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炯目の刺繍鳥  作者: 夕霧湖畔
後編
27/27

終章 千年後謳われる妖精王国

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 遥か遠く、未来の先に。

 吟遊詩人達は、物語を謳う。

 彼の地霧の果て山奥に、千年を超えて今に続く。

 精霊達と語らう王国ありきと。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 怪物を打ち倒した後の凱旋は、中々に混迷を極めた一大騒動となった。


 騒動が騒動を呼び、噂と真実が入り混じり憶測を広げ。

 強引に始まった宴の振る舞い酒が配られ始めるまで、国中に広がった騒動は全く収まる気配を見せなかった。


 歓声と喝采が幾度も繰り返される中、長老達の間でのみ真相は共有された。

 全てを解き明かすには何もかもが足らないと、真実は噂で隠される事が決まり。

 騒動は大同盟の成立を以て上書きされる。


 かつての戦場跡には見張りも兼ねて、ちょっと豪華過ぎる神殿が建てられた。


 そして数年の月日が流れた後。




 オークレイル王城には大勢のドワーフ長老達が駆け付けていた。


 昨年の新たな第一王子誕生の祝いは記憶に新しいが、今回はそれ以上に騒がしくなると皆が浮足立っていた。


「諸君!準備は出来ているな!

 準備が出来ていなかったら失格だ!ライバルは大人しく去り給え!

 これより、妖精姫第一子誕生祝い献上品、選出コンテストを開催する!!」


 長老デボーディンが叫ぶような声で開幕を宣言し、ドワーフ達が一斉にオークレイル城の中庭で咆哮を上げる。その声は、城壁の壁が震える程に大きい。


 このコンテストへの参加資格は、一に旧赤錆所属ドワーフである事。


 二に事務仕事に対し一定の成果を上げ、仕事をサボっていないという証明書を手に入れている事。尚、この証明書は毎年更新される。


 そして三、名誉ドワーフとして認められる事。以上の三つだ。


 尚、他国のドワーフも移籍して仕事をサボらなければ参加出来るし、人族の職人が名誉ドワーフ称号を得る事も可能だ。


 但し名誉ドワーフ称号を結婚後に獲得した場合、婚姻破棄の理由には妥当と判断されるため注意が必要だ。だって嫁と仕事で仕事を取るって意味だから。


 差別?そういう事は職人仕事の為に嫁を犠牲にしない奴の台詞だよ?

 尚ドワーフには稀に、自分が誰と結婚していたかを忘れる奴が居るのにも注意。


 勿論それは両方に言えるため、自分が忘れられないためちゃんと家に帰るのが、良き常識的なドワーフである。

 嫁だって夫を忘れる事があるのだ。

 男尊女卑とかドワーフ社会には存在しない。

 ドワーフはドワーフであり、家族は双方の努力によって培われるものだ。


 どっちの立場が強いって?気分。もしくは腕。

 そもそも嫌なら家庭なんて維持しない。

……名誉ドワーフの扱い、推して知るべしである。




「今年の長老は三人しか脱落しませんでしたか。

 やはり妖精姫のお祝い事なだけあって、気合が入ってますね。」


 現ミスティカ王妃は中庭の雄叫びに溜息を吐きながら、そっと書類を脇に置く。

 その溜め息に宿る感情は安堵であり、王妃の自分よりマリオンの方が評判が良いとか、ごく一般的な嫉妬が混じった様な心情では有り得なかった。


 視線を空に背けながら、自分じゃなくて良かった、である。


「し、審査対象には是非とも私以外の意見を採用して頂きたくですね……。」


 王家の皆に必死で頼み込むマリオンの姿から目を背けるミスティカ王妃曰く。


『き、去年は私が審査してますから!連続で参加するのは視点が偏ります!

 連続参加は不公平ですから!』


 今年は逃げ切ったぞ、と昨年第一子を出産した時の祝い物の数を思い出す。

 ドワーフ長老歴々の超絶技巧、理解出来ると恐るべし、である。他国に持ち出せば城の一つや二つ簡単に買えて仕舞う引き出物の数々。

 五つ、良い物高い品から選ばされた。


「今回は王妃より豪華にする訳には行かぬとのお立場から、材料費は前回の平均額以下、上位三位までというのがルールである!

