暗闇と夢
「うん?」
カリュゲドゥスが目を覚ますと辺りが真っ暗で驚いた。
「おはようカリュー君」
「おはようウェイラ」
ウェイラの声が聞こえてきたので挨拶を返す。
だが辺りが見えずウェイラの気配は感じるもののどの方角にいるかはわからなかった。
「カリュー君今何も見えないよね?」
そんなカリュゲドゥスの内心を当てるかのようにウェイラの声が聞こえる。
「ああ何も見えない」
「それはね私が魔道具の暗黒目隠しでカリュー君の視界を奪ったからなの」
「なぜこのようなことをする?」
カリュゲドゥスはウェイラの言っている意味がわからず混乱した。
「カリュー君は魔力感知が多分出来てないよね?」
「何故そう思う?」
「だって私の動きにに対して後手に回りすぎだもん感知できていたらもっと色んな戦い方がきっとカリュー君は出来てたよね?」
ウェイラの発言を聞いてカリュゲドゥスは納得して顎を縦に振る他になかった。
「じゃあこれから六日間カリュー君にはあの森で目隠しをして暮らして貰います」
「分かった。 今から向かえばいいのか?」
「うん」
「では向かおう」
ウェイラの声を聞きながらカリュゲドゥスは返事返して、どうにか部屋の扉の気配を感じながら部屋を出て行こうとしたが何度も壁にぶつかって一向に部屋から出れなかったので、ウェイラの手を取って部屋を出て道案内をして貰いながら森に向かった。
「結局ウェイラに案内してもらわねば辿り着けなかった。 我は全く魔力感知がダメだな」
「ううんそんな事ないよ。 私の方こそごめんね。 いきなり暗黒目隠しを寝てる時に付けさせて。 ちゃんと起きて森に着いてから付けてあげればよかった。 そうすれば壁にぶつかるこ事もなかったし、結局カリュー君の迷惑になっちゃた」
カリュゲドゥスの耳に聞こえて来るウェイラの声は少し落ち込んでいるようだった。
「いやそんなことはないぞ。 ウェイラ。 このまま六日間で暗黒目隠しを付けていれば本当に魔力感知が習得できるかもしれん」
「本当に大丈夫?」
「ウェイラ。 試験当日まで修行することで緊張感があることは本当にいい事だありがとう」
若干ウェイラのフォローも兼ねてカリュゲドゥスはやや大袈裟に言いながらウェイラが居るであろう方角を見て微笑んだ。
「ありがとうカリュー君。魔力感知が出来るよう応援してるからじゃあね」
そう言ってウェイラの声と足音は遠ざかっていった。
「ふむ本当に何も感じぬな」
カリュゲゥスは暗黒に感覚を研ぎ澄ませても何も感じなかった。
「ふぁ。 眠い」
ずっと視界が暗く何も感じないのでカリュゲドゥスは眠気を覚えて、そのまま夢の中へと意識を手放した。
「おいおい起きろよ。 バカ弟子寝んなゴラァ」
「痛い」
カリュゲドゥスが目を覚ますと目の前にはオレンジ髪の獅子の獣人の女性がいた。
「おいなんだ。いきなりガキを叩くとはひどいな」
カリュゲドゥスは不機嫌な顔をしながらオレンジ髪女性を睨みつける。
「ワガハイの話を居眠りとはいい度胸してんなコラっ」
オレンジ髪の女性は腰に手を当てながらカリュゲドゥスの顔を覗き込んでくる。
「なんで俺がお前の話を聞かなくちゃいけねぇんだよ」
カリュゲドゥスは不機嫌に顔を染めてソッポ向き、膝に肘を突いて顎を乗せて不貞腐れる。
「俺が勉強したって鬼族の俺に何の得があんだよ。 ただ嘲笑われて同族からも人間からも馬鹿にされるだけだろ」
「いいから聞け。ワガハイの話を聞けばいつか役に立つ」
「いつだよ」
「そうだな。 お前がいつか生まれ変わって人間になった時に役に立つさ」
「はっ。 なんだよババア俺がいつか人間になれると思ってんのかよ馬鹿馬鹿しい」
「ふむ。 お前のひねくれ具合は終わっているな まぁいい今日は魔力感知についてだ」
「魔力感知? はっ楽勝だな。 赤ん坊でも出来るぜ要は自身の魔力と相手の魔力が分かればいいんだろ楽勝だ」
そう言ってカリュゲドゥスは魔力を感じてみるが全く感じれなかった。
「あ? 感じれねぇ。 なんでだよくそが痛ェ」
「そうやって短気になるな。 馬鹿者乱暴で短気だと友達作れないぞ?」
カリュゲドゥスが魔力を感じれず、近場の石を蹴り上げようとしたその時オレンジ髪の女性がカリュゲドゥスにゲンコツを喰らわしてまるで母親のように諭してきた。
「いいか魔力感知に必要なのは冷静さと五感の全てで魔力を感じる事だいいか? 万物に魔力は宿っているしそれも繊細に宿っているんだ。 だからお前は繊細にその魔力を感じないといけないんだいいね」
「分かったよ __」
「なんだよ 急に名前なんか呼んで ……アレ? さては反抗期? 反抗期なんだな。 うわぁ子供っ」
「ウゼェぶっ殺してやる」
「はん。 ワガハイに勝とうなんぞ千年早いわ!」
「ウゼェ決めた。 今日をお前の命日にしてやるぜゴラァ!」
「こい。 カリュゲドゥス! 何年立っても弟子は師匠兼育ての母親兼義理の姉に勝てぬ事を証明してやろう!」
「やってやるぜクソ師匠が!」
そんな茶番劇を繰り広げながら獅子の獣人の女性とカリュゲドゥスの夜は過ぎていった。
「ーー君」
優しい声が意識に響くとても甘くて眠たくなりこのまま包まれていたくなるがカリュゲドゥスはそんな誘惑を振り切って目を覚ました。
「カリュー君!? 起きたんだねよかった」
目を開けて見るとウェイラの顔がよく見えて、その可愛らしい顔に見惚れそうになるが首を横に振り、意識を集中させる。
どうやら暗黒目隠しは取れているようだとカリュゲドゥスは確認する。
「暗黒目隠しが取れたのか。早いなもう六日経ったのか?」
カリュゲドゥスは久しぶりに見るウェイラの顔を見ながら現状把握を行う。
「うん。私が朝早くにカリュー君の様子を見に来たら、意識がなくてこのまま一生眠ったままかと不安になっちゃった。 目覚めてよかったぁ」
どうやら眠っているというよりも気絶という状態でカリュゲドゥスを発見したらしい。
「ウェイラ。 すまぬな心配をかけて」
「ううんカリュー君は悪くないよ。 むしろ私が無理やり魔力感知の修行したのが悪いから。 カリュー君急ごう? 試験が始まっちゃう」
「そういえばそうだったな」
カリュゲドゥスはやや寝ぼけた頭で頷きながらティルカの屋敷に向かい試験の支度を整えて馬車に乗り、セルト冒険者学院がある王都アルンテラへと向かった。