入学式と先輩
「ここは?」
カリュゲドゥスが目を開けるとそこは一週間前に受けたセルト冒険者学院の目の前だった。
「カリュー君!」
後ろを振り返るとウェイラが手を振ってカリュゲドゥスに近寄って来た。
「大丈夫? 怪我はない?」
ウェイラの目には恐れと不安がいっぱいで今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「いや大丈夫だ。 ……それよりも目の前に学校があるのだが」
カリュゲドゥスは思わず目をぱちぱちさせながら目の前の建物を疑った。
「……うん。 あるね」
ウェイラもさっきまでののどかな自然の風景からいきなり学校まで転移して来てとても驚いているらしい。
そこでカリュゲドゥスは思い出した。
『カリュゲドゥス奴の挑発に乗ってはいけません!! 遠い所へ逃げてください』
聖女マリースがいきなり夜の砂漠から見知らぬ森へとカリュゲドゥスを転移させた事を。
そして少しずつこの五百年間にあった事を知っていて欲しいと言っていた事を。
「……ウェイラ」
「何?」
「この世界で転移魔法を使える者はいるのか?」
「えっ? えーと、確かアルミア王国三大冒険者学校の理事長達なら出来ると思うけど」
人差し指を自身のこめかみに当てながら思い出して、カリュゲドゥスの質問に答えてくれた。
「他に使える者は?」
「分からないなぁ。 ……多分探せばどこかにいると思うけど」
五百年前の時代は普通にエルフやアルミア王国に仕えている騎士や魔法使いは転移魔法を当たり前のように使っていたのだが今の時代ではどうやら草の根を掻き分けて探さなければいけないぐらい転移魔法の使い手は見つからないらしい。
「あっ! あの時の受験者君!」
ふとそんな事を考えているとカリュゲドゥスが試験を受けた時に受付してた少女が声を掛けてくれた。
「試験合格おめでとう!! あっ隣にいるのは彼女かなぁ? やるぅ」
カリュゲドゥスのほっぺたをつんつんしながらからかってくる。
「おい、やめよ」
「そっ、そうです!!私達まだ彼女彼氏の関係じゃありません!!」
カリュゲドゥスはやや気まずいそうな顔をするとウェイラもカリュゲドゥスに釣られて赤面し、声を荒げて否定した。
「ふーんでもわたしから見たらお似合いに見えるんだけどなぁ。 あ、わたしジャネット・リストリー。セルト冒険者学院の先輩よろしくね」
「ああよろしく頼むジャネット先輩」
ジャネットが手を出して来たのでカリュゲドゥスも手を伸ばして握手を交わした。
「えーと。隣の彼女さんは?」
「だから!! 彼女じゃありません!! 私はウェイラ・ティルカです!!」
ジャネットがウェイラを見るとウェイラはまた顔を赤くして吠えるように自己紹介をした。
「ところでジャネット先輩」
「いやジャネットでいいよカリュゲドゥス君。 君にはそう呼ばれたいな?」
カリュゲドゥスはジャネットの名前を呼ぶとジャネットは顔を近づけてカリュゲドゥスの耳元で囁くように言った。
「うおっ」
カリュゲドゥスは耳元で囁かれて思わず後退り赤面した。
「ごめんごめん。 少しからかい過ぎちゃった」
そんなカリュゲドゥスを見ながらジャネットがちろりと舌を出してふざけた。
「ちょっとジャネット先輩。 カリュー君をあまりからかわないでください!!」
そんな状況にウェイラが両腕を広げてカリュゲドゥスの目の前に立ち塞がった。
「いや。 ごめんねウェイラちゃん。 カリュゲドゥス君をからかうのははとても楽しいもので」
「むぅ」
ジャネットが手をヒラヒラと振りながら言うとウェイラは膨れ顔でジャネットを睨みつける。
すると学院の鐘が大きく鳴り響いた。
「あっ、まずい。 ウェイラちゃん。カリュゲドゥス君。 早く学院の闘技場の中に入って!! もう少しで理事長の挨拶が始まる!!」
「「えっ!?」」
ジャネットの声にカリュゲドゥスとウェイラは、驚きの声を上げてバタバタと走りながら闘技場の中へと走って行った。
「今日からセルト冒険者学院に入学する新入生の皆様こんにちは、セルト冒険者学院の理事長テルミシア・クダンと申します。 皆さんが我がライバル校であるロシュリア学都やリゼルト学園ではなくセルト冒険者学院を選んでくださり誠にありがとうございます。 学校関係者としてこれほど誇らしい事はありません本当にありがとうございます」
「あっ。 もう挨拶始まってる!!」
「まずいな」
カリュゲドゥスとウェイラが学院の中に入るとおそらく理事長だと思われるエルフの女性が入学演説をしていた。
カリュゲドゥスとウェイラはこっそり生徒達の列の後ろに立って理事長の話を聞き始める。
「さて、今年も推薦入学者百名、試験合格者百名からなる計二百名の新入生の皆さん。 今日から皆様は冒険者ライセンスを持ち、冒険者階位十二位の立場を持った冒険者でありこのセルト冒険者学院の生徒です。 同級生であらながら時にライバルとして、時に死戦を共にする仲間達です。 この学校でしか味わえない体験を経験して、様々な先輩達から学び取り、勇敢な冒険者になる事を私は期待しています。 コホン。では改めて言いましょう。 ようこそセルト冒険者学院へ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」
テルミシアが両手を上げて叫ぶと手の平から火の魔法を放って花火を打ち上げた。
そのテルミシアの演説に新入生達は声を上げて吠えた。
「これで私の挨拶を終わります。 では生徒会長、新入生を食堂に案内して」
「分かりました。 理事長!」
テルミシアはそんな熱狂冷めぬ新入生達を見ながら後ろに控えている生徒会の一員らしき人物に声を掛けて闘技場の外へ出ていった。
「こんにちは!!」
「「「うおっ!?」」」
理事長が去ると新入生達の目の前にはピンク髪の生徒が現れて闘技場が震えるほどの大きな声を出すと新入生達はあまりの声の大きさに驚いて静かになった。
「みんな改めてこんにちは! 私このセルト冒険者学院の生徒会長をしている三年生スタリニナ・ツェルンだよ! よろしくね」
スタリニナはまるでアイドルのような挨拶で新入生達の心を掴んだ。
「えっと。 とりあえず食堂に案内するね。 ついてきて!」
そう言うと手招きしながらスタリニナは闘技場を出て行ってしまった。
「早くスタリニナ会長を追おうぜ!」
「ええ」
「おう」
一人の新入生が声を上げて、スタリニナについていくと他の新入生の達もついて行き始めた。
「これはもはや行進だな」
「行こう? カリュー君」
そんな行進とも言える大移動に驚きながらカリュゲドゥスはウェイラに手を引かれながら一年生の教室に向かった。