 その程度で前回より作品の質が劣っていると思うなら、それは間違いだと言わせて貰おう!」


 恐ろしい宣言が高らかに叫ばれ、誰もが賛同する声を轟かせる。

 勿論だ、我々は成し遂げた!と全力で己の成長を叫ぶ参加者達。

 赤錆オークレイル連合王国は今も小国である。


 尚、王位継承時のお祝いの品は、ドワーフ長老達全員に寄る合作大宝物庫の設計となった。


 実は中にオリハルコンの壁を使った二重構造で在り、錠前部分も表面部分を偽装済みのオリハルコン錠だ。

 鍵を無くしたら開錠手段が無くなるので、ダイヤル式になった。


 この時点で心臓に悪いのに、更に大宝物庫全てを財宝で埋め尽くす気などオークレイル王家には全く無い。

 今国家予算の何百年分が収められているかなど、旧オークレイル王家の者なら誰一人として知りたくは無い。


 ……確認は管理のため、何時でも出来るのだが。



 この数年でマリオンは大分口が回る様になったと思う。


 政治に対する理解力も上がったし、庶民的な金銭感覚も身に付いた。

 マリオンはヴェルーゼ宮廷伯爵家とは別に、王城近くに別邸を与えられていたが、いつの間にか離宮の一部として王城と一体化していた。


「……何とか、王家の皆さんとの合同審査という形にして頂きました……。」


 王城の一室。夫妻用の一角に戻って来たマリオンは、崩れ落ちる様にソファーにもたれかかり、夫であるジグラードに肩を叩かれた。


 現在夫婦は出産のために王城内で療養しており、マリオンは既に産後の体重を平常値に戻し終えていた。

 コンテストの方で何かしらトラブルがあった所為で今の今迄王城に留まり続けていたが、本来であれば既に自宅に戻っている筈の二人だった。


「お疲れ。……夫婦二人だけの審査からは、何とか逃げられたか。」


 ジグラードは未だ緊急時に備え、王位継承権を保持している。

 だが子供達が成人する際には返上する予定であり、それまでは当分王族として政治には不慣れなドワーフ達の補佐をせねばならない。


 というより、ドワーフ達との連合は諸々の予定を変更せざるを得ない大事だ。

 克ての旧オークレイル首脳陣では明らかに人数不足であり、ドワーフ達が齎した恩恵に比べ、彼等との折半に成功した貴族達は驚く程少ない。

 ドワーフ達の補佐こそが、今のジグラード夫妻に押し付、任された公務だ。


「流石にこれ以上粘られたらどうにもならなかったが、ギリギリまで審査台を撤去させなかった甲斐はあったな。

 しかしやはり距離感が変わると違うな。いや、他の種族を理解していなかったのは別にドワーフ達だけの話では無かったと言うだけか。」


 我々も大分彼らの事を学んだものだと、遠い目をするジグラード。

 実際ここ数年で一番の難事業は、ドワーフ達に自分らの行いを把握、特に記録に残させる事。特に政治に参加させる難しさは筆舌にし難い。


 同盟を組んだ事で発覚した一番の問題点。それはドワーフ達にとって金銭というものが恐ろしい程に彼らの中に根付いていなかったという事だ。


 彼らドワーフ達は言わば職人種族。優れた物を作る事だけが生き甲斐であって、基本的な日用品は物々交換で成り立つ。

 いや、物々交換以外では成り立っていなかった。


 故に彼らは容易く、自分の都合で大金と小金を換える様な真似を仕出かすのだ。

 だからこそ彼らに経済破壊という概念を理解して貰うのは、彼らと共存する上で必須の最重要事項だと言う事を、夫妻は嫌という程思い知っている。



「ここから見下ろす街の景色も、昔とは随分変わりましたね。」


「そうか。そう言えばここは、前はマリオンの私室だったな。」


 ここ数年でオークレイル城下町は劇的な変貌を遂げている。


 町中には街灯という精霊の戯れる明りが増え、夜の闇を常に柔らかく照らす様になった。町中の治安もここ数年で驚くほど改善している。

 石畳は馬車の音を吸収し、町中の喧騒は穏やかに。建物という建物は既に大部分が形を変えて新しい街並みに溶け込んでいる。


