夕日の友情
「はぁ失格になってしてしまったな」
カリュゲドゥスは試験の残り時間約八分で失格になってしまい闘技場の応援席に転移してしまった。
「あのう隣いいですか?」
「ん?」
カリュゲドゥスが後ろを振り向くと青髪の気弱そうな眼鏡をかけたそばかすが目立つ少女が声をかけてきた。
「どうぞ」
カリュゲドゥスは紳士的な態度で接しながら、座るのを催促するように自身の右隣の席を手をポンポンと叩いた。
「じゃあ失礼します」
メガネの少女はオロオロしながらカリュゲドゥスの隣に座った。
「残念でしたね。後もう少しで合格だったのに」
「まぁあいつらの態度が気に触ったからなしょうがない」
カリュゲドゥスは腕を組みながら闘技場を見渡してブリュズとトルムを見つけて安堵する。
カリュゲドゥスが助けた少女がブリュズに手を引かれて逃げ回り、リオナの相手をトルムがしており十五歳ながらリオナとほぼ五角の立ち回りを見せていた。
「これならあの三人は合格できるな」
カリュゲドゥスは残り一分を切った砂時計を見て三人の合格を確信した。
「貴方は失格して悔しくないんですか?」
水色髪の少女が不思議そうにカリュゲドゥスを見つめてくる。
「まぁ悔しくはあるがまぁしょうがない。我の選んだ道だこの失格を受け入れるさ」
「じゃあそんな気高い貴方にこれを渡します。 あっ、ちゃんと家に着いてから開封してくださいね?」
そう言いながら青髪の少女は右手の人差し指を唇に当てながら左手に持った緑色の紙封筒を渡してきた。
「なんだこれ? おい」
カリュゲドゥスはどこかで見たことのある封筒を手に取って少女に声を掛けたが封筒を手渡した少女はどこにもいなかった。
すると同時に闘技場から大きな声が響いた。
「この闘技場に残った百名をセルト冒険者学院の合格者とし、セルト冒険者学院の入試試験を終了とする! 明日の正午に迎えの馬車が来てそのまま学院生活を送る事になるので寮生活の準備をしておくように。 解散!」
こうしてカリュゲドゥスが挑んだセルト冒険者学院入学試験は幕を閉じた。
「終わったなぁ」
カリュゲドゥスはすっかり夕日に照らされた空を見上げながらカリュゲドゥスはポツリとつぶやいた。
「カリュー君! どうだった?」
カリュゲドゥスがぼんやりしているとウェイラが小走りで駆け寄って来てくれた。
「ウェイラすまない失格になった」
「……えっ」
カリュゲドゥスは申し訳なさそうな声を出して自身が失格になった事実を話した。
「う、嘘だよカリュー君の実力なら絶対合格するに決まってっ」
「ウェイラ落ち着け。我は失格になった。試験に落ちたのだ」
カリュゲドゥスが試験失格になった事実にウェイラが動揺を隠せず顔を涙に染めるがカリュゲドゥスはウェイラの両肩に手を置いて宥めた。
「う、うぅ」
「すまないウェイラ本当にすまない」
「ふーんロウツ彼女いたんだやるぅ」
泣いて膝から崩れ落ちたウェイラを宥めていると背後から悲しげな雰囲気をぶち壊す呑気な声がカリュゲドゥスの耳に響いた。
「何しに来たブリュズ」
あまりにもの空気の読まなさにやや呆れながらジト目でカリュゲドゥスはブリュズを軽く睨む。
「別にあたし達試験に合格したって報告しに来ただけよロウツ」
「そうかおめでとう」
ブリュズのドヤ顔を見ながらカリュゲドゥスは心からの賞賛を送った。
「本当ならロウツと一緒に合格して学院で一緒にパーティーを組みたかったわ」
「それは残念だな」
「そうだぜ。 俺も少しはテメェを見直したところなのによ」
「素直ではないなトルム」
「はっ。うっせぇよカリュゲドゥス。テメェの実力がどんなもんか見てみたかったのによ」
ブリュズの隣にいたトルムも悪態をつきながらやや素直になれないながらもどうやらカリュゲドゥスを評価してくれたらしい。
「カ、カリュー君この人達は?」
ウェイラが涙を軽く引っ込めながら困惑した声をあげて戸惑いの声を上げた。
「ああ彼らは我と同じく試験を受けていたいわゆる試験仲間という奴だ。赤髪のエルフがブリュズで黒髪の少年がトルムだ」
