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00  作者: 佐々木 青
2章 顔、荷物、お前は誰だ

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ミュンヘンとゲルエ

 カルスードからエッセに向かうにあたって、ゲルエと呼ばれる地点を経由する。

 ゲルエとは、このミュンヘン共和国における第二国境線を越える前のいわば中継地点だ。第二国境線より内側は、主に思想において規制が厳しくなる。同じ国といえども第二国境線の中と外では別物と言えるほどだ。その代わり、第二国境線よりも内側の区域は生活や金銭の面で安泰とされ、家庭を外に持ちながらも内側で仕事をする人も珍しくない。

 そんな第二国境線を越えるための中継地点・ゲルエでは、手荷物検査が行われ、危険物がないかを調べられるのだ。

 ミツルにとって、今回の旅の第一関門はそれだった。

 ミュンヘン共和国は国際指名手配を出す程度には、機体への敵対心、警戒心が強い。「反機体」を掲げる国の中心部に入るのだから、当然「機体」である06の残骸、ましてや指名手配中のものともなるとそう簡単には見逃してはくれないだろう。

 現在、スーツケースの中には06の部品が入っている。恐らく外しても問題のない部位についてはミツル本人の手で外したものの、それ以外については手をつけていない。とくに顔については、ミツル自身に直せる確証がこれっぽっちもなかった。

 できる部分は解体している以上、後は持ち物検査とやらがどこまでのものなのかを確認してからでないとミツルも迂闊に手を出すことができない。そのため、ミツルはゲルエにて数日間泊まることも視野に入れていた。顔を解体することはミツルにとっても神経を使わざるを得ない作業のため、一日では到底終わらないだろうと踏んだからだ。

 幸い、ロブが残していた金だけでなくミツル個人で貯めていた分もあるため、ゲルエで数泊するには困らない。問題はエッセに着いた後だが…その点は後で考えることにしようとミツルは思考を放棄した。

 窓越しに、ミツルが幼少期から少年期を過ごした景色が見える。

 いつか自分はここに帰ってくる。そんなことを決意し、ミツルはそれ以上その景色を眺めることをやめた。


 「ミュンヘン共和国の歴史」。

 そう表紙に書かれた本をミツルは取り出す。これはミツルの勉強用に、とかつてルナが買ってきた本だった。

 何度か読もうとしたことがあったが、結局最後まで読めていなかったのだ。いい機会だ、とミツルは本を広げる。他の乗客はミツルと同様に本を読んだり、友人や家族と談笑を楽しんでいる。その様子をミツルは一瞥する。

 あの彼らのような日常を取り戻すために、ミツルはエッセに向かっている。あそこにいる彼らは一体どんな夢を見ているのだろうか。

 ミツルは本に視線を戻すと、読み始める。一章から五章まであり、少なくともゲルエまでは退屈しないだろう。

 一章、「旧世界とミュンヘン」。この章では旧世界の地形と交えながら、ミュンヘンの語源について詳しく書かれている。第三次世界大戦が起こり、壊滅状態になったとされる世界、そんな中でミュンヘンという都市は残ったことから、ミュンヘンの名を冠している…というような内容だった。

「…あ、なあ。聞こえてるか?」

 さて、一章は読み終わった。次の章を読むとしよう。

ミツルはページを捲る。

 二章、「ミュンヘン領」。この章ではミュンヘン共和国成立前、ミュンヘン人と呼ばれる人々が統治していた時代のことが書かれていた。この時代は文化の発展がそこまでなく、旧世界のときと同じような生活を保つことが難しく、自分たちの生活をどうにかすることに必死だったのではないかと考察されていた。

 二章まで読み終わったので、ミツルは一度本を閉じる。

「あ、ようやく終わったか?」

 顔を上げると、見知らぬ、しかしどこかで会ったことがあるような雰囲気を醸し出す男が立っていた。

「オマエの前、座ってもいいか?」

 顔を隠しているため、目の前の男が実際にどんな顔をしているのかはわからないが、声から苦笑いをしているのだろうと予想をつけることができた。

 ただ、ミツルは男に「機体06」と同様の感情を抱いた。そんなわけがないと思いつつ、少しだけ男を睨む。

「…なんかオレ、嫌われちゃった感じ?」

 男の言葉にミツルは咄嗟に視線を逸らす。それから間を置いて、少年は男に着席を許した。

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