 国としては幾ら器用でも一種族に全職人を専有されるのはとても困る。人族側との技術交流と徒弟制度の拡充は多少強引にでも推し進める必要があった。


 だが彼らドワーフ達は誰彼構わず胸襟を開く様な種族でも無い。あくまで職人としての自分達を理解してくれる相手だからこそ、共に手を取り合ってくれるのだ。

 故に互いの距離を縮めるため、技術交流が必要だった。


 その素材として用いられたのが、今は大部分が改装し終わった市街地である。


 結果オークレイル城下町は、一見すると楽し気な街並み。油断するととんでもない超絶技巧が隠された、とても過ごし易く快適な国となっている。


「平和に、なりましたね。」


「ああ。あの戦いが嘘の様だ。」


 窓の外を見下ろす二人の傍らに、相変わらずの侍女長コルネリアがワゴンを押して現れ、紅茶を並べる。


「現実逃避も結構ですが、早々に喉を潤しておく事をお勧めします。」


 二人は揃って深呼吸して、微量の紅茶で口の中を潤す。

 廊下に響き渡った驚きの絶叫は、多分長老の誰かだ。


 こちらに近付いてくる前に、二人は素直に忠告に従い呼吸を整える。


「まままま、マリオン殿!アレは!アレは何ですか?!」


「あら、ラフレイ老。お久し振りです。

 アレというのは何処の、何の事でしょうか。」


 手慣れたコルネリアが温めの紅茶を差し出し、三角髭のラフレイ老が一気飲みして呼吸を整える。ここらで一杯、一息吐くのも割と習慣になっている。


「う、うむ。そうじゃな。あの、あちらの御二人の子供部屋の事じゃ!

 あそこに置かれていた精霊の塊が集まるあの道具の事じゃ!」


 ラフレイ老が言っているのは以前マリオンの部屋に有った、割りと最初に造った精霊達の遊具では無い。

 あれは謎の経緯で先代オークレイル五世王ハーディ様、つまりジグラードの父に譲られており、今は夫妻の居間に飾られている筈だ。


「ラフレイ老が知らない方なら、私達の子供部屋にあるアレの事じゃ無いか?」


「おぅ!正にそれだ!一体あれは何なんですか姫ェ!!」


 全然冷静さを取り戻してくれないラフレイ老を宥めながら、マリオンはえぇとと子供部屋の様子を思い返す。


「あぁ、あの。ええと、正式名称は特に考えて無かったのですが……。

 強いて名付けるなら精霊遊具オルゴールでしょうか?

 あれは以前作った精霊の遊び場に、新しい仕掛けを追加したものを新しく作ってみたんですよ。

 私達が留守でも赤ん坊達が退屈しない様に、精霊が遊んだら音が鳴ったり。

 後は、潜り抜けると光る絡繰を追加してみました。」


「何でソコで手を抜かれたぁッッッ!!!」


 風圧を伴いそうな大声に思わずマリオンが身を竦め。全身で不満と驚愕を表現するラフレイ老の姿に悟りの境地に達したジグラードは、改めて一気飲み用の紅茶の準備をコルネリアに指示する。


「そ、そこって何ですか?」


「名前です!作品は名前を付けてこそ完成するもの!

 そこで手を抜くのは職人として愛が足らんでしょう!!」


 ぶっちゃけ作品という程肩に力を入れた心算は無い。


 マリオンから見ればたまたま暇だった日に手慰みで作った、適当に精霊用の玩具を絵画風に取り付けただけの遊具でしかない。

 なので、取り敢えず赤ん坊達と精霊が喜んでくれたからもう満足してた。


 そして本音で答えても理解して貰えないのは既に慣れた。


 ドワーフ達とマリオンは、似ている様で求めるものが若干違う。

 実用品作りではやはりドワーフの方が優れている反面、マリオンの様に道具としての機能を持たない遊具は、例え技術として知っていても思い付かないのだ。

 故にドワーフ達にとってマリオンは、何処までも理想の挑戦相手となる。


「えぇと。私としては絡繰の一部が交換出来るので、どれをもって完成とするか未だ判断に迷っているところなので……。」


 取り敢えず未完成という口実に逃げた。


「こ、交換が出来るというのですか?!

