表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RION II  作者: ロック
1/2

プロローグ

目を閉じると、あの場所の記憶が鮮明に蘇る。


専門商社、あの楽園の日々。


オフィスのフロアは明るく、窓際の観葉植物が心地よい影を落としていた。パソコンのタイピング音が響き、電話のコール音がリズムを刻む。エアコンの風がちょうどいい温度で、外の寒さも暑さも他人事だった。


デスクの向かいには 南ちゃん。茶髪なセミロングで、ぱっちりした目が印象的な彼女は、いつも爽やかな笑顔を浮かべていた。俺が何かやらかすたびに「もう〜レンくん!」と呆れた顔をするけど、どこか楽しそうだった。


右隣には 宮里さん。落ち着いた雰囲気のロングヘアの女性で、仕事はめちゃくちゃできるけど、雑談になるとふんわりとした笑みを浮かべて「それで、それで?」と話を引き出してくれる。


そして、一番の天使がいた。


千聖ちゃん。


ショートカットに透き通るような白い肌。小さな手でキーボードを叩く姿は、まるで物語のヒロインみたいだった。彼女は男性アイドルが好きで、昼休みになるとスマホでライブ映像を観て、目を輝かせていた。


俺は、その光景を横目で見ながら、「俺もあんな風に夢中になれるものがほしいな」なんて、ぼんやり考えていた。


楽園だった。本当に。


俺は仕事ができたわけじゃない。むしろミスばかりだった。でも、毎日が楽しかった。みんながいたから。


「……俺、このままここでずっと働くんだろうな」


そんな未来を、何の疑いもなく信じていた。

しかし、それは突然終わった。

「レンくん、ちょっと会議室に来てくれる?」


上司の声が、昼下がりのオフィスに響いた。


俺は深く考えずに立ち上がり、会議室へ向かった。ドアを開けると、そこには人事部の担当者と上司が座っていた。


その瞬間、空気が変わった。


「君を本日付で解雇します」


時間が止まった気がした。


「……え?」


「申し訳ないけど、試用期間の評価を踏まえて、正式雇用は見送ることになった」

まってくれ。俺はまだここにいたい。

「待ってください」

「決定事項です」

「まってまって……僕は……僕は……」


俺の声は、誰にも届かなかった。


会議室を出た瞬間、オフィスの景色が一変して見えた。


南ちゃんの笑い声が遠くに聞こえる。

宮里さんが誰かと電話をしている。

千聖ちゃんがスマホを見つめて、微笑んでいる。


俺だけが、この場所から弾き出される。


そう思った瞬間、強烈な喪失感に襲われた。


俺は、自分がなぜ解雇されたのか分からなかった。確かにミスは多かったかもしれない。でも、それだけでこんなにあっさり終わるものなのか?


俺は、何が悪かったんだ?


答えは、まだ分からない。


それでも、一つだけ確かなことがあった。


俺は、天国から追放された。


その日、雪が降っていた。


俺は、解雇を告げられた帰り道、ひとりで空を見上げた。ビルの間を舞い落ちる雪片が、白い静寂を作っていた。


オフィスの窓際で、千聖ちゃんがこの雪を見ているかもしれない。南ちゃんが「わぁ、すごい!」ってはしゃいでいるかもしれない。宮里さんが「寒いね」って呟いているかもしれない。


でも、もう俺はそこにはいない。


ポケットの中のスマホには、俺が書き続けていた小説の原稿データが残っていた。


今はただ、寒さだけが現実だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