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00  作者: 佐々木 青
1章 黄昏の約束
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問いに答えよ 1

 仕事終わりの夕方。ミツルはルナに買い物を頼まれていたため、リンの経営するパン屋に足を運んだ。

「あら、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」

「四角パンを買いに。ちょうど明日食べるパンを切らしているので。」

「そうかい、ちょっと待ってな」

 リンは厨房から筒状になったパンを持ってくる。香ばしい匂いが漂っていることから、焼き立てほやほやのパンのようだ。

「どれぐらいいるんだい?」

「一週間分あれば十分です」

「となるとこのぐらいだね…よっと。」

 ナイフでパンを切っていく仕草はやはり慣れていることもあり、丁寧かつ素早い。

「はい、どうぞ。三百ロトユね」

 ミツルは三枚の硬貨を渡す。閉店間際は本来の値段より値引きされている。もちろん今回はそれを狙ったわけではなく、無駄話をしていた分の仕事時間が後ろに回ってきただけなのだが、少しだけミツルは得をしたような気持ちになった。

「また来てね」

 去り際、笑顔で手を振るリンさんにお辞儀をし「はい」と返事をする。

 ミツルもリンも彼女にはそれなりにお世話になっている。いつも四角パンしか買わないが、たまには他のパンも買ってみようかと考えるのであった。


 パン屋を出ると、もう外は随分暗くなっていた。冬に近付いてきていることもあり、最近は日の入りが早い。

 寒さも徐々に増してきており、そろそろ羽織るものが欲しいとミツルは感じていた。

「早く家に帰って作業しなきゃ…」

 現在、ミツルは時計、ラジオなど自身の収入の買える範囲で機器を買ってきては、分解して仕組みを確認している。もちろん、ルナに収入の大半を生活費として支払った上で、だが。

 ミツルは黙々と家に向かう。暗い一本道。人の気配は彼以外にない。

 いつもは誰かと出会うことも、話すこともないそんな場所に。

「そこのお前。機体06と名乗る者に出会わなかったか。」

 少女、いや、幼女が一人そこに立っていた。

 正確には姿自体は確認できない。彼女はローブを羽織っており、口元だけは一応見えるような、そんな風貌だった。しかし背丈は幼く、声は少女のものであることは理解できたため、ミツルはそれを幼女と認識した。

「…」

 幼女の声は非常に冷めたもので、なんの感情も読み取ることができない。強いて言うなら、こちら側をよく思っていない、もっと酷い言い方をするなら嫌悪しているとさえ表現できる、そんな声色だろうか。

「…黙っていてはわからん。質問に答えろ。それとも聞こえなかったのか?」

 苛立ちを隠す気はない少女の言葉に、ミツルはようやく思考を戻す。

「…うん、そうだね。もう一度言ってもらってもいいかな。」

 少女の言葉は聞き取れていたが、空気に呑まれてしまい質問がミツルの中で有耶無耶になってしまった。

「…人間というのはつくづく面倒だな」

 ぼそりと呟く少女の言葉をミツルは拾うことができなかった。そのまま、少女が質問をもう一度繰り返してくれることを待っている。

「…お前は機体06と名乗る者に出会ったことはあるか?」

 諦めたように、少女は再びミツルに問いかける。

 ミツルはその質問に少しだけ首を傾げた。

(これは、本当のことを言うべきなんだろうか。)

 機体の情報を知りたがるということは、なにかしらの意図があると見るべきだ。例えば、彼女が機体を見つけて捕縛しようとしているとか。賞金を稼ごうとしているとか。

(少なくともこの子に教えるには、まだ情報が足りなさすぎるな)

 彼女が機体に悪意を持っている人間ならば、教えるのは危険だ。好意を持っていたとしても、壊れた06をミツルが持っていると知ったらなにをしてくるかはわからない。

 ミツルの現在の目標は、なるべく自分が06を直す。できないなら、他の機体に部品だけでも託す。それだけだ。どちらを選ぶにせよここで死んでいる暇などないのだ。

「キミが何者かわからないのに、教えられるほどのことじゃない。」

「それは知っていると言っているようなものじゃないか?」

「さあ。どっちだとしても、見知らぬキミには教えないかな。ボクは用済みになるのも、敵に塩を送るのもごめんだからさ。」

 あくまで自分は賞金狙いだと言うようにミツルは振舞う。それで伝わるのなら少女に情報を流すべきではない。ミツルにとって少女は警戒対象になる。

 少女はほんの少し黙ると

「ならば、別の質問をしよう。」

 そうあっさり切り替えた。

「別の質問?」

「ああ、いたって簡単な質問だ。」

 少女は羽織っていたローブから瞳を覗かせる。少女の碧眼はミツルをはっきりと見据えた。

「お前は、死体を『友達』と宣う馬鹿を見かけたことはあるか?」

 その質問は簡単と言うわりに、理解に苦しむものだった。ミツルはそんな人物には一度だって出会ったことがない。

「…いや、それはないけど」

「…そうか。ふふっ、生意気なことを言うわりに案外わかりやすかったな。」

 私側の問題というわけか、と滑稽そうに少女は笑う。なにがおかしいのかミツルにはさっぱりわからず、疑問符が浮かぶ。しかしそんなことはお構いなしに、少女は言葉を続ける。

「よかったな、少年。これでお前は“用済み”というやつだ。」

 そう言って少女はその場を去る。ミツルはその言葉を頭の中で分解し、一つの結論に辿り着いた。

 彼女の言葉の意味するところは即ち。

 死体を『友達』と宣う馬鹿が、機体06だということだ。

(そんなことある?)

 少女が去り、再びひとりぼっちになったミツルは、その意味を受け止めきれずにいた。


次回、10/5更新

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