プロローグ 魔王の敗死
森で一つの御伽噺が生まれていた。
勇者セルト一行と遠雷の魔王カリュゲドゥスの死闘が森を揺らす。
「はぁはぁ」
金髪で美形な青年勇者セルトが肩で息をし、剣を杖代わりにして立ち、背後から金髪の髪に白い法衣の服を纏った少女聖女マリースと緑のローブととんがり帽を被った少女魔法使いのリーリフに回復魔法をかけられながら遠雷の魔王カリュゲドゥスを見た。
「これで分かっただろう勇者セルト!! 我、遠雷の魔王カリュゲドゥスとお前ら勇者一行の実力差が!!」
カリュゲドゥスはマントを靡かせて己の力を誇示するように、両手を広げて高笑いをした。
「いや勝負はこれからだ!! 魔王カリュゲドゥス!!」
マリースとリリーフに回復魔法を施され、完全に傷を癒したセルトは立ち上がりカリュゲドゥスに剣を向けながら啖呵を切った。
「セルトお兄様。どうか勝利を」
「行きなさいセルト魔王をぶった斬ってやって!!」
セルトの回復が終わるとマリースとリーリフは下がりセルトの背後には銀色の髪に目元のクマが目立ちモノクルを掛けた少年賢者ルイマンと赤髪で粗暴な顔つきをした戦士ゴルグレイが並んでいた。
「俺様の力を見せてやるぜ!! カリュゲドゥス」
「僕の実力にひれ伏せよ魔王!!」
「ふははは面白い。 面白いぞ!! 勇者一行よその力の真髄を我に見せてみるがよい」
圧倒的な力を前にして諦めない勇者一行にカリュゲドゥスは高揚が収まらず高笑いが止まらなかった。
「ふん。 行け脳筋!! セルト!!」
「おうやってやるぜ!!」
「ありがとうルイマン!! これでまだ俺の体は動く!!」
ルイマンが無詠唱でゴルグレイとセルトに強化魔法を掛け、その強化で人の限界を超越した戦士と勇者が魔王カリュゲドゥスに迫る。
「戦士と勇者如き我が粉砕してくれるわ!!」
カリュゲドゥスは拳に雷を纏いゴルグレイとセルトを追撃する。
「ガラ空きだぜ。 魔王!!」
だが鳩尾にゴルグレイの一撃が入りカリュゲドゥスは意識が飛びかけた。
「がぁまだまだ!!」
すぐに意識をとり戻し、ゴルグレイをカリュゲドゥスは殴り飛ばした。
すぐさまセルトを殴ろうとしたカリュゲドゥスだが、すぐに自身の両腕がなくなっている事に気づいた。
「いつの間に!?」
「遠雷の魔王カリュゲドゥスこれで最後だ!!」
勇者セルトの鋭い剣戟が遠雷の魔王カリュゲドゥスの胸を切り裂き、紫色の鮮血が地面を染めた。
「ごふ。 まだだ!!」
両腕を失くしながらもカリュゲドゥスは膝をつきながら無詠唱で雷の魔法で雷の球を十個作り飛ばして勇者の命を奪わんとした。
「シルガ!!」
「トムド!!」
「ぐわぁぁぁぁ」
だがその雷撃はマリースの防御魔法によって阻まれ、防御魔法の背後からリーリフの風の魔法が迫りカリュゲドゥスの体中を切り刻まれてカリュゲドゥスは悲鳴を上げながら地面を転がった。
「はっ」
敗北を理解し、カリュゲドゥスは自虐的な笑みを浮かべ、目の前にいる勇者達を見た。
「我もここまでか、よくぞ我をここまで追い詰めた勇者セルト、聖女マリース、戦士ゴルグレイ、賢者ルイマン、魔法使いリーリフ」
目の前にいる自身を討伐すべくやってきた勇者一行をカリュゲドゥスは称賛した。
すると、勇者セルトが剣を納め、膝を屈っしているカリュゲドゥスの前まで歩いて来た。
「言い残す事はあるか?」
勇者セルトから出た言葉はそんなものだった。
「ないが一つだけ願いがあるこのまま我の命が尽きるまで我を放置してほしい。 この景色を見ながら我は死にたいのだ」
すでに多量出血。魔力の枯渇で意識の限界を迎え意識が朦朧とし、体が塵になりかけながらもカリュゲドゥスは己の望みを言った。
「分かった。俺達はもうこの城を出ていく」
「そうか。 逆に問うがお前達からは何もないのか?」
その言葉をきっかけに次々と勇者の一行が魔王カリュゲドゥスの周りを囲んだ。
「みんなからお前に言いたい事があるってよ」
勇者セルトはカリュゲドゥスと仲間達を見比べて笑った。
最初に言葉を発したのは聖女マリースだった。
マリースはカリュゲドゥスの前で膝をつき祈りを込めた。
「魔王カリュゲドゥス。 貴方が来世では良き善行を積み重ねれるようこの聖女マリース祈っております」
「魔王の我にすら女神へと祈るのか? 聖女 マリース」
「はい魔王カリュゲドゥス 貴方は非道の限りを尽くしましたがですがせめてその魂だけは救いがあらんことを」
「そうか。 それはありがたいな」
「ちっともありがたくないわよ」
続いてカリュゲドゥスに話しかけたのは
魔法使いのリーリフだ。
「あたしはあんたの事許さないわよ!!
あたしの村を焼いて友達を家族を殺した罪 女神アルミアの前で後悔させてやるんだから!!」
「そうかわかった。 死んだ時いくらでも女神からの責苦を我は負おうこの魂尽きるまで」
「ふん」
泣きながらリーリフはカリュゲドゥス睨みつけてそっぽ向いた。
「俺様を骨折させるたぁやっぱ強えなぁ!! 魔王カリュゲドゥス!!」
戦士ゴルグレイが笑いながらカリュゲドゥスを見る。
「我は強かったか?」
「おうともよ」
「そうか」
戦士との会話は淡々としていた。
「亜人達を魔族と呼称する差別を無くそうと思っている。お前が生まれ変わったら亜人も人間も平等なとてもいい世界になっているぞ」
モノクルを上げながらルイマンは魔王を見る。
「そうか では楽しみにしているぞ 賢者ルイマン」
そして最後にカリュゲドゥスは勇者を見た。
「勇者セルトよ我に何か言う事はあるか?」
「じゃあひとつだけ魔王カリュゲドゥス。 お前は強かったよ。 俺達が今まで戦ったどんな奴よりもな」
「ああお前も強かったぞ。 強く気高き勇者セルトよ。 さらばだ」
まるで友人の別れような会話をして勇者と魔王は別れを告げた。
「ふむ。 案外と悪くない終わりだとても心地がいい」
風に吹かれながらカリュゲドゥスの胸は満足感で満たされていた。
強さ故に畏怖され、魔王とまで言われたその強さ その強き才能をぶつける相手が欲しかったのかもしれないとカリュゲドゥスはふと思った。
「我も次は弱者でも良いから勇者セルトのように仲間を集めて冒険するのもいいなぁ」
そんなことを言った時だった。
「ごはっ」
いきなり胸に強い衝撃が来てカリュゲドゥスは吐血した。
屈辱と怒りでどうにかなりそうだった勇者一行の手で自身が死ぬのは分かる。
だがこれは自身と勇者との聖戦を泥で穢す第三者からの攻撃だった。
誇りも勇気も研鑽もないただ死を待つ者への冒涜的な一撃だった。
「……くそっ」
屈辱と怒りを抱えながら心臓を抉り取られた魔王カリュゲドゥスは死んだ。