カリュゲドゥスはウェイラに試験を共にした仲間を紹介した。
「ええと。ご機嫌よう。ブリュズちゃん、トルム君私はタルゼ・ティルカの娘にして此度皆さんと同じ学院で学ぶ学友となるウェイ・ラティルカと申します友達のカリュゲドゥス・ロウツがお世話になりました」
ウェイラは優雅なカーテンシーを決めてブリュズとトルムの心を惹きつけた。
「す、すごいあのティルカ家! アルミア王国の参謀文官と言われるティルカ家当主タルゼ・ティルカの娘!?」
「マジかよ大物じゃねーか!?」
ブリュズとトルムは驚愕に顔を染めてすぐさま膝立ちになり、まるでウェイラを女王陛下のように傅いた。
「た、大変失礼しましたウェイラ・ティルカ様数々のご無礼をお許しください処刑するのはお待ちくださいどうかお命だけは奪わないで頂きたく」
「や、やめて本当にやめて! わ、私は偉くないから偉いのはお父様だから!?」
ブリュズがまるで忠義の騎士のような言葉を告げてると、ウェイラの顔を羞恥心で赤面に染まり手をブンブンと振って錯乱になりながらも叫び声を上げた。
「うぅ、カリュー君助けてぇ」
ウェイラは恥ずかしいあまり涙目となりカリュゲドゥスに助け舟を求め始めた。
「ウェイラ。 ブリュズの奴は君をからかっているだけだ我には分かる」
「へ?」
「おいブリュズ初対面の奴からかうのやめろって俺言ったよな? ブリュズ流石にやりすぎだぞ」
「てへ。 ごめんねトルム、ウェイラ」
ブリュズはおちゃらけながらウィンクして謝罪をした。
「許さない! ブリュズ私と決闘しなさい! 私をからかった事を後悔させてあげる!」
「ひっ、ふぎゃ」
「ん?」
ウェイラがブリュズのおちゃらけた態度に怒って魔力を昂らせた時だった。
カリュゲドゥスが後ろを振り向くと闘技場で魔石を奪われていた少女がウェイラの魔力の昂りに驚いて少女が顔を地面にぶつけていた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」
カリュゲドゥスが少女に手を差し出すと少女は手を取って立ち上がった。
「名乗りがまだだったな我はカリュゲドゥス・ロウツ。 親しい者はカリューと呼ぶ」
「リティーはリティー・ワース。 見ての通り……竜人族と小人族のハーフ。あ、あのカリューお兄ちゃんさっきはごめんなさいリティーのせいでカリューお兄ちゃんが失格になっちゃた」
目の前の少女はリティーというらしい。
格好からしておそらく神官か魔法使いなのだろうとカリュゲドゥスは観察して悟った。
「別にリティーのせいではないだろう? 我が選んでやった事だ気にするな」
「で、でも」
「カリュー君その可愛い子誰!? 私に紹介させて!」
「ウェイラあなた強いのね。 がくっ」
「ブリュズ大丈夫か!? しっかりしろ!」
「ひっ!?」
カリュゲドゥスが落ち込んでいるリティーを慰めていると、恐らくブリュズと決闘をして勝利したであろうウェイラが手に木刀を持ちながらリティーを見つけると可愛い小動物を見る様な眼をしながらカリュゲドゥスとリティーに向かって歩いてくるが後ろで気絶しているブリュズとややひび割れた地面を見て、ウェイラの存在が恐ろしく見えたのかリティーはすっかりウェイラに恐怖を覚えてカリュゲドゥスの背中に隠れてしまった。
「大丈夫だよ。 私はウェイラ・ティルカ 貴方の名前を教えて?」
「ひっ!?」
ウェイラは比較的に優しい声でリティーに声を掛けるがリティーにはすでにブリュズに勝ち、魔力の昂りを見せたウェイラがとてつもない化け物に見えてしょうがなく声を上げられないほどに恐怖を抱いていた。
「大丈夫だリティー。 君はウェイラとは姉妹のように仲良くなれる子だ。後ウェイラ殺気を抑えろ木刀は回収させてもらう」
「はーい」
そんな怯えているリティーに励ましの言葉を掛け、ウェイラからは恐らくリティーの恐怖の対象であろう木刀を取り上げるとウェイラは拗ねて頬を膨らませた。
