夢絶える者 2
「おい!逃げるぞ、ミツル!」
幸いミツルは小屋の近辺の森にいたため、特に外傷はなかったが06はかなり汚れていた。06からは焦げ臭いにおいが漂っている。
「なにがあったの!?」
「オレもよくわかってねぇが、爆撃かなんかなのは確かだ!」
ミツルが06の向こう側を見ると、炎に包まれた小屋があった。その様にミツルが呆然としていると、06がミツルを抱えた。
「ちょっと、なにして」
「このままじゃ火が広がって山火事になる!そうなる前に逃げるんだよ!」
「でも、06の家が!」
「家なんか今はどうでもいいんだよ!」
珍しく切羽詰まった様子の06にミツルは唾を飲む。ミツルが頭を垂れて06に全体重を任せると、06は自慢の足で森を駆ける。
(なんか…心なしか暑い気がする…それに気分も…)
ミツルが顔を上げると、目の前が一面真っ赤に染まった。
「なに…?これ…。」
それはあの時の星空と同じような、今までミツルが見たことのない景色だった。違う点を挙げるなら、この景色は恐怖を与えるものであることだろうか。
「クソ、どこ行っても火、火、火!うんざりするぜ、本当!」
ミツルが少し顔を右上に傾ければ、そこには歯を食いしばる06がいた。どうやらもう火は広がっていたらしい、06は腹立たしげだった。
(…頭がクラクラする。)
「?おい、ミツル!オマエ、大丈夫か!?」
ミツルの顔色が悪いことに気付いたのか、06が叫ぶ。その声は恐らく大きいのだろうが、今のミツルの耳にはなんだか凄く小さいものに思えた。それだけじゃない、ミツルがだらだらと汗を搔いているのに対して06は汗一つ掻かず、元気そうだ。
(…やっぱり06って機体なんだなぁ…あんなに人間みたいな肌してるのに。)
そんなことを考えているうちにミツルの視界は霞んでいく。
「おい、おい!ミツル!」
ぐったりとしたミツルに06は声を掛け続ける。
(…なんでミツルはこんなになってやがる!?人間は火が駄目だなんてことはどこにも……っ、そういうことか…!)
脳裏にある言葉が過ぎると、06は自分は大馬鹿者だ!と叱責する。06は取り出した布でミツルの口を塞ぐ。その間に06は辺りを見渡す。ちょうどまだ退路として使えそうなルートを見つけた。
「…ミツル!もうちょっとの辛抱だからな!」
その言葉を最後に、ミツルは辛うじて保っていた意識を落とした。