食堂と喧嘩
「じゃーんここが食堂です!」
スタリナが大きく手の平を食堂に向けた。
「おおー」
「すげー」
「広いね!」
新入生達は広い食堂を見て驚嘆な声を上げる。
「さてここセルト冒険者学院はなんとバイキング制度です!! 好きに取って好きに食べてね!!
あっ、後しっかりと取った分は全部食べてね? 食べなかったら料理長がカンカンに怒るから! 食事の時間は休憩も含めて一時間だからね返事は?」
「「「はーい」」」
「後食べ終わったら一年生の教室に行くからよろしくね!」
「「「わかりました!」」」
「じゃあ食事をどうぞ!」
「やった!」
「はらぺこだよ」
「俺、朝からなんも食ってねーんだよなぁ」
新入生達は揃って声を上げて次々と料理を取りに料理台に殺到し始めた。
「好きに食べていいとはいえどうしたらものか」
「カリュー君。 一緒に料理を取りに行かない?」
「ああいいぞ」
カリュゲドゥスは目の前に広がる料理の数々を見て悩んでいると隣にいるウェイラから声を掛けられて一緒に料理を選ぶ事にした。
「いっぱいあるな本当に」
「ええ本当に」
カリュゲドゥスはとりあえずお盆を手に取り、フォークを取った。その後皿の上に肉料理を乗っけて、野菜を大盛りに盛り付けてフルーツとパンを選んだ。
「こんなものだろう。 ウェイラ料理を取ったか? そろそろ席を取りに行こうと思うのだが」
「うんいいよ座ろ?」
カリュゲドゥスが後ろを振り向くと皿の上にパン五日とシチューに肉のパイ十個に野菜、そして数多くのフルーツを乗っけたお盆を持ったウェイラの姿があった。
「……ウェイラ胃もたれしないかこんな多い量の食事は?」
「せっかくだし結構食べてみようかなって」
ウェイラの胃の心配をすると、どうやらウェイラはこの膨大な量の昼ご飯を食べるつもりらしい。
「まぁ良いかウェイラの食事なのだし。 さぁ席に座ろう」
「うん」
そう言って二人で並んで食べれそうな席を見つけて座った。
すると後ろから声が聞こえた。
「えっ? ロウツ! ウェイラなんで!?」
「うん?」
背後を振り返ると赤い髪を三つ編みにしたエルフのブリュズがカリュゲドゥス達を見つけて驚いていた。
「「あっ」」
友達との再会に思わずカリュゲドゥスとウェイラも声を揃えて驚いた。
「おいどうしたんだよブリュズ三人で座れる席を見つけたってぞ……って、おいカリュゲドゥスとウェイラじゃねーか!?」
「カリューお兄ちゃん!? ウェイラ姉ちゃん!?」
するとブリュズの背後からトルムとリティーも揃って顔を出し、カリュゲドゥス達を見つけて驚きの声ををあげた。
「ロウツ! 貴方、試験失格になったんじゃないの!? なんでこの学院に!?」
「あはは」
「話せば長くなっちゃうもんね? みんなで食べながら話そっか?」
ブリュズが思わずカリュゲドゥスの肩を揺さぶって疑問をぶつけて来たので思わず笑いを浮かべる事しか出来なかった。
そんな苦笑いするカリュゲドゥスを何が面白いのかウェイラが優しく微笑みながら席を立ち上がり、みんなが座れる席に移動を始めた。
「へー理事長直筆の推薦入学。やるじゃない!」
「へっ、そりゃあ奇跡だな」
「すごいです!!」
「運に恵まれただけなのだがな」
カリュゲドゥスは事の顛末を話すとブリュズ達は自分事のようにカリュゲドゥスの推薦入学を喜んでくれた。
「本当に良かったよね。 セルト冒険者学院に入学出来て」
そんな事の顛末を話している間にウェイラは自身の取った料理を全て平らげて、いつの間に取って来たのかケーキを食べながら紅茶を飲んでいた。
ちなみにカリュゲドゥスも話ながら食事を食べ終えて、純粋にブリュズ達との雑談を楽しんでいた。
「しかしよぉよく入学出来たぜテメェ」
トルムがいきなり干し肉を頬張ながら喋り出した。
「まぁな」
「へっ、でもこれでやっと俺ら五人でパーティ組んで冒険出来るな!」