 い、いや先ずあの精霊達はどの様に遊具に干渉し合えばああも調和の取れた演奏を奏でるのです!

 それにそもそも………」


「お、落ち着かれよラフレイ老。完成前の作品に口を挟むのは無粋でしょう。

 じっくり時間をかけてより良い物を造る。それもまた職人の楽しみ。」


 そうでしょう、と可能な限りの平常心と笑顔で語りかけるジグラード。


「お、おおおおおおおおお。そ、そうですな。失礼をした。

 ワシはまた職人としての生き甲斐を否定してしまう所だった。

 本当に、ほんと~~~~~~~に、申し訳ないッ!!」


 気にしてませんので顔を上げて下さいと、膝を折って号泣し始めるラフレイ老を慰めながら。その頭の上でマリオンとジグラードは視線で会話する。


(次の老が来る前に名前を決めておこう。)

(分かりました。この際ラフレイ老にもご協力を。)

(そうだな。それなら今決める理由にも出来る。)



 二人のアイコンタクトは既に、下手な暗号よりも詳細が伝わる様になった。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 オークレイル王国は元々裕福な土地柄では無く、他国との接触も多くなかった。


 産業が未発達だった頃なら兎も角、開発が進んで自給自足が確立してしまうと、他国との接触はむしろ厄介事の種であり。

 特にドワーフ達との同盟が成立してからは、他国との接触が益をもたらす状況は殆ど無くなってしまい、戦火を避けるために事実上の鎖国状態となっていた。


 無論それで日々の生活に困る事は無く、欲を掻いて攻め入り、痛い目を見た国々もこれ幸いと彼の国を無かったかのように無視し続けて。


 元々小国だった事もあって、十年と経つ頃には既に近隣の国から存在を忘れられた国となり始めていた。




 一方一度は予想された戦火に耐えるため、魔改造を施されたオークレイル城に、既に十年前の面影は無い。


 町そのものが要塞であり砦であり農園であり牧場であり。


 まるで国全体が森と一体化した様な網目状の城下町が拡がり。


 中央の城は湖の中心にある浮島の様であり小舟の様であり。


 まるで虹の様な曲線を描く橋の上を。対岸に重りを設置した滑車で引っ張り上げながら往来するのが、既に当たり前の光景となっていた。



 そんな夢の国と化したオークレイル城で、今一つの問題が浮上していた。


「鉱山が、枯渇し始めていると?」

「左様。完全な枯渇は当分先だが、現状は百年と維持出来るかどうか。」


 現サミュエル王の統治下に置いて、ドワーフ達は一定の義務を果たす事で役職に捉われない生活を送る事が出来る。


 だが長老達は常に全員が情報共有する義務を負っており、会議の場では常に複数人での出席も法で定められている。

 全員が出席した会議の場では無いとは言え、その議題は誰もが無視出来ぬ程に、極めて重要な案件だった。


「一部の鉱山が枯渇しかかっているという事か?」


 会議室の中央、対等さを強調するための円卓は既に形だけのものとなっている。

 何故ならドワーフ達は隙を見ては自分の部分のテーブルを切り離し、魔改造したからだ。

 椅子は最初から自分好みの作品を持ち込んで良い事にした。


 結婚前は王族籍を退く筈だったジグラードは、今宰相の地位に就きながらも一代限りの王家として留め置かれていた。


 傍らには特別顧問として、マリオンが参加するのが通例になっている。

 既に服飾貴族として職務は、何も担当していない。


「ああ、全ての坑道でという訳では無いがの。

 百年もあれば赤錆連邦の鉱石は、粗方掘り尽くすだろうという試算が出た。」


 無限に湧き出る鉱山など無いのだから、いつかは訪れる話ではあった。

 だがだからと言って、何もせずにいて生活が守れる訳ではない。


「取り敢えず、不要な金属の回収と再利用は進めているんですよね?」