「リティーはリティー・ワースと言いますよろしくお願いします。 ウェイラお姉ちゃん」
「……お姉ちゃん」
「?」
「うん、お姉ちゃんって呼んでいいよ! 私っ、今日からリティーのお姉ちゃんになるから! 私の家にお持ち帰りしたい!」
「きゅう」
リティーのお姉ちゃん呼びが嬉しかったのかウェイラは感動のあまり嬉し涙を流しながらリティーを強く抱きしめてリティーの体はウェイラの溢れんばかりの力ある愛の抱擁に体が耐えきれず意識がどこかへ行ってしまった。
「このセルト冒険者学園に合格した者達の未来は大丈夫なのか?」
一人は姉妹愛に目覚めて暴走し、一人は調子に乗って痛い目を見て、一人は幼馴染の介護に奔走し、一人は意識が消えて気絶した。
そんな光景を見てカリュゲドゥスはどこか悟った表情でポツリと呟くのだった。
「タルゼを見つけれてよかった」
「うう、リティー私の妹になって!」
「ウェイラ帰るよ。それでは試験合格者諸君また学園で会おうカリュゲドゥス君も帰ろうか」
「そうだな。……なんかどっと疲れた」
「学院で待っているわ。 ウェイラ!」
「必ずパーティー組もうぜ!」
「じゃあねウェイラお姉ちゃん! カリューお兄ちゃん!」
結局自力での事態収束を諦めたカリュゲドゥスは今日の夜ご飯を買っていたタルゼを見つけて事態収束を手伝って貰った。
結局タルゼのやってくれた事といえばリティーをウェイラの包容から解放して自身の肩に担ぎ上げてくれただけなのだがそれだけで混沌と化した地獄から解放されてカリュゲドゥスは安堵した。
そしてそのまま家に帰りどっと疲れたカリュゲドゥスは風呂にも入らずベットにダイブして深い眠りについた。
「ふぁ朝か。 はやいな」
カリュゲドゥスは顔を洗ってから食堂に行くと紅茶を嗜んでいたタルゼの姿があった。
「おはようカリュゲドゥス君目覚めはどうかな?」
「まぁな」
頭を掻きあくびを噛み締めながらタルゼに返事を返した。
「失格になったらしいね? リティー君を助けるために」
「ああ」
優雅に紅茶を飲みながらタルゼはでカリュゲドゥスに声を掛けた。
「これから君はどうするんだい?」
「……そういえば」
「うん?」
カリュゲドゥスは心配するタルゼをよそに昨日青髪にメガネをかけた少女に貰った緑色の封筒を思い出してポケットの中を漁る。
「タルゼ。 昨日こんなものを渡された」
カリュゲドゥスは緑色の紙封筒をタルゼに見せると、タルゼは驚愕の顔を見せた。
「そ、それは! 推薦入学書の中でもそれぞれの学院一名しか渡されない理事長直筆推薦書だと!? 都市伝説でしか聞いた事ないがまさか実在したとは。 ……ウェイラにも見せてあげなければ学院に行く準備をして外で待っていなさい」
寝間着から洋服に着替え、学院の準備を整えて外でとウェイラとタルゼをしばらく待つとウェイラとタルゼが出て来てウェイラが駆け足でカリュゲドゥスのそばに寄って来た。
「カリュー君! 学院長直筆の推薦証貰ったって本当!?」
「どうやらそうらしいな。 何故失格した我に持たせてくれたかは分からぬが」
「すごいすごい! カリュー君はやっぱりすごいよ!」
「ああ私も三十五年生きて来た中でもとてつもない奇跡に巡り会えているよ」
ウェイラとタルゼがカリュゲドゥスの理事長直筆推薦合格に感動していると迎えの馬車が到着した。
「学院の迎えの馬車だよ。試験合格書か推薦入学書を提示してくれ」
学院の迎えの大柄な男がウェイラに声を掛けて入学書の提示を求めて来た。
「はい」
「ん」
ウェイラは推薦入学書を提示し、カリュゲドゥスは理事長直筆の推薦入学書らしき物であるらしい緑の封筒を見せつける。
「おい坊主その緑の封筒なんだよ冷やかしならやめてくれよ」
どうやら迎えの使者は学院長直筆推薦入学書の存在を知らないらしい。
「まぁしょうがない開封するか」
カリュゲドゥスが封筒と開封したその時だ。
「え?」
「嘘」
「マジか!?」
「なんと!?」
馬車の使者とウェイラそしてカリュゲドゥスの足元に緑の魔法陣が現れ、カリュゲドゥスを転移させた。