「そうね!」
「はい。 嬉しいです」
「良かったね! カリュー君」
「我的にはちゃんと試験だからちゃんと合格してから入学を果たしたかったのだがなぁ。 ままならぬものだな人生は」
「別にいいじゃねえか推薦でも入学は入学これからだぜ。 カリュゲドゥス」
「ああ」
「じゃあみんな食べ終わったし、片付けよっか」
「そうだな」
「あっ? ふざけんなこのクソ猫!! 俺に向かって雑魚だ? ふざけるなよ! 獣人風情が!」
「はぁ、別に事実を言ったまでよ。 後、早くどいてくれる? 料理を下げたいのだけど」
「ラーシャ! あんま人を挑発せんどいてぇな。 せっかくセルト冒険者学院に入ってすぐ問題起こして退学なんて僕は嫌やで」
「あっ? イチャコラしてんじゃねーぞ!! ゴラァ!」
「えっ? 何?」
「喧嘩?」
「やめて欲しいよな」
カリュゲドゥス達が料理を下げようとした時、食堂の真ん中で騒動が起きているようだった。
「どうしたんだろう?」
「チッ。 せっかくカリュゲドゥスと話して飯食って気分が良かったのによ」
「こ、怖いです」
「何? 喧嘩?」
そんな騒動にウェイラはキョトンとし、トルムは不機嫌になり、リティーは恐怖を覚え、ブリュズはどこか呆れながらため息を吐いた。
「……喧嘩か。さて何が原因やら」
カリュゲドゥスはそんな騒動の中心であろう茶髪に糸目の少年と灰色髪の猫獣人の少女そして大人と見紛うほど巨漢な生徒を見つめた。
「おい、くそ獣人テメェ試験で合格した俺が雑魚だってか? ざけんじゃねぇぞ! 俺は実力でこの学院に入ったんだ! テメェら推薦入学組とは違ってな!!」
「別に貴方を雑魚と言っているわけじゃないわ。 この学年の中じゃあ弱そうに見えるわねって言ったのよ」
「それが雑魚って意味だろうが!!」
「まっ、待ってくれや旦那ここは気を落ち着いて!」
「うるせぇ!」
「がっ」
「ロッド!!」
「うるせぇんだよ!! 黙りやがれ俺はこの獣人と話してんだ」
「よくもロッドを許さない!!」
巨漢の生徒は茶髪の少年を殴り飛ばすと、灰色髪の猫獣人の少女は少年が暴力を振るわれた事に怒り、手に魔力を集めて今にも巨漢の生徒に向けて一触即発の空気に食堂は飲まれていた。
「これはいかんな」
「カリュー君?」
カリュゲドゥスは席を立ち上がり騒動の中心の二人へと歩き始めた。
「確かにちょっとやりすぎよね?」
「ああ確かにな」
カリュゲドゥスに同調するようにブリュズとトルムも立ち上がりカリュゲドゥスの背後を歩く。
「おい」
「あっ?」
「もうそこまでにしとけ、せっかくの食事の空気が台無しだ。 これでは皆の会話と食事を楽しむ憩いの空間ではなく戦場の空気だ。 もうやめよ」
「おいオレンジ髪。 横からなんだ? これは俺のプライドの話なんだよ! 横から口出ししてくんじゃねぇよ!」
「確かに。 今、我はお前に口出しをしているだが周りを見てみよ」
「ああ?」
巨漢の生徒はカリュゲドゥスの言葉に反応して周りを見るすると周りの目と食堂の空気は恐怖と不機嫌一色に染まっていた。
「チッだからなんだよ!」
それでも巨漢の生徒は気がすまないのかカリュゲドゥスに噛みついてきた。
「もうやめなさい。 あなたの言い分もわからなくないけど流石に場所が悪過ぎるわ」
「ああそうだな。 せっかくの飯の時間の空気を悪くすんじゃねぇよ。それでも暴れ足りねぇのならぶちのめすぞ。 あっ?」
後ろを振り返ると槍を軽く構えたブリュズと今にも剣を抜きかけて、威圧感を醸し出すトルムの姿があった。
「て、テメェら昨日の!? 思い出した! あん時小人のガキといじめてた連中に絡んでた奴らか!? そして黒髪のテメェ。 試験官と互角にやり合っていた奴か!?」
「あっ? そうだけどなにか?」
どうやら昨日のリティーをいじめていた件とトルムとリオナの戦いを見ていたらしく巨漢の生徒の顔は驚きの表情を出した。
