黄昏の約束 1
翌日の夕方四時。
少し街を見て回りたいと言ったミツルに、車椅子を押してもらいながらルナはこれからのことを考えていた。
大事なこと。きっとそれは今後に関わることなのだろう。
『結婚しよう』?それならまだいいかもしれない。ミツルがそこらの男と同じような行動に出ることは残念だが、彼であるならルナも受け入れる覚悟はあった。
しかしそれは一番可能性の低い選択肢だった。第一、ミツルは彼女のことを命の恩人、そして親しい友人として見ている。他の男がそのようなことを言っていたら、ルナとて信用はしないが相手はミツルだ。
ミツルという男は正直な人間である。基本的に口に出した言葉がすべてであり、口から嘘がでてくることはない。隠しているなら、端からその情報をだすことはまずなく、もしだしていたとするならば迷いが残っていたときのみだ。
だから、彼が友人とはっきり言ったならそれ以上になることはない。二人は友人なのだ。
そういう誘いではないのだとしたら、ルナの中で思い浮かぶのは陰鬱とした考えだけになる。
(家を出て………)
彼はどうするんだろう。
そんなことをルナは考える。奴隷の彼に行く宛てがあるのだろうか?自分のように、彼を拾ってくれる人間がいるのだろうか?
「………ナ」
(馬鹿みたい、そんな人間がいたらとっくのとうに彼は救われているはずでしょ)
ルナは首を振る。彼がどのような決断をしたとしても、その行く末がせめて幸福でいられるように願って。
「………ルナ!」
「!…ごめん、なに?」
ミツルの呼びかけにルナはようやく言葉を返した。なにか考え事をしていた様子のルナに、ミツルはしばらく声をかけない方がよかっただろうか、と少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そんな顔しないで、わたしは大丈夫だから。」
彼女の大丈夫は信用がならない、というのはこれまでに身についてきた常識である。しかしながらこれから話す内容を考えれば、ミツルには生半可に安心させる言葉を言えないことも事実であった。
「それで。どうしたの?」
「ああ、いや大したことじゃないんだ。夕食のこととか聞きたかっただけで。ほら、いつもルナが用意してくれてるし、たまには一緒に選ぶのも悪くないかなって。」
それが彼の気遣いであると、ルナは気付いていた。その気遣いに乗じて、彼女は自身の不自然さを取り繕う。
「そっか、じゃあ今日は…。」
食材を見回す。いつもは色彩豊かな野菜が心なしか色を失っているようにも感じられる。ルナは見て見ぬふりをしながら、いつも通り頭の中にあるレシピを取り出し料理名を答える。
ミツルがそれに賛同する姿を見て、ルナは拳にほんの少しだけ力が入った。
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