「勿論じゃ姉御。製造だけでなく分解も出来てこそ一人前の職人というものよ。

 だがそれでも全てを金属とそれ以外に分けられる訳でもない。」


 長老に姉御と言われて眉を小さく跳ね上げたのは、現キャンベル伯爵ことアストリット・キャンベルその人だった。

 ドワーフ達にとって問題が大きくなる程必ず駆り出される彼女は、理屈では無く頭の上がらない存在として、マリオンとほぼ同列の扱いをされている。


 因みに彼女の夫は祖国を滅ぼされた、とある国の亡命王子だったりする。

 中々の美丈夫で才知に溢れた紳士だが、それでもアスリには勝てないと常の職務では補佐に回っている。


 というより。アスリに負けを認めた事で祖国復権を諦め切れたというのだから、我が親友は相変わらず底が知れない。

 アスリ曰く、向こうの国は「もう問題無い」らしい。


「それに姫のお力を借りて解決出来るのはあくまで姫が生きている間だけ。

 問題の先送りには違いない。」


「確かドワーフ達の住む鉱山は枯渇しないという伝説がありますが、一応本当の話ではあるのですよね?」


「ああ、普通は枯渇しない。何故なら我らドワーフは妖精族。

 知っての通り我らが屍は大地に帰る際、地中深ければ深い程早く鉱脈に溶ける。我らの屍は鉱脈と一体化し様々な鉱石へと転じるのだ。

 故に基本的に、我らが生き続けられる限り、鉱脈は減らんのだ。」


 ドワーフ達は子孫の作品の一部になる事を誇るので、土葬を望む事こそあれど鉱脈へと溶け込む事を忌避する事は無い。長老達もこの話をいつも誇らしげに語る。


「あれ?でもそれは採掘量と皆さんの寿命が釣り合ってるって意味ですよね?」


 ピシリ。マリオンの疑問にドワーフ達の表情が強張る。


 と、同時に思い起こされるのは割と毎年恒例となりつつある祝い事の数々と、それらに類するコンテストの数々。そろそろ増築が必要な金庫の有り様。


「……そう言えば、最近は他国からもドワーフ達がやって来ているそうだな。」


「確か、加工品に精霊が宿る技術を学びに来ているのだという話でしたね。」


 当然ながらこの国に人間とドワーフを差別する者などいない。

 流石に人間達の間で精霊に関する技術が大々的に普及する事など無いが、環境に配慮しながらも二人三脚で続けられてきた技術交流が、十数年前の数倍にまで職人達を増やしている。



(((自制、出来て無いんじゃあ?)))



 加減した採掘量を心掛けているとはどうしても思えない。職人として現役な長老達は、冷汗を流しながら不自然な沈黙を続け顔を逸らす。


「……まあ職人だけで解決出来る問題では無いかも知れませんね。」


「そそそ、そうじゃな。そもそも採掘は殆どが自分の手で行うものじゃしの。」

「然り然り。職人がどれだけ増えるかなど、儂等には想像も出来んわけじゃし。」


 全力で同意する長老達が、コンテスト出場を諦めた事など一度も無い。


「出場するために全員が競って採掘を続ければ、そりゃそうもなりましょうか。」

 深々と溜め息を吐くアスリに、心当たりのある者達が全員固まる。


「コンテストの整理は必須だな。それと出場制限をつけるか。」

「待った!それは暴動が起こるぞ!」


「でも近場だけでは採掘が間に合わないのですよね?

 出場権が早い者勝ちになったら腕では無く近場で採掘出来る方が有利ですし。」

「うぐ!」


「成る程。少なくとも採掘にかかる時間を吟味したと注釈すれば、一部コンテストの出場資格を三年に一度程度にするのは問題無さそうですね。」

「ぐぬぅ!」


 呻き声を対価にする様に、話がトントン拍子に進む。


「い、いや待て。だが採掘量の減少は解決して無いぞ。

 そもそも国から離れれば他国の鉱山もある。採掘出来そうだからと闇雲に掘れば良いという訳ではなかろう。」


 それはそうかと皆が頷くのだが、マリオンは首を捻る。


「え?でも地下深くなら国境も関係無いですよね?

