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遠雷の魔王人生を生きる  作者: 宅間晋作
第二章 冒険者学院入学編
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セルト冒険者学院試験

「いやはやカリュゲドゥス君。 試験当日の朝まで寝ているなんて受験者の中じゃあ君だけだろうね?」


 タルゼが馬の手綱を握りながら苦笑して右に座るカリュゲドゥスを見た。


「いやすまぬ。 タルゼやはり剣奴時代の疲れが残っていたみたいでな。 ぐっすりと寝てしまったようだ」


 カリュゲドゥスは必死にそれらしい言葉をでっちあげてウェイラの修行のやらかしをフォローしながら客席の中にいるウェイラの顔を見てみるとカリュゲドゥスに向けて手を合わせてちろりと舌を出しているのが見えた。


「まぁよく寝て元気なら今日の試験も大丈夫そうだね」


「我は必ずや合格してセルト冒険者学院に入学してみせる」


 拳を握ってカリュゲドゥスはタルゼに向けて突き出した。


「そろそろ見えてきたよあれがセルト冒険者学院だ」


 タルゼに催促されて前を見てみるとまるで城と見間違うぐらいに大きい建物が見えてきてカリュゲドゥスは目を見開いた。


「……まるでお城だ」


 カリュゲゥスは自身の口から出た言葉が恥ずかしがったがそんな様子をタルゼは微笑んで見つめてくる。


「な、なんだ?」


 カリュゲドゥスは赤面しながらタルゼを見るがタルゼは微笑むだけでカリュゲドゥスの発言に対してうんともすんとも言わなかった。


「別に? それよりも早く着かないと学校から怒られちゃうからね 振り落とされないよう気をつけてね?」


 タルゼがそういうと馬車を加速させてセルト冒険者学園へとアクセル全開で向かうのであった。


「気持ち悪い」


 セルト冒険者学院に着いた途端にカリュゲドゥスの発した言葉はセルト冒険者学校試験の不安な声ではなかった。

 馬車のスピードに酔い一歩もその場から動けないカリュゲドゥス自身が情けなくて泣きたくなるのを必死で堪える。


「もうお父様、カリュー君の体調を考えて馬車の運転をしてください! カリュー君大丈夫?」


「うん大丈夫だウェイラ。 君が背中をさすってくれるおかげでなんとか気分が収まっている」


 そんな状態を心配してウェイラが馬車酔いでグロッキーな状態のカリュゲドゥスをさすりながら父への怒りを爆発させた。


「いやーごめんねウェイラ久しぶりに君と一緒に馬車に乗ったからつい嬉しくって」


「カリュー君大丈夫? 立ち上がれる? お水飲む?」


「ありがとうウェイラ。 我は大丈夫だ。 水なぞ飲まなくとも 両腕が切り落とされない限り我は無敵だ」


「何言っているのカリュー君!? 本当に大丈夫なの!?」


 デレデレ顔で親バカを発揮しているタルゼを無視してカリュゲドゥスの世話を焼くウェイラに対してやんわりウェイラのお節介を断ってカリュゲドゥスは立ち上がり試験会場へと足を運ぶ。


「頑張ってね!」


「武運を祈っているよ」


「ああ。 では行ってくる」



 ウェイラとタルゼに見送られてカリュゲドゥスはセルト冒険者敷地内へと足を踏み入れた。


「こんにちは。 セルト冒険者学院の受験生かな?」


「こんにちは。 セルト冒険者学院の受験するカリュゲドゥス・ロウツと言う」


「うん分かった。じゃあ受験料の三万セルト持ってる?」


「これでいいか?」


 カリュゲドゥスが中に入ると一人の少女が声を掛けてきたので自己紹介をしつつ、見た感じどうやら試験の受付人に見えたのでタルゼから貰ったセルト冒険者学院の受験料の三万セルトをポケットから出して少女に手渡した。


