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00  作者: 佐々木 青
1章 黄昏の約束
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ミツル十五歳、時計屋にて

 時が経ち、ミツルは十五歳になっていた。

 あれからというもの、ミツルは時計屋などの機械を扱う店で働き始めた。ルナは「大きくなるまでは働かなくていい」と諭していたが、ミツルはそれを許容できなかった。

 住まわせてもらっている身分なのに、家でぐうたらしているのも居心地が悪いから、という理由でルナの親切を心苦しくも断った。それに06を直すためには機械の知識が必要だった。

 他の機体ならもしかしたら直し方を知っているのかもしれないが、生憎ミツルは他の機体の居場所など知りもしない。

 どういう顔をして、どういう性格をしているのか。06から聞いた話では、人間に興味がないらしいが実際の真偽は不明だ。自分でなんとかできるならしてしまいたい、というのが正直なところだった。

 しかしミツルが思っている以上に機体というのは扱いが難しいものだった。そもそも機体と機械では勝手が違いすぎるのだ。機体に使われている部品は、ほとんどが見たこともないものばかりだった。正確に言うなら新しすぎるものばかりだった。

 現代でこんなものが作れるのだろうか。いや、機体はもっと昔から存在するものだ。ならばこれは過去の人間が作ったものなのだ。

 現代で作れないものが、過去に作られている。

 旧世界の産物としか思えないが、どうやら機体は旧世界の技術を以ってしても作れないようだった。

ミツルが読んだ旧世界についての本には機体に関する事柄は微塵も載っていなかった。機体のように人間と見間違うほどのものは存在していなかった。

 喋る機械はいたらしいがやっぱり機械なのだ。ミツルの知っている『機体』ではない。

 薄々ミツル自身も気づいてはいたが、こうもあらゆるものがミツルに訴えかけてくるのだ。

お前に機体06は直せない、そう何度も。

 だが、これでへこたれるのなら、機体の友人なんてやってきていない。たとえ誰が否定しようとミツルは06を直す。それはミツルが自身に戒めた唯一のことだった。

 初めての友達だった。

 自分のように捻くれたクソガキを、根気強く育て、助けてくれた。

 夢を叶えてくれた、たった一人の友人。

 それならば、自分は06の気持ちに応えるまでだ。自分というどうしようもない友人を、体を張って守ってくれた彼を今度は自分が助けてみせると、そう思ったのだ。

(キミのためなら地獄にだって落ちてやる。)

 自分のすべてである彼を、すべてを賭けて救う。

 それで死ぬならむしろ本望だと言わんばかりに、ミツルは今日も時計屋に足を運ぶ。すべてを与えてくれた彼に、すべてを渡すのは当然のことだった。

 

「?これは?」

 机に置かれた新聞を指差す。先程まで読まれていたのだろう、皺が明瞭に残っていた。

「昨日の夕刊じゃよ。ったく、機体のやつらまぁた暴れよって…」

 こめかみを抑えながら、ミツルの方に近寄るのは時計屋の店長であるロブだ。

 長靴を半ば引きずるように歩く彼は、ミツルより一回りほど小さい老人だった。自身の掛けている老眼鏡を服の裾で拭くと、新聞を手に取る。

「…機体?このあたりにも機体がいるの?」

「なんじゃ?普段よりも食いつきがいいのう。普段儂の話は」

「そういうのいいから、質問に答えて」

「まったく…最近の若者ときたら…。まあいい。正確には違うがな、機体はこのあたりにもおる。よく暴れよるのは01じゃのう。ほれ見ろ」

 ロブは一つの記事をミツルに見せる。「機体01襲来!」という見出しとともに、ブレた白黒の写真が貼られている。

「指名手配されているというのに、よくもこう堂々とできるものよのう。」

「指名手配…?」

「…お前さん、ほんとになにも知らんのう。つくづくどこで育ってきたのか不思議じゃわい。」

 呆れたようにロブは肩を竦める。それにミツルは反応することなく続きを視線で促した。

 それを鬱陶しく感じながらも、彼は言葉を続けた。

「…指名手配は計三機されとる。機体01、機体05、機体06。いずれも国際指名手配じゃが、機体05に関してはこの国ではされとらん。」

「…理由は?なんで指名手配されて…」

「人を殺したからじゃ。それも大量にな。」

 ロブは少し遠くを見るように目線をずらす。いつかのことを思い出すように、彼は口を閉ざした。

 ミツルは言われてみれば、と06との出会いを思い浮かべる。奴隷商とはいえ確かに彼は人を殺していた。それが善か悪かと問われれば、悪と即答できるほどにあの行為は一方的だった。

(それならどうして機体06はあのときまで無事だったんだ?指名手配されてるなら、もっと早くああなっててもおかしくなかったはずなのに。)

「……機体は人間には理解できないものじゃ。あれはれっきとした兵器で、意思疎通できているように感じてもなにひとつとして話が通じない代物なんじゃよ」

 そんなことはない、と言おうとして口を噤む。実際、06はたまたま人間に興味があっただけで、もし他の機体に出会っていたとしたらミツルの命はなかったかもしれないからだ。

「…どうして他の機体は指名手配されてないの?」

「まあ、行方が掴めないからじゃろうな。機体02も03も04も、暴れているというような情報はまず聞かぬし、そもそも存在しているかも謎じゃ。」

 ミツルはそれを聞きながら考える。

 これはすなわち、もし他の機体に会いに行くようなことになったとしても02、03、04を探しても見つからない可能性が高いということだ。

 そのため探すなら、機体01か機体05ということになる。指名手配されているということもあり、無事でいられるかどうかは謎だが、最悪死んでも06の部品さえ渡すことができれば、06が復活させることも不可能ではない…はずだ。

 ただ、一つ気がかりなのは。

「機体05ってどうしてこの国では指名手配されてないの?」

 そう、ロブのその言葉だ。少なくとも悪と思われるぐらいには人を殺している機体が、なぜこの国でだけは生きていけるのか。

「…おぬし、儂がすべて知っているとでも思っておるのか?」

 怪訝そうにミツルを彼は睨む。なぜ、どうしてを嫌うこの老人にとって、ミツルの質問責めは堪えがたいものであったからだ。

「すべて、とまでは思ってないけど。でも、そういう情報をわざわざ与えてきたってことは知ってるってことじゃないの?」

 心底不思議そうな顔をするミツルに、老人はため息をつきたくなる。少年の知らないものをとにかく知りたがる性質はいい部分でもあったが、同時に問われる側からすれば堪ったものではないのだ。

「…知らんものは知らん。特に、国のことなぞ知ったことではない。ただ、少なくとも機体05はこの国に危害を与えてくることはない、それぐらいはわかる。」

「…」

「まだ訊きたそうな顔をしておるが、生憎儂が話せるのはここまでじゃ。それにおぬしの好奇心に付き合うのも疲れた。ほれ、さっさと仕事じゃ、仕事。」

 ミツルはロブに背中を強く押され、中の工房に押し込まれる。無駄話をしている暇はない、と言わんばかりの老人とは反対に、少年は未だ機体について考えていた。

次回、9/28に更新予定です。

1章完結までは週1投稿になります。よろしくお願い致します。

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