こうしてエルフの憎しみは静まった。