「うんちょうど三万セルトだね。 確かに受け取りました。 はいこれ試験に必要な魔石だよ魔力を込めて胸に付けて試験会場で待機してね?」


「分かった」


「頑張ってねー」


 カリュゲドゥスは少女に三万セルトを渡すと魔石を手渡されて少女に手を振られて見送られながらカリュゲドゥスは試験会場へ入っていった。


「すごい」


 カリュゲドゥスが中に入ってみると大勢の子供達が広い闘技所の中におり、ざっと見ただけでも三千人以上はいるだろう。


「ほぉすごい賑わいだ」


 カリュゲドゥスが受験者の多さに感激していると受験者が入ってくる闘技場とは反対の扉が開き一人の女性が現れて声をあげた。


「セルト冒険者学院に挑みし受験者達よ! 私は今回入学試験の試験官を務めるリオナ・クダンだ! これより試験ルールを説明する!」


 出てきたリオナ・クダンは動きやすいラフな格好で青い髪をポニーテールにして背中には大剣を腰には木刀を差しているエルフであった。


「ルールは私の攻撃を半刻耐え切る事。 私は魔法を使わずこの木刀と体術のみで受験者である君達と戦う。そして、君達が試験受付で貰った魔石が砕かれたら失格と見なしこの闘技場の観客席に転移して第一次試験終了までこの試験を見学してもらう。 時間は客席にあるあの大きな砂時計が測っているが無理やり時間の短縮などは出来ないから覚悟しておけ。後勝手に受験者同士での戦闘及び相手の魔石を割った場合割った者は不合格とする。 何か質問はあるか?」


「ありません」


 一人の受験生が返答し、リオナは頷いた。


「では試験開始!」


「「「っ!?」」」


 リオナの開始合図と同時に客席に置いてある砂時計がひっくり返り、数十人の受験生がリオナに吹き飛ばされて客席に転移した。


「ま、まじかよ!?」


 一人の受験者は何が起きたか分からず固まり棒立ちになっていた。


「反応が遅いな」


「ぐへっ?」


「きゃあ!?」


 そんな棒立ちの受験生達を次々とリオナは狩っていき一人また一人と失格者が増えていく。


「こ、こんなの横暴だ! ぶへっ」


「これでも加減はしている反応出来ないお前達が悪い」


 一人の受験者がリオネの蹂躙劇に物申したが情けああけなく脱落し、三千人はいたであろう受験者は開始五分で半分以下まで減っていた。


「畜生! ゴジュ!」


「魔力の練りが弱い」


「がはっ」


 一人の受験者がやけになって炎魔法を放ったがリオナの木刀に斬られ炎は霧散し、同時に魔石も砕かれて失格になった。


「約十分足らずで半分以下になったな。今回の受験者は質が悪い」


「ユターブ!」


「アルメ!」


「ラトニヤ!」


「ジンド!」


「だから。 魔力の練りが甘い!」


「「「「ぐわーっ!?」」」」


 受験者達が力を合わせて氷、水、光、土の魔法で応戦するが虚しく、リオナの木刀に魔法は切り伏せられるのと同時に受験者達の魔石は砕かれ失格となった。


「全く。後千三百人くらいか? まぁもっと減るだろうがまぁいい。 かかってこい!」


「畜生! いけっ。 時間を稼ぐんだ皆協力しないとこの試験は合格出来ない! 戦士はタンクになって試験官を引きつけろ! 魔法と回復が使える者は援護を!」


「わかりました!」


「おう!」


「やってやる!」


「はい!」


 一人の貴族らしい少年の号令を合図にそれぞれ受験者達が斧や剣、槍にナイフなどの武器を掲げてリオナに突撃し、時間稼ぎに出た。


「しばらく動かず静観した方がいいな」


 カリュゲドゥスはリオナの戦闘を闘技場の端っこで観察しながら思った。 

 ちらほら受験者達を見て見ると動かずリオナの動きを観察している者達が多くカリュゲドゥスも真似して安易にリオナに近づかず静観の構えをしていた。


 すると背後から声が聞こえた。


「ねぇ君」


「うん?」


 カリュゲドゥスが後ろを振り向くと赤髪に桃色の瞳を宿し、槍を持った三つ編みのエルフと黒髪に琥珀の瞳を宿し、剣を腰に携えた少年が立っていた。


「あたしブリュズ・ロマンナ。隣の黒髪の少年はあたしの幼馴染のトルム・フォルス。 ねぇ、君あたし達と協力しない?」


「おいブリュズこんな得体の知れないやつと手を組むな! 悪いやつだったらどうすんだ!」


 赤髪の三つ編みエルフブリュズと名乗った少女はどうやらカリュゲドゥスと手を組みたがっているのに対し、黒髪の少年のトルム方はカリュゲドゥスと手を組むを反対したいらしい。


