ひとりぼっちと出会い
月を見上げながらカリュゲドゥスは心に悲しみを覚えた。
転生しせっかく会えた賢者は偽物で自身の危機を救ってくれた聖女は力を使い果たしその魂は消滅し、カリュゲドゥスに未来を託した。
「聖女マリース我はお前に何をしてやれる? どうすれば今後の未来とやらを守ることが出来る?」
力なく呟き、歩きながらどこを目指してよいかもわからずに消滅した聖女に答えを求めながらカリュゲドゥスは暗い夜道を歩く。
「ブルゥ」
ふと目を凝らすと目の前には猪の大群がカリュゲドゥスを囲んでいた。
「カミナリボアか魔王時代よく狩って喰っていたな」
カリュゲドゥスは目の前の猪の正体を看破して戦闘態勢に入る。
得物はないがカリュゲドゥスは今まで拳一つで物事を解決してきた武闘戦士の魔王なのだ。
貧弱な体だが出来ることはあると冷静に頭を回し、カリュゲドゥスは猪の大群を見た。
「ブルモァ!」
「さて殴り殺すか」
まず一匹目のカミナリボアを少ない魔力をコントロールして魔力を拳に集中させ殴りつけて黙らす。
「……ブモ」
「ガルモ」
「ガルモ」
「試しに雷の結界を作るか独自で……適当だが」
仲間がやられて気が立ったのかニ匹のカミナリボアがカリュゲドゥスに突進してくるがカリュゲドゥスは冷静に頭を回して指先に魔力を集め、地面に魔法陣を書き描いた。
「どうだ?」
カリュゲドゥスは魔法陣を完成させ腕を組んでカミナリボアを待った。
「ブフォ!?」
カミナリボア達が結界に突撃したが結界の侵入者を撃退する魔法陣の効果で突撃して来たカミナリボアは痺れて痙攣した。
結界の術式で気絶したカミナリボアに近づきそのままカリュゲドゥスは拳でカミナリボアの命を残酷に奪う。
「ふぅ。 残酷だがすまぬな今の我は生きるのに必死なのだお前達を食す事によってお前を殺した我への罰としよう」
自身の張った結界が効果を失い空へと溶けていく。その場に残ったのは死んだカミナリボア三匹と狩りに勝利したカリュゲドゥスだけだった。
「さて食事にするとしよう。 うん?」
カリュゲドゥスがカミナリボアを拾い上げようとした。
その時だ。
森全体が揺れ震えているまるで悲鳴をあげているように唸る。
「なんだ? 森が怯えている」
「た、助けて誰か。 誰か!」
「マチヤガレ」
カリュゲドゥスがキョトンと森を見渡すと緑髪に茶色い瞳を宿した少女が黒く大きな生物から走りながら叫びを上げながら逃げているのを見つけた。
「少女とあれは悪魔か」
悪魔とはカリュゲドゥスの種族だった鬼とは違う人間達から魔族と認識された種族であり、最初は小さな小鬼なのだが人間の血肉と魔獣の肉血を食して成長する種族のことである。
そして悪魔にとって人間の魂は極上にうまいらしいが鬼であったカリュゲドゥスには関係ない。
別に悪魔も鬼も人の魂や肉体を食べずとも人間と同じ食生活を続けていれば肉体的な成長は出来るのだが人の肉体や魂を食べた時の快感が瞬間を忘れられず殺し、食べる習慣が抜けずこうやって今も人間達を襲っているのだとカリュゲドゥスは思った。
「助けるか」
カリュゲドゥスは駆け足で少女の元へと駆け抜けた。
「……な、なんでここに悪魔がいるの? この森は結界が張ってあって入って来られないのに」
震えながら少女は目の前のとても大きく黒い悪魔を見ると捕食者の目で少女を見てきて少女の体と魂を凍らせた。
「オマエマリョクウマソウ。 セイレイノニオイ」
「えっ? 嘘。 魔力属性が分かるの? この悪魔」
カリュゲドゥスが魔王として生きていた時代とは違い、今の時代は魔力が進化して魔力属性というものが生まれている。
五百年経った今では、五種類の魔力属性がある。
まず基礎的な魔力、そして神天魔力、精霊魔力、呪詛魔力、龍魔力、と呼ばれるものが生まれており少女はその中の精霊魔力の持ち主であった。
「……なんで分かるの。 あなた」
少女は絶望のあまり質問を投げかけることしか出来ない。
「オマエモリノニオイ。 タマシイモウマソウ。 イタダキマス」
「……あぁお父様。 お母様」
大きな口が少女に迫り少女は放心状態となり悪魔に捕食されかけたその時だった。
「汚い口を閉じろゲスが」
「グェ」
「えっ?」
目の前の悪魔は横から飛び出てきた謎の人物によって蹴っ飛ばされ悪魔が沈黙する。
「イタイオマエ。 ナニモノ」
「我は遠雷の魔王カリュゲドゥス。食事の時間を邪魔されたのでお前を消しに来た」
「お、男の子?」
謎の人物を見てみるとオレンジ色の髪に紫の瞳そして何故か黒いマントをしておりどこか威厳のある少女と同じくらいの少年だった。
「オデワルクナイ。 オマエオデトオンナジマリョクカンジル。 ウシロノガキイッショニクワナイカ?」
「ふむ」
「ひっ。 いやっ」
カリュゲドゥスと名乗った少年が少女の顔を見る。
少女は少年の目線と魔力を感じるとさっきまで自分自身を食べようとしていた悪魔と同じ魔力属性を少年が持っていることに気づき戦慄した。
「……たっ、食べないで。 お願いお願いだからっ」
少女は恐怖した目の前の少年は少女の味方ではなく自身を食べる捕食者なのだと少女の本能と恐怖が告げて声が上擦り体が震えて涙を流す。
「あいにくと猪を狩ったばかりで食糧には困っておらぬそして誰がこんな子供を食うか。 我の腹を満たすなら毒ムカデやカミナリボアの肉を五人前を持って来い」
「えっ、食べないの? 私を」
「当たり前だ。 お前を食うよりもカミナリボア食べた方が数倍美味に決まってるだろう」
少女の疑問に少年はあっけらかんと答え少女に目線を移す。
「ジャアオマエ。 クラウ」
その言葉に悪魔は満足しなかったのか大きな口を開けて突進してくる。
「……に、逃げて!」
「ふむめんどいな。えい」
「がふぁ」
目の前の少年は悪魔に臆することなく、右手に家一軒分の大きさはあるであろう大きな雷の球を作りそのまま悪魔の口に放り込みその雷を飲み込んだ悪魔は爆散した。
「……嘘。 勝っちゃった」
少女は目の前の光景が信じられず放心状態になりながら悪魔が塵になる瞬間を見届けた。