「チッ。イかれた連中に絡むほど暇じゃねぇよじゃあな!!」
どうやらトルムの殺気と実力に恐れをなして巨漢の生徒は尻尾巻いて逃げた。
「ありがとう。 ブリュズ。 トルムお陰で穏便に事を収めれた」
「ふふーん別にー? あたし達軽く煽っただけだし?」
「せっかくテメェとの再会の感動をあんなやろーの喧嘩で穢されたくねぇだけだ。 ケッ。 一発殴りゃあよかった」
カリュゲドゥスの言葉にブリュズは鼻を鳴らし、トルムはどこか不貞腐れた態度をとった。
「ありがとう。 おかげで助かったわ君達。本当にありがとな。 僕はロッド・ベロー。 隣におる猫
の獣人の子はラーシャ・カチフゲ」
「別にあんな奴私の魔法でどうにかなったんだけど」
「こらラーシャ! せっかくこの人達が僕らを助けてくれたんやで! お礼言わなあかんで」
「別に助けてって言ってないし」
「ああもう! しょがないなぁ。 すまんな君達ラーシャは素直じゃないんや堪忍な」
「やめてロッド謝らないで!!」
ロッドが謝り頭を下げるとラーシャが取り乱してロッドの頭を無理やりあげようとした。
「別にいい。 せっかくの食事の場の空気を悪くしたくなかったからな。 改めて我はカリュゲドゥスロウツ」
「ブリュズ・ロマンナよ!」
「……トルム・フォルス」
「リティー・ワースです。 よろしくお願いしますロッドさん。ラーシャさん」
「ウェイラ・ティルカ」
「ウェイラ、リティーいつのまに」
「えへへ。 あっ、食器片付けておいたからみんなの分」
「ありがとう」
カリュゲドゥスから順番に自己紹介をすると突然背後からウェイラとリティーの姿が現れて、ロッド達に自己紹介をする。
しかもこっそりみんなの食器も片付けてくれたようだった。
「リティーも手伝いました。 頭を撫でてくれると嬉しいです。 カリューお兄ちゃん」
「頭撫でるぞ?」
「いいですよ?」
「では、お言葉に甘えて。 ありがとうリティーみんなの皿を片付けてくれて」
「えへへ」
すると突然目の前にリティーが現れ、頭を撫でる事を要求されたのでカリュゲドゥスはリティーに同意を取ってから頭を撫でてやるとリティーは幸せそうな顔を綻ばせた。
「カリュゲドゥス君の所の仲間達は愉快やな。 僕らも仲間に混ざってもええ? 君とおったらなんか楽しい事起きそうやん?」
「ちょっとロッド!! 何を言っているの!? こんなヘンテコ集団というかパーティに入るつもり!?」
「別に悪い人達に見えんし、いいと思うんやけど
ラーシャは嫌?」
「……こんな奴らといたら胃に穴が空きそうだけどでもまぁいいわ仲間になってあげる。 あなた達のためじゃないわ。 ロッドのためよ? そこを勘違いしないでちょうだい」
ロッドは愉快そうに笑いながら手を伸ばして仲間に入る提案をして来た。
ラーシャはロッドの発言が意外だったのか驚きの表情でロッドの事を凝視していたが自分なりに感情に折り合いをつけてカリュゲドゥス達のパーティメンバー入りを決めてくれたようだ。
「ああもちろん。 ウェイラ達もいいか?」
「賛成!」
「ええいいわよ!」
「まぁ別にいんじゃねぇか?」
「仲間が増える事は嬉しいです!」
そんなロッドの提案にカリュゲドゥスは勝手に頷いてその後皆に同意を取った。
するとウェイラ達も両手を叩いて喜んだ。
「よろしく頼むぞロッド」
「よろしくな! カリュゲドゥス君」
カリュゲドゥスとロッドは握手と笑顔を交わした。
「みんな! 教室に向かうよ! 集まって!」
「行くか」
「うん」
「そうね」
「おう」
「はい!」
「そやね」
「ふん」
そうやって握手を交わしているとスタリナの声が聞こえて来てカリュゲドゥス達はスタリナと新入生達が集まっている所へ歩いて行った。
「さて、みんな集まったかな?」
「「「はーい」」」
「それじゃあ行こう!」
こうして新入生一同はスタリナに先導されながら教室へ向かった。