「我はカリュゲドゥス・ロウツ。 親しい者はカリューと呼ぶ。 してブリュズ何故我と手を組みたいと思う?」


 カリュゲドゥスはブリュズの意図が分からず質問してみる事にした。


「面白そうだから。 ロウツと一緒に戦うの面白そうってあたしの直感が叫ぶの!」


「だからお前はなんでそう毎度毎度直感で動くんだよブリュズ! これは試験だ! 他の受験者は敵なんだよ!」


「え? トルム? だってこれ合格したら皆同じセルト冒険者学院の同じクラスメイトよ? だったらみんなを守らないいけないわ!」


「グゥゥゥゥ。 確かになァァァァァァ お前はそう言う奴だもんなぁぁぁぁぁ!?」


 ブリュズのあっけらかんとした態度にトルムは顔に手を当てて唸る。


「すまないがお前達は何が出来る? 後、魔力属性も教えて欲しい」


「じゃあ話に乗ってくれるのロウツ? 嬉しいわ!」


 カリュゲドゥスは流れ的に断るのも面倒くさくなってきたのでブリュズの提案に乗ることにするとブリュズはカリュゲドゥスの右手を両手で掴んで飛び跳ねて喜んでくれた。


「えっとねあたしが魔力属性が龍で炎魔法と槍を使うわ。 そしてトルムが剣士で魔力属性は魔力でフォルスだから魔法は使えないけど、めちゃくちゃ強いのよ村じゃ一番強い剣士だったんだから!」


「フォルス? まぁいい我の魔力属性は……呪詛魔力だ。そして攻撃魔法は雷魔法しか使えず補助魔法はディカルを習得しているが呪詛魔力持ちだから自分しか傷を治せぬ。それと空を飛ぶ魔法のキアフと防御魔法のシルガだ」


 フォルスという単語に引っかかりを覚えたがカリュゲドゥスは意識を切り替え自身の出来る事を話し、自身の呪詛魔力について話すか悩んだが結局話す事にした。


「分かった。 ……後十分耐える為の作戦だけど」


「か、返して!」


「気持ち悪りぃ。 こいつ早く脱落しろよ醜いトカゲが!」


「へっ。 こいつ小人族と竜人族のハーフだぜみろよ手が青い鱗だらけだ醜っ」


「そうねキモ」


 ブリュズが作戦を伝えようとしたその時振り向くと金髪に水色の瞳をした背の小さい女の子が自身の魔石を取り返そうと数人グループの受験者に立ち向かっていた。


「ちょっと何をしてんのあいつら。ちょっとこらしめてくる」


「やめろブリュズ受験者同士の戦闘はっ」


 ブリュズが小さな女の子に助太刀しようとするがトルムがブリュズの肩を掴んで止めた。


「反吐が出る」


「っつ」


 カリュゲドゥスは目の前の光景に吐き気を覚えて激昂し、思わず殺気を放ちながら現場へと歩き出した。

 そんな殺気に当てられたブリュズとトルムは冷や汗をかいて驚いた顔でカリュゲドゥスを見た。


「五百年経ってもふざけるなよ。 人間どもが」


 カリュゲドゥスの胸の中にあるのは怒りだった。

 五百年前の魔族大戦の戦争のきっかけは人間とは違う亜人種族を魔族として呼称し、迫害と差別された怒りと人権を欲して誇りある人権を得るための戦争だった。


 無論カリュゲドゥスは力の限り蹂躙した残酷非道な鬼族の遠雷の魔王であったが時に敵として亜人達を屠り、時は腹が減り、道に迷った時には自身に優しく接してくれ、自身と関わりを持ってくれた亜人達の優しさと戦士としての尊厳を侮辱され見下され、その血筋を馬鹿にする事は我慢ならなかった。


「おい」


「なんだよテメェ」


 カリュゲドゥスは少女の魔石を持った少年からまるで手品師のような手つきで奪い取りそのまま少女に手渡した。


「もう取られるよな」


「あっ、ありがとう」


「おいテメェ何を勝手に!」


「ほら」


 カリュゲドゥスは少女の魔石の代わりに自身の魔石を投げ渡した。


「おいテメェなんのつもりだ!」


「割れよ」


「はっ?」


 カリュゲドゥスの発言に対して意味が分からなかったのか目の前の受験者は固まった。


「この子の魔石は割らせぬ。代わり我の魔石を割れ」


「はっ。 いいぜオラ!」


 カリュゲドゥスの安い挑発に乗って受験者はカリュゲドゥスの魔石を地面に投げて魔石割れてカリュゲドゥスの体は白く包まれ始めそれと同時にカリュゲドゥスの魔石を割った受験者の体も白く包まれ始めた。


「はは、バカじゃねぇのお前?」


「そうね」


「ブリュズ。 トルムこの子を合格させてくれ」


「ロウツ!」


「おい、テメェどうして!?」


「あっ」


 そんなブリュズとトルムの驚愕の顔を見ながらカリュゲドゥスのセルト冒険者学院の入学試験は失格となった。






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