 確かドワーフ達って湖の底でも崩れない深さや硬さが分かるって、前に自慢された覚えがありますけど。」


「「「????」」」


 一同はマリオンの疑問点が分からなかったらしく、皆揃って思い思いに首を傾げたり、互いに顔を見合わせている。

 伝え方が悪かったのかなと、一旦自分が言った事を整理してみる。


「ええっと。地中って深いほど暑いですし、普通の人間だと山の方はともかく地中深くは余り採掘しないんですよね?」


「む。まあ鉱山っていうくらいだからな。それに山の方が見当を付けやすい。

 まあ人間だと精霊が見えない者も多いから、何かと地上に近い方が採掘はし易いだろうな。」


 そこで人間側の二人がはっと気付いて顔を見合わせる。


「人間が湖の底と同じくらいの深さを掘る事って無いと思いますけど、それでも国境って問題になるんですか?」


 地上の鉱山の下なら、鉱脈の検討も付けやすいんじゃないだろうか。


「危険です!ドワーフ達が我を忘れて地上に繋げてしまう恐れがあります!」

 即座にアストリットが危険性を上げる。最初のリスクを述べるのは大体彼女だ。


「いや、案外そうでも無いな。

 確かドワーフ達は現在位置の深さも感覚で分かるんだろう?

 ならどこぞの中継点より下から発掘する旨をコンテストの参加条件としてしまえば何とかなるんじゃないか?

 鉱物の目利きも参加資格に含めている訳だし。可能だろう?」


 ドワーフ達はなるべく各地の鉱山に散って貰った方が、鉱脈も枯渇し辛い。

 より遠くへ散る理由さえあれば、彼らにとって制約は挑戦となるだろう。


「あ。じゃあいっそその中継地点の捜索もイベントにしてしまいましょうよ。」


「それは良いな!なら鉱脈そのものを探して貰えばいい。

 目印となる位置と発見者に、王家の秘宝を贈るという形で表彰すればコンテストに参加出来なくても名誉は守られるのでは?」


((在庫処分?))


 咄嗟に脳裏に過るのは、やはり最近芸術の域に達し始めた金庫内の収納具合だ。

 だが小物よりも先にどうにかしたい秘宝がある。


 小物こそ金庫内に収納出来るが、大物でコンテストを行った時は城内の何処かでモニュメントと化して、見学用エリアに鎮座している。

 だが流石に庭にまで置けるかどうか。


 石材なので運ぶのは大変だろうが、あれらは目印に相応しい大きさがある筈だ。


「おお!成程、それなら現地には是非自分の作品を飾りたいですな!」


「それは別枠の方が良くないか?何も儂らだけの祭り事じゃあるまいし。

 昔のコンテストの優勝者が鉱脈を発見出来るとは限らんのだぞ。」


「それにやっぱりこの国で開いたコンテストの記念品が贈られた方が、遠くに行っても姫を近くに感じられる。景品は王家に選んで貰った方が良いじゃろう。」


 ある程度方針がまとまれば、後はトントン拍子で話が進む。

 ココまで来ると、大体の問題は解決した様なものだ。



「ふむ。ではこれで決定としよう。」


 それまで空気だったサミュエル王が、話をまとめる。

 マリオン、ジグラード、アストリットの三人がいればこの国で起きる大体の問題は解決出来る。それは今迄の経験が証明していた。


「正直そろそろ、私は君達の誰かに王位を譲るべきじゃ無いかね?」


 そして楽隠居させて貰うのはどうだろうか。


 普段から空気になる機会の多いサミュエル王は、信頼する三人に対して最近この提案を持ちかけているのだが。



「「「お断りしますっ!!!」」」



 この件に対し、三人の息は常にピッタリだ。

 この物語はここで完結となります。御読了頂き有り難う御座いました。


※別作品ですが前作に「ガラクタの学園」があり、次回作に「一つ目の白髪鬼は悪役令嬢に転生したようですよ?」を投稿いたします。

 興味があればそちらもご拝読頂ければ幸いです。

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