夢絶える者 3
06はミツルを抱え、なんとか火が広まっていない場所までたどり着いた。ミツルの口から布を離し、ミツルに新鮮な空気を吸わせてやる。
(オレとしたことが、まさかこれを忘れてるとはな…。何百年も人間について調べてたってのに、こんな初歩的なミスしてどうするんだ。今まではオレ一人だけだったからよかったものの、今は本物の人間がいるんだぞ?もっと慎重に行動しないとまた同じようなことになる。)
06はミツルを横目に視線を鋭くさせる。
(…それに今回の爆撃だってそうだ。機体を嫌う人間の仕業だとは思うが、それにしたってこれはやりすぎだろ。)
噛んでいた奥歯にぐっと力を入れ、06は思考する。
06以外の機体は人間に興味を持たない。そのため機体が人間に自らちょっかいをかけるということは滅多にない。しかし興味がないからこそ、人間に危害を加えられた際には躊躇なく反撃をする。それ故に一部の人間からは機体は脅威として恐れられている。06はそれを理解しているからこそ、機体をよく知らない人間から仕事を請け負うようにしていた。
(…誰かが密告したのか?そんなことをするようなヤツらには到底見えなかったが…。)
06は力仕事を頼まれることが多い。資源集めであったり建築の手伝いであったりと、一年前の奴隷商殺しのような仕事の依頼は基本的にほぼ無いに等しい。末恐ろしい話ではあるが、奴隷商殺しの依頼をしてきたのも十二歳ほどの子供だった。
(いや、違うな。密告とかじゃなく単純に機体について向こうは調べてるんだろう。戦闘機能、性質、居住地…。まったく…趣味の悪いヤツもいたもんだ。)
記憶通りなら他の機体は決まった居住地を構えるようなヤツらではなかったはずだ、と06は思う。
(となると本当にオレは迂闊すぎる。本物の人間と一緒に過ごして、気が抜けてんじゃないのか?)
06は舌打ちをする。逃げたはいいものの、この地域は今までの場所と比べて機体への恐怖が強い。交易が盛んだからこそ、機体についての情報は広まりやすい。その内容が事実かどうかは別だが。
06は頬からポツリとした感覚と温度減少の感知を受け取った。どうやら雨が降ってきたらしい。ハッとして06はミツルを見る。まだ目が覚めていない。06は問題ないがミツルはこのままでは風邪を引いてしまうだろう。
「…宿、探さないとな。」
06はほんの少し陰鬱な気持ちになりながらも立ち上がり、寝転がっているミツルをおんぶすると向こうに見える街に歩き出した。