ウェイラの説得
「お父様。 ただいま戻りました」
ウェイラはティルカ領の家に無事帰る事が出来ていた。
「ウェイラ。 大丈夫かい!? 心配したんだよ?」
「ええ、大丈夫よ。 お父様」
ドアを開けて中に入るとウェイラの父であるタルゼ・ティルカがウェイラを抱きしめた。
「ああウェイラ私の娘よ。 君に何かあったら私は死んだシューシャに合わせる顔がない」
「ごめんなさいお父様」
シューシャとはウェイラの母親の事であり、ウェイラと同じく緑色の髪を持った女性であり病弱ながらもウェイラを身籠り闘病しながらも立派にウェイラを育て上げ、ウェイラが五歳の時に亡くなってしまった。
「ウェイラ。 君はシューシャと同じく美人で同じ魔力属性である精霊魔力を受け継いるから悪魔や鬼に狙われやすい夜の森に散歩しに行く時は護衛を付けるか魔力感知を阻害するお守りを持ちなさいと言っただろう」
「ごめんなさい。 お父様もう少しでセルト冒険者学院に行くでしょう? お父様と離れ離れになることを考えると不安でたまらなくて、気分転換に夜風を浴びようとしたら悪魔に襲われてしまって」
「悪魔だって!?」
ウェイラが自身の気持ちを吐露しているとタルゼの顔は驚愕に染まり、ウェイラの肩を掴む。
「でもどうして今ウェイラは生きているんだい? 悪魔に出会ったら子供は確実に喰われているだろう。 それと悪魔の呪詛魔力は自然の魔力を汚染するから精霊魔力とは相性が悪いだろう!?」
「……それは」
ウェイラはカリュゲドゥスの事を話すか迷った。
だがウェイラは決意してタルゼに話す事にした。
「お父様。 私ウェイラ・ティルカはカリュゲドゥス・ロウツと名乗る少年に命を助けて貰いました」
「少年?」
「ええ、お父様その子は呪詛魔力を持っています」
「う、嘘だ呪詛魔力持ちが人を助けるなんてあり得ない!? 呪詛魔力持ちは大体その魔力量と破壊衝動から悪逆を働く奴らなんだぞ! しかも奴等にとって精霊魔力持ちはご馳走でシューシャも幾度なくその命を襲われてきた事を忘れたのか? ウェイラ!」
「けれど、彼は違うわ! 私を殺して食べるどころかむしろ雷の魔法を使って助けてくれたもの!」
「それは自作自演かもしれないぞ!? その悪魔と裏で手を組んでいたに違いない!」
ウェイラがどれほど言葉を尽くしてもタルゼは一向にウェイラの話を聞いてくれなさそうなのでウェイラは切り札を出す事にした。
「お父様。 実はこっそりカリュゲドゥス・ロウツいや、カリュー君の魔力と魂を見ました」
「ウェイラ。 まさか魔魂眼を使ったのか!」
「はい」
魔魂眼とは魔力の質と魂を見る事によって相手の魔力量や相手が嘘を見抜く事が出来る魔眼の事である。
この秘密を知っているのはウェイラ本人、母のシューシャと父のタルゼのみである。
「カリュゲドゥス・ロウツ。 ゼーガ王国の剣奴で彼の魔力量は膨大で魔力属性は呪詛魔力の紫色ですがどうやら彼自身の魔力量の多さに気づいておらず少し魔法使っただけで無意識に疲弊していた事から魔力量に対して肉体が耐えきれていないようです。ですが、これから鍛えればこの国の英雄になるかもしれません。そこでお父様、彼を私が通う事になるセルト冒険者学院の入試試験の援助と彼のアルミア王国の国民としての戸籍を作って欲しいのです」
「そんな馬鹿な! ゼーガ王国の剣奴の呪詛魔力持ちが冒険者になり英雄に? そんな事をすれば国家反逆罪になるのかもしれないんだぞウェイラ! 何を言っているかわかっているのか」
娘の提案にタルゼは激昂した。
もしもその呪詛魔力を持った少年カリュゲドゥスが問題を起こせばウェイラすらもその首を刎ねられかねない。
「ですがお父様。 お母様ならそうしたと思いませんか? 命の恩人の人生を手助けすることをお母様は望まれるはずです」
ウェイラは力強い眼で父の顔を見る。
「うぐぅ分かった。 ウェイラお前はどんどんシューシャに似てきたな優しさと信念の頑固さ私はその眼で見られるのがとても弱い。 明日そのカリュゲドゥス・ロウツという少年を連れてきなさい」
タルゼはウェイラの覇気に怯み負けを認めた。
「娘のわがままを聞いていただきありがとうございますお父様」
ウェイラはその言葉に対してカーテンシーをして感謝を告げた。