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三題噺もどき2

幸せに

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくにじゅうなな。

 


 もう二月に入るというのに、未だに寒さが居残る。

 ほんの数日前なんて、珍しく雪が降ったのだ。記録的大寒波とか言って、ニュースでものすごく脅していた。

 不要不急の外出は…と言われても、外に出るのは用事があるからで、なけりゃでないっての。と、一人突っ込みを入れながら眺めていた。

「……」

 とはいえ、日中は割と日が照っていると温かく感じなくもない。風のせいですべて台無しになっているが。室内に居れば、日光浴ぐらいはできる。

 まぁ、安いこの部屋じゃ寒さは常に隣にあるのだが。

「……うぅ…」

 炬燵に入っているとはいえ、寒い……。

 少し前に母がきて、いくら何でも寒すぎるだろうと小さめの炬燵を家に入れてくれたのだ。ありがたいが、おかげで炬燵の魔物との闘いの日々だ。

 座椅子に座っているのだが、無意識に猫背になっているせいか背中の方は寒い。なにか羽織るものでも、とは思うのだが、それはそれで邪魔くさくて嫌なのだ。苦しいし。

「……さみぃ……」

 しかしさすがに寒すぎるなぁ。

 何かあったかいものでも飲むか…確か、それこそ母が置いていった粉があったはずだ。

 となれば、お湯を沸かしに行かないといけないのか…。

 キッチンに?寒いのに…?

「……」

 冬用の室内履きは置いているが、寒い。靴下でも履けばいいのだろうが、窮屈で苦手なのだ。あと冬用のって、やけにもこもこしていてかゆくなる。

 カーペットを敷いているとはいえ、たいしていいやつでもないので、冷えるのは冷える。

 が。

「……っし、」

 このままでいてもらちが明かない。

 そういえば、去年からこの家には生きる湯たんぽが居るのだ。

 キッチンまでの短い距離だが、抱かせてもらおう。

「――?」

 炬燵に突っ込んでいた足の先。

 そこで触れていたふわりとした感触。

 布団をめくり、そこにいる湯たんぽ―猫に声をかける。

「……いっしょいかん?」

「――ぃあ―」

 暖かな炬燵の中にいたせいか、眠そうな返事が返ってくる。

 そのままあくびを返しながら、反対側へと出ていった。

 嫌われた…。

「…ぉ…」

「――んるぅ――」

 そんなわけでもなかったようだ。

 いやーうちの子はかしこいなぁと思いつつ、横に来た彼女をなでる。

「寒いのきらいなのに、ありがとねー」

「―――」

 そのまま、彼女の気が変わらぬうちに、抱き上げる。

 あったか……。炬燵効果も相まって、ぬくぬくしてる。

「……」

 しっかし重くなったなぁ。

 来たばかりの頃は、あんなに小さかったのに今じゃこんなにずっしりとしている。おかげで温かさ倍増って感じがする。

「……っしょ、」

 片手にその重さを感じながら、お湯を沸かしていく。

 マグカップの中に適当にココアを入れ、ついでについて来てくれたお礼に彼女のおやつを手に取る。

 …もしやこれが目的だったりする?

「…んなことないね?…」

 腕の中を見やると、静かに待つ彼女。どこか眠そうな感じが抜けていない。

 おやつ目当てというわけでもなさそうだ。開ければ気づきそうだけど。

「……」

 お湯が沸くまでの間、手持ち無沙汰に彼女をなでる。

 来たばかりの頃は、触ることもままならなかったのに。今じゃこんなだ。

「……」

 元野良猫だった彼女は、人間に恐怖を持っていたのだろう。

 毎日、ゲージのすみっこ、部屋のすみっこ、どこか端の方に小さくなって、こちらをうかがっていた。あの頃はよく引っかかれたものだ。いまだに、爪切りの時は引っかかれるけど。

「……」

 ご機嫌がいいようでよかった。

 これからもこうして。

 平和に、のんびり、ゆっくりと、生を謳歌してくれればいいと、ふと思った。

 野良猫として、過酷な環境の中。

 生きるか死ぬかをさまよっていた彼女。

 今は、この家で。

 誰かの腕の中で、こうして。

 撫でられながら、眠たそうに。

「……」

 彼女が幸せなら、何でもいいか。



 お題:野良猫・マグカップ・すみっこ

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