亡命者
「なんとか魔力コントロールしながら戦えたな」
カリュゲドゥスは無我夢中で大きな雷の球を作り悪魔の口に放り込んで倒せるかどうか不安だったがなんとか幸運が味方して勝つことが出来た。
闘技場で失敗した魔力威圧の二の舞にならないよう集中し繊細な魔力コントロールで魔力切れのギリギリで雷の球を作ったが無我夢中で繊細な魔力を練った事が勝利へと繋がったとカリュゲドゥスは思う。
「無事か?」
カリュゲドゥスは後ろを振り返り膝をついている少女に手を伸ばしその手を掴んで立ち上がらせた。
「あ、ありがとう助けてくれて。 貴方の名前は?」
少女は目を伏せ顔を赤くしながらカリュゲドゥスに礼を言いながらカリュゲドゥスの名前を尋ねてきた。
「我の名前はカリュゲドゥス・ロウツ。 五百年前に勇者セルト一行に討ち果たされ転生した遠雷の魔王である」
少女に名前を尋ねられてカリュゲドゥスは堂々と自身の名前を名乗った。
「えっ、カリュゲドゥス。 あの?」
「あっ、しまった」
カリュゲドゥスは今世ではセルトの真似をして俺を一人称とすると決めていたのにすっかり魔王時代の口調となってしまいうっかりしていた。
だがもう仕方がないカリュゲドゥスはカリュゲドゥスで勇者セルトは勇者セルトなのだ。
結局今から俺と一人称を改めてもどうせ一人称が我に戻るのだ。
カリュゲドゥスは開き直ってこれからも他人に笑われても魔王時代の口調でいようと決めた。
「それよりもおま……君の名前を教えて欲しいのだが聞かせて貰えないだろうか?」
「わ、私? 私はウェイラ・ティルカ。 よろしく」
「よろしく頼む ウェイラ」
少女否ウェイラが手を差し伸べてきたのでカリュゲドゥスも手を差し伸べて握手を交わす。
「カリュゲドゥス君。 ちょっと言いづらいな」
「カリューでいい」
「じゃあカリュー君はなんでこんな暗い森にいるの?」
「うーむ」
カリュゲドゥスはウェイラの質問に対してどう答えていいか分からず腕を組んで首を捻る。
説明しようにも今のカリュゲドゥスは怪しさ全開で家族関係について話すとしても昔も今も家族も兄弟もいないのだ。
そして今の転生した今の人生でも孤独な剣奴として生まれ生きているが嘘をつくのも何か後ろめたいので、ウェイラに全てを話そうとカリュゲドゥスは話すことに決めた。
「ウェイラ。 我は剣奴の子供で決闘場が崩壊したのでそれに便乗して脱走してきたところだ」
「嘘っ。 剣奴の子供!? それってもしかしてゼーガ王国の砂漠地帯にある闘技場の事?」
「ゼーガ王国?」
「うん。 このアルミア王国の隣国に位置する国のことだよゼーガ王国とアルミア王国は仲が悪いんだ」
「ふむ。 ……それで」
「今のカリュー君は今は亡命者扱いになるね」
「……」
「カリュー君?」
「あっ。 いやそのう」
カリュゲドゥスは衝撃の事実に思考を停止する他になかった。
どうやら今のカリュゲドゥスの立場は国から脱走した亡命者らしい。
「ウェイラ」
「何?」
「もしも街で我が見つかればどうなる?」
冷や汗を額から流してウェイラの眼を見る。
「たっ、多分アルミア王国の聖騎士団や冒険者に捕まって処刑かゼーガ王国の追手が来るかも」
「まことか」
カリュゲドゥスは深く絶望した。
今の自分は右も左もわからない十五歳の子供なのだそれがゼーガ王国からアルミア王国へ亡命しただけで処刑とは恐ろしく思えた。
カリュゲドゥスの場合はおそらく聖女マリースがゼーガ王国の魔の手から逃がしてくれただけなのだがそれを言い訳には出来ないだろう。
「だ、大丈夫だよカリュー君。 私のお父様ならなんとかしてくれるかも!」
「そうか」
「私、一回街でお父様に話してくるから待ってて」
「分かった」
ウェイラはカリュゲドゥスに手を振るうと自身の家がある方へと走って行った。
「さてどうするか」
カリュゲドゥスはウェイラと別れた後、寝床になりそうな所を探し子供が入れそうな穴蔵を発見した。
「ここなら良い寝床になりそうだ」
その穴蔵にカミナリボア三匹を放り込み、自身も穴蔵に入り今日は魔力消費が激しかったのでとっとと寝る事にする。
「おやすみなさい」
カリュゲドゥスは大きなあくびを一つして深